作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】ジョン・オコーナーのピアノソナタ集(ハイドン)

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今日はピアノの美しい響きをとことん味わえるアルバム。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ジョン・オコーナー(John O'Conor)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ5曲(Hob.XVI:32、XVI:23、XVI:46、XVI:20、XVI:23)を収めたアルバム。収録は2016年8月29日、ニューヨークのスタインウェイホールでのセッション録音。レーベルはピアノで有名なSTEINWAY & SONS。

最近リリースされたアルバムをチェックしていて、何気なく手に入れたアルバムですが、ピアノメーカーのスタインウェイが自らリリースしているアルバムということで、ちょっと気になる存在でした。世界中の一流のピアニストに弾かれる楽器ゆえ、多くのピアニストの中から、スタインウェイの美音を最も美しく響かせる演奏に違いないとの想像力も働きます。

ピアニストのジョン・オコーナーは1947年、アイルランドのダブリン生まれのピアニストで教育者。ダブリンのベルヴェデーレ・カレッジでピアノを学んだ後、オーストリア政府の奨学金でウィーンに留学、ディーター・ウェーバーの元で学びました。その間、ケンプにベートーヴェンの演奏の教えを受け、1973年にウィーンで開催された国際ベートーヴェンピアノコンクールで優勝、1975年にはベーゼンドルファーコンクールで優勝し、世界に知られるようになったとのこと。今回アルバムをリリースしているスタインウェイとはライバル関係にあるベーゼンドルファーのコンクールで優勝しているのも何かの因果でしょうか(笑)

これまでにリリースされているアルバムを調べてみると、TELARKレーベルからベートーヴェンのピアノソナタ全集、協奏曲全集、モーツァルトの協奏曲全集などがリリースされており、やはりベートーヴェンを得意としているようですね。

ということで、早速聴いてみます。

Hob.XVI:32 Piano Sonata No.47 [b] (1776 or before)
流石に最新の録音だけあってピアノの臨場感は素晴らしいものがあります。自然な響きと鍵盤の重みが伝わってくるような録音。このところエイナフ・ヤルデンやツィモン・バルト、デニス・コジュヒンなど、ハイドンの機知をアーティスティックに表現したピアノを聴いてきましたが、このジョン・オコーナーは実にオーソドックスで変な自己顕示欲は皆無。淡々とハイドンの書いた音楽をピアノに乗せていく感じの演奏で、安心して演奏を楽しむことができます。オコーナー自身もリラックスして演奏を楽しんでいる感じ。かといってオルベルツほど枯れてもおらず、程よくバランスのとれた演奏。先生が楽しげに見本で演奏しているような感じ。この「楽しげに」というのが大事なところ。タッチが精緻を極めるわけでもなく、このすっかりリラックスしてストイックさとは無縁の表情がハイドンの面白さを引き立てるわけです。

Hob.XVI:23 Piano Sonata No.38 [F] (1773)
軽いタッチで入る曲。まるで朝飯前だとでも言いだしそうなカジュアルな入り。これが曲想にピタリ。よく聴くと一音一音が磨かれていて、流石にピアノの音色は絶品です。1楽章は流れるように一貫して軽めにサカサカ弾き進めていくのが乙なところ。
素晴らしいのが続くアダージョ。軽さを保ちながらも、ぐいぐい響きが深く変化して行きます。デリケートな表情の変化に引き込まれます。音の長さを絶妙にコントロールして曲の一貫性を保ちながら表情を変えていく表現が素晴らしい。
そして軽いフィナーレ。同じ軽さでもわずかな曇りを帯びさせて曲想に合わせているのがわかります。ピアノの響きをリアルに伝える録音だからこそ、こうしたデリケートな変化を味わえます。

Hob.XVI:46 Piano Sonata No.31 [A flat] (1767/70)
同じく軽くくるのかと思いきや、実に滑らかしっとりとした表情にハッとさせられます。ピアノの響きの表情の変化を実に巧みに表現してくる、さすがスタインウェイという演奏。ふとしたフレーズの切り替えのアクセントの一音の変化で響きが実に新鮮に聴こえます。こうしたところを控え目にさりげなく挟んでくるのが流石なところ。静寂の中に浮かび上がるハイドンのメロディーの美しさが際立ちます。徐々にタッチがチョコがとろけるように流れ出したり、千変万化するオコーナーのタッチに聴き惚れます。この曲からこれまで聴いたことのないような多彩な響きがあふれ出します。
前曲同様、アダージョの美しさは絶品。とりわけピアノの響きの美しさは鳥肌もの。凜と澄んだ夜空に浮かぶ天の川を眺めるよう。細かい星雲に無数の表情が宿り、美しい音楽が心に刺さります。
対比のためにあえて繊細さを避けるようにグイグイとくるフィナーレで曲を引き締めます。

Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
好きな曲。入りは意外に少し重め。この短調の入りを厳かなコントラストで強調しようということでしょう。もちろんふと力を抜いたり、さりげないアクセントで曲の変化の面白さを炙り出してくるところはこれまで同様。力の抜き際のタッチの鮮やかさが徐々に印象的になり、曲にグイグイ引き込まれて行きます。最初の重さから徐々にキレてくる絶妙な演出。聴き進むうちにオコーナーの意図がなんとなくわかってきました。
ハイドンのソナタの緩徐楽章の中でも一二を争う美しい楽章。期待どおり、あまりの美しさに言葉になりません。この詩情あふれる楽章がオコーナーの手にかかると、美しさも極まり、一音一音が宝石のごとく輝きます。ピアノという楽器の素晴らしさを思い知らされる感じ。
フィナーレはアンダンテの余韻をすっと断ち切り、気配を一瞬にして変えるマジックのよう。全く異なる音楽の魅力を突合させるハイドンのアイデアとそれを鮮やかに演出するオコーナーの技にやられました。

Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
最後の曲は唯一晩年の曲。最後は余裕たっぷりに有名曲の演奏を楽しむスタンス。自分の指から繰り出される多彩な響きを自ら楽しんでいるよう。ピアノの余韻が消え入る美しさを存分に味わえます。聴き進むうちに後年の作曲であるアンダンテと変奏曲を先取りするような曲想を感じさせる大きな構えの音楽であることに気づきます。
そして、絶妙な軽さのタッチでのロンド。このタッチの変化の幅の大きさと自然さがオコーナーの魅力でしょう。重さも軽さも自在に使い分けながらピアノという楽器の表現の幅を生かしきった演奏。ハイドンだけにダイナミクスの表現の幅は上品な範囲でこなしていくところが良識的です。最後はカッチリとした響きで締めました。

ベテランピアニスト、ジョン・オコーナーによるハイドンのソナタ集。最初はオーソドックスな演奏かと思いきや、これは深い演奏です。途中で触れたように、最近聴いたエイナフ・ヤルデンやツィモン・バルト、デニス・コジュヒンなどハイドンの曲に潜む機知をアーティスティックに表現した演奏とは表現の方向が異なり、自然な美しさの範囲での表現ですが、円熟の技がもたらすその美しさはかなりのもの。ピアノメーカーであるスタインウェイがリリースするアルバムだけあって、ピアノという楽器がもつ響きの美しさを存分に活かした演奏となりました。これはこれで素晴らしいもの。非常に気に入りました。XVI:20も良かったんですが、その前のXVI:46は、この曲の素晴らしさを改めて知ることになった秀演です。もちろん評価は全曲[+++++]とします。

これほど美しい音色ゆえ、できればSACDでリリースすべきでしょうね。

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2 Comments

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SkunJP

オコーナーお爺さんの1/fゆらぎ

おお…!来ましたね、ピアノ。

さっそくNMLで聴きました。聴き始めてわずか1分でamazonをポチリ。

…すごい演奏ですよ、これは!


この方(オコーナー)、名前だけは知っていましたが、まさかこれほどの人だったとは!

全体の印象はDaisyさんがお書きの通りです。

「オーソドックスな演奏かと思いきや、これは深い演奏」

私が気がついたことは、彼のつむぎだす音楽には何とも言えない心地よい「ゆらぎ」があること。

今まで聞き慣れた同じ曲なのに、何気なく聴き過ごしていたような箇所のそこここに幾重もの変化と味わいがあります。

ふっと力を抜き、たゆたい、いつくもの波紋が起こる湖の面のように音楽は「ゆらぎ」に満ちて進行します。

いわゆる、1/fゆらぎ、ですね。

人の心拍の間隔や、ろうそくの炎の揺れ、小川のせせらぎ、木漏れ日、蛍の光り方、等々、それはとても気持ちよいゆらぎです。

打鍵はベテランらしく8分くらいの力で余裕たっぷり。しかし鍵盤の底までしっかりと打鍵され、ピアノの音の粒が非常に磨かれて美しいです。

まさに正統派で洗練されていますが、ルーティンなところは微塵もなく、新鮮な音楽が繰り広げられます。

御歳70歳に迫ろうとしているピアニストゆえか、速い音符がメカニック的に完璧とは言えない箇所もあります。

でも何か、それもホッとする味わい深さ、「ゆらぎ」として感じ取れて、不注意な聴き手には欠点に聞こえる部分でさえ、この上ない深い味わいに転嫁されています。

Daisyさんの仰るとおり、この「深さ」はいったい何でしょう。

この人、ただ者ではありませんよ!絶対。

例えば、47番ロ短調の3楽章です。これを機関銃のように、あるいはミシンのようにやられるよりも、オコーナーの演奏はずっと人間的で、心の綾が自然に織りなされているようで、とても好ましいです。

これはエイナフ・ヤルデンやツィモン・バルト、デニス・コジュヒンと傾向こそ違いますが肩を並べる名演ですね。即、買い!でしょう。

またまた超素晴らしいCDを紹介していただきました。

有り難うございます!

※バルトが届きましたよ。軽いカルチャーショックを受けております(笑)またいつかコメントするかも、です。

  • 2016/12/09 (Fri) 10:58
  • REPLY

Daisy

Re: オコーナーお爺さんの1/fゆらぎ

SkunJPさん、いつもながらお世話になります。(JP大文字になったんですね!)

いつもながら秀逸な例え、1/fゆらぎとは、、、私は1/fゆらぎと聞くとそれをキャッチコピーにしていた扇風機を思い出します。発想が貧困でスミマセン(笑)

そう言われて聴くと、確かにオコーナーのタッチには心地よいゆらぎがありますね。これは老練のなせる技でしょうか。思い返してみると、クラウディオ・アラウの晩年のバッハなどでも似たようなゆらぎの魅力を感じたことがありますが、オコーナーの方がくっきりとした核があり、ハイドンに合っていますね。知る人ぞ知る地味な存在ですが、確かに只者ではありませんね。

このアルバムの初期から晩年までのソナタからの選曲を考えると、もう1、2枚ソナタのアルバムが出てもおかしくない感じですので、続編を期待することにいたしましょう。

(追伸)
バルトのカルチャーショックコメントお待ちしています!

  • 2016/12/10 (Sat) 19:58
  • REPLY