作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

クリストフ・ゲンツの英語カンツォネッタ集(ハイドン)

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久しぶりに歌曲の未入手盤に出会いました! テノールのしなやかな歌唱と陰影の深いピアノの伴奏が素晴らしい演奏です。

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クリストフ・ゲンツ(Christoph Genz)のテノール、ジュリアス・ドレイク(Julius Drake)のピアノによる、モーツァルトの歌曲6曲、ハイドンの英語によるカンツォネッタから12曲、英語による歌曲2曲を収めたアルバム。収録は1999年9月、ドイツ放送(Deutschelandradio)のケルン放送センターの放送ホールでのセッション録音。レーベルはBerlin Classics。

ハイドンの英語によるカンツォネッタ集はハイドンが第1回のロンドン旅行に出かけた1791年に知り合った外科医ジョン・ハンター(John Hunter)の夫人であるアン・ハンター(Anne Hunter)の書いた詩などに曲をつけた曲集で、6曲ずつ2巻に分けて出版されたもの。第1巻が1794年、第2巻が1795年と、おそらくハイドンの第2回のロンドン旅行に合わせて出版されたもの。ハイドンはドイツ語の歌曲やクラヴィーアの伴奏付きのカンタータなども書いていますが、これまでリリースされているアルバムの数を見るとこの英語によるカンツォネッタが群を抜いて多くの録音があり、人気のある曲集であることがわかります。

ほとんどが女性による歌唱ですが、男性によるものもわずかながらあり、このアルバムもその中の1枚。

テノールのクリストフ・ゲンツは1971年、ドイツ中部のエアフルト(Erfrut)の生まれ。ライプツィヒの聖トーマス教会の合唱団、ケンブリッジのキングスカレッジ合唱団などを経てライプツィヒのメンデルスゾーン音楽演劇大学で学び、1996年にヨハン・セバスチャン・バッハコンクールで1等に輝き、以後世界各地のオペラハウスなどで活躍しています。録音も多数の残しており、ガーディナー、クイケン、鈴木雅明などとの共演も多く古楽も重要なレパートリーのようです。ハイドンではマンフレッド・フスの振るマリオネット・オペラ「フィレモンとバウチス」でフィレモンを歌っています。

ピアノのジュリアス・ドレイクは1959年ロンドン生まれのピアニスト。歌曲の伴奏、室内楽を中心に活動しているようです。ロンドンのパーセル・スクール、王立音楽大学で学び、現在は王立音楽アカデミー、王立ノーザン音楽大学の教職に就いています。伴奏者としてはトーマス・アレン(2016年のジョナサン・ノットの「コジ・ファン・トゥッテ」の演出とドン・アルフォンソは見事でした!)、オラフ・ベーア、イアン・ボストリッジら名歌手の伴奏役として活躍している人。



このアルバム、クリストフ・ゲンツのテノールの透明感あふれる響きも素晴らしいんですが、何と言ってもジュリアス・ドレイクの染み入るようなピアノが絶品なんですね。

Hob.XXVIa:25 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
もう夢のような柔らかいピアノの伴奏からいきなり惹きつけられます。流石に伴奏のスペシャリストだけに歌を引き立てるツボを押さえた演奏。ゲンツは清らかかつ澄んだ響きの声。ニュアンス豊かな歌なんですが、それもドレイクのピアノの表現力もあってのこと。

Hob.XXVIa:26 6 Original Canzonettas 1 No.2 "Recollection" 「回想」 [F] (1794)
ゆったりとした伴奏にゆったりとした歌が乗り、極上の音楽が流れます。かつての恋人との忘れがたい時をしのぶ歌詞がしっとりとうたわれる名曲。

Hob.XXVIa:27 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)
なぜか、イギリスらしい郷愁を感じる曲。ピアノのきらめくような高音の美しさがちりばめられながら、時折りコミカルな表情をみせたかと思うと、陰りも見せる美しいメロディーが印象的です。ゲンツの表情の使い分けが巧みです。

Hob.XXVIa:28 6 Original Canzonettas 1 No.4 "Despair" 「絶望」 [E] (1794)
ここにきて、歌よりも雄弁なピアノの伴奏。英語の歌詞をみると確かに絶望という感じの詩なんですが、透明感が覆う美しい曲。ジュリアス・ドレイクの自在なタッチに耳を奪われます。

Hob.XXVIa:29 6 Original Canzonettas 1 No.5 "Pleasing Pain" 「愛の苦しみ」 [G] (1794)
この曲では今度はクリストフ・ゲンツの高音の伸びやかさでリードしてきます。歌手と伴奏の微妙なやりとりの妙を楽しめます。ピアノは少し砕けた表情で力を抜きます。

Hob.XXVIa:30 6 Original Canzonettas 1 No.6 "Fidelity" 「誠実」 [f] (1794)
と思うと、今度はピアノが踏み込んできました! なんというアンサンブルの面白さ。ゲンツもドレイクも競い合うようにキレの良さを誇る見事な演奏。第1巻の最後の曲はスリリングなせめぎ合いが楽しめます。



Hob.XXVIa:31 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
第2巻の最初の曲。気分が変わって軽やかな曲。6曲がセットになっている意味をしっかり踏まえてあえてさらりとした軽さを強調。この曲の詩はアン・ハンターではなく作者不詳。

Hob.XXVIa:32 6 Original Canzonettas 2 No.2 "The Wanderer" 「さすらい人」 [g] (1795)
そして、月夜にさすらう人の歌。しっとりと沈む曲想。ピアノはしなやかに豊かなニュアンスを発散し、テノールは淡々と歌います。微妙な音程のコントロールの巧みさをさりげなく聴かせる名唱。

Hob.XXVIa:33 6 Original Canzonettas 2 No.3 "Sympathy" 「共感」 [E] (1795)
心の通じ合う喜びを歌う、ほのかな明るさを帯びた曲。ピアノの伴奏のメロディの雄弁さと多彩さに驚きます。

Hob.XXVIa:34 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
この曲集で最も美しいメロディの曲。詩はシェイクスピアだったんですね。美しい曲の序奏をことさらゆったりとした間を取りながらゆったりと伴奏していく、見事な入りにゲンツも伸びやかな歌唱で応えます。

Hob.XXVIa:35 6 Original Canzonettas 2 No.5 "Piercing eyes" 「見抜く目」 [G] (1795)
しっとりとした曲とコミカルな曲が交互に配され、歌曲集としての構成も見事。曲順もハイドンのアイデアなのでしょうか。詩は作者不詳。

Hob.XXVIa:36 6 Original Canzonettas 2 No.6 "Content"(Transport of Pleasure) 「満ち足りた心」 [A] (1795)
第2巻の最後の曲はやはり伴奏だけで沁みる曲。最後に持ってくるのにふさわしい晴朗な曲。爽やかな風のように軽やかな情感に包まれます。この曲も詩は作者不詳。



アルバムの最後にアン・ハンターの詩による英語による独立した曲を持ってきました。

Hob.XXVIa:41 "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795
歌手の表現力、そしてピアノによる表現力を問われる曲。前半の霊気漂うような厳粛な雰囲気と、後半の朗々とした歌唱の対比がポイントの曲ですが、流石にドレイクのピアノはこれまでの演奏同様、自然な表情の演出が絶妙で、もちろんこの曲の対比を見事に描き、ゲンツもそれに応える朗々とした歌唱で、ハイドンの仕込んだ深い曲想を汲み取ります。見事。

Hob.XXVIa:42 "O tuneful Voice" 「おお美しい声よ」 [E flat] (c.1795)
なんと美しい伴奏。最後に絶妙に美しい曲で締めます。あえてさらっとした曲の魅力を印象付けて終わります。

ハイドンの英語によるカンツォネッタ集は名曲揃い。女性による歌唱もいいんですが、ゲンツの清らかなテノールによる歌唱もいいですね。このアルバムのポイントはゲンツの安定した歌唱のクォリティの高さもあるんですが、何と言ってもジュリアス・ドレイクのピアノによる伴奏の豊かな表情の変化。この伴奏あってゲンツの歌唱が引き立つというものです。そして、短い曲を組み合わせて作られる曲集としての面白さもこのアルバムの聴きどころでした。評価は全曲[+++++]とします。

お盆をすぎて東京の気温も少し下がり、秋の気配も感じられるようになってきましたね。歌曲や室内楽を楽しむ季節ですね。



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2 Comments

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classic daring

ピアノが

ピアノは、ジュリアス・ドレイクですね。
彼がやるのなら、間違いない気がします。
注文します。

  • 2019/01/25 (Fri) 11:04
  • REPLY
Daisy

Daisy

Re: ピアノが

classic darlingさん、コメントありがとうございます。

ジュリアス・ドレイクはこのアルバムで初めて聴きましたが、素晴らしいですね。ネットを検索したところインタビュー記事がありました。まさにたたき上げの人なんですね。

https://www.ojihall.jp/topics/interview/drake_int.html

歌曲のみならずハイドンの室内楽などの録音も期待したいところです。

  • 2019/01/26 (Sat) 15:11
  • REPLY