作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ダグラス・ボストック/ボヘミア室内管の帝国、ラ・ロクスラーヌ(ハイドン)

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本日は最近手に入れて感心したアルバム。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ダグラス・ボストック(Douglas Bostock)指揮のボヘミア室内フィル(Chamber Philharmonic of Bohemia)の演奏で、ハイドンの交響曲53番「帝国」、63番「ラ・ロクスラーヌ」の2曲を収めたアルバム。収録は1999年、チェコのブラハの東のパルドヴィツェ(Paldubice)でのセッション録音。レーベルはCLASSICO原盤で手元にあるのはScandinavian Classicsという廉価盤然としたもの。

このアルバム、ただハイドン中期の交響曲2曲を収めたというだけでなく、帝国の方は4種のフィナーレ、ラ・ロクスラーヌの方は2種のメヌエットとフィナーレの演奏が収められており、原盤の方には世界初録音との記載がされています。

そもそもこのアルバムを手に入れたのは、同じ演奏者による交響曲88番、89番などを収めたアルバムを最近入手して、なかなかの出来だったため。指揮者もオケも未知の奏者でしたが、交響曲の他に「アチデとガラテア」序曲、「薬剤師」序曲、「突然の出会い」序曲などが盛り込まれ、アルバムの造り自体にハイドンの曲へのこだわりが感じられ、また、演奏の方も正攻法にきっちりオケを鳴らし、見事な吹き上がりが聴かれました。これはいいということで、こちらのアルバムもすぐに取り寄せたもの。聴いてみると、今日取り上げるアルバムの方がさらにいいということで記事にすることにした次第です。

指揮者のダグラス・ボストックですが、1955年イングランド北西部のチェシャー州ノースウィック(Northwich)生まれの指揮者。シェフィールド大学を出て、ロンドンでサー・エイドリアン・ボールトに師事。1980年より南西ドイツ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者、1991年より1998年までカルロヴィ・ヴァリ交響楽団の音楽監督・首席指揮者、1992年にはチェコ室内フィルハーモニックの首席客演指揮者となり、1997年よりミュンヘン交響楽団の常任指揮者を務めました、彼のウェブサイトのディスコグラフィーを見ると、今日取り上げるアルバムのオケはチェコ室内フィルと表記されているので、現在はそう呼ばれているのでしょう。日本にもゆかりがあり、2000年東京佼成ウインドオーケストラの常任指揮者、2006年より2011年6月まで東京佼成ウインドオーケストラの首席客演指揮者を務めた他、2012年4月より東京藝術大学音楽学部招聘教授とのことです。

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なんとなくハイドンに拘りがありそうな選曲のアルバムを2枚リリースしているボストックですが、ウェブサイトを見るとこれまでかなりの数のアルバムがリリースされており、しかもマイナー系の作曲家のアルバムが多く、ハイドンも普通は選ばない曲を持ってきており、なんだか拘りがありそうな人ですね。

ちなみに、帝国の4種のフィナーレについてと、ラ・ロクスラーヌの2種のメヌエットとフィナーレについては、よくコメントをいただくHaydn2009さんのウェブサイトに詳しい解説があるのでそちらをご覧ください。

ハイドン作品辞典:交響曲(4)
ハイドン作品辞典:交響曲(5)

このサイト、ハイドンの作品についての情報が網羅的に記されており、非常に役立ちます!

Hob.I:53 Symphony No.53 "L'Imperiale" 「帝国」 [D] (1778/9?)
実に気持ちよくオケが鳴り響きます。88番の方のアルバムは響きがちょっと痩せていたのですが、こちらは豊穣。正攻法でオケがくっきりとメロディーを奏でていきます。メロディーに対してアクセントをかなりしっかりとつけているんですが、適度な範囲を保っているのでくどい感じは皆無。これほど気持ちよく響くオケの録音は滅多にありません。ストレスなくキリリと吹き上がるアクセントの快感。管弦楽の真の魅力は実はこうしたところにあると気づかされるような演奏。抜群のリズム感で曲がクイクイ進み、絶えることなく響きのシャワーが心地よく降り注ぎます。曲に合わせてタクトを振りたくなりますね。響きの快感一本に焦点を絞ったボストックの見事な手腕。この時期のハイドンの曲の理想的な演奏でしょう。
アンダンテもハープシコードの繊細な響きを纏いながらリズミカルな演奏が続きます。純粋無垢な響き自体がいかに素晴らしいかを思い知らされます。ふとした転調の瞬間の美しさが際立ち、テンポの一貫性がかえって情感を煽ります。淡々とした曲のさりげない表情の美しさに昇天。こりゃ絶品です。
予想通り、メヌエットはボストックの良いところが一番活きるところ。メヌエットのリズムがこれだけ弾む演奏はそれほどありません。アンダンテではテンポを動かさず颯爽とした魅力で聴かせたんですが、メヌエットではフレーズごとにリズムを変え、曲想の面白さを強調します。なかなか見事なコントロール。
そして問題の4種のフィナーレですが、A、B、C、Dと順に収録されてます。AとBはハイドンの作とされており、Cはハイドンの作ではなく、Dは序曲の転用とのこと。Aが一番馴染むのはもちろん、Bは交響曲62番のフィナーレに転用されていますの聴き覚えがあります。Cは明らかにハイドンから格が落ちるので私でもハイドン作とは思えません。Dは序曲(Hob.Ia:4)の転用です。この4種の演奏とも、演奏はキレの良いものですが、とりわけAとBの充実度は素晴らしいものがあります。

Hob.I:63 Symphony No.63 "La Roxelane" 「ラ・ロクスラーヌ」 [C] (before 1781)
1楽章は歌劇「月の世界」の序曲の改作。ボストックのリズムのキレの良さは一貫していて、この曲でもオケの響きの快楽に包まれる見事な入り。この異次元のキレの良さこそがハイドンの曲が映えるポイントとの確信に満ちているよう。聴いているこちらが身を乗り出してかぶりつきで聴き入ります。
そして、この曲でも2楽章のアレグレットは一貫して速めのテンポで描いていきます。筆のタッチは一貫していながらパレットの色数が多いので実に繊細で深いニュアンスが伴います。この楽章は木管楽器が大活躍。リズムのキレは木管も同様、ボストックのコントロールが行き渡ってます。
そしてAパターンのメヌエットとフィナーレが続きますが、メヌエットの充実ぶりは前曲同様で、スカッと気持ちよくオケが反応します。この曲自体が色々な曲のつぎはぎで出来ているとのことで、ハイドン特有の緊密さは少し不足するものの、曲が展開するアイデアは相変わらず常人の想像を超えたレベルにあります。
Bパターンもメヌエットは見事。こうしてヴァージョンの違いに耳が行ってしまうのは、このアルバムの素晴らしい演奏を考えるとちょっと損かもしれませんね。ただ、マイナーなレパートリーに執着のあるボストックのことですから、本人的には必然性があったのでしょう。最後はちょっと色々聴き比べることに集中出来なくなり聴き終えましたが、演奏は前曲同様素晴らしいもの。できれば聴く時はヴァージョンを決めて他のヴァージョンをスキップした方が音楽に集中できるかもしれませんね。

ダグラス・ボストック指揮のボヘミア室内フィルの演奏によるハイドン中期の交響曲2曲を収めたアルバム。演奏は触れたとおり、オケの気持ち良い響きを存分に味わえる素晴らしいもの。おまけで両曲の異なるヴァージョンが収録されていますが、それに惑わされることなく、このキレの良い演奏を存分に楽しむべきアルバムですね。ハイドンの交響曲の中では地味な選曲ですが、その曲がこれだけ鮮やかに演奏されることで、真価を再認識できる素晴らしいアルバムです。評価は両曲とも[+++++]とします。

ボストックは2012年から藝大の先生ということで、生徒の方々もこれだけのハイドンを振る人との認識はないかもしれませんが、オケを鳴らすことにかけては才能溢れる人です。他の曲の録音も期待したいところですね。

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2 Comments

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Haydn2009

No title

Daisyさん こんばんわ。

ブログのご紹介をありがとうございます。

そのブログをまとめた、ただいま製作中のハイドン作品辞典の書籍版は、間もなく完成です。

  • 2017/01/31 (Tue) 21:42
  • REPLY

Daisy

Re: No title

Haydn2009さん、コメント遅くなってすみません!

いやいや、労作のようで、モーツァルトなどに比べると情報量が圧倒的に少ないハイドン関係の情報としては非常に貴重なものに違いありません。ブログの方も最近存在を知り、よく参照させていただいております!

  • 2017/02/02 (Thu) 21:59
  • REPLY