ファイン・アーツ四重奏団のOp.64(ハイドン)

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ファイン・アーツ四重奏団(Fine Arts Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.64のNo.1からNo.6、Op.2のNo.5、No.6、Op.1のNo.0の9曲を収めた3枚組のLP。収録情報は記載されていませんが、奏者のウェブサイトには1972年?との情報が記載されています。レーベルは米VOX。今日はこの中からOp.64を取り上げます。
このLPは先日オークションで手に入れたもの。ファイン・アーツ四重奏団の素晴らしさは、以前取り上げた記事で触れておりますので、是が非にでもということで落札したもの。
2013/10/05 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団のOp.74
2012/05/07 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団の「ひばり」
2011/01/04 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ファイン・アーツ四重奏団のOp.77(ハイドン)
Fine Arts Quartet
ファイン・アーツ四重奏団はメンバーを変えながらも現在でも活動しており、彼らのウェブサイトのディスコグラフィーには過去の演奏の一覧が載っています。この演奏当時のメンバーは先に取り上げたOp.74と同じく以下のとおり。
第1ヴァイオリン:レオナルド・ゾルキン(Leonard Sorkin)
第2ヴァイオリン:アブラム・ロフト(Abram Loft)
ヴィオラ:ベルナルド・ザスラフ(Bernard Zaslav)
チェロ:ジョージ・ソプキン(George Sopkin)
到着してみると、盤のコンディションは上々。このVOXのシリーズはちょっと前に取り上げたデカニー四重奏団のものも非常にいい音だったので不安はありませんでしがが、針を落としてみるとあまりの素晴らしい響きに鳥肌が立ちそうなほど。いきなり絶品の予感です。
Hob.III:65 String Quartet Op.64 No.1 [C] (1790)
非常に広い空間に4本の楽器が鮮明に定位し、木質系の美しい響きを聴かせる見事な録音。クァルテットの録音としては最上と言っていいでしょう。この雰囲気はCDでは味わえないんですね。Op.74の演奏に非常に近い演奏。ゆったりと音楽を慈しむように演奏していきます。適度な音程の揺れが味わい深さを感じさせます。朴訥ですらあるこの雰囲気の中にハイドンの音楽の魅力が詰まっています。精度抜群の演奏や火花散るような演奏とは全く異なる音楽の魅力。身近な人が演奏しているような温もりを感じます。1楽章から楽章間の対比はほとんどつけず、適度な躍動感を伴いながら淡々と進めます。ことさら素晴らしいのが3楽章。リズムが適度に弾みながら質実さを保った気高さがあります。フィナーレも力が抜けたいい演奏。
Hob.III:68 String Quartet Op.64 No.2 [b] (1790)
短調から入る独特の曲想をファイン・アーツ流にゆったりと奏でていきます。途中のピチカートの音がやけにリアルに響き、またユニークな展開部をさもユニークにトレースしていくところがハイドンを深く理解しているこのクァルテットならではの至芸。ヴァイオリンの味わい深いボウイングでメロディーラインがしなやかに響きわたります。2楽章では各パートの響きが独立していながらも溶け合う様子が見事。チェロが今まで以上にクッキリとした音色を聴かせます。決して精度が高い演奏ではないんですが、不思議に味わい深いアンサンブルで、不揃いなところがむしろ美点となっているのが不思議なところ。メヌエットでは中間部に伸び伸びとしたヴァイオリンによるメロディーを持ってきたのが新鮮。レオナルド・ゾルキンの美音が轟きます。そしてフィナーレはメロディーが奇想天外に展開する実に興味深い曲。高望みせず、味わい深さこそが聴かせどころとの確信に満ちた演奏でした。
Hob.III:67 String Quartet Op.64 No.3 [B flat] (1790)
行進曲風のリズミカルな入り。相変わらず録音は素晴らしく、眼前の空間にクァルテットがはっきりと定位します。弓が弦をこする振動が直接伝わって来るようなリアルさ。パート間のメロディーの受け渡しの面白さが際立つ曲。そしてこの曲の白眉は香り立つような芳しいメロディーのアダージョ。古典派の枠から一歩踏み出したかのようなロマンティックな音楽。ファイン・アーツの演奏で聴くとまるでセザンヌの静物画を見るように、音楽を大きな目で捉えて、太い筆でグイグイとヴォリューム感を出して描いていく感じ。この曲でもメヌエットはほのかに躍動するのみでも、味わい深さが滲み出てきます。1曲1曲の展開の面白さの縮図のようなフィナーレ。フィナーレになるとピシッとアンサンブルの精度が上がるのが音楽に応じて集中度を変えている証拠。なぜか引き込まれます。
Hob.III:66 String Quartet Op.64 No.4 [G] (1790)
非常に楽天的な曲想の曲。サクサク憂いなく弾き進めていくかと思いきや、さっと陰りを見せ、またまたサクサクと自在な演奏。表現意欲のレベルでそうした演奏をしているのではなく、まるで練習でもしているような屈託のなさを伴いながらの表現ということで、このあたりがこのクァルテットの特徴なのかもしれません。アルバム全編にそういった直裁な雰囲気が宿っています。この曲は2楽章がメヌエットで、メロディーと戯れるように自在にテンポを変えながらの舞曲。自在さは続くアダージョにも残り、他の曲よりも躍動感がアップします。フィナーレでも流れの良さが耳に残る鮮やかなアンサンブルを聴かせます。
Hob.III:63 String Quartet Op.64 No.5 "Lerchenquartetett" 「ひばり」 [D] (1790)
以前も取り上げたひばりですが、以前の演奏は1986年とかなり後の録音でメンバーも4人とも異なります。冒頭からレオナルド・ゾルキンのヴァイオリンの味わい深い響きがリードする聴き慣れた入りの展開。有名曲だけにいい演奏も多い曲ですが、このさりげなくも味わい深いファイン・アーツの演奏は、この曲の演奏として実に説得力のあるもの。磨き抜かれた秀演よりも、素朴な味わいを醸し出す方がこの曲にふさわしいと思わせてしまいます。自宅の庭にひばりがきた喜びを演奏しているような親近感。
2楽章のアダージョ・カンタービレではここまでで一番攻め込んだ演奏。曲が進むに連れて、これまでの素朴さを吹き払うように集中してタイトな展開となり、見違えるように引き締まったアンサンブルを聴かせます。
メヌエットもこれまでの曲と集中力が違い、これまた引き締まったアンサンブルとなります。そして早送りのようなフィナーレでも集中力は途切れず、このアルバム中最もタイトな演奏となります。
Hob.III:64 String Quartet Op.64 No.6 [E flat] (1790)
前曲の集中を癒すように穏やかな入りにホッと一息。テンションのコントールもなかなか巧みで、この曲では穏やかな音楽が流れます。微妙な調性の変化と暖かな響きのコントラストが曲に深みを与えます。虚心坦懐なファイン・アーツの演奏が映え、曲そのものの魅力が輝きます。アンダンテも同様、穏やかな表情に柔らかなコントラストが加わる絶妙の表情。メヌエットはハイドンらしいユーモアが詰まったもの。ヴァイオリンの高音の隈取りが爽やかさを加えます。さりげなくサクサク進める展開がこの楽章の面白さをきわだ立たせます。そしてフィナーレもハイドンらしいユーモラスなテーマが様々に展開、交錯する期待通りのもの。作為のないアンサンブルの面白さを存分に楽しませてもらいました。
タイミングよく手に入れたファイン・アーツ四重奏団のLP。この演奏よりも精度の高い演奏、緊張感溢れる演奏はあるんですが、この演奏よりもハイドンの音楽を味わい深く表現したアルバムはそうありません。アンサンブルもあえて粗めで、音程が揺らぐとこもありながら、これぞハイドンのクァルテットの演奏の流儀だとの揺るぎないスタイルを身につけた歴史あるクァルテットだけに、説得力は十分。クァルテットに何を求めるかは色々あるかと思いますが、私は非常に気に入りました。のんびりしたいときに旨い酒でも飲みながら、ゆったり楽しみたいアルバムという感じですね。LPは素晴らしい音を奏でてくれますが、もちろん入手は容易ではありません。幸いmp3で聴くことは可能ですので、興味のある方は聴いてみてください。評価は全曲[+++++]とします。
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