エーリヒ・ラインスドルフ/ボストン響の93番、奇跡(ハイドン)

エーリヒ・ラインスドルフ(Erich Leinsdorf)指揮のボストン交響楽団(Boston Symphony Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲93番、96番「奇跡」の2曲を収めたLP。収録年、収録場所の表記は有りませんが1968年にリリースされたようです。レーベルは米RCA VICTOR RED SEAL。
このLPは最近オークションで手に入れたもの。ラインスドルフはあまり馴染みの指揮者ではありませんが、手元には米MCAからリリースされていたモーツァルトの1番から15番までの初期交響曲の2枚組CDがあり、バランスの良い引き締まった辛口の響きを作る人との印象が残っています。なんとなくモーツァルトよりもハイドンの方が良かろうとの想像が働きます。
一応略歴などをWikipediaからさらっておきましょう。1912年ウィーンで生まれ、モーツァルテウム音楽院で指揮を学び、その後ウィーン大学、ウィーン音楽大学などでチェロとピアノを学んだそう。1934年から1937年までザルツブルク音楽祭でワルター、トスカニーニの助手を務め、その頃から本格的に指揮活動を始めます。1937年、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場でワルキューレを振り、副指揮者となると翌1938年には常任指揮者となり、特にワーグナーの指揮で名声を得て1939年にはドイツ系レパートリーの責任者に抜擢されるなどとんとん拍子に出世しました。1942年にはアメリカの市民権を得て帰化し、クリーヴランド管、ニューヨーク州ロチェスターフィル、ニューヨークシティオペラなどの音楽監督を歴任。1962年には今日取り上げるアルバムのオケであるボストン交響楽団の音楽監督に就任しRCAレーベルに多くの録音を残しました。ボストン交響楽団の音楽監督は1969年まで務め、その後ウィリアム・スタインバーグが3年務めた後1972年に小澤征爾が就任することとなります。ボストンを退任後は一時ベルリン・ドイツ交響楽団の首席指揮者を務めますが、世界の著名オケへの客演が中心になり、亡くなったのは1993年でした。オケに厳しい指揮者として知られた人とのこと。
Hob.I:93 Symphony No.93 [D] (1791)
冒頭から図太い低音の響きに支えられたピラミッドバランスなオケの響きに耳を奪われます。キレのいい見事な響き。この曲は赤熱した鉄の塊を打ち出すようなカレル・アンチェルの剛演が耳に残っていますが、それに近い引き締まった響きが険しい規律とバランスを纏って流れてきます。まさに鍛え抜かれたオケが生み出すタイトな響きの魅力に溢れた素晴らしい演奏。しかも小気味よくスタイリッシュときていますので言うことなし。
続くラルゴ・カンタービレでもテンションを緩めることなく一貫してタイトな響きが続きます。テンポはもちろん落ちますがフレーズのエッジをキリリと強調して緊張感を保つ見事なコントロール。モーツァルトでは表情の硬さも感じられたのに対し、ハイドンではラインスドルフの引き締まった音楽が見事にハマり、素晴らしい説得力を帯びています。
これまでの演奏から予想される通り素晴らしかったのが続くメヌエット。彫りの深さと響きの険しさがこの曲の本質をえぐる快演。重くもならず軽くもなくがっちりとした推進力に満ちた揺るぎない音楽。音量を上げて聴くと素晴らしいオケの響きに包まれます。力強い筆さばきの魅力全開です。これぞハイドンのメヌエット!
そして最後は正攻法で仕上げたフィナーレ。全盛期のアメリカのオケの底力を思い知らされます。セルのクリーヴランド、ライナーのシカゴ、オーマンディとフィラデルフィアなどに比べても全く劣らぬ素晴らしい響きをラインスドルフがボストン響から絞り出しました。最後まで手に汗握る迫力を冷静に生み出す見事なコントロールに驚きます。

Hob.I:96 Symphony No.96 "The Miracle" 「奇跡」 [D] (1791)
LPをひっくり返して続く奇跡。ラインスドルフの見事なコントロールは変わるはずもなく、冒頭から引き締まりまくった響きに耳を奪われるのは言うまでもありません。中庸なテンポでこの曲なミラクルな感じをじっくり描いていくのは先日レビューしたオーマンディ盤と同様。この曲は淡々と険しく攻め込むのがいいようです。オーマンディの方が化粧が上手く表情豊かではありますが、こちらは剛直な良さがあり甲乙つけ難いですね。
続くアンダンテは落ち着き払った入りから、徐々に険しく盛り上がり、起伏の大きさと鮮明な陰影によって実に深い音楽を奏でます。弱音部のリラックス度合いも音楽の深さを増す要因。そしてメヌエットは前曲とは異なり少し力を抜いてきます。この曲ではアンダンテに力点をおいたからでしょう。ザクザクと刻む低音弦に支えられた揺るぎない音楽。中間部のオーボエの明るい響きがこの演奏に華やかさを加えています。
フィナーレはオケの底力の見せ所。軽やかな入りから不気味な迫力が漂い、曲が進むにつれ徐々に力感を増しながらザクザクと低音弦が唸り始めます。気づくと力みとは無縁の余裕たっぷりのクライマックスに到達。やはりラインスドルフは冷静でした。
ジャケットを見ると微笑みを浮かべながら椅子に座るラインスドルフの姿。この演奏の自信のほどをうかがわせる微笑みと受け取るのが正しいでしょう。全盛期のボストン響の鍛え抜かれた響きが堪能できる見事な演奏でした。険しい響きを生み出しながらもニュートラルでスタイリッシュさを感じさせるのがラインスドルフの真骨頂でしょう。LPの録音の良さもありますが、手元のモーツァルトの交響曲集と比べてもハイドンとの相性の方が良いのは明らか。この2曲以外にラインスドルフのハイドンの録音があるかどうかはわかりませんが、他の曲も聴いてみたくなる出来でした。評価は両曲とも[+++++]とします。
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