ニキタ・マガロフのピアノソナタXVI:48(ハイドン)

なんだかLPの勢いが止まりません。こうなったら今月はLPに特化します!

IMG_7824.jpg
amazon(別装丁CD)

ニキタ・マガロフ(Nikita Magaloff)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:48)、ベートーヴェンのピアノソナタ30番、リストの「パガニーニによる大練習曲」の3曲を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、同音源を収録したCDの情報によると1960年8月のおそらくセッション録音。レーベルはPHILIPSの日本盤ですが、フォノグラムではなく日本ビクター時代のもの。解説にソナタが奏鳴曲と記されているところに時代を感じますね。

このLPは最近オークションで手に入れたもの。手元にマガロフの弾くハイドンのアルバムはヴァントが伴奏を務めるピアノ協奏曲くらいで、その演奏もあまり記憶にありませんでした。ところが最近記事にした、フレデリク・マインダースのピアノソナタを聴いて、マインダースのしなやかな演奏の原点がマガロフに師事していたというところにあるような気になり、マガロフのソナタを聴いてみたいと思っていたところ、タイミングよくオークションで見つけて手に入れたという次第。こうした巡り合わせもあるもんですね。

2017/02/03 : ハイドン–ピアノソナタ : フレデリク・マインダースのピアノソナタXVI:49(ハイドン)

ピアニストの演奏の個性というのはなんとなく師事したピアニストの影響を受けるもの。ブログを始めたばかりの頃、カルメン・ピアッツィーニの演奏が師事したハンス・レイグラフの演奏にそっくりだったので調べたらレイグラフに師事していたことがわかりびっくりしたことが、当ブログで奏者の略歴などをいちいち調べるようになったきっかけとなりました。

2010/02/15 : ハイドン–ピアノソナタ : ピアノソナタ全集のあれこれ

ということで、マインダースの、ハイドンの演奏としては珍しくリズムよりもしなやかさに聴きどころを持ってきた背景には師事したマガロフの影響があるだろうとの仮説を検証するためにマガロフを手に入れたという、歴史を遡る仮説検証的興味が脳内に充満している状態。ハイドン以外に特段詳しくもない私でも、ニキタ・マガロフといえばショパンを得意としていたようであるというくらいの感触は持っていて、仮説もそれほど的外れなものではなさそうであるとの憶測もあり、興味津々といったところ。

さらに歴史を遡るわけではありませんが、一応マガロフの略歴もwikipediaなどからさらっておきましょう。

ニキタ・マガロフは1912年、ロシアのサンクト・ペテルスブルクでジョージア(グルジア)貴族の家系に生まれたピアニスト。1918年に家族共々ロシアを離れてフィンランドに渡ります。家族ぐるみの付き合いだったプロコフィエフに刺激を受け、ウクライナ出身のピアニスト、アレクサンドル・ジロティとともに音楽を学び、その後パリ音楽院に進みピアノ学部長のイシドール・フィリップに師事、またパリ音楽院を卒業した1929年にはラヴェルに才能を認められます。マガロフも恩師であるイシドール・フィリップから優雅で折り目正しい趣味のよさを受け継いでいるとのこと。ピアニストとして活躍し始めたのは戦後になってからで、やはり、ショパンの演奏で知られるようになり、特に1974年から78年にかけてPHILIPSレーベルに録音したショパンのピアノ音楽全集は、初めての全曲録音としてのみならず、録音も良く、またマガロフの叙情的かつ端正な演奏が評判となった名盤とのことです。
教育者としても有名で、1949年、あのディヌ・リパッティの後任として1949年から1960年までジュネーブ音楽院の教授を務め、教え子にはマルタ・アルゲリッチ、マリア・ティーポ、イングリット・ヘブラーなど錚々たるピアニストがいます。
私生活ではヨーゼフ・シゲティの伴奏を務めていた縁で、シゲティの娘と結婚し、スイスのジュネーブに居を構えました。亡くなったのは1992年、スイスレマン湖畔のヴェヴェイとのこと。

マガロフの録音履歴を見ると、1950年代後半からポツポツと録音され始めていますので、今日取り上げるアルバムも1960年とごく初期のもの。しかも、ジャケットにもレーベル面にも誇らしげに”HI-FI STEREO”とグィーンと表示されており、ステレオ初期のもの。このレーベルは珍しいですね。

IMG_7825.jpg

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
盤のコンディションはそこそこでしたが、2度ほどクリーニングしてノイズは綺麗さっぱり無くなり、演奏に集中できます。多少歴史を感じる雰囲気はありますが、ピアノの響きは非常にいい感じ。しなやかさは期待通りですが、叙情的すぎず、落ち着いたタッチから紡ぎ出されるピアノの音色が心地よいですね。前の記事のハンス・シュタットルマイアの演奏でも感じた「気品」に満ちた演奏。端正な中にも程よい芳香が感じられる演奏。この録音当時48歳くらいですので、この味わい深さは流石です。
このソナタは2楽章構成。2楽章に入ると、クッキリとメロディーを浮かび上がらせるタッチのキレを感じさせます。曲の勢いよりも少し遅れて盛り上がる独特の雰囲気。早いパッセージもさりげなくこなしますが、どこかに力の抜けた感じを伴い、優雅さがあります。ハイドンのソナタからは展開の面白さを強調する演奏が多い中、あえてさり気なく弾き進め、メリハリはメロディーを浮かび上がらせるところくらいで、やはりしなやかかつ雰囲気を重視した演奏。そう、仮説通り、フレデリク・マインダースの演奏の原型を感じさせる演奏でした。ただ鍵盤へのタッチから音がなるだけのピアノですが、こうした気配や魂のようなものが師から弟へ受け継がれていくわけですね。

つづいてベートーヴェンの30番、B面はリストの「ラ・カンパネッラ」を含む「パガニーニによる大練習曲」。ベートーヴェンも力感よりも味わいが勝る、まさに気品に満ちた演奏。そして、ショパンとともに得意としていたリストでは、驚くようなきらめきに満ちた演奏でした。これはいいですね。

わたしは、あまりイメージのなかったニキタ・マガロフでしたが、ひょんなきっかけから興味をもち、マガロフという人のことを調べ、その音楽を聴き、なんとなくこの人の音楽というか、独特の美学にふれたような気になりました。また、このところいろいろピアノの古い演奏を聴き、ピアノという楽器の表現力の幅広さをあらためて知った気がします。さらっと聴くとなにげない演奏ですが、実に深い演奏でした。ベートーヴェンとリストと組み合わされたハイドンという構図もいいですね。いいアルバムを手にいれることができました。評価は[+++++]とします。

にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ
関連記事

テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : LP ピアノソナタXVI:48 ヒストリカル

コメントの投稿

非公開コメント

マガロフは、素晴らしいピアニストですよね。

私は、ショパンを聴くならマガロフという存在です(殆どマズルカしか聴かないですが)。

ただ、ヴァントとのハイドンが今一つの印象だったので、ソナタは盲点でした。

Re: タイトルなし

小鳥遊さん、こんばんは。

やはり昔のピアニストは聴かせどころをしっかり持っていますね。この演奏もマガロフにしかできない演奏です。もう一枚仏Disques MontaigneにXVI:23の録音があるようなんですが、amazonで恐ろしい値段がついているため、中古を気長に探すことにします(笑)
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

最新記事
カテゴリ
ハイドン所有盤リスト
Joseph Haydn Discography
所有盤をジャンル別にリスト化しています。基本的に録音年順とし、録音年不明のものはリスト冒頭に記載。演奏者名はジャケットなどの表記に合わせています。

登録曲数:1,365
登録演奏数:11,529
(2019年3月31日)
タグリスト
クリックするとそのタグに関する記事が表示されます。特定の曲に関する記事の表示ができます。

ピアノ協奏曲XVIII:4軍隊ヒストリカル交響曲93番交響曲70番ピアノ協奏曲XVIII:11交響曲80番交響曲81番トランペット協奏曲ヴァイオリンとピアノのための協奏曲XVIII:6悲しみロンドンオックスフォードモーツァルト交響曲4番ヨハン・クリスチャン・バッハピアノソナタXVI:51豚の去勢にゃ8人がかりピアノ三重奏曲十字架上のキリストの最後の七つの言葉スカルラッティヘンデルラモーバッハ驚愕ショスタコーヴィチシェーンベルク弦楽四重奏曲Op.76ドヴォルザークベートーヴェン交響曲75番チェロ協奏曲ホルン協奏曲古楽器時計弦楽四重奏曲Op.50アンダンテと変奏曲XVIII:6弦楽四重奏曲Op.54弦楽四重奏曲Op.64弦楽四重奏曲Op.20天地創造ヴォルフレスピーギヨハン・シュトラウスリヒャルト・シュトラウスタリスリゲティ交響曲10番ピアノソナタXVI:49迂闊者交響曲54番ネルソンミサバリトン三重奏曲トマジーニピアノソナタXVI:52交響曲2番ピアノソナタXVI:37ピアノソナタXVI:46日の出皇帝弦楽四重奏曲Op.71交響曲88番ブルックナーベルリオーズナッセンベンジャミンウェーベルンメシアンシェルシグリゼーヴァレーズOp.20弦楽四重奏曲交響曲67番交響曲65番交響曲9番交響曲39番狩り交響曲73番交響曲61番リームピアノソナタXVI:6ピアノソナタXVI:20ピアノソナタXVI:48アンダンテと変奏曲XVII:6四季交響曲全集ラヴェルリムスキー・コルサコフピアノソナタXVI:21ピアノソナタXVI:44ピアノソナタXVI:45第九太鼓連打交響曲99番ボッケリーニシューベルト交響曲5番ストラヴィンスキーチャイコフスキーライヴ弦楽四重奏曲Op.2序曲ヴィヴァルディオペラ序曲パイジェッロアリア集ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6すみだトリフォニーホールピアノソナタXVI:34ブーレーズサントリーホール弦楽四重奏曲Op.74騎士オルランド無人島哲学者の魂、またはオルフェオとエウリディーチェ変わらぬまことアルミーダチマローザ英語カンツォネッタ集ピアノ協奏曲XVIII:1ピアノ協奏曲XVIII:3交響曲3番ラメンタチオーネアレルヤ交響曲79番チェロ協奏曲1番交響曲27番交響曲19番交響曲58番紀尾井ホールドビュッシーミューザ川崎協奏交響曲オーボエ協奏曲LPヴァイオリンとヴィオラのためのソナタピアノソナタXVI:40ピアノソナタXVI:50ピアノソナタXVI:32ピアノソナタXVI:38ピアノソナタXVI:29スタバト・マーテルピアノソナタXVI:39マーラー告別交響曲90番交響曲97番交響曲18番奇跡ひばりフルート三重奏曲交響曲102番交響曲86番ヴァイオリン協奏曲哲学者ミサブレヴィスニコライミサ小オルガンミサ交響曲95番交響曲78番ピアノソナタXVI:23王妃武満徹ライヴ録音SACDマリア・テレジア交響曲21番クラヴィコードBlu-ray東京オペラシティ交響曲11番交響曲12番交響曲15番交響曲37番交響曲1番ピアノソナタXVI:8ピアノソナタXVI:42ピアノソナタXVI:25ピアノソナタXVI:14ピアノソナタXVI:2ピアノソナタXVI:12ピアノソナタXVI:4ピアノソナタXVI:1ピアノソナタXVI:5ピアノソナタXVI:3ディヴェルティメント東京芸術劇場交響曲98番ピアノソナタXVI:7ピアノソナタXVI:36ピアノソナタXVI:35ロッシーニドニぜッティライヒャ弦楽三重奏曲東京文化会館フルート協奏曲弦楽四重奏曲Op.9弦楽四重奏曲Op.17剃刀弦楽四重奏曲Op.103弦楽四重奏曲Op.77ピアノソナタXVI:26ファンタジアXVII:4ピアノソナタXVI:31アレグリバードモンテヴェルディパレストリーナ美人奏者ピアノ協奏曲XVIII:7アコーディオンスコットランド歌曲ヴェルナーガスマンピアノソナタXVI:24交響曲51番交響曲35番交響曲46番DVD交響曲47番テレジアミサピアノソナタXVI:28アリエッタと12の変奏XVII:3ラ・ロクスラーヌ帝国ハイドンのセレナード五度ラルゴラウドン将軍弦楽四重奏曲Op.33弦楽四重奏曲Op.1騎士交響曲17番ピアノソナタXVI:27シベリウス時の移ろい交響曲42番ベルリンフィルホルン信号弦楽四重奏曲Op.55交響曲87番リュートピアノソナタXVI:10ピアノ五重奏曲チェチーリアミサラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン東京国際フォーラム雌鶏冗談ナクソスのアリアンナピアノ協奏曲XVIII:5ピアノ協奏曲XVIII:9ヴァイオリンソナタ交響曲52番ピアノ協奏曲XVIII:2ロンドン・トリオモテットドイツ国歌カノンオフェトリウムよみうり大手町ホールパッヘルベルアダージョXVII:9受難パリセット交響曲84番ベルク主題と6つの変奏オペラアリアピアノソナタXVI:41スクエアピアノ交響曲57番交響曲68番リラ・オルガニザータ協奏曲交響曲50番交響曲89番CD-R偽作トビアの帰還ホルン三重奏曲薬剤師オルガン協奏曲火事交響曲38番リベラ・メピアノ協奏曲XVIII:10交響曲34番交響曲77番温泉フルートソナタドイツ舞曲誕生日校長先生ピアノソナタXVI:47bisピアノ小品音楽時計曲ピアノソナタXVI:11カートリッジ雅楽プロコフィエフサン=サーンス交響曲36番リストオーディオバリトン二重奏曲交響曲91番交響曲66番長岡鉄男歌舞伎おすすめ盤ピアノソナタXVI:47読売日響オペラ歌舞伎座スケルツァンド弦楽四重奏曲op.33ザルツブルク音楽祭変奏曲XVII:7ピアノソナタXVI:22天地創造ミサジャズ弦楽四重奏曲Op.42交響曲76番ピアノソナタXVI:43古楽器風東急文化村ノットゥルノヴェーベルン府中の森芸術劇場裏切られた誠実バリトン五重奏曲ハイドン入門者向け歌曲ピアノソナタXVI:G1ウィーンフィル月の世界交響曲72番建築ファリャマリアテレジア交響曲56番2つのホルンのための協奏曲展覧会ピアノソナタXVI:19弦楽四重奏曲全集シャンゼリゼ劇場皇帝讃歌交響曲24番大オルガンミサ新橋演舞場サルヴェ・レジーナテ・デウムカッサシオン室内楽曲ベトナム料理国立新美術館高音質CD交響曲28番交響曲13番交響曲62番交響曲108番交響曲107番ジプシー・ロンドチェンバロ四重奏曲声楽曲カンタータ戦時のミサ珍盤ザロモンセットN響ハルモニーミサミサ曲全集NHKホールハインリッヒミサピアノソナタ全集ジュピターレコードマーキュリー管弦楽曲室内楽変奏曲XVII:5交響曲41番ギターピアノソナタXVI:33府中ピアノソナタXVI:30カラヤンスウェーリンク書籍交響曲71番アプラウスピアノソナタXVI:13魂の歌仙台ヤナーチェク現代音楽ピアノソナタ

タグリスト
クリックするとそのタグに関する記事が表示されます。特定の曲に関する記事の表示ができます。

月別(表示数指定)
リンク
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

カウンター
カレンダー
11 | 2019/12 | 01
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
ブログ内検索
Translation(自動翻訳)
アクセスランキング(FC2)
[ジャンルランキング]
音楽
87位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
クラシック
10位
アクセスランキングを見る>>
ブログランキング等
当Blogへお越しの際は、下のバナーをクリックの上お仲間のBlogも是非お楽しみください。
クラシック音楽鑑賞の情報満載。
にほんブログ村 クラシックブログ クラシック音楽鑑賞へ

クラシックの膨大なブログランキング。更新もクイック。
人気ブログランキングへ

大家さんFC2のクラシックブログランキング。

おすすめ(音楽)
当ブログが発掘した超名演盤
ViventeR.jpg
衝撃の爆演(記事1 記事2

PetersenQ.jpg
Op.1の超名演(記事

Destrube.jpg
美音の饗宴(記事

書籍もCDも送料1点から無料。配送クイック


クラシックの独自企画・復刻盤は要注目


クラシックのアルバム・日本語解説が一番充実
HMVジャパン
HMV & BOOKS ONLINEでハイドンのアルバムを検索icon
HMV & BOOKS ONLINEでハイドン関係書籍・楽譜を検索 icon

おすすめ(音楽以外)






twitter
ブログの更新情報などをつぶやいています。
最新コメント
最新トラックバック
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

RSSリンクの表示
Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ