作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ニキタ・マガロフのピアノ協奏曲XVIII:11(ハイドン)

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珍しいアルバムを見つけました。ニキタ・マガロフのピアノ協奏曲です。この触れ込みでギュンター・ヴァントの伴奏のものだろうと思った方はかなりのハイドン通ですが、今回見つけたのはその演奏ではありません。

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ニキタ・マガロフ(Nikita Magaloff)のピアノ、アゴスティーノ・オリツィオ(Agostino Orizio)指揮のブレシア・ベルガモ国際音楽祭室内管弦楽団(Orchestra da Camera del Festival Internationale di Bresia e Bergamo)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲Hob.XVIII:11とボッケリーニの交響曲ニ短調Op.12-4「悪魔の家(La Casa del Diavolo)」の2曲を収めたアルバム。収録の詳細はこのアルバムには記載されていませんが、ハイドンに関しては同じソースだと思われる別のアルバムには1988年2月21日、ミラノのミラノ音楽院のヴェルディ・ホール(Sala Verdi)でのライヴとの記載があります。レーベルははじめて手に入れる、φωνη fonè。なんと読むのかわかりません(笑)

ニキタ・マガロフのアルバムは少し前に取り上げていて、その気品に溢れた演奏が印象に残っています。

2017/02/18 : ハイドン–ピアノソナタ : ニキタ・マガロフのピアノソナタXVI:48(ハイドン)

前回取り上げたソナタの演奏が1960年とマガロフの壮年期である48歳頃の録音だったのに対し、今回取り上げる協奏曲は亡くなる4年前の76歳頃の録音ということで、時代がかなり下ってからのもの。演奏スタイルがどのように変化したかも興味深いところでしょう。

気になるのは見たことのないレーベルであるφωνη fonè。もう消えてしまったレーベルかと思いきや、バリバリ現役のレーベルでした。

Fonè Records

レーベルは創立30年近くになるクラシックとジャズを主体とする音質にこだわったレーベル。ウェブサイトによると、現在はフィレンツェとピサの間にあるペッチョリ(Peccioli)という田舎町が本拠地のようです。SACDやLPまでリリースしている本格的なレーベルでした。

今日取り上げるアルバムは廃盤のようですが、この録音の1楽章のみ別途リリースされているベスト盤に収録されていますので、自信のある録音ということなのでしょうね。確かに録音にはこだわりを感じます。TELARKのようなダイナミックさを求める録音ではなく演奏のライヴ感を重視した録音。

Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
いきなり透明感の高いオーケストラの響きが広がります。指揮者のアゴスティーノ・オリツィオは知らない人ですが、オーケストラコントロールはキリリと引き締まったリズムを基調とした堅実でキレもあるもの。オケは迫力十分。驚くのがニキタ・マガロフのピアノの瑞々しさ。落ち着いたテンポで堂々としていながら、キラメキ感に満ちた素晴らしいタッチ。70歳代の演奏ゆえリズムに鈍さを感じるところもなくはないのですが、それを上回る覇気に満ちた演奏。ハイドンの曲を味わいながら演奏しているのがよくわかります。フレーズの一つ一つを丁寧にこなしながら、全体にしっかりとしたエネルギーが込められ、実に気品と風格に溢れた演奏。まるでベートーヴェンを演奏しているような推進力と覇気に圧倒されます。オケの方もマガロフの気合に触発されて輝きを増していきます。名ピアニストの力演を支えよとする、こちらも奏者のエネルギーを感じます。カデンツァでもマガロフの放つオーラにホール中の聴衆が集中していることがわかります。
続くアダージョは力をスッと抜いたオケの伴奏の爽やかさに気を取られているうちにマガロフの磨き抜かれた美音によるメロディーが入ります。特に高音の澄んだ響きの美しさが印象的。老練なタッチから生み出されるしなやかな音楽。マガロフの意を汲んでか、オケが実に情感溢れるいい伴奏を聴かせます。ピアノに劣らず雄弁な伴奏にマガロフも高揚している様子。繰り返しゆったりと訪れる波のような起伏が音楽を心地良いものに感じさせます。そしてとどめはあまり聴いたことのない実に気品に溢れたカデンツァ。マガロフ自身のものでしょうか。
フィナーレは予想通り落ち着いた、そしてじっくりとした演奏。噛みしめるようにピアノとオケが旋律を展開させていきながら、ハイドンのアイデアの変化の面白さを次々と繰り出していきます。それぞれのフレーズに揺るぎない意味が込められていることがよくわかる演奏。ピアノからオケ、オケからピアノへ受け渡されるメロディーの面白さを存分に味わえます。マガロフのピアノのタッチはどんどん冴えてきて最後は鮮やかさで観客を圧倒。最後の音が消えるのを待たずに万雷の拍手に包まれます。

続くボッケリーニもはじめて聴く曲ですが、変化に富んだ奇妙な展開が繰り返される実に興味深い曲。ピアノが入る訳ではないので、オケの力量を示すものですが、こちらも見事なコントロールで拍手喝采。

ニキタ・マガロフの晩年の充実した演奏をたっぷりと楽しめる素晴らしいアルバムでした。堂々とた正統派のピアノの揺るぎない響きがこれほどまでに音楽を活き活きとさせる稀有な事例と言っていいでしょう。このアルバムはネットショップを探しても見当たらないことから既に廃盤かもしれませんので、なかなか入手は難しいかと思いますが、こうしたアルバムこそ、手に入るようにしておく価値がありますね。当ブログがその真価の証を刻んでおくべきでしょう。見かけたら是非入手をおすすめいたします。評価は[+++++]とします。

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2 Comments

There are no comments yet.

小鳥遊

ご無沙汰しております

このアルバムは印象に残っています。

勿論、マガロフのハイドン目当てで買ったのですが、ボッケリーニの交響曲の方も何となく聞き流していたら、最後にグルックまんまの音楽が出てきてビックリしました。

なんじゃこりゃ、と(笑)

正直、マガロフのハイドンの方の記憶がすっかりなくなってしまっているので、また聴いてみようと思っていますが、もしかしたら、すでに手放してしまったかも。

今から探すとなると大変そうな一枚ですね。

Daisy

Re: ご無沙汰しております

小鳥遊さん、ごちらこそご無沙汰しております。

このアルバムをマガロフ目当てで手に入れていたとは、流石にお目が高い!
しかも、このアルバムのボッケリーニに驚くあたりも流石です。私にはグルックまんまを聴き分けるほどグルックにも造詣が深くありませんが、このボッケリーニの音楽には驚きました。ハイドンの紳士的かつ整然とした構成やメロディーの美しさとは打って変わって、なんだかどんどん勢いに乗って変化していく構成にはなんだか悪魔的なひらめきも感じます。

マガロフの方は老練なタッチが印象的な佳演ですね。

  • 2017/05/25 (Thu) 23:57
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