グリラー弦楽四重奏団のOp.71、Op.74(ハイドン)

今日は名盤として評価の高いもの。ただしLPです。

Griller.jpg
amazon(CD)

グリラー弦楽四重奏団(The Griller String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.71のNo.2、No.1、Op.74のNo.1の3曲を収めたLP。収録情報はこのLPには記載されていませんが、手元にある同録音のCDの情報によると1959年2月、カリフォルニア州バークリー校のハーツホール(Hertz Hall)でのセッション録音。レーベルは米VANGUARD。

このアルバムに収められた演奏は、同じくVANGUARDからOp.71の3曲、Op.74の3曲の6曲セットを収めたCDがリリースされており、そちらを愛聴していらっしゃる方も多いはず。かくいう私もそのCDでグリラーの演奏の素晴らしさの薫陶を受けたわけですが、今回LPを手に入れたのをきっかきに再度聴き直して、音質も含めてその素晴らしさに触れたため、記事にしようと思った次第。

グリラーの他の演奏はブログの初期に1度取り上げています。

2010/10/16 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : グリラー四重奏団の鳥(Op.33 No.3)

グリラー四重奏団は1927年、ロンドンの王立音楽院に在籍中の4人によって設立され、1931年から1963年頃まで活動していたイギリスの弦楽四重奏団。メンバーは以下のとおり。

第1ヴァイオリン:シドネイ・グリラー(Sidney Griller)
第2ヴァイオリン:ジャック・オブライエン(Jack O'brien)
ヴィオラ:フィリップ・バートン(Philip Burton)
チェロ:コリン・ハンプトン(Colin Hampton)

このアルバムをあえて取り上げたのはやはりCDとLPの違い。改めて比較してみると、特にヴァイオリンなど高音のキレはLPならではのもの。中低音の安定感やノイズレスなところはCDも悪くありませんが、クァルテットのリアリティはやはりLPに軍配が上がります。

Hob.III:70 String Quartet Op.71 No.2 [D] (1793)
LPのコンディションは見た目はイマイチでしたが、いつもの通りVPIのクリーナーで洗浄すると全くノイズは聞こえず、なかなかいいコンディション。冒頭の序奏のなんと味わい深いこと。そして鮮明なチェロのメロディーにも驚きます。主題に入ると霧が晴れたようにクリアな響きに包まれます。適度にデッドな響きなんですが、4人のせめぎ合うような弓使いがかえって鮮明に記録されて、音楽がダイレクトに響きます。メロディーの美しさを安直に表現するのではなく、4本の楽器のメロディーの交錯から音楽の豊かさを紡ぎ出していくような姿勢。1楽章から素晴らしい集中力。
続くアンダンテ・カンタービレはタイトに辛口の表現が心地よく響きます。それぞれの楽器のボウイングが揃っているばかりでなく、独特なアクセントのつけ方が揃っていることがこのクァルテットのテイストだとわかります。訥々と語り続けていく一貫した姿勢が潔いですね。
メヌエットに入ると力感に満ちた鮮やかなボウイングに耳を奪われます。特にシドネイ・グリラーのキレの良い弓さばきがポイント。フィナーレは4人が他の奏者の音を追うように交錯し、ある時はまとまり、ある時は散らばるメロディーの構成の面白さを浮かび上がらせます。これぞクァルテットの醍醐味ですね。最後の快速テンポの部分のキレも最高。

Hob.III:69 String Quartet Op.71 No.1 [B] (1793)
入りは少しリズムが重めに感じますが、すぐにすっと普通のテンポに戻って演出であったことがわかります。独特の揺れるような音色が味わい深さに繋がっています。この曲は1楽章から複雑にメロディーが入り組みますがくっきりと筋を立てるところと、メロディーが交錯する部分の対比の演出が上手く、曲の構造がよく見通せます。
緊張感に満ちた1楽章から、続くアダージョに入ってもゆったりとするばかりではなく、テンションを保ったままテンポが落ちる感じ。このアダージョの魅力をうまく捉えた演奏。アンサンブルの精度がいい意味で少し暴れていて、それが味わいに感じられるのがグリラーのすごいところ。荒い筆使いの絵画の魅力のよう。

IMG_2990.jpg

2楽章と3楽章の間で盤面が変わります。メヌエットは音の角の面取りをしたようになだらかなボウイングで流麗な印象。丁寧なフレージング。ちょっとした表現の違いで曲の印象をしっかりと刻み込む音楽性を持っているのでしょう。
終楽章は入りの抜けるような明るさでメヌエットの雰囲気を断ち切り、最後にハイドン得意の複雑なメロディーの絡まりの面白さをクッキリ描いて曲を締めます。ここでもシドネイ・グリラーのヴァイオリンの妙技を味わえます。

Hob.III:72 String Quartet Op.74 No.1 [C] (1793)
最後の曲。やはりこの曲は名曲ですね。最初の和音から雰囲気一変。なんと味わい深い推進力。これぞグリラーの至芸でしょう。全てのフレーズに霊気が宿る渾身の演奏。古い録音ですがLPの響きは鮮明そのもの。そして演奏には古さを感じることはなく類い稀な説得力に満ちています。特にフレーズごとにキリリとアクセントをつけてくるので音楽が立っています。
2楽章のアンダンティーノ・グラツィオーソはハイドンの緩徐楽章の中でも特に個性的なもの、一定のリズムで刻まれる伴奏とメロディーの不思議な絡まりが独特の雰囲気を生みます。そしてふと力を抜いてフレーズを区切るグリラー独特の演出もあってハイドンのユニークな曲想の魅力が浮かび上がります。
メヌエットも実にユニーク。このメロディーをどうして思いつくのか、そしてそのメロディーをどうしてこううまく展開していけるのか、いつもながらハイドンの創造力に圧倒されます。ハイドンの音楽を完全に掌握してのグリラーの演奏は、一貫して説得力に溢れ、力強さに満ちて鳴り響きます。
フィナーレも記憶に残るユニークなメロディー。複雑に絡み合いながら終結に向けて快速テンポで飛ばしていく中にもドラマが走馬灯のように流れていきます。この複雑な流れが実に巧みにメリハリがつけられながら、時にクッキリ、時に混沌としながら突き進み、最後はキリリと締めて結びます。

いやいや、久しぶりに聴くグリラーの至芸にうっとり。CDもそれなりにいいマスタリングなんですが、ヴァイオリンのダイレクトな響きはやはりLPに軍配が上がります。幸いコンディションの良い盤が手に入り、グリラーサウンドに酔いしれることができました。これは宝物になりましたね。評価は3曲とも[+++++]とします。この録音は高く評価する方も多いはずですので、みなさんお馴染みかもしれませんね。だまてらさんに突っ込まれる予感がします(笑)



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ジャンル : 音楽

tag : 弦楽四重奏曲Op.71 弦楽四重奏曲Op.74

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No title

予定調和のように突っ込みをいれますと・・・。
当演奏は、長年の愛聴曲でありましたが、記事にあるオリジナル・プレスを入手したのは今年になっての事です。(再発のBach Guild統一ジャケット盤は、組み合わせが整理され作品71の3曲と74の3曲で各1枚です)
演奏・録音については究極にして至高でありこれ以上語る事は有りませんが、「無人島に持っていくレコード」が右手・左手の各1枚(組)ずつだとして、この作品71&74が外れることはこれまで、いやこれからも無いものと確信します。
曲や楽章まで語り出すとキリがないのですが、作品71-2の第三楽章(グリラーのあの跳躍!)は、娘が幼いころあまりにもヘビーローテーションで聴いたため、別室に居ても「お父さん、またあの曲をきいてる!」と言われてたそうです。(他にあるとすれば、作品33-2「冗談」をヤナーチェクかウェラーで、あとは急に飛びますがオイストラフ/ミトロプーロスのショスタコVn.協奏曲第一番の第二楽章スケルツォくらいかなあ・・・)
ヴァンガードで2006年に再発されたCDは、この5年ほど世界的に入手困難でしたが、最近になってamazonから格安で購入可能となっています。未入手の読者の方はこの機会に是非!

Re: グリラー弦楽四重奏団のOp.71、Op.74(ハイドン)

だまてらさん、コメントありがとうございます。

グリラー といえばだまてらさんという印象が強く、誘導してしまいました(^_^)
この演奏、やはりLPで聴くと迫力が違いますね。ヴァイオリンもそうなんですがチェロの浮かび上がり方も違って聞こえます。東京クヮルテットの刃物のようなキレ味はないんですが、ハーモ二の味わいの深さと、独特のアゴーギクによる曲調の表現はまさに燻し銀。CD以上に心に迫るものがありました。残りの3曲も手に入れたいと思います。

はじめまして

はじめまして。
だまてらさんの知り合いの穴ロクと申します。LPコレクターです
グリラーのハイドンと聞いて出しゃばってまいりました。

昔からハイドンのカルテット好きで、たまたま作品と団体の好愛称カップルが印象的なこともあり、
ウルブリヒの作品20
ウェラーの作品33
アレグリの作品54・55
グリラーの71・74     には特別な愛着があります

Daisyさまの見事なレヴュー、さすがです。堪能いたしました

これからもよろしくお願いします

Re: グリラー弦楽四重奏団のOp.71、Op.74(ハイドン)

穴ロクさん、はじめまして。こちらこそよろしくお願いいたします。

流石にグリラー 、皆さんの愛聴盤になってますね。LPで聴くとなおさら愛着がわきますね。グリラー盤の評判の理由の一つはこの録音の優秀さもあると思った次第。険しく彫り込まれる表情の迫力こそこのアルバムの魅力の一つでしょう。昔からの定番にはそれなりの理由があるものですね。

今後ともよろしくお願い致します。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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(2019年3月31日)
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