作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】イッサーリス/ドイツ・カンマーフィルのチェロ協奏曲集(ハイドン)

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珍しく新着アルバムが続きます。

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スティーヴン・イッサーリス(Steven Isserlis)のチェロと指揮、ドイツ・カンマーフィル・ブレーメン(Deutsche Kammerphilharmonie Bremen)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲1番、モーツァルトの歌劇「偽の女庭師」(K.196)より「ああ小鳥は嘆く」(編曲:イッサーリス)、C.P.E.バッハのチェロ協奏曲H.439、ハイドンのチェロ協奏曲2番、ボッケリーニのチェロ協奏曲(G.480)よりアダージョの5曲を収めたアルバム。収録は2016年9月25日から27日にかけて、ブレーメンのカンマー・フィルハーモニーでのセッション録音。レーベルは英hyperion。

スティーヴン・イッサーリスははじめて取り上げます。1958年ロンドン生まれのチェリストで、ガット弦による個性的な音色で有名な人とのこと。イッサーリスはこのアルバムの前にRCAに1996年にノリントンの振るヨーロッパ室内管をバックにハイドンの協奏曲2曲と協奏交響曲などを録音しています。今回あらためて聴きなおしてみると、ノリントンの楽天的に良く響くオケに乗ったオーソドックスな名演奏。ノリントンはリズミカルにオケをのびのびと鳴らして演奏の主導権を握っており、どちらかというとノリントンペースの演奏という感じ。イッサーリスは、ノリントンの快活なオケに乗ってキレよく妙技を披露していますが、このアルバム入手当時はなんとなくそれがそそくさとして踏み込みが足りない印象を残していたため、記事にしなかった次第。ただ、今あらためて聴きなおしてみると、これはこれでハイドンの晴朗さを表すユニークな名演奏という印象。こちらの器が大きくなったのでしょう。

今回の録音は指揮者をおかず弾き振りによるもの。前録音から20年の時が流れており、チェロの熟成と自身のオケのコントール能力が問われる録音と言っていいでしょう。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765–67)
序奏のオケはノリントンのキリリと明確なリズム感を持ったものとは異なり、ゆったりと美しく壮麗な響きでチェロの入りを待ちます。イッサーリスは楽器をよく鳴らしてこちらもゆったりと入ります。やはりというか、この演奏を聴いてかえってノリントンのユニークさがよくわかりました。今回の演奏はオケとソロが一体となって美しい響きを自在に鳴らす演奏。あえてリズムの刻みを強調することなく微妙にテンポを揺らしながらこの曲の真髄に触れに行きます。オケの方はヴィブラートを抑えて透明感ある響きを作っているのはノリントン譲りですが、指揮者の個性が異なることで音楽はまったく異なって聴こえますね。期待されたチェロの演奏は流石に20年の熟成を経て、実に落ち着いて味わい深いもの。深みのある柔らかな音色は流石イッサーリスといったところ。弾き振りだけにチェロが主導権を握る演奏となり、この曲の魅力を素直に堪能できる演奏。このアルバムに含まれる曲のカデンツァは全てイッサーリスによるもの。意外にオーソドックスな構成のものですがチェロの響きの美しさをしっかり踏まえたもの。
続くアダージョもこの曲のオーソドックスな演奏と言っていいでしょう。極上のオケの響きにイッサーリスの美音で紡がれるハイドンの名旋律を堪能できます。前録音がノリントンによる表現意欲に溢れた演奏だったのに対し、こちらは悟りを開いたかのような達観した境地に至っています。ハイドンの曲に全てを語らせようとするような純粋無垢な心情が感じられる演奏。
フィナーレもしなやかさが際立ちます。速いパッセージも余裕たっぷりにに弾き進め、オケとの掛け合いでは自在に音量を変えながら陶酔感を巧みに演出。力みや表現意欲から解放された虚心坦懐な陶酔。見事です。

この後モーツァルトとC.P.E.バッハが挟まりますが、モーツァルトの穏やかな歌とC.P.E.バッハの変幻自在な響きの坩堝を実に上手く表現していて両者とも見事な出来。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
1番が純粋無垢な素晴らしい出来だったので弥が上にも期待が高まります。

入りからオケの色彩感と響きの美しさが際立ちます。基本的にはノンヴィブラートの現代楽器による演奏なんですが、その前の世代のロマンティックな演奏の延長線上の良さもあり、非常にバランスの良くチェロもオケもよく鳴っていて、まさにこの曲の決定盤的演奏。もちろん最新の録音だけに演奏の良さが鮮明に録られています。イッサーリスのチェロは自在さを極め、所謂ゾーンに入って完全にハイドンの音楽と一体化しています。ライヴでもこのような域に達することは希なレベル。カデンツァは1番とは打って変わってかなり踏み込んだ表現でチェロの音色の限りを使って攻めてきます。1楽章から期待を大きく超える神がかったような演奏で聴いていて鳥肌がたつよう。
2番のアダージョは深さよりも華やかさを感じるもの。オケの華やかな音色にチェロの深みのある音色がこの曲の潜む色気のようなものに迫る見事な表現。フレーズごとに表現を磨き抜いた達意の表現が繰り返されていくうちにどっぷりとハイドンの音楽の魅力を味わっていることに気づきます。
そしてフィナーレもソロとオケの一体感がさらに高まり、迫力の隙にこの曲独特の郷愁のようなものをさりげなく感じさせる演奏で曲を終えます。

最後に置かれたボッケリーニのチェロ協奏曲の緩徐楽章も静けさと翳りの表現が秀逸な見事なものでした。

スティーヴン・イッサーリス2度目のハイドンのチェロ協奏曲集。前作のノリントンに合わせたチェロの妙技も悪くはなかったんですが、今度のアルバムはイッサーリス渾身の演奏で現代のチェロ協奏曲の録音としては理想的なもの。過度に現代風ではなくチェロ協奏曲の伝統的な演奏の延長上にありながら、響きの洗練と深みを両立させた見事な演奏でした。録音も良いのでチェロ協奏曲の入門盤としても広くお勧めできるものです。もちろん評価は両曲とも[+++++]としました。



(参考アルバム)
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こちらのアルバムの聴きどころは協奏交響曲。ノリントンらしい吹っ切れた明るさがこの曲の持つ晴朗さを実に見事に表現できており、えも言われぬ愉悦感が味わえます。評価を付け直して[+++++]としました。

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