【ハイドン音盤倉庫特選】ザロモンセットの名演奏(後編)
2017/08/17 : Best Choice of Works : 【ハイドン音盤倉庫特選】ザロモンセットの名演奏(前編)
前記事を書くために色々なアルバムを掘り起こして短期間に聴き比べてみると、それはそれで意外な発見があるもの。ただし、どうしても比較して聴くようになってしまうため、聴き方が浅くなるような気がしなくもありません。普段のレビューではそのアルバムの背景を色々調べて奏者の気持ちになって聴いていますので演奏に深く触れているような気持ちになるんですね。ということで普段のレビューを続けながら、たまにこうした記事を書くのが良かろうということにしました。勢いに乗って、間をおかずハイドンの交響曲の最高峰であるザロモンセットの後編に突入です!
Hob.I:99 Symphony No.99 [E flat] (1793)

2012/02/14 : ハイドン–交響曲 : 【追悼】パーヴォ・ベルグルンドのオックスフォード、99番
ハイドンが1791年から92年にかけて訪れたロンドンの旅行が大成功に終わり、再び2回目のロンドン旅行に出かける際、ロンドンでの演奏のためにウィーンで作曲した曲。ザロモンセットの中でも一際優美な曲として知られています。手元の56種の演奏から私が選んだのは、パーヴォ・ベルグルンド指揮のフィンランド室内管の1992年の演奏。ベルグルンドといえばシベリウスなんでしょうが、おそらく唯一だと思われるこのハイドンの録音は純粋無垢な透明感に満たされた素晴らしい演奏。99番の優美な演奏といえばモーゲンス・ヴェルディケ/ウィーン国立歌劇場管の燻し銀の演奏が最有力候補なんですが、このベルグルンド盤は純粋さを極めた透明感というか、凛とした美しさに包まれた隠れた名演奏。他にコリン・デイヴィスのコンセルトヘボウとロンドン響の新旧両盤、ハイティンクの振るコンセルトヘボウのLP、そして意外にファイのハイデルベルク交響楽団との演奏も素晴らしいんですが、ベルグルンドの演奏がそれらよりも心に響きました。
Hob.I:100 Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)

2012/04/28 : ハイドン–交響曲 : モーゲンス・ヴェルディケ/ウィーン国立歌劇場管弦楽団の99番、「軍隊」
ハイドンの交響曲の中でも一際派手な演出を伴う曲。軍隊というニックネームは初演前からつけらていたようで、ロンドンでの初演を予告する新聞にも掲載されていたそう。手元には92種もの演奏があり、その中でもこの軍隊交響曲の迫力を最も理想的に表現した演奏は、モーゲンス・ヴェルディケがウィーン国立歌劇場管弦楽団を1956年に振った演奏。このアルバムに収められたザロモンセットの後半6曲はどれも素晴らしい演奏なんですが、中でもこの軍隊は見事。1楽章の序奏から力感に満ち、しかも1956年とは信じられない鮮明かつ優秀な録音により素晴らしい響きが味わえます。2楽章で打ち鳴らされるグランカッサの重低音がズドンと決まりながら音楽は流麗に流れ、力任せに過ぎない品位を保ちます。ジャケットに写る眼光鋭いヴェルディケのコントロールが行き渡って素晴らしい音楽に仕上がっています。オケも流石に絶妙な巧さ!
Hob.I:101 Symphony No.101 "Clock" 「時計」 [D] (1793/4)

2013/01/07 : ハイドン–交響曲 : カール・リステンパルトの驚愕、軍隊、時計
ご存知チクタクでで有名な2楽章が広く知られた曲ですが、驚愕同様、2楽章のみならず全4楽章素晴らしい曲。特に1楽章の迫力に満ちた緊密な構成と美しい目眩くようなメロディーはハイドンの交響曲の白眉と言っていいもの。この迫力と美しさをバランスよく兼ね備えることが時計の演奏のポイントでしょう。手元には98種の録音がありヒストリカルな演奏から古楽器による演奏まで名盤目白押しですが、私が選んだのは知る人ぞ知る、カール・リステンパルトがザール室内管弦楽団を振った1966年の録音。見事に溶け合うオーケストラの響きでこの時計の1楽章をまるで夢の国のような美しい演奏に仕上げていきます。肝心の時計のアンダンテのリズムの軽やかさも最高。時計とはこう演奏するものだとの確信に満ちた王道をゆく演奏。そして覇気に満ちながらも味わい深いメヌエットに淀みないフィナーレとこの曲の理想的な演奏。古い演奏ですが録音も絶妙で少しも古さを感じさせません。時計の普遍的名演と言っていいでしょう。
Hob.I:102 Symphony No.102 [B flat] (1794)

2010/04/04 : ハイドン–交響曲 : ブリュッヘンのザロモンセット
ザロモンセットも終盤。第2回ロンドン旅行の2年目である1795年のコンサートのために前年に書いた曲。ニックネームがついていないことから地味な存在ではあるが、曲の構成は円熟を極め、ハイドンの交響曲の最高傑作の一つ。特に2楽章のアダージョのメロディーの温かみのある美しさは素晴らしいもの。手元にある63種の演奏から私が選んだのはフランス・ブリュッヘンの振る18世紀オーケストラによる1991年のライヴ。ブリュッヘンのザロモンセットは古楽器オケらしからぬど迫力のライヴ中心で構成され、中でもこの102番は全編にみなぎる力感とブリュッヘンにしては流れの良さも併せ持つ秀演。メヌエットにブリュッヘンらしいゴリッとした響きでアクセントをつけてきますが、終楽章はしなやかにオケを響かせて響きのコントラストつけ、最後は湧き上がるように盛り上がる見事な演奏。古楽器でのハイドンの演奏の新境地を聴かせたブリュッヘンの面目躍如な演奏です。この曲にはギュンター・ヘルビッヒの振るドレスデンフィルの流れの美しさを極めた演奏もあり、そちらもこの曲の全く別の姿を印象的に描いています。
Hob.I:103 Symphony No.103 "Mit dem Paukenwirbel" 「太鼓連打」 [E flat] (1795)

2012/04/04 : ハイドン–交響曲 : ロヴロ・フォン・マタチッチ/ザグレブ・フィルの「太鼓連打」
冒頭のティンパニの独奏から太鼓連打の愛称で知られる曲。ハイドンの第2回のロンドン旅行の最後の年である1795年に作曲された曲。冒頭の太鼓も昔は遠雷のようにドロドロと鳴らすのが常でしたが最近はティンパニのカデンツァのごとき外連味たっぷりの演奏もあり、多彩です。手元の74種の演奏から私が最も好きな演奏は、日本でもお馴染み、ロヴロ・フォン・マタチッチの振るザグレブ・フィルの1979年10月29日のクロアチアの首都ザグレブでのライヴ。冒頭の太鼓のせいかこの曲には畳み掛けるような迫力ある演奏が目白押し。シャーンドル・ヴェーグがカメラータ・アカデミカ伴ってブダペストで行った1995年の感動的なライヴなど素晴らしい演奏がありますが、中でも一番のお気に入りがマタチッチ。全編にみなぎる力感とものすごい推進力。ハイドンのこの曲に込められたエネルギーを最も上手く引き出した演奏。どうもこの曲に込められたエネルギーを十分に発揮するには独墺系以外の指揮者の野性味が必要な気がします。
Hob.I:104 Symphony No.104 "London" 「ロンドン」 [D] (1795)

2011/02/10 : ハイドン–交響曲 : カラヤン/ベルリンフィルのロンドン旧録
ハイドン最後の交響曲。ハイドンが2回目のロンドン旅行で行われた一連のコンサートのために最後に書いた総決算たる曲で、言うまでもなくハイドンの交響曲の最高傑作です。最後の作にふさわしく冒頭から壮大な曲想が続き堂々として覇気にあふれ、ハイドンの作曲技法の粋を尽くした見事な構成の曲。このハイドンの最高傑作の演奏には古典の曲としての壮大さの表現がポイントになります。手元の122種の演奏から今回色々聴き直して選んだのが、カラヤンの振るベルリンフィルとの1975年の今はなきEMIの録音。従来私はカラヤンでは1959年のウィーンフィルとのDECCA盤を推していたんですが、今回改めて聴き直すと、全盛期のベルリンフィルの特に弦楽陣の怒涛の迫力の素晴らしさに圧倒されました。カラヤンも大局的な視点でオケをコントロール。特にクライマックスの迫力はさすがにベルリンフィル。ベルリンのフィルハーモニーに響き渡る大音響と全盛期の帝王カラヤンの覇気は、最近の機知に富んだ古楽器の演奏や並み居る名指揮者の名演奏に勝りました。
突然始めた新企画ですが、これまで聴いたザロモンセットの名演奏を取っ替え引っ替え聴き直し、久しぶりに聴いた演奏も多く色々な発見もありました。自分でも意外でしたが、全12曲中古い演奏をかなり多く選んだことになりますね。選んだ演奏は、ハイドンの曲に込められた音楽をしっかりと汲み取った演奏で、やはり歴史の波を経て揉まれて来ただけに、それぞれ説得力のある演奏です。近年話題のファイもミンコフスキも結局選びませんでしたが、しっかり聴きなおした上での選択です。古楽器ではクイケンとブリュッヘンを選びましたが、どちらもハイドンの演奏に一石を投じたものだけに、それ以前の多くの名演奏を上回る説得力を持ったということですね。前記事の冒頭に触れた通り、全ての盤が入手しやすいわけではありませんが、中古やオークションを探せば入手できないわけではありませんので、興味のある盤がある方はぜひ手に入れて楽しんでください。
夏休みの宿題的に時間をかけて記事を書きましたが、普段はこれほど時間をかけられませんので、しばらく通常のレビューに戻ることにいたします。
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