作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ドイツ・バロックゾリステンによるディヴェルティメント「誕生日」(ハイドン)

0
0
今日は軽めのアルバム。先輩愛好家に教えていただいたアルバムが気になって、amazon.co.uk で注文したもの。

DeutschenBarocksolisten2.jpg

ドイツ・バロックゾリステン(Die Deutschen Barocksolisten)の演奏で、ハイドンのディヴェルティメント「誕生日」(Hob.II:11)、フローリアン・レオポルド・ガスマンのオーボエ、ヴィオラ、チェロ、バッソのための四重奏曲、グレゴール・ヨゼフ・ヴェルナーのフルート、ヴァイオリン、通奏低音のための協奏曲の3曲を収めたアルバム。収録は1977年10月29日から30日、ドイツのケルンの西のブラウヴァイラー(Brauweiler)にあるブラウヴァイラー修道院(Abtei Brauweiler)でのセッション録音。レーベルは独FSM ADAGIO。

このアルバム、タイトルは”Galante Musik aus Wien”ということで、「ウィーンのギャラント様式音楽」とでも訳すのでしょうか。このアルバムは18世紀中盤、ハプスブルク家によって音楽の中心都市として栄えたウィーンにおけるバロックから古典期への移行期、装飾的な音楽から明晰な音楽への移行期の音楽を表すギャラント様式や多感様式の音楽音楽を集めたもの。このころウィーンの音楽は特に歌劇においてイタリアから大きな影響を受けつつありました。

ハイドンは18世紀中頃は、来たるシュトルム・ウント・ドラング期を前にして、1761年にエステルハージ家の副楽長に就任、その時の楽長がヴェルナーであったことは皆さまご存知のとおり。ヴェルナーは1693年生まれでハイドンが副楽長に就任した3年後の1766年に亡くなります。そしてこのアルバムに曲が収められたガスマンはウィーンで活躍したチェコの作曲家で、サリエリの師匠だったそう。1729年生まれとハイドンより3歳年長ですが、1774年と早くに亡くなっています。この18世紀中頃にウィーンの周りで活躍した3人の音楽家の作品を並べるという企画です。

ハイドンについては18世紀中盤、ハイドンの作品の中では初期の作品からギャラント様式を感じさせる曲を選んだということでしょう。もともとギャラントとは「軽快で優美な」との意ゆえ、ディヴェルティメントはそうした印象に最も近い曲と言っていいでしょう。だいぶ時を経た現代からみると、ハイドンだけが歴史の荒波を超えて聴き継がれてきたものであり、他の2曲とはやはり出来が違います。

ハイドンのこの曲は1763年ごろの作曲とされ4楽章構成で6声部のディヴェルティメント。既に1765年頃には多くの楽譜が出版され、広く知られた曲となっていたようです。このディヴェルティメントには「誕生日」というニックネームがついていますが、2楽章では2丁のヴァイオリンがオクターブはなれて、まるで夫婦のように寄り添って誕生日を祝うようすが描かれているとの事。この2楽章は「夫婦」とも呼ばれています。これはハイドン自身によって仕込まれたユーモアだと思われており、こうした特徴によって曲が有名になったものと思われています。

手元にはこのアルバムを含めて7組のアルバムがあり、そのうち4組はこれまでに記事にしています。

2014/08/11 : ハイドン–室内楽曲 : ディヴェルティメント・ザルツブルクのディヴェルティメント集(ハイドン)
2014/05/17 : ハイドン–室内楽曲 : シェーンブルン・アンサンブルのディヴェルティメント集(ハイドン)
2014/03/08 : ハイドン–管弦楽曲 : リンデ・コンソートのディヴェルティメント集(ハイドン)
2012/09/26 : ハイドン–室内楽曲 : ベルリン・フィルハーモニー・ソロイスツの「誕生日」

また、奏者のドイツ・バロックゾリステンはドイツ系の名手の集まりのようで、他のアルバムでもソロを担当する奏者が名を連ねます。

Hob.II:11 Divertimento "Der Geburtstag" 「誕生日」(6 Qurtette fur Flote, Violine, Viola und Violincello Op.5 Nr.6) [C] (c.1763)
入りから優雅の極み。まさに演奏を楽しむような愉悦感に富んだ演奏。ゆったりとしたテンポに合わせて、フラウトトラヴェルソにバロックオーボエが歌い、弦楽器陣が控えめながら楽しげにサポート。表現を追い込むなどという野暮なことはせず、ゆったりと演奏していきます。
2楽章のアンダンテは弱音器付きのオクターブはなれたヴァイオリンがさえずる鳥のように控えめな幸せを表現しているよう、メロディーもハーモニーもシンプルそのものですが、単調な印象はなく、実に奥行きのある音楽。これぞハイドンの真骨頂というところ。まさに夫婦が誕生日を祝いあうようなやりとりと聴こえます。
つづく3楽章のメヌエットもメロディーはシンプルそのものですが、丁寧な演奏から浮かび上がる音楽の楽しさ。中間部の変化もゆったりとした流れの中で聴かせる名人芸。この演奏、音楽の楽しさを表現することにかけてはこれ以上の演奏はありえないほど完成度が高く、実に微笑ましい。
そして終楽章は変奏曲。最初のテーマをもとに次々と変奏が進みます。まずはチェロがメロディーを繰り返し、そしてフラウトトラヴェルソが続き、装飾音を加えて華やかさを増します。そしてヴァイオリンソロ。バロックオーボエと続きますが、バロックオーボエの響きの艶やかさがひときわ鮮やか。再びヴァイオリンソロ、そしてこれまでの楽器が次々とメロディーを受け継いでアンサンブルの面白さが浮かび上がります。変奏のアイデアが次々と広がり、これほどシンプルな曲なのに音楽的な完成度は素晴らしいものがあります。最後は最初のテーマの提示部と同様の響きに戻って曲を閉じます。練習曲のように簡単な曲なのにハイドンの魔法がかかって素晴らしい音楽に仕上がります。

つづくガスマンの曲もシンプルながら華やかさとなかなか緻密な構成が魅力的な曲。ですが、ハイドンの曲のあまりの素晴らしさの前にはやはりレベルの差はついてしまうところ。そして、ハイドンの前任の楽長ヴェルナーの曲はかなり古風。時代もレベルもかなりの差があるのが正直なところ。

「ウィーンのギャラント様式音楽」と名付けられたアルバムですが、3人の作曲家の作品からこの時代の空気のようなものが浮かび上がってくる好企画と言っていいでしょう。そして結果的にはハイドンの先進性というか音楽性が際立つことになりました。ドイツ・バロックゾリステンの演奏は実に落ち着いたもので、この曲の魅力を完璧に表現する素晴らしい演奏。この演奏を聴くと、音楽とは技巧により成り立つものではないと改めて思い知らされます。技術的には難しいところは一つもなさそうな曲ですが、これほどに豊かな音楽を感じさせる演奏はそうできるものではありませんね。評価は[+++++]とします。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
関連記事

0 Comments

There are no comments yet.