作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

絶品! グラーフ/スタルク/デーラーによるフルート三重奏曲集(ハイドン)

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今日は室内楽のLP。宝物がまた1枚増えました。

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ペーター=ルーカス・グラーフ(Peter-Lukas Graf)のフルート、クロード・スタルク(Claude Starck)のチェロ、ヨルグ・エヴァルト・デーラー(Jörg Ewald Dähler)のフォルテピアノで、ハイドンのフルート三重奏曲3曲(Hob.XV:16、XV:17、XV:15)を収めたLP。収録に関する情報は記載されていませんが、隣接するレコード番号のLPが1984年リリースとありますので、LPの状態も勘案して1980年代中盤の録音と想像しています。レーベルはclaves。

ハイドンのフルート三重奏曲はピアノトリオのヴァイオリンパートをフルートの華やかな音色で置き換えたもので、この曲の出版当時からフルート版の楽譜も出版されていたとのことでフルートでの演奏も多くなっているとのこと。これまでもかなりのアルバムを取り上げています。

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この録音が1980年代中頃の録音だとすれば、手元のアルバムでは古楽器による最も古い録音ということになります。

奏者のペーター=ルーカス・グラーフは有名なフルート奏者ゆえご存知の方も多いでしょう。1929年チューリッヒ生まれ。チェロのクロード・スタルクは1928年ストラスブール生まれ。フォルテピアノのヨルグ・エヴァルト・デーラーは1933年ベルン生まれと、録音当時50代の名奏者揃い。

Hob.XV:16 Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
LPのコンディションは最高。針を落とすと鮮明な響きが飛び出してきます。フォルテピアノのデーラーが刻む速めの一定したリズムに乗ってフルートのグラーフがきりりと引き締まったメロディーを重ねていきます。古楽器によるオーソドックスな演奏と思いきや、実に豊かなニュアンスを帯びた演奏にすぐに引き込まれます。フルートのリズムが冴えまくって超鮮明に曲を描いていきます。
続く2楽章は絶品。静寂にとぼとぼと刻まれるフォルテピアノのリズムに乗って幽玄なフルートの音色が響き渡ります。フォルテピアノの左手の刻むリズムと、右手の奏でるメロディーも絶美。デーラーも只者ではありませんね。チェロも含めてリズム感が良いので音楽が淀みなく流れます。
そのよさが活きるのが終楽章。くっきりとメロディーが浮かび上がり、ハイドン独特の絡み合うメロディーの面白さが際立ちます。思った以上にフォルテピアノが雄弁なのが効いています。

Hob.XV:17 Piano Trio (Nr.30/op.59-3) [F] (before 1790)
一転して軽やかなタッチのフォルテピアノの入り。リズムよりも流れの良さを感じさせます。相変わらずグラーフのフルートの音色は深みのある美しいもの。曲に合わせてか、両者ともリラックスした入り。中盤から印象的な慟哭が続きますが音色の硬軟を織り交ぜながら進みます。この曲ではタッチの変化を聴かせどころに持ってきました。

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ここでLPをひっくり返して2楽章へ。宝石のような響きの流れに身をまかせる快感に浸ります。一貫したリズムの流れの瞬間瞬間の情感のデリケートな変化が繰り返されるうちに至福の境地へ。最後は静寂に吸い込まれて終わります。

Hob.XV:15 Piano Trio (Nr.29/op.59-2) [G] (before 1790)
再び鮮明なリズムに乗った快活なメロディーへ。この曲の明るさと翳りが繰り返される美しさは筆舌に尽くしがたいもの。それをグラーフの見事なフルートとデーラーの表情豊かなフォルテピアノで鮮やかに演奏され、曲の美しさが完璧に表現されます。何気にチェロのスタルクもキレ味鋭く、2人に負けていません。世の中にこれほど美しい曲があるのでしょうか。そしてあまりに見事な演奏に言葉を失うほど。この曲の真髄に迫ります。
1楽章のあまりの完成度にのけぞっていたところに癒しに満ちたフォルテピアノの音色が沁み入ります。グラーフのフルートは素晴らしい音量と伸びやかさで孤高の境地。広い空間に響き渡るフルートの響き。これほど美しいフルートの音色は初めてです。
終楽章は前2楽章の素晴らしさの余韻の中、メロディーの戯れを楽しむような演奏。この軽さというか自在さはこれまでの妙技の数々をこなしてきたからこその境地でしょう。

絶品です! これまで取り上げてきたフルート三重奏曲はいずれも素晴らしい演奏でしたが、このアルバムはそれを超えるもの。この曲集の決定盤としていいでしょう。グラーフのフルートがこれほど素晴らしいものだと改めて認識しました。そしてデーラーのフォルテピアノも絶品。また曲の並びも作曲順ではXV:16、15、17ですが、このアルバムでは16、17、15の順で収録されており、LPのカッティングの都合で2楽章の17を真ん中に置いたものとは思いますが、そのおかげでXV:15の見事な演奏が最後に配置され、アルバムの完成度を上げる結果につながっています。特にこのXV:15の素晴らしさは心に刻まれました。評価はもちろん全曲[+++++]といたします。

世の中はお盆で帰省ラッシュですが、このお休みはのんびり過ごそうと思います。

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2 Comments

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SkunJP

わが青春のアイドル

Daisyさん、本当にお久しぶりです。新シリーズが始まっていますが、私は交響曲にはうといので数回前のペーター・ルーカス・グラーフのレビューに反応したいと思います。

グラーフが気に入られるとは、さすがお目が高い。彼はわが青春のアイドルなのですから。

彼のフルートの音と音楽にあこがれて、その奏法を日夜研究したものです。彼の吹き方は唇を縦方向に圧縮して強い圧力の息を歌口にかけ、倍音の豊かさとクリアな音を得ます。

この吹き方だと、ドッシリとした低音を基礎とするピラミッドバランスの上に緻密で変化の豊かな音楽(倍音の厚さが決め手)を築くことができます。

もちろんグラーフの音楽性の豊かさと気品がこのような奏法を真に生かすのですが、彼の音楽はとにかくフレーズの作り方が大きく長く、とても雄大!特にバッハを吹かせると目の前に音楽の峰々がそびえ立つようです。(バッハの6つのソナタがお勧め)

ところでグラーフといえば…。私の大学時代、当時のキャンパスは平安神宮の裏手にありました。オーボエの先輩が外で練習していると、たまたま来日して観光していたグラーフが塀の隙間から覗き込んでキョロキョロしていたとのこと。先輩は「一緒にアンサンブルしよう」と誘ったのですが、忙しいとフラれてしまったそうです。

神社とおぼしき場所からオーボエの生音が流れてきたので、さぞや日本はクラシック音楽が盛んな国?と思ったことでしょう(笑)

※ちなみに彼は古楽器は吹かなかったと思いますよ。

  • 2017/08/24 (Thu) 15:44
  • REPLY

Daisy

Re: わが青春のアイドル

SkunJPさん、こちらこそご無沙汰しております。

流石にフルートはお詳しいですね。私の方はいつもながら体当たりで聴いていますが、このグラーフの音色は素晴らしいですね。厚みもあって、豊かに響くフルートの音色が素晴らしいだけでなく、キレの良さも絶品ですね。その音色の秘密が唇の形にあったとのことで、フルートの音が鳴る仕組みの大元がやはり大事なんだとわかりました。フルートの音色にピラミッドバランスというのがよくわかりました。私も昔、爪を磨いてセゴビアトーンを目指したことがありましたが、あの心を揺らすほどの力強い音が出るわけもなく、、、 音楽は音一つで人の心に触れるもの。たかが音一つですが深いですね。

グラーフは現代楽器ですね。フォルテピアノの伴奏から古楽器のオーソドックスな演奏との予感を感じたことを書きましたが、音色は深々としたものでしたね。

  • 2017/08/27 (Sun) 09:23
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