作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】小笠原智子のソナタ集(ハイドン)

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またまた新譜が続きます。

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TOWER RECORDS / amazon

小笠原智子(Tomoko Ogasawara)のピアノによる、ハイドンのアンダンテと変奏曲(Hob.XVII:6)、ピアノソナタ(XVI:52)、モーツァルトの幻想曲(KV.475)、ピアノソナタ14番(KV.457)の4曲を収めたCD。収録は2017年1月2日から5日にかけてフライブルクのSWRスタジオでのセッション録音。レーベルは独Coviello CLASSICS。

こちらも最近手に入れたアルバム。奏者の小笠原智子さんははじめて聴く人。藝大卒業後渡独し、ベルリン芸術大学も卒業。活動はドイツやヨーロッパ中心のようで、ヨーロッパ各地でコンサートを開催しているほか、現在はフライブルク音楽大学ピアノ専攻科で教えているそうです。

なんとなく日本人の弾くハイドンは聴いておかなくてはということで入手したアルバム。しかも選曲はハイドンの名曲2曲にモーツァルトも名曲を揃えて意欲的な組み合わせ。虚心坦懐に聴きましたが、これがなかなか良かった。

Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
非常にリラックスした入り。もちろんそういう曲なんですが、鏡のように澄み切った心境を表すように冴え冴えとしたピアノの音が広がります。ピアノの高音域がくっきりと広がり、ピアノ響きの美しさだけでなく、そこでまさに弾いているような実体感もあるるなかなかいい録音。奏者の気負いのなさが音楽から伝わります。グールドではありませんが、かすかに歌うような音が録られているのが面白いところ。一音一音の響きは日本らしい端正なところもあり、輝きのある音色と相俟って凛とした空気を感じさせます。肉食系のヨーロッパの伝統の延長とは違う響き。その端正さがこの曲の孤高な感じとうまくマッチしています。音楽の重心は完全に高音寄りでキラメキ感のある演奏。後半の変奏に入って徐々に力感が増してくるあたりになると、ちょっと線の細さが気になりますが、それも前半から一貫したスタイルということでしょう。特段モードチェンジすることなく淡々とこなしていきます。終盤の込み入った部分ではちょっと音階の鮮やかさが陰るようなところもありますが、不思議と曲想には一貫性があり、凛とした雰囲気を保って終わります。

Hob.XVI:52 Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
先のアンダンテと変奏曲では高音寄りの音作りでしたが、ソナタの方はそれより意識してか低音を響かせてきました。この曲はやはりピアノの重厚な響きが魅力の一つですから、曲に合わせた音作りということでしょう。聴き進むうちに誰かの弾き方に似ていると思い始めましたが、マリア・ジョアン・ピリスでした。前曲よりも流れの良さと迫力を感じる演奏で、次々と展開するハイドンの音楽に合わせて変幻自在に表情を作っていくところなどかなりの表現力と唸ります。それでいて持ち前の端正な響きの美しさを持った音色で統一され、1楽章はなかなかの迫力で締めます。
続くアンダンテは小笠原さんのタッチの特徴がよく出た楽章。キラメクような高音と直裁なタッチによるハーモニーの重なりの端正な美しさで聴かせる楽章。力みなく冷静に一貫した音楽を紡ぎ出す落ち着いた演奏。音楽はフレーズごとに様々な表情を見せますが、奏者のしなやかで落ち着いた心情が一本筋を通しているのか、実に落ち着いた音楽が響きます。
フィナーレはこのアルバムの白眉。リズムのキレよく響きもよく通って複雑に絡み合うこの曲のメロディーを見事にコントロール。特に左手のリズムのキレの良さが曲に活気を与えて、最後までクリアな響きを維持しています。終盤踏み込んだ表現をいくつか聴かせて終わります。

この後のモーツァルトの幻想曲はじっくりと腰を落ち着けて安定感のある演奏。そしてソナタは感情の起伏にさらに踏み込んでモーツァルトのデモーニッシュな翳りと転がるような音階の美しさを織り交ぜながら見事に描いた演奏。アダージョの美しさは見事なもの。

まったく未知の小笠原智子さんのピアノによるハイドンとモーツァルトの名曲集。このアルバムを通して聴いてみると、録音を聴いているというより一夜のコンサートを聴いているような気分になります。ピアノの美しさや先鋭的な表現などではなく、ベテランピアニストならではのいぶし銀の至芸を聴いているように感じます。音楽は無理なくきっちりと表現し、力みなく、さりとて短調でもなく、聴き終わるとジワリと音楽の温かみが伝わってくるよう。このアルバムよりもテクニックのキレた演奏は色々ありますが、このアルバムでしか味わいがあることも事実。私は気に入りましたので、両曲とも[+++++]とします。

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