ハンス・シュタトルマイア/ミュンヘン室内管の十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)
やはりLPが続きますが、良いものは良いということでご容赦を。

ハンス・シュタットルマイア(Hans Stadlmair)指揮のミュンヘン室内管弦楽団(Orchestre de Chambre de Munich)の演奏で、ハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の管弦楽版。収録はレーベル面にPマークが1974年とだけ記されています。レーベルは仏DECCA。
ハンス・シュタットルマイアは、モーリス・アンドレのトランペット協奏曲のDG盤の伴奏を務めた人といえばわかる人もいるのではないでしょうか。
2012/06/09 : ハイドン–協奏曲 : モーリス・アンドレ/ミュンヘン室内管のトランペット協奏曲
ハンス・シュタットルマイアはオーストリア生まれの指揮者で作曲家。1929年、リンツの南の街ノイホーフェン・アン・デア・クレムス(Neuhofen an der Krems)生まれで、終戦後リンツ、およびウィーン音楽院でクレメンス・クラウスとアルフレート・ウールに指揮法を学んだ他、ヴァイオリンや作曲も学びます。1952年にシュツットガルトに移り、オーストリアの作曲家ヨハン・ネポムク・ダーフィトに主に作曲を学びました。その後、シュツットガルトで合唱指揮などを手始めに指揮者として活動し始め、1955年から1995年までこのアルバムのオケであるミュンヘン室内管弦楽団の首席指揮者を務めました。1976年以降はザルツブルク音楽祭にも招かれ活躍しているそう。録音も協奏曲の伴奏を中心に結構な数が残されており、堅実な指揮を旨としていたようです。
今日取り上げるアルバムは最近ディスクユニオンで仕入れたもの。仏DECCA盤という珍しいものであり、いつものようにクリーニングして針を落としてみると、DECCAらしいキレ味と仏盤らしい上品な響きを兼ね備えた素晴らしい響きが吹き出してくるではありませんか。あまりに見事な響きにうっとりとするほど。ということで記事にした次第です。
Hob.XX:1 "Die sieben letzten Worte unseres Erlösers am Kreuze " 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 [D] (1785)
非常に広い空間に気持ち良く響き渡る弦楽オケの音色。厚みはそこそこながら透明感とキレ味は十分。しかもこの曲の序奏に込められた力感を十二分に踏まえた入魂の演奏。しなやかかつ流麗、そして間をしっかりととって劇性も十分。この曲の深い情感を踏まえた見事な序奏です。次々と襲い来るメロディーの波に打たれます。
第1ソナタに入っても、フレージングの深さと燻し銀の弦楽器の音色は変わらず、歴史を感じさせる大理石の彫像の少しデフォルメされた立体感の心地よさのようなアーティスティックさと落ち着きが同居しています。音楽の安定感は揺るぎなく、自信に満ちたもので、ひたすら音楽に没入していく感じ。ここにきて弦楽器の響きの軽さというか風通しのよさがともすると重くなりがちなこの曲の圧迫感を巧みに避けているポイントだと気づきます。不思議に爽やかさも感じるのは音色に秘訣があったよう。
第2ソナタではさらにその爽やかさが曲の重厚な展開を中和し、むしろ午後の柔らかな日差しのまどろみのような気配をも感じさせます。ソロと全奏のしっとりとした対比の美しさもそこそこに、グッと音量の変化をつけたデフォルメで個性的な印象を作ってきます。曲も中盤に入るところで、微妙に踏み込みを見せてくるあたり、シュタットルマイア、かなりの手腕と見ました。特に音を美しく響かせることに対する感覚は非常に鋭敏。弦楽器のみで織りなすテクスチャーの豊かさはかなりのもの。
第3ソナタに入ると、表現の幅はまたまた少し踏み込み、語り口もより深くなってメロディーの展開を一つ一つ慈しみながら進めていくようになります。曲が進むに連れてだんだん表現が深くなっていく面白さ。このデリケートな変化こそこのゆったりした曲が続くこの曲の醍醐味でもあります。穏やかな演奏の中でも、時に大胆に、時に柔らかくと響きが千変万化。名曲ですね。

LPをひっくり返して第4ソナタに。CDだと曲が切れ目なく続くんですが、LPならではのこの一呼吸も悪くありません。第3ソナタからのエネルギーが絶えずに引き継ぐ感じが第4ソナタの入りのポイント。それを受けて少し冷ますように展開する曲の面白さ。ゆったりとスロットルをコントロールしながら曲の勢いを自在に制御していきます。途中のソロがまた味わい深く、曲の流れに完全に一体となった流れの良さを保ち、見事な弓さばきで絵巻物が進みます。ソロは完全にオーケストラ同じ流れの中でメロディーを置いていきます。これは相当の腕前。
好きな第5ソナタ。非常に控え目なピチカートに鳥肌が立ちます。ピチカートの強さ一つで曲の雰囲気が一変。途中から弦の慟哭のような激しいアクセントも気高く雄大。激しい慟哭はLPならではの溝の転写がわずかに聞こえますが、それもLPの味わいでしょう。再び非常に控え目なピチカートにぞくっとします。一貫してしなやかな展開にこれだけの起伏が織り込まれ、まさに劇的な展開。この曲の表現を極めたと言っていいでしょう。
終盤、第6ソナタは曲想がガラッと変わってもやはり劇的な序奏から入ります。序奏が終わるとお花畑のような幸福感に包まれる優しいメロディー、そして険しい響きが交互に現れ、聴くものに展開の喜びと理解の試練を与えられているよう。ハイドン自身がこの曲に一方ならぬ情熱を注いていたことを思い知らされる素晴らしい音楽の展開。いつもながら凡人の想像力の遥か彼方の閃きが音楽となっていることに打ちのめされます。そして全てを許すような癒しに満ちた音楽に移る絶妙の展開へと続きます。
最後の第7ソナタはクライマックスの火照りの余韻を冷ますような落ち着きを取り戻し、曲を振り返るような郷愁と枯淡の境地の入り混じった雰囲気を感じさせます。7つのソナタの一環した展開の中に、ソナタごとの特徴を絶妙に描き分けてくる非常に多彩な表現力。素晴らしい技術の裏付けがあってのことでしょうが、それを感じさせない自然さを保っているのが素晴らしいところ。
そして、最後の地震はゆったりと落ち着いて、このオケの良いところが全てでた劇的ながら爽やかで、かつアーティスティックなもの。これまで聴いた地震の中でも最もアーティスティック。タイプは違いますがジュリーニの壮年期の演奏のような気品を感じさせる見事さでした。
ハンス・シュタットルマイアと手兵ミュンヘン室内管によるハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」ですが、この曲の管弦楽版の数多の録音の中でも1、2を争う名演奏でした。この爽やかかつ深い音楽の素晴らしさ、そして気品溢れる演奏は表現意欲やテクニックという座標とは全く異なる、ハイドンの音楽への深い愛情と指揮者の人生を通して会得した気品のようなものに裏付けられたもの。LPの溝から音楽というか、魂が浮かび上がってきたような素晴らしい演奏です。調べた限りではCD化されたことはなさそうですが、こうした名演奏が現代でも容易に手に入るようにしていただきたいものですね。見かけたら即ゲットをお勧めします。評価は規定外の[++++++]をつけたいくらいですが、平常心を保ち[+++++]としておきます。

ハンス・シュタットルマイア(Hans Stadlmair)指揮のミュンヘン室内管弦楽団(Orchestre de Chambre de Munich)の演奏で、ハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の管弦楽版。収録はレーベル面にPマークが1974年とだけ記されています。レーベルは仏DECCA。
ハンス・シュタットルマイアは、モーリス・アンドレのトランペット協奏曲のDG盤の伴奏を務めた人といえばわかる人もいるのではないでしょうか。
2012/06/09 : ハイドン–協奏曲 : モーリス・アンドレ/ミュンヘン室内管のトランペット協奏曲
ハンス・シュタットルマイアはオーストリア生まれの指揮者で作曲家。1929年、リンツの南の街ノイホーフェン・アン・デア・クレムス(Neuhofen an der Krems)生まれで、終戦後リンツ、およびウィーン音楽院でクレメンス・クラウスとアルフレート・ウールに指揮法を学んだ他、ヴァイオリンや作曲も学びます。1952年にシュツットガルトに移り、オーストリアの作曲家ヨハン・ネポムク・ダーフィトに主に作曲を学びました。その後、シュツットガルトで合唱指揮などを手始めに指揮者として活動し始め、1955年から1995年までこのアルバムのオケであるミュンヘン室内管弦楽団の首席指揮者を務めました。1976年以降はザルツブルク音楽祭にも招かれ活躍しているそう。録音も協奏曲の伴奏を中心に結構な数が残されており、堅実な指揮を旨としていたようです。
今日取り上げるアルバムは最近ディスクユニオンで仕入れたもの。仏DECCA盤という珍しいものであり、いつものようにクリーニングして針を落としてみると、DECCAらしいキレ味と仏盤らしい上品な響きを兼ね備えた素晴らしい響きが吹き出してくるではありませんか。あまりに見事な響きにうっとりとするほど。ということで記事にした次第です。
Hob.XX:1 "Die sieben letzten Worte unseres Erlösers am Kreuze " 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 [D] (1785)
非常に広い空間に気持ち良く響き渡る弦楽オケの音色。厚みはそこそこながら透明感とキレ味は十分。しかもこの曲の序奏に込められた力感を十二分に踏まえた入魂の演奏。しなやかかつ流麗、そして間をしっかりととって劇性も十分。この曲の深い情感を踏まえた見事な序奏です。次々と襲い来るメロディーの波に打たれます。
第1ソナタに入っても、フレージングの深さと燻し銀の弦楽器の音色は変わらず、歴史を感じさせる大理石の彫像の少しデフォルメされた立体感の心地よさのようなアーティスティックさと落ち着きが同居しています。音楽の安定感は揺るぎなく、自信に満ちたもので、ひたすら音楽に没入していく感じ。ここにきて弦楽器の響きの軽さというか風通しのよさがともすると重くなりがちなこの曲の圧迫感を巧みに避けているポイントだと気づきます。不思議に爽やかさも感じるのは音色に秘訣があったよう。
第2ソナタではさらにその爽やかさが曲の重厚な展開を中和し、むしろ午後の柔らかな日差しのまどろみのような気配をも感じさせます。ソロと全奏のしっとりとした対比の美しさもそこそこに、グッと音量の変化をつけたデフォルメで個性的な印象を作ってきます。曲も中盤に入るところで、微妙に踏み込みを見せてくるあたり、シュタットルマイア、かなりの手腕と見ました。特に音を美しく響かせることに対する感覚は非常に鋭敏。弦楽器のみで織りなすテクスチャーの豊かさはかなりのもの。
第3ソナタに入ると、表現の幅はまたまた少し踏み込み、語り口もより深くなってメロディーの展開を一つ一つ慈しみながら進めていくようになります。曲が進むに連れてだんだん表現が深くなっていく面白さ。このデリケートな変化こそこのゆったりした曲が続くこの曲の醍醐味でもあります。穏やかな演奏の中でも、時に大胆に、時に柔らかくと響きが千変万化。名曲ですね。

LPをひっくり返して第4ソナタに。CDだと曲が切れ目なく続くんですが、LPならではのこの一呼吸も悪くありません。第3ソナタからのエネルギーが絶えずに引き継ぐ感じが第4ソナタの入りのポイント。それを受けて少し冷ますように展開する曲の面白さ。ゆったりとスロットルをコントロールしながら曲の勢いを自在に制御していきます。途中のソロがまた味わい深く、曲の流れに完全に一体となった流れの良さを保ち、見事な弓さばきで絵巻物が進みます。ソロは完全にオーケストラ同じ流れの中でメロディーを置いていきます。これは相当の腕前。
好きな第5ソナタ。非常に控え目なピチカートに鳥肌が立ちます。ピチカートの強さ一つで曲の雰囲気が一変。途中から弦の慟哭のような激しいアクセントも気高く雄大。激しい慟哭はLPならではの溝の転写がわずかに聞こえますが、それもLPの味わいでしょう。再び非常に控え目なピチカートにぞくっとします。一貫してしなやかな展開にこれだけの起伏が織り込まれ、まさに劇的な展開。この曲の表現を極めたと言っていいでしょう。
終盤、第6ソナタは曲想がガラッと変わってもやはり劇的な序奏から入ります。序奏が終わるとお花畑のような幸福感に包まれる優しいメロディー、そして険しい響きが交互に現れ、聴くものに展開の喜びと理解の試練を与えられているよう。ハイドン自身がこの曲に一方ならぬ情熱を注いていたことを思い知らされる素晴らしい音楽の展開。いつもながら凡人の想像力の遥か彼方の閃きが音楽となっていることに打ちのめされます。そして全てを許すような癒しに満ちた音楽に移る絶妙の展開へと続きます。
最後の第7ソナタはクライマックスの火照りの余韻を冷ますような落ち着きを取り戻し、曲を振り返るような郷愁と枯淡の境地の入り混じった雰囲気を感じさせます。7つのソナタの一環した展開の中に、ソナタごとの特徴を絶妙に描き分けてくる非常に多彩な表現力。素晴らしい技術の裏付けがあってのことでしょうが、それを感じさせない自然さを保っているのが素晴らしいところ。
そして、最後の地震はゆったりと落ち着いて、このオケの良いところが全てでた劇的ながら爽やかで、かつアーティスティックなもの。これまで聴いた地震の中でも最もアーティスティック。タイプは違いますがジュリーニの壮年期の演奏のような気品を感じさせる見事さでした。
ハンス・シュタットルマイアと手兵ミュンヘン室内管によるハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」ですが、この曲の管弦楽版の数多の録音の中でも1、2を争う名演奏でした。この爽やかかつ深い音楽の素晴らしさ、そして気品溢れる演奏は表現意欲やテクニックという座標とは全く異なる、ハイドンの音楽への深い愛情と指揮者の人生を通して会得した気品のようなものに裏付けられたもの。LPの溝から音楽というか、魂が浮かび上がってきたような素晴らしい演奏です。調べた限りではCD化されたことはなさそうですが、こうした名演奏が現代でも容易に手に入るようにしていただきたいものですね。見かけたら即ゲットをお勧めします。評価は規定外の[++++++]をつけたいくらいですが、平常心を保ち[+++++]としておきます。
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