フランツペーター・ゲーベルスのソナタ集(ハイドン)

ちょっと間が空いてしまいました。今日は最近オークションで手に入れたLP。

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フランツペーター・ゲーベルス(Franzpeter Goebels)のフォルテピアノによるハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:6)、カプリッチョ「豚の去勢にゃ8人がかり」(XVII:1)、ピアノソナタ(XVI:48)、アンダンテと変奏曲(XVII:6)の4曲を収めたLP。収録は1981年10月、ハイデルベルクの音楽スタジオとフランクフルトのフェステブルク教会でのセッション録音。レーベルはmusicaphon。

なんとなくスッキリとしたデザインのLPジャケットに惹かれて手に入れたもの。いつものようにLPをVPIのレコードクリーナーと必殺超音波極細毛美顔ブラシで丁寧にクリーニングして針を落としてみると、ジャケットのデザインのイメージそのままのスッキリとした響きが流れ出します。律儀な普通の演奏にも聴こえますが、何度か聴くうちに実に深い演奏であることがわかり取り上げた次第。

奏者のフランツペーター・ゲーベルスは1920年、ドイツ東部のミュールハイム(Mülheim an der Ruhl)に生まれたピアニスト、フォルテピアノ奏者、教育者。修道院のオルガン奏者の父を持ち、ピアノを学ぶ他、音楽学、文学、哲学などを学びました。1940年からはドイツ放送(Deutschlandsender)のソロピアニストととして活躍しましたが、兵役に徴収されたのち収監されました。戦後はデュッセルドルフのロベルト・シューマン音楽院で教鞭をとるようになり、1958年からはデトモルトの北西ドイツ音楽アカデミーでピアノとハープシコード科の教授を1982年の定年まで勤めたそう。亡くなったのはデトモルトで1988年とのこと。ほぼ教職の人ということで、あまり知られた存在ではありませんが、演奏はまさに教育者の演奏と感じられる手堅さに溢れています。

Hob.XVI:6 Piano Sonata No.13 [G] (before 1760)
鮮明に録られたフォルテピアノの響き。LPならではのダイレクトな響きによってフォルテピアノを眼前で弾いているようなリアリティ。一定の手堅いテンポでの演奏ながら、硬めの音と柔らかめな音を巧みに組み合わせて表情を変化させていきます。純粋に内声部のハーモニーの美しさが実に心地良い。素直な演奏によってフォルテピアノの木質系の胴の響きの余韻と曲の美しさが際立ちます。
続くメヌエットは左手の音階を短く切ってアクセントをつけます。ちょっと音量を落としたところの響きの美しさが印象的。高音の典雅な響きも手伝って、リズミカルな中にも優雅な雰囲気が加わります。実に素朴なタッチからニュアンス豊かな響きが生まれます。鍵盤から弦を響かせるフリクションの範囲での穏当な表現ですが、この音色の変化は見事。妙に沁みる演奏です。
そしてこの曲で最も美しいアダージョ楽章。ピアノの澄んだ響きとは異なり、微妙に音程が干渉するようなフォルテピアノ独特の音色が味わい深い響きを生んでいきます。楽器と訥々と会話するような孤高の響きの連続に心が安らぎます。
フィナーレは軽すぎず、穏当な表現が心地良いですね。しっかりと音を響かせながら決して焦らず、一音一音をしっかり響かせての演奏。さりげない終わり方もいいセンス。

Hob.XVII:1 Capriccio "Acht Sauschneider müssen sein" 「豚の去勢にゃ8人がかり」 [G] (1765)
ユニークなメロディーを変奏で重ねていく7分弱の曲。今度は音色をあまり変えることなく、ちょっとギクシャクした印象を伴いながらもフレーズごとのメリハリをつけながら弾き進めていきます。変奏の一つ一つを浮かび上がらせるというよりは、渾然一体となったメロディーを訥々と弾いていく感じ。終盤はバッハのような印象まで感じさせて、これはこれで面白いですね。

IMG_8433.jpg

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
LPをひっくり返して再びソナタに戻ります。晩年の傑作ソナタの一つ。今度は間をしっかりとっての演奏。ソナタによってしっかり演奏スタイルを変えてきますが、それでもすっきりとしたゲーベルスのタッチの特徴は残しています。ソリストというよりは教育者としての演奏といえば雰囲気が伝わるでしょうか。かといって教科書的な厳格さではなく、抑えた表現の深みと円熟を感じるすっきりさ。やはりLPならではの響きの美しさが最大の魅力となる演奏ですね。眼前でフォルテピアノが鳴り響く快感。
2楽章のロンド、3楽章のプレストとも落ち着いたタッチからジワリと音楽が流れ出します。噛みしめるような音楽。フォルテピアノをしっかりと鳴らし切った演奏に不思議に惹きつけられます。

Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
最後は名曲。予想通り、さりげなく入り淡々とした演奏です。まさにハイドンの書いた音楽自身に語らせようとする自然体の演奏。この曲はそうした演奏スタイルが最も曲の良さが映えますね。流石に変奏の一つ一つの扱いは丁寧で、フレーズごとに素朴な詩情が立ち上り、曲の美しさが際立っていきます。まさにいぶし銀の演奏。A面の変奏曲とは扱いが全く異なります。このアルバムの演奏の中では最も音色とダイナミクスの変化をつけた演奏で、変奏毎の表情の変化の多彩さが印象的。最後までフォルテピアノの美しい音色による演奏を堪能できました。

実はこのアルバム、前記事を書いてからほぼ毎日、なんとなく針を落として聴いていました。最近仕事の帰りが遅いので、聴いているうちに寝てしまうのですが、最初はただのさりげない演奏のように聴こえていたものが、だんだんと深みを感じるようになり、特に音色の美しさが非常に印象に残るようになりました。ということで、私にしては珍らしく聴き込んだ上で取り上げたものですが、書いた通り、実に良い演奏です。フランツペーター・ゲーベルスという人の演奏は初めて聴きますが、なかなか含蓄のある演奏で、流石に教育者という演奏。どう表現しようかというスタンスではなく、曲の真髄に迫る演奏スタイルを地道に探求するようなスタンスですね。私は非常に気に入りましたので、評価は全曲[+++++]とします。

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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノソナタXVI:6 ピアノソナタXVI:48 アンダンテと変奏曲XVII:6 豚の去勢にゃ8人がかり 古楽器 LP

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No title

大変ご無沙汰しております。
俗な世界で柄にも無く忙しぶっていますが、当サイトの定期購読?は欠かしません。
さて、当記事の「アンダンテと変奏曲」を聴く度に、ベートヴェンのピアニズムの根源は
(モーツァルトでは無く)ハイドンに在り!ということを痛感します。
ピアノをちょっと齧ってかつハイドンにあまり明るくない人にブラインドで聞かせたら、
十人中八、九人が作曲者を「ベト」と判断するような気がします。
Daisyさん、皆様はいかがでしょうか?

Re: No title

だまてらさん、こちらこそご無沙汰しています。こちらも定期購読に足る記事が最近書けておらず誠に申し訳ございません。

さて、「アンダンテと変奏曲」ですが、間違いなくハイドンの鍵盤楽器のための曲の最高傑作の一つでしょうね。特に後半のダイナミックな展開はまさにベートーヴェンに繋がって行く事になったのでしょうね。
所有盤リストを確認するとそなたで最も録音が多いと思われるXVI:52同様70以上の録音があります。しかも名演も非常に多いのに驚きます。
作曲当時のことはわかりませんが、この時代のハイドンの人気を考えるとベートーヴェンもこの曲から刺激を受けた可能性もありますね。

No title

いやー、70種類以上!とは・・・聴衆だけでなく演奏者からの評価も高いこと
の証左ですね。小生の一推しは、バックハウスでしょうか・・・。
これは、実は盟友カワサキヤさんの影響です。
カワサキヤさんは、現在発売中の老舗(200号超の)季刊オーディオ誌で
本名にて何と一万字の大型連載デビューを果たしましたが、来月発売の
2017夏号では連載2回目にして早くもハイドンを取り上げられるそうです。
ピアノは、もちろん当曲。そして交響曲は・・・さて何でしょう?
ヒントとしては、セットになっているアレ、あれですよ・・・ってあまりヒントには
なっていませんが、私の念じるメッセージをDaisyさんなら受け取って頂ける
と期待しましょう。

Re: No title

だまてらさん、こんばんは。

先ほどまで、サロネン/フィルハーモニア管のコンサートで東京オペラシティにおりました。その記事は改めて。

さて、私も一ノ関のジャズ喫茶のマスターの粋な動静を楽しみに某老舗季刊オーディオ誌は愛読しており、最新号も手元にありますが、当ブログにもコメントをいただくカワサキヤさんの記事が掲載されているとは全く気づいておりませんでした。よく見るとまさにカワサキヤさんに相違ありませんね!

家に帰って改めて読み返して見ると、私が行きたくて行けなかった77年のベームの来日公演の話など、興味深い話題満載ではありませんか。しかも次号にはハイドンの話題ということで、期待は高まる一方ですね。おそらくセットになっているあれとは、エテルナのあれですな! これは次号が出たら呼応企画でもやらねばなりませんね。いやいや情報ありがとうございます。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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Joseph Haydn Discography
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

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登録演奏数:11,529
(2019年3月31日)
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