アレクサンドル・スロボジャニクのXVI:48(ハイドン)

アレクサンドル・スロボジャニク(Alexander Slobodyanik)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:48)、ショパンのマズルカから4曲(No.19、20、21、42)、プロコフィエフのピアノソナタNo.6(Op.82)の6曲を収めたLP。残念ながら録音年に関する記載はなく、またネットを調べても判明しませんでした。LPの状態などから1970年代の録音かなと想像しています。レーベルは露Мелодия(Melodiya) 。
こちらは最近オークションで手に入れたもの。見たことも聞いたこともない奏者のアルバムを手に入れるのは実にスリリングで楽しいものですね。このアルバムの奏者のアレクサンドル・スロボジャニクもそうした奏者で、これまで全く知らなかった人。Wikipediaなどによれば、1941年、現ウクライナ、旧ソ連のキエフ生まれのピアニスト。アルバムの解説では1942年生まれとありますが、どちらが正しいかはちょっとわかりません。7歳でウクライナの西端、ポーランド国境近くにあるリヴィウ(Lvov)にあるリヴィウ音楽院でピアノを学び、その後モスクワ音楽学校でリヒテルの師でもあるゲンリフ・ネイガウスに学び、またモスクワ音楽院でヴェラ・ゴルノスタエヴァに師事しました。1966年に開催されたチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門で4位に入るなどして国際的に名が知られるようになり、以来50年にわたってピアニストとして活躍したそう。1968年にアメリカにデビューツアーを行い、カーネギーホルでのコンサートが評判となり、米ソの文化交流が途絶える1979年までアメリカ、カナダツアーを繰り返していました。9年間のブランクの後、1988年のアメリカツアーはシカゴ・トリビューン紙から「勝利の帰還」と称賛されました。以後欧米の主要なオケとの共演するなど国際的に活躍し、亡くなったのは2008年とのこと。欧米での活躍に比べ日本での知名度は今ひとつだったのでしょう。
このスロボジャニクの弾くハイドン、これがなかなか凄みを感じさせる演奏なんですね。

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
適度に残響が含まれる澄んだピアノの響きの美しさが感じられる録音。冒頭からデリケートなタッチで豊かな詩情を醸し出す演奏。それでいて徐々に直裁なタッチも垣間見せ、霊気を帯びたような独特の雰囲気にただならぬ迫力を感じます。スロボジャニクの特徴はこの雰囲気のある直裁なタッチでしょう。1楽章はしなやかな静寂感と強奏部分の力強さとを織り交ぜ聴かせたりと表現の幅の大きさを印象付けます。この曲は2楽章構成。続くプレストへの入りは微風のような爽やかさを感じさせる絶妙なもの。軽やかなタッチでコミカルなメロディーを刻み徐々に強音を織り交ぜていくタッチの鮮やかさは流石なところ。短い楽章ですが聴きごたえ十分。この小曲でも冷静に起伏をつけながらこれだけの表現の変化を聴かせる手腕は見事でした。
続くショパンのマズルカはちょっと録音の印象が変わってハイドンの方が鮮度が高く音がいいですね。スロボジャニクの演奏はハイドンと同様の傾向を感じますが、ショパンとしてはかなり辛口の演奏でしょう。そして裏面のプロコフィエフも録音はショパンと同様。スロボジャニクの冴え冴えとしたタッチの魅力と迫力にはこの曲が一番合うでしょう。音が飛び散るようなプロコフィエフ独特の雰囲気を見事に表現しています。このアルバムの聴きどころはハイドンと並んでこのプロコフィエフでしょうね。
このハイドンの演奏で思い起こしたのは若い頃のグールドのキレ。もちろんグールドの強烈な個性とは比べられませんが、変幻自在のタッチのコントロールとその鮮やか、そして主情を排した冷徹な雰囲気はグールドに近い凄みを感じます。また硬めのピアノの音色もそう思わせるのでしょうね。現在入手できる音源は少ないものの、この見事な演奏から往時の凄みは感じることができました。ハイドンの評価は[+++++]といたします。
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