ファイ/シュリアバッハ室内管のピアノ協奏曲集(ハイドン)
当ブログの読者の皆さまならご存知の通り、トーマス・ファイが倒れる前に録音した交響曲のアルバムのリリース予告されています。予定のリリース日から少し遅れているようですが、そろそろ来るのではないかと心待ちにしております。そのファイのハイドンのアルバムは全て手元にあると思っていたのですが、意外に盲点があり、このアルバムが未入手だと最近気づき、あわてて注文した次第。新たなアルバムが到着するまで、こちらでしのぎます(笑)

TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMV
ゲリット・ツィッターバルト(Gerrit Zitterbart)のピアノ、トーマス・ファイ(Thomas Fey)指揮のシュリアバッハ室内管弦楽団(Schlierbacher Kammerorchester)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録は1999年6月、フランクフルトのフェステブルク教会でのセッション録音。レーベルは独hänssler CLASSICS。
トーマス・ファイの振るハイドンの交響曲のシリーズですが、これまで取り上げた回数は10記事にもなります。
2014/08/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク響のの98番、太鼓連打(ハイドン)
2013/12/01 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの交響曲99番,軍隊(ハイドン)
2013/04/12 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク響のラメンタチオーネ他
2012/11/20 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の交響曲1番他、爆速!
2012/07/08 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルク交響楽団の90番、オックスフォード
2012/06/11 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/ハイデルベルグ交響楽団のマリア・テレジア、56番
2012/05/03 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイ/シュリアバッハ室内管の「時の移ろい」「告別」
2011/07/06 : ハイドン–交響曲 : 【新着】トーマス・ファイの「帝国」、54番
2010/12/26 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】トーマス・ファイのホルン協奏曲、ホルン信号
2010/08/01 : ハイドン–交響曲 : トーマス・ファイの69番、86番、87番
オケに着目すると、これまでリリースされた22枚のうち、第2巻が今日取り上げるアルバムと同じシュリアバッハ室内管である他はすべてハイデルベルク交響楽団。ハイデルベルク交響楽団の前身がシュリアバッハ室内管ということで、録音時期が1999年以降のアルバムからハイデルベルク響になっているという感じです。ということで、この協奏曲のアルバムは交響曲シリーズの第2巻の「告別」「時の移ろい」を収めたアルバムとともにファイのハイドンの録音の最初期のものということになります。ちなみアルバムの番号を比べてみるとこちらが98.354なのに対し、交響曲の第2巻の方は98.357と若干後。ということでもしかしたら、このアルバムがファイのハイドンの最初の録音ということかもしれませんね。そういった意味でも非常に興味深いアルバムです。
ピアノのソロはゲリット・ツィッターバルト、初めて聴く人かと思いきや、調べてみるとアベッグ・トリオのピアノを担当する人でした。1952年、ドイツのゲッティンゲン(Göttingen)に生まれ、カール・エンゲル、ハンス・ライグラフ、カール・ゼーマンら高名なピアニストに師事し、ドイツ音楽カウンシルのサポートを受けて若手芸術家のためのコンサートシリーズなどに出演。その後いくつかのコンクールで優勝してヨーロッパ各国で活躍するようになりました。1976年にアベッグ・トリオを設立後は室内楽の分野で活躍しています。ファイとはハイドンの前にモーツァルトのピアノ協奏曲の録音があり、ファイのお気に入りのピアニストだったのでしょう。
Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
ファイの演奏の記憶と比べると随分オーソドックスな伴奏の入り。オケは適度にリズミカルで快活。なんとなくこれからキレキレになりそうな予感を感じさせながらも穏やかさを保ちます。ツィッターバルトのピアノはファイのスタイルをピアノに移したように、適度なコントラストをつけながらクリアにリズムを刻んでいきます。オケもピアノもそこここにキラリと光る輝きがあり、ハイドンの晴朗な曲を爽快さ満点で描いていきます。まるでリズムに戯れて遊んでいるよう。凡庸さは全くなくフレーズの隅々まで閃きに満ちており、これに後年キレがくわわっていったわけですね。ツィッターバルトもかなり表現力。特に高音の抜けるような軽やかさを聴かせどころにして縦横無尽に鍵盤上を走り回る感じがこの曲にぴったり。カデンツァに入るところくらいから、ちょっとスイッチが入り表現意欲に火がつきましたね。
2楽章はラルゴ・カンタービレ。スイッチの入ったツィッターバルトは冒頭からタッチが冴え渡ります。ピアノの美しいメロディーをシンプルな伴奏で支え、ファイもここはツィッターバルトの引き立て役に徹します。このさりげないメロディーの美しさこそハイドンの真骨頂。絶品です。
フィナーレで攻守交代。ツィッターバルトのタッチのキレは変わらないのですが、今度はファイがこれまで抑えていた才気が解き放たれたように自在にオケを操り、とくにコントラバスの鋭いアクセントをかませながらテンポを上げ、ピアノを煽ります。火花散るようなデッドヒートを繰り広げながらも戯れて遊ぶような余裕があります。いやいや、この頃からキレていますね。
Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
もうだめです(笑) 完全にファイのペースに引きこまれました。ゾクゾクするような序奏の入りもファイならではのアイデア満載です。ハイドンの書いた曲が完全にファイ流に再構成され、冒頭から冴え渡るリズム感。オケも様々に趣向を凝らしているんですが、ツィッターバルトのピアノもそれに呼応して軽やかさが際立つタッチで応じます。アクセントのつけ方がこれまでの演奏とは全くアプローチが異なり、スリリングさ満点。微妙にテンポを上げ下げしたり、アクセントの変化をつけたりといろいろやりますが、全てが痛快にハマって気持ちのいいことといったらありません。この曲ではカデンツァは時代もスタイルも超えてやりたい放題。ここまでやると逆に吹っ切れていいですね。
続く2楽章は、弱音器付きの弦楽器の潤いをあえて廃した抑えた序奏から入り、ツィッターバルトのピアノの雄弁さに主役を譲ります。あっさりとした伴奏がかえって深みをもたらしているよう。やはりファイは只者ではありません。
フィナーレはこれも痛快なほどの速さでめくるめくように音階の上下を繰り返しながらキレよく曲をまとめていきます。終盤、突然ぐっとテンポを落とすことでカデンツァを引き立たせるあたりの演出は流石です。キレキレで終了。
Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
最後は有名曲。どうくるかと身構えていると、それをひるがえすようにオーソドックスに入ります。ただし、伴奏の各パートのアクセントのつけ方はファイならではのもので、聴いているうちにどんどんスリリングになっていきます。気づいてみると速めのテンポでグイグイ攻めるファイペース。一貫してトレモロのようにさざめくような音色に乗りながら寄せては返す波のように音楽の波が襲ってきます。これぞファイマジック!
続く2楽章はあえて表情を抑えて曲自体に語らせる大人な対応。この緩徐楽章を一貫して抑え気味にしてくることで、どの曲も両端楽章の冴え方が際立つわけですね。
フィナーレは予想どおり快速テンポで痛快なアクセント連発。ツィッターバルトのピアノもよくぞこれほど指が回ると驚くほどのめくるめくような冴え方。ファイとの呼吸もピタリで、大胆なデフォルメをそこここに散りばめ、もはや溶けてバターになっちゃいそう(ちびくろサンボ!) やはり只者ではありませんね。
ファイの最初期のハイドンの録音であるこのアルバムですが、すでにファイの魅力が満ち溢れていました。この録音のあとに22巻までつづく、いや、今度23巻がリリースされようとしている交響曲全集の録音が始まったわけです。この1枚を聴くだけでもファイの類い稀な才能がよくわかります。ピアノのゲリット・ツィッターバルトもファイと共通する音楽性を持った人で、ピアノもキレキレ。ファイのハイドンの原点たるこのアルバムの出来がその後の交響曲の録音を決定したことがよくわかりました。もちろん評価は全曲[+++++]とします。
さて、ファイの新譜はいつ手元につきますやら。ますます楽しみです。

ゲリット・ツィッターバルト(Gerrit Zitterbart)のピアノ、トーマス・ファイ(Thomas Fey)指揮のシュリアバッハ室内管弦楽団(Schlierbacher Kammerorchester)の演奏で、ハイドンのピアノ協奏曲3曲(Hob.XVIII:3、XVIII:4、XVIII:11)を収めたアルバム。収録は1999年6月、フランクフルトのフェステブルク教会でのセッション録音。レーベルは独hänssler CLASSICS。
トーマス・ファイの振るハイドンの交響曲のシリーズですが、これまで取り上げた回数は10記事にもなります。
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オケに着目すると、これまでリリースされた22枚のうち、第2巻が今日取り上げるアルバムと同じシュリアバッハ室内管である他はすべてハイデルベルク交響楽団。ハイデルベルク交響楽団の前身がシュリアバッハ室内管ということで、録音時期が1999年以降のアルバムからハイデルベルク響になっているという感じです。ということで、この協奏曲のアルバムは交響曲シリーズの第2巻の「告別」「時の移ろい」を収めたアルバムとともにファイのハイドンの録音の最初期のものということになります。ちなみアルバムの番号を比べてみるとこちらが98.354なのに対し、交響曲の第2巻の方は98.357と若干後。ということでもしかしたら、このアルバムがファイのハイドンの最初の録音ということかもしれませんね。そういった意味でも非常に興味深いアルバムです。
ピアノのソロはゲリット・ツィッターバルト、初めて聴く人かと思いきや、調べてみるとアベッグ・トリオのピアノを担当する人でした。1952年、ドイツのゲッティンゲン(Göttingen)に生まれ、カール・エンゲル、ハンス・ライグラフ、カール・ゼーマンら高名なピアニストに師事し、ドイツ音楽カウンシルのサポートを受けて若手芸術家のためのコンサートシリーズなどに出演。その後いくつかのコンクールで優勝してヨーロッパ各国で活躍するようになりました。1976年にアベッグ・トリオを設立後は室内楽の分野で活躍しています。ファイとはハイドンの前にモーツァルトのピアノ協奏曲の録音があり、ファイのお気に入りのピアニストだったのでしょう。
Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
ファイの演奏の記憶と比べると随分オーソドックスな伴奏の入り。オケは適度にリズミカルで快活。なんとなくこれからキレキレになりそうな予感を感じさせながらも穏やかさを保ちます。ツィッターバルトのピアノはファイのスタイルをピアノに移したように、適度なコントラストをつけながらクリアにリズムを刻んでいきます。オケもピアノもそこここにキラリと光る輝きがあり、ハイドンの晴朗な曲を爽快さ満点で描いていきます。まるでリズムに戯れて遊んでいるよう。凡庸さは全くなくフレーズの隅々まで閃きに満ちており、これに後年キレがくわわっていったわけですね。ツィッターバルトもかなり表現力。特に高音の抜けるような軽やかさを聴かせどころにして縦横無尽に鍵盤上を走り回る感じがこの曲にぴったり。カデンツァに入るところくらいから、ちょっとスイッチが入り表現意欲に火がつきましたね。
2楽章はラルゴ・カンタービレ。スイッチの入ったツィッターバルトは冒頭からタッチが冴え渡ります。ピアノの美しいメロディーをシンプルな伴奏で支え、ファイもここはツィッターバルトの引き立て役に徹します。このさりげないメロディーの美しさこそハイドンの真骨頂。絶品です。
フィナーレで攻守交代。ツィッターバルトのタッチのキレは変わらないのですが、今度はファイがこれまで抑えていた才気が解き放たれたように自在にオケを操り、とくにコントラバスの鋭いアクセントをかませながらテンポを上げ、ピアノを煽ります。火花散るようなデッドヒートを繰り広げながらも戯れて遊ぶような余裕があります。いやいや、この頃からキレていますね。
Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
もうだめです(笑) 完全にファイのペースに引きこまれました。ゾクゾクするような序奏の入りもファイならではのアイデア満載です。ハイドンの書いた曲が完全にファイ流に再構成され、冒頭から冴え渡るリズム感。オケも様々に趣向を凝らしているんですが、ツィッターバルトのピアノもそれに呼応して軽やかさが際立つタッチで応じます。アクセントのつけ方がこれまでの演奏とは全くアプローチが異なり、スリリングさ満点。微妙にテンポを上げ下げしたり、アクセントの変化をつけたりといろいろやりますが、全てが痛快にハマって気持ちのいいことといったらありません。この曲ではカデンツァは時代もスタイルも超えてやりたい放題。ここまでやると逆に吹っ切れていいですね。
続く2楽章は、弱音器付きの弦楽器の潤いをあえて廃した抑えた序奏から入り、ツィッターバルトのピアノの雄弁さに主役を譲ります。あっさりとした伴奏がかえって深みをもたらしているよう。やはりファイは只者ではありません。
フィナーレはこれも痛快なほどの速さでめくるめくように音階の上下を繰り返しながらキレよく曲をまとめていきます。終盤、突然ぐっとテンポを落とすことでカデンツァを引き立たせるあたりの演出は流石です。キレキレで終了。
Hob.XVIII:11 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
最後は有名曲。どうくるかと身構えていると、それをひるがえすようにオーソドックスに入ります。ただし、伴奏の各パートのアクセントのつけ方はファイならではのもので、聴いているうちにどんどんスリリングになっていきます。気づいてみると速めのテンポでグイグイ攻めるファイペース。一貫してトレモロのようにさざめくような音色に乗りながら寄せては返す波のように音楽の波が襲ってきます。これぞファイマジック!
続く2楽章はあえて表情を抑えて曲自体に語らせる大人な対応。この緩徐楽章を一貫して抑え気味にしてくることで、どの曲も両端楽章の冴え方が際立つわけですね。
フィナーレは予想どおり快速テンポで痛快なアクセント連発。ツィッターバルトのピアノもよくぞこれほど指が回ると驚くほどのめくるめくような冴え方。ファイとの呼吸もピタリで、大胆なデフォルメをそこここに散りばめ、もはや溶けてバターになっちゃいそう(ちびくろサンボ!) やはり只者ではありませんね。
ファイの最初期のハイドンの録音であるこのアルバムですが、すでにファイの魅力が満ち溢れていました。この録音のあとに22巻までつづく、いや、今度23巻がリリースされようとしている交響曲全集の録音が始まったわけです。この1枚を聴くだけでもファイの類い稀な才能がよくわかります。ピアノのゲリット・ツィッターバルトもファイと共通する音楽性を持った人で、ピアノもキレキレ。ファイのハイドンの原点たるこのアルバムの出来がその後の交響曲の録音を決定したことがよくわかりました。もちろん評価は全曲[+++++]とします。
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