東京クヮルテットのOp.20のNo.4、No.5(ハイドン)

東京クヮルテット(Tokyo String Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のNo.4、No.5の2曲を収めたLP。収録情報はPマークが1982年との表示。レーベルはDeutsche Grammophon。
おそらく世界で最も注目された日本人のクァルテット。ハイドンも得意としていたようで、いくつかのアルバムがリリーされています。当ブログでも東京クヮルテットのハイドンはこれまでに2度取り上げています。
2012/12/06 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 東京クヮルテットのOp.76
2011/12/18 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 東京クヮルテットの太陽四重奏曲No.2ライヴ
代表盤であるOp.76の方は鋭利なカミソリに触れるような鋭さがあり、評判も良い演奏ながら、私自身は実はちょっと苦手な演奏でした。その東京クヮルテットのOp.20から2曲を収めたLPをたまたまディスクユニオンの店頭で見かけ、所有盤リストにないことを確認の上先日仕入れて聴いてみると、Op.76の演奏とは微妙に異なり実に深い響きが聴かれる名演奏ということで取り上げた次第。
改めて調べてみると、このアルバム以外の東京クヮルテットのハイドンの録音は年代順に下記のようになっています。
Op.76(No.1) 1971年(DG)
Op.50 1973年9月、1974年2月(DG)
Op.76 1978年6月、1979年1月(CBS)
Op.20 (No.2) 1979年12月13日ライヴ(TDK)
東京クヮルテットは1969年にメンバー4人がジュリアード音楽院に在籍していた1969年に設立され、Discogsのアルバム一覧をみるとデビューアルバムがOp.76のNo.1を含むアルバム、その次の録音がOp.50の録音ということで、彼らの録音活動がハイドンから始まったことからもハイドンは重要なレパートリーだったのでしょう。その後のハイドンの録音はCBSに夜Op.76となっておりますが、CBSのアルバムは録音が1978年から79年にもかかわらずリリースはそれからだいぶ経った1994年。今日取り上げるアルバムはPマークが1982年とありますが、おそらくCBSとの1978年の録音以前に録音されたのではないかと想像しています。
というのもこのアルバムでも第1ヴァイオリンを務める原田幸一郎は東京クァルテットを1981年に退団しているため、1982年以降の録音の可能性はなく、しかも同じハイドンの録音をレーベルをまたいで同時期に進めるというのが考えにくいですので、そういった想像が成り立つわけです。ということでかなり近い時期に録音されたDGへのOp.20からの2曲と、CBSへのOp.76が微妙にスタイルの異なる演奏であるというのが実に興味深いわけです。メンバーはこれまで取り上げたアルバムと同じです。
第1ヴァイオリン:原田 幸一郎(koichiro Harada)
第2ヴァイオリン:池田 菊衛(Kikuei Ikeda)
ヴィオラ:磯村 和英(Kazuhide Isomura)
チェロ:原田 禎夫(Sadao Harada)
Hob.III:34 String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
スクラッチノイズもなくLPのコンディションは完璧。LPならではのダイレクトな響きが心地良いですね。実に柔らかな低音の響きから入ります。ヴァイオリンが入るとかっちりとした東京クヮルテット独特の引き締まった響きが顔を覗かせますが、全体の音楽の流れには余裕があって、硬軟織り交ぜながら奥ゆかしくしなやかな音楽が流れます。この楽章の音楽の構成をうまく踏まえた展開。
2楽章に入ると仄暗さをデリカシー溢れる演奏で楽器を良く鳴らしながら描いていきます。緊張感を保ちながら変奏を次々とこなしていきます。技巧に偏らず、淡々と音楽を流す感じが熟練を感じさせます。メロディーがチェロに受け継がれたところで深々としたチェロの音色が印象的に響きます。そして再びヴァイオリンに戻ると自在なボウイングでじっくりと腰を据えた音楽で受けます。どんどん音楽が深くなって行くのがわかります。
この曲のメヌエットはジプシー風のもの。勢いよくメロディーが弾み、トリオでは逆に密やかさを挟んで一呼吸置き、再び勢いのあるメロディーで締めくくります。
フィナーレはメヌエットの勢いを踏まえてスピーディーな音楽のエネルギーを受け継ぎます。アンサンブルの精度は恐ろしいほど。冷徹な感じにならないのは音楽の起伏をしっかりと踏まえて膨らますところとのメリハリをしっかりと保っているから。最後は東京クヮルテットらしい超絶技巧をみせつけます。恐ろしいまでの迫力と緊張感に圧倒される演奏。
Hob.III:35 String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
前曲のフィナーレの圧倒的な技巧の興奮冷めやらぬ中、短調の仄暗さよりも緊張感が先にくるスリリングな入り。徐々にアンサンブルが熱を帯び、再び陶酔に襲われる予感を伴いながら聴き進めます。メロディーの美しさが聴きどころと思っていた曲ですが、並並ならぬ緊張感に包まれます。ざらついた音色の中に迫力が宿り、各パートが鬩ぎ合う見事な1楽章。
この曲では2楽章がメヌエット。音程が上がり下がりする度に音色を微妙に変え、特に高音の張り詰めた緊張感が全体のテンションを高めます。トリオで今度は暖かい風がさっと吹いてきたように緊張を緩めます。この緊張感のテンションを自在に変化させる呼吸の見事さがこの曲での聴きどころ。
3楽章のアダージョでは自在に飛び回る蝶のようにヴァイオリンが自由に奏でる音楽の面白さが際立ちます。この曲でもメロディーの面白さだけならず、アンサンブルの妙により音楽の深さを思い知らされます。
そしてフィナーレのフーガは東京クヮルテットの真骨頂、軽いタッチからは徐々に陶酔に導かれる推移をとことん楽しませる見事な弓さばきを味わえます。あまりに素晴らしいテクニックに再び圧倒されます。
このアルバム、手に入ったのはつい最近。今更ながら東京クヮルテットの驚異的なテクニックと音楽性の素晴らしさを再認識した次第。Op.76のいわば完璧すぎる演奏とは紙一重異なり、このアルバムはハイドンらしいウィットも織り交ぜての演奏に好感を持ちました。CDではなくLPであることも研ぎ澄まされた響きの迫力をよりリアルに味わえるという意味で良かったのかもしれませんね。LPも完璧な状態故、家宝盤となりました。評価はもちろん両曲とも[+++++]といたします。
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