作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

エステルハージ・バリトン・トリオのバリトン三重奏曲集(ハイドン)

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LPが続いてスミマセン。ただ、あまりに素晴らしい演奏なのでこのアルバムは取り上げざるを得ません。

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エステルハージ・バリトン三重奏団(Esterházy Baryton Trio)による、ハイドンのバリトン三重奏曲11曲(Hob.XI:85、XI:37、XI:121、XI:71、XI:117、XI:113、XI:97、XI:109、XI:70、XI:96、XI:48)を収めたLP2枚組。収録情報は記されておらずPマークが1977年との記載のみ。レーベルは独EMIのELECTROLA。

このアルバムもディスクユニオンの売り場で発見したもの。バリトントリオのアルバムは見かければ無条件に手に入れていますが、このアルバムの存在は知りませんでした。幸いLPのコンディションも非常に良く、針を落とすといきなりバリトントリオ独特の典雅な世界に引き込まれます。非常に落ち着いた演奏から漂う、バリトンの摩訶不思議な音色に興じます。

収録曲を所有盤リストに登録する段階で気づきましたが、ヴィオラの奏者のみ異なる同名のトリオによるEMIのCDを既に所有しており、そのCDはこのLPの続編として1980年にLPでリリースされたものとわかりました。このアルバムの奏者は次の通り。

バリトン:リッキー・ジェラルディ(Riki Gerardy)
ヴィオラ:チャバ・エルデーイ(Csaba Erdélyi)
チェロ:ジョナサン・ウィリアムス(Jonathan Williams)

リッキー・ジェラルディはチェリストで、ヨーロッパでは名の知れた人。バリトンは独学で習得し、チェロでの無伴奏の演奏同様、バリトンにおいても無伴奏のリサイタルを開くなどバリトンでの演奏技術についても意欲的に取り組んできた人とのこと。チャバ・エルデーイはブダペスト生まれで、メニューヒンに師事しイギリスを代表するヴィオラ奏者。ジョナサン・ウィリアムスはピエール・フルニエに師事し、イギリス室内管の世界ツアーなどにも帯同する他、BBCなどの放送でも活躍している人。それぞれ腕は確かな人のようです。

ちなみに手元にあったEMIのCDの方を聴いてみると、LPとは異なり、典雅なというよりかなりキビキビとした演奏で、奏者だけでなく演奏の雰囲気も少し異なります。また収録曲も今日取り上げるLPの方に有名曲が集中しているため、やはりこちらのLPの方が聴きごたえがあります。ということで、今日は11曲の収録曲の中から録音の多い有名な2曲のみ取り上げます。

Hob.XI:97 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 66?)
バリトントリオを代表する曲。3楽章構成の多い中、この曲だけがアダージョ、アレグロ・ディ・モルト、メヌエット、ポロネーズ、アダージョ、メヌエット、フィナーレの7楽章構成。厳かな入りから実に落ち着き払った演奏。いきなりチェロとヴィオラとバリトンのえも言われぬ不可思議な響きの世界に入ります。時折りポロリと鳴るバリトンの開放弦を爪弾く音がバリトンの存在感を主張しますが、低音楽器3本による音楽はもちろんゆったりとした雰囲気を醸し出します。この落ち着いた雰囲気がバリトントリオの真髄。メロディーは比較的単純で、ニコラウス・エステルハージ候と演奏するためにハイドンが大量にバリトントリオを書いた微笑ましい背景を考えると、テクニックを要さず不思議な響きのアンサンブルと楽しむという目的での完成度は非常に高いものと改めて唸ります。演奏はそうした背景も踏まえた、ストレートにアンサンブルを楽しむ感じがよく出たもの。
2楽章は、少し技巧が上がり、代わる代わる音階の面白さでアンサンブルを組み立てます。バリトンのちょっと潤いに欠けるざらついた音色と素朴なアンンサンブルが地味に曲を盛り上げます。これは演奏したら楽しいでしょうね。めくるめく音階の繰り返し。
続くメヌエットは、クァルテットのメヌエット同様、ハイドンの創意の素晴らしさが光りますが、楽器のバランスがクァルテットとは異なることで、曲の雰囲気も変わります。舞曲らしいリズムを楽しんでいるうちに、突然バリトンの開放弦の不可思議な響きが加わりハッとさせられます。これまでに聴いた録音の中でも最もバリトンが雄弁な演奏ですね。
続くポロネーズはかなり大胆にリズムを刻みます。ユニゾンでグイグイメロディーを引っ張りますが、この辺りのハイドンのアンサンブル構成も見事。
そして、ぐっと暗く沈むアダージョ。いつもながらこのハイドン独特の展開の面白さは絶品。このような曲であっても、音楽の展開の切れ味は手抜きなし。曲が進むにつれ、聴いている方も唸りっぱなし。特にこのエステルハージ・バリトン三重奏団の演奏も、曲を鮮やかに展開させるので、曲の面白さが思い切り引き立ちます。
短いメヌエットを挟んでフーガによるフィナーレに入りますが、ザクザクとダイレクトに響く各パートの織りなすアンサンブルの面白いことと言ったらありません。これは名演ですね。

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Hob.XI:109 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [C] (before 1778, 72-78)
こちらはアダージョ、アレグロ、メヌエットの3楽章構成。郷愁を帯びた中世のころのようなメロディーを静かに奏でる入り。一つ一つのフレーズを実に丁寧に演奏していくことで、ハイドンの書いたメロディーがしっとりと響きます。1楽章のしっとり感を拭うように、2楽章はリズムの角を立てて各楽器がせめぎ合いながら音を重ねていきます。似た音域ながら、楽器それぞれの響きの違いがあり、その違いを生かして曲が書かれているのがわかり、流石のハイドン、玄人好みとはこのこと。それぞれの楽器の高音域の響きの違いにスポットライトが当たります。
そして、曲の最後に置かれたメヌエットは、曲間にある時に増して存在感が際立ちます。アンサンブルが単純なだけにリズムのキレの効果はてき面。弾む曲想に、独特の雰囲気の中間部、再びの弾むメヌエットで曲を閉じますが、見事に締まった感じがするのが流石です。こりゃ面白い。

エステルハージ・バリトン三重奏団による、ハイドンのバリトントリオ11曲を収めたLPですが、直接音重視の時代にしては超鮮明な録音によって3台の楽器が目の前で鳴り響く絶好の定位感。これまでに聴いたバリトントリオの録音の中でもバリトンという楽器が鮮明に響く演奏であり、しかも落ち着き払った堅実な演奏によって、曲自体の面白さも際立つ名演奏と言っていいでしょう。針を落として聴き始めるとグイグイと引き込まれる演奏です。不思議と同じアンサンブルによる別の曲のCDとは聴かせどころが異なり、こちらの方が数段面白いですね。評価は今日取り上げなかった曲も含めて全曲[+++++]としました。CD化に耐えるマーケットはないでしょうから、せめてデジタル音源などで残してほしいものです。そういう意味でこれは貴重なLPですね。

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2 Comments

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小鳥遊

このレコード、CDとは別録音だったのですか。
一度、LPの方も引っ張り出して聴いてみないたいけないですね。
しかし、コアなハイドン・ファンは、皆さんバリトン好きですねぇ~(笑)

Daisy

Re: タイトルなし

小鳥遊さん、お仕事ご苦労様です。

こういうマニアックなLPに反応するだけでも、小鳥遊さんもコア過ぎます(笑)
バリトン・トリオはハイドンの作品の中でも、秘境中の秘境、アマゾンでいえば一般人は決して足を踏み入れない源流地帯のようなもので、そこに秘境があるからこそ乗り込む動機が生まれるというものです。
CDよりも、より踏み込んだ演奏が聴かれるということで取り上げた次第。ご感想もお待ちしています!

  • 2017/02/07 (Tue) 21:41
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