スミソン弦楽四重奏団のOp.77/103(ハイドン)

amazon
スミソン弦楽四重奏団(Smithson String Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1988年11月17日から20日にかけて、スイスのベルン州にあるブルーメンシュタインのプロテスタント教会(Evangelischen kirche Blumenstein)でのセッション録音。レーベルはdeutsche harmonia mundi。
スミソン弦楽四重奏団のアルバムは以前、1度取り上げています。
2011/06/10 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : スミソン弦楽四重奏団のOp.54
古楽器のヴァイオリニストのヤープ・シュレーダー率いる古楽器によるクァルテット。略歴は以前の記事を参照いただきたいのですが、前記事と録音年も近いことから、メンバーは同一です。
第1ヴァイオリン:ヤープ・シュレーダー(Jaap Schröder)
第2ヴァイオリン:マリリン・マクドナルド(Marilyn McDnald)
ヴィオラ:ジャドソン・グリッフィン(Judson Griffin)
チェロ:ケネス・スロウィック(Kenneth Slowik)
Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
教会での録音らしく残響は少々多めですが、木質系のしなやかな響きなのでむしろ心地良い感じ。冒頭からテンポよく勢いのある演奏。古楽器の音色の美しさはなかなかのもので、響きの魅力にまず惹きつけられます。リズムに生気が宿り、実にイキイキとした演奏。晩年のハイドンの澄み切った心境を映すような演奏という感じ。ほぼ30年前の演奏ながら、録音も演奏も全く古さを感じさせない、素晴らしい充実度。
続くアダージョでは響きの美しさを存分に聴かせます。ヤープ・シュレーダーのヴァイオリンは自然体のボウイングの美しさと、この曲が本来もつ枯れた雰囲気をも感じさせる円熟の演奏。ハーモニーは透明感高く、ソロ部分では孤高の心境が宿るよう。
落ち着いた演奏を断ち切るようにメヌエットに移ります。鋭いボウイングによってハイドンの書いた音楽のキレが強調されます。ちょっと驚くのが中間部をどっしりとまとめてきたところ。色々な演奏を聴いていますが、なかなかのアイデアですね。これによって両端のメヌエットの鮮やかさが一層引き立ちます。
そしてフィナーレは軽やかに入ったと思っていたところ、リズムを変えて次々に襲いくるメロディーの特に低音のアクセントを強調したり、複雑に絡み合うメロディーのエッジが綺麗に立って音楽の綾を実に魅力的に仕上げてきます。目眩く変化する音楽の面白さに釘付けになります。これは見事。なんと鮮やかなフィナーレでしょう!
Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
前曲の鮮やかさを受け継ぐような壮麗な入り。ヤープ・シュレーダーのヴァイオリンは絶好調。鮮度高く、滑らかさと勢いのバランスも絶品。耳を澄ますとクッキリとしたメロディーと流すような音階との対比をかなり鮮明につけています。ヤープ・シュレーダーの自在なボウイングにうっとりしっぱなし。秀逸なのが、展開部の途中でかなり音量を落として沈み込むところのセンス。ゾクゾクさせるようなスリリングさ。この曲でこんな印象を持ったのは初めてのこと。シュレーダー以外のメンバーも見事な音楽性でシュレーダーの冴え冴えとした演奏を支えます。見事。
続くメヌエットでも美しいヴァイオリンの音色とキレは健在。生気漲るとはこのことでしょう。その勢いと見事な対比を見せて沈む中間部が実に印象的。音量のみならず表情の対比がこれほど決まる演奏はそうはありません。
そしてこの曲の白眉の枯れたアンダンテ。この曲に込められた寂しさを帯びた明るさがしっかりと描かれます。音楽が展開するごとに深みが増していく喜び。この曲を書いたハイドンの心情をトレースしていくような演奏に心打たれます。これは絶品、世の中にこれほどシンプルに豊かな心情を表す音楽があるでしょうか。
素晴らしい音楽の締めくくりにふさわしいフィナーレ。天真爛漫に歌う小鳥のようなメロディーを3本の楽器が支えます。フレーズの受け渡しの面白さと、ユニークなメロディに低音の意外にメリハリのついた演奏と最後まで気を抜けません。ヴァイオリンのさえずりを聞かせて、最後はしっかりと展開した音楽をまとめて終わります。この曲も最高。
Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドン絶筆の曲。流石に力が抜けてきますが、音楽の豊かさは変わらす。ハイドン最後の音楽を微笑みながら演奏している姿が目に浮かびます。構成感をしっかりと印象づけながらも、落ち着いてゆったりと音楽を紡いでいく姿勢に打たれます。たっぷりと墨を含んだ太い筆でゆったりと筆を運ぶように音楽を作っていきます。
そして、最後のメヌエットは残った力を振り絞るような渾身の音楽。ここにきてチェロの力強さにハッとさせられます。妙に染みる中間部を挟んで、切々としたメヌエットに戻り、残った音符の数を惜しむように曲を結びます。最後の厳しい和音を書き、ハイドンが筆を置いた心境がオーバーラップします。
ふと手に入れたこのアルバムですが、このロプコヴィッツ四重奏曲3曲のベスト盤と言っていいでしょう。演奏によってはハイドン最後の音楽という深みを感じられないものもありますが、この演奏は別格の深さを持っています。古楽器での演奏ながらヤープ・シュレーダーの自在なボウイングから繰り出される音楽の表情は非常に多彩。そしてアンサンブル全体に生気が漲った超がつく名演です。このアルバムを聴いてようやくこの曲の真髄に触れた気になりました。評価はもちろん全曲[+++++]とします。弦楽四重奏曲好きな皆さん、手に入るうちにどうぞ!
- 関連記事
-
-
【新着】キアロスクーロ四重奏団のOp.20後半(ハイドン)
2017/07/06
-
フランチスカス四重奏団のOp.2のNo3(ハイドン)
2017/07/03
-
スミソン弦楽四重奏団のOp.9、Op.17(ハイドン)
2017/06/30
-
ザロモン弦楽四重奏団の剃刀、ひばり(ハイドン)
2017/06/26
-
スミソン弦楽四重奏団のOp.77/103(ハイドン)
2017/06/13
-
コダーイ四重奏団のOp.9(ハイドン)
2017/05/17
-
プラハ四重奏団の「皇帝」、「セレナード」(ハイドン)
2017/01/27
-
モードゥス四重奏団の五度、皇帝、ラルゴ(ハイドン)
2017/01/21
-
ベレヌス四重奏団の「五度」(ハイドン)
2016/12/27
-