作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第3巻(ハイドン)

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いよいよ第3巻まで来ました。

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TOWER RECORDS / amazon / ローチケHMVicon

ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコの演奏で、ハイドンの交響曲42番、「無人島」序曲、交響曲64番「時の移ろい」、コンサートアリア「ひとり物思いに沈み」(Hob.XXIVb:20)、交響曲4番の5曲を収めたアルバム。収録は2015年11月18日から22日にかけて、ベルリンのテルデックス・スタジオでのセッション録音。レーベルはouthere MUSICグループのALPHA-CLASSICS。

このアルバムはご存知の通り、ジョヴァンニ・アントニーニ率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドン交響曲全集の第3弾。このシリーズについては、膨大なハイドンの交響曲全集への挑戦ということで前2作もレビューに取り上げています。

2015/06/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)
2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

シリーズの企画についてや、演奏者については第1巻の記事をご参照ください。このシリーズ、いつも丁寧な日本語解説をつけて販売しているマーキュリーから国内盤がリリースされていて、いつもはそちらを手に入れるのですが、今回のアルバムはamazonで見かけてポチった際、あまり考えずに注文したため、輸入盤の方を入手してしまいました。

このシリーズ、ジャケットやアルバムの造りは非常に手が込んでいて、レーベルのこのシリーズにかける意欲が伝わって来ます。膨大なハイドンの交響曲全曲をハイドンの生誕300年のアニヴァーサリーイヤーである2032年までかけてリリースするという壮大な計画ゆえ、商業的に成り立つには演奏の出来が非常に重要です。レビューに書いた通り、第1巻はアントニーニの躍動感と全集を見据えた冷静さのバランスのとれた名演奏でしたが、第2巻はちょっと力みが感じられ、今後に不安を残しました。そしてこの第3巻ということで、今後を占う重要なリリースとなるわけです。

ということで期待の第3巻を聴いてみましょう。

Hob.I:42 Symphony No.42 [D] (1771)
シュトルム・ウント・ドラング期の交響曲。冒頭から俊敏な古楽器オケが躍動しますが、力む感じはなく、オケが一番キレた音を聴かせる範囲での演奏。やはり全集を見据えての落ち着きのようなものが感じられます。もちろんアントニーニらしいうねるような躍動感は健在ですので、いいバランス。古楽器らしいタイトな響きと凝縮したエネルギーを保った良い演奏。全集としては理想的な演奏に聴こえます。
1楽章のエネルギーを癒すように、極めて自然な2楽章の入り。このあたりの絶妙なセンスは流石です。聴きなれた2楽章のメロディーがすっと耳に入って来ます。作為を避けた虚心坦懐な演奏。仄暗いこの時期のハイドンの音楽の魅力が滲み出します。静寂に吸い込まれるような弱音のコントロールが見事。
メヌエットは鮮やかな弦楽器のキレが聴きどころ。ここでも弱音をしっかり抑えることで音楽にくっきりと陰影がつきます。アントニーニのコントロールが行き渡った素晴らしい精度。
間をおかずフィナーレに入りますが、このあたりの曲間のセンスは前記通り素晴らしいものがあります。ざわめくような絶妙の感覚。聴く方も聴覚を研ぎ澄ませて構えます。いつもながらフィナーレに仕込んだハイドンのアイデアのキレの良さを確認しながら聴きます。ブレーズごとに千変万化する音楽をアントニーニが完璧に汲み取り、アイデアのおもちゃ箱のように仕上げて来ます。第3巻の最初の曲はこれまで最高の出来と言っていいでしょう。

Hob.XXVIII:9 "L'isola disabitata" 「無人島」 (1779)
オペラの序曲を挟んで来ました。シュトルム・ウント・ドラング期の少し後の曲。序奏はぐっとテンポを落として深く沈みますが、主題に入るとエネルギー爆発。ここでも力みはなく、吹っ切れた開放感に満ちた演奏。ほんのわずかの違いですがこれが大きいんですね。この曲はアントニーニのいいところが非常によく出ています。次々に襲い来る打撃を見事にオケをコントロールしてエネルギーの波としてこなします。やはり抑えた部分をしっかりコントロール出来ているからこそのこの躍動感でしょう。見事。

Hob.I:64 Symphony No.64 "Tempora mutantur" 「時の移ろい」 [A] (before 1778)
この曲は告別同様シュトルム・ウント・ドラング期最盛期の作曲と分類されています。アントニーニはこの巻では非常に落ち着いていて、クライマックス以外の部分ではかなり冷静に音楽を制御しています。この曲の1楽章でも、時折キレの良いアクセントでアントニーニらしさを主張しますが、使いどころが適切なのでゴリ押し感は皆無。第3巻になってハイドンの音楽の真髄に近づいたのでしょう。さりげない部分の表現も非常に上手く、これまでの古楽器の演奏ではもっとも自然な表情豊かさを感じます。古楽器による演奏での決定盤を感じさせるオーラに包まれています。
42番同様、静寂からすっと入る絶妙な2楽章の入り。この楽章はアントニーニの抑えた表現が冴え渡って素晴らしい展開。静寂の中にそっと流れる厳かな音楽。そしてこの曲がこれほどまでに聴きごたえがあったのかと再認識。
メヌエットは鮮やかなキレの良さで聴かせるのは変わらず。しかも軽さを伴った見事なキレ。古楽器ならでは妙技と唸ります。
そしてフィナーレも穏やかな表情から湧き上がるエネルギーのスロットルコントロールが見事。途中からスイッチが入り、アントニーニ特有の炸裂感を楽しみます。ハイドンの交響曲の面白さが詰まった名演奏と言っていいでしょう。ここまでべた褒めですが、いいものはいいんですね。

Hob.XXIVb:20 Aria da "Il canzoniere" di Francesco Petrarca "Solo e Pensoso" 「ひとり物思いに沈み」 [E flat] (1798)
1798年と少し年代が降ったコンサート用アリアを挟んで来ました。ソプラノはフランチェスカ・アスプロモンテ(Francesca Aspromonte)という人。1991年生まれの若手。ザルツブルクのモーツァルテウム、ローマのセチェチーリア国立アカデミーのレナータ・スコットオペラスタジオなどで学んだ人。非常に透明感のある軽やかな歌声が素晴らしい人ですね。
しっとりとしながらも劇的な伴奏に乗って、透き通るような美声が轟きます。以前聴いた中ではヌリア・リアルに似た声質ですね。古楽器に合う声でしょう。アントニーニはこのアリアでも抑制が効いたコントロールでオケを制御。途中からオケにぐっと力が漲り、アントニーニの面目躍如。アスプロモンテも難しい高音の聴かせどころを難なくこなして実力のほどを見せつけます。交響曲の合間に歌曲が置かれるのも粋な選曲。

Hob.I:4 Symphony No.4 [D] (before 1762)
最後は初期の交響曲。冒頭からはち切れんばかりのエネルギー。この曲をアルバムの最後に持って来た理由がわかります。初期の小交響曲ですが、迫力満点。そしてアントニーニの振るこのオケのテンションの高さがもっともよく伝わる演奏。アクセントとメロディーの流れのバランスが良く、力みは感じません。ファイの演奏も似たキレキレの演奏ながら、ファイがフレーズ毎に創意を凝らして、即興的面白さを聴かせるの似たしアントニーニは周到に演奏プランを練ったキレという感じ。キレそのものを聴かせるアーノンクールとも異なる音楽的完成度を感じます。この1楽章はキレまくってますね。
極度に音量を落としたアンダンテが1楽章の鮮やかさを引き立てます。日向から暗い室内に入り、暗闇の中の微妙な濃淡に目が慣れて来てうっすらとフォルムを見通せた時のよう。ハイドンは創作の初期からこれほどの深い音楽を書いていたことに改めて驚きます。そして、この絶妙のコントラストでハイドンの意図を見抜いたアントニーニの才能にも驚きます。
この曲は3楽章構成で終楽章がメヌエット。曲は比較的シンプルなんですが、アントニーニの棒によって鮮烈なメヌエットが流れ、シンプルな曲のシンプルさに深い陰影がついて見事なフォルムに仕上がりました。最後は各パートのアクセントがせめぎあう饗宴のごとき音楽が痛快。最後の1フレーズの厳しいアクセントがアントニーニらしい余韻を残します。

ジョヴァンニ・アントニーニ率いるイル・ジャルディーノ・アルモニコによるハイドンの交響曲全集の第3巻はこれまでで一番キレた素晴らしい演奏でした。アントニーニも第2巻で聴かれたちょっと空回りするような力みから抜け出し、抑えた部分をしっかり抑えて各曲にくっきりとコントラストをつけて来ました。ホグウッドに欠けていたエネルギーがあり、ピノックよりもクッキリとアクセントをつけ、ブリュッヘンよりもムラがなく、クイケンよりも踏み込んだ、古楽器による決定盤を予感させる素晴らしい出来でした。これは続くリリースが楽しみです。評価は全曲[+++++]とします。

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2 Comments

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Haydn2009

No title

Daisyさん こんにちは。

このシリーズ、第一弾を聴いてからは、早く次の盤が出ないかとメチャメチャ期待してます。
特に今回の第三弾は、オールハイドンでオペラの序曲とカンタータも収録されていて最高ですね。(既出の2枚は、他の作曲家の作品も収録されていて、それはそれで悪くはなかったのですが、ハイドンファンとしては、どちらでもよかったので、今回のようにオペラの序曲とか、その他のハイドン作品を収録してもらった方が(笑))。
Daisyさんもコメントされているように、無人島序曲は、最初はドラティの演奏を彷彿させるゆったりめから、クライマックスは疾走と最高です。
2032年に完結という一大プロジェクト。途中、私の方がくたばらないように長くお付き合いですね。



  • 2016/10/10 (Mon) 07:27
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Daisy

Re: No title

Haydn2009さん、コメントありがとうございます。

確かに第1巻と第2巻にはハイドン以外の曲も含まれていましたね。私はこれらの同時代の曲を配置することによって、ハイドンがいかに素晴らしかったかのパースペクティブを明らかにしようという意図として、なかなか面白い企画だと思っていました。が、やはり第3巻を聴いて、ハイドンの作品で固めた方がアルバムの構成がいいように感じました。
ハイドンの演奏の難しいところは、尖りすぎると空振りに終わってしまうところ。このアントニーニも、中断してしまったファイも表現意欲と古典的均衡が両立するギリギリのところを狙ったスリリングさがポイントであり、面白さでもあります。この新鮮さを保ちながら100曲を超える交響曲の録音をしていくことは並大抵のことではなく、人生をかけた取り組みと言っていいでしょう。同様、こちらも先にくたばらないようにしませんと(笑)

  • 2016/10/10 (Mon) 08:17
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