作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

リリー・クラウスのピアノソナタXVI:52 1963年来日時のNHK録音(ハイドン)

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今日は懐かしい人の演奏。

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リリー・クラウス(Lili Kraus)の演奏によるハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI;52)、モーツァルトの幻想曲(K.475)、ピアノソナタ(K.457)、グルック「メッカの巡礼」による10の変奏曲(K.455)の4曲を収めたアルバム。収録は1963年1月に東京のNHKで収録されたセッション録音。レーベルはキングレコードからリリースされているNHK CD。

リリー・クラウスと言えばモーツァルト。パッと花が咲いたような可憐な演奏が記憶に残る人。ハイドンも少し録音があり、EMIのソナタ集や、以前取り上げたピアノトリオなどがあります。

2014/01/19 : ハイドン–室内楽曲 : リリー・クラウス/シモン・ゴールドベルク/アンソニー・ピニのピアノトリオ(ハイドン)

リリーク・クラウスの演奏で取り上げたのは、上のピアノトリオのみですが、これは1939年と戦前の録音。EMIに録音されたソナタ集は1957年とそれぞれかなり古いもの。今回NHKからリリースされたこのアルバムは1963年とこれまでの中では最も後の録音ということになります。

リリー・クラウスの詳しい略歴はリンク先の記事をご参照いただくとして、1936年の初来日の後、1942年からのアジア遠征で訪問したインドネシア、ジャワ島で日本軍に捉えられ、終戦まで軟禁された経験をもっているにもかかわらず、1963年に2度目の来日を果たします。ライナーノーツにはその来日時の公演プログラムのからリリー・クラウス自身の言葉が引用されています。

「(前略)私の1936年の最初の日本訪問中に芽生えた友情は、第二次大戦の辛い苦しい試練に耐えました。今、神の御恵みにより、過去の暗い雲は取りはらわれ、私は貴方の国へ再び戻る期待で、深くそして喜ばしい感動に満たされております。生命ある音楽は、今一度、私達を永久の友情に再び結び合わせますでしょう。」


このアルバムの録音は、その第2回の来日時のコンサートの合間に東京のNHKで収録されたものとということで、大変貴重なものと言えるでしょう。

このアルバムのレビューの前に、EMIのソナタ集からXVI:52を聴いてみます。モノラルながら1957年にして高音に独特の輝きを持つ可憐なリリー・クラウスのピアノの音色が心地よい録音。迫力よりは粒立ちのよい音階と華やかな雰囲気で聴かせる演奏です。右手でメロディーをクッキリ浮かび上がらせ、時折左手でキリリとアクセントをつけ、軽やかで華やかなドラマを演出します。2楽章の冒頭にテープの伸びと思われる音の揺らぎがありますが、気になるほどではありません。2楽章は思ったよりも深く迫力に満ちた展開。そしてフィナーレは鮮やかなタッチで疾走します。緩急の変化をしっかりつけた、リリー・クラウス49歳の頃の覇気とキレを味わえるバランスの良い演奏。

Hob.XVI:52 Piano Sonata No.62 [E flat] (1794)
本題の1963年の演奏。こちらもモノラル録音。EMIのものに比べると時代が下った分自然さは上がりますが、比較すると高音がこもり気味に聴こえ、普通に聴く分にはEMI盤の方が聴き映えがするかもしれません。リリー・クラウスらしい華やかさはEMI盤。ピアノの音の自然なバランスはこちらといったところでしょう。自然なタッチで、前演奏同様、クッキリとしたメリハリをつけて音楽が進みますが、リリー・クラウス独特の「あの」華やいだ感じは少し後退。なんとなくリリー・クラウスらしい軽やか、可憐な響きは録音のバランスに大きく影響を受けていたのかもしれません。1楽章は甲乙つけがたい感じ。
続くアダージョではこのアルバムのニュートラルな感じの印象が勝ります。EMI盤の彫り込みの深い演奏も良いのですが、曲想に素直に淡々とした印象を感じさせ、ところどころにリリー・クラウスらしさをうっすらと感じさせるセンスの良さも悪くありません。しっとりと沁みる演奏。
そしてフィナーレもしなやかさを保ちながら入りますが、すぐに粒立ちの良いタッチの心地よい響きに包まれます。タッチの硬軟の変化、フレーズごとの表情の濃淡が純粋に楽しめる演奏。薄化粧越しに聴いていたリリー・クラウスという人の音楽をようやく直に聴いたような印象。曲が進むにつれて真剣な音楽の迫力がじわりと伝わります。特に1音1音のタッチの絶妙な変化は見事なもの。少し荒さは感じさせるものの、この演奏でリリー・クラウスという人の音楽の真髄に触れた気がします。

この後のモーツァルトはさらに迫真の演奏。ハイドンに増して集中力が上がり、音楽の完成度はさらに上がります。

リリー・クラウスの1963年の来日時の貴重な録音。EMI盤が白粉の匂い漂う薄化粧をまとったリリー・クラウスの姿だとすると、こちらの録音は化粧を落としたリリー・クラウスの音楽に向き合った演奏といった感じ。どちらも彼女の音楽らしい個性に溢れた演奏ですが、どちらかと言うと、私はこのアルバムの演奏によって、リリー・クラウスという人の音楽に近づいた気がします。おそらく一般的にはEMI盤を取る人の方が多いかもしれません。評価は両演奏ともに[++++]とします。というのもこのアルバムに含まれるモーツァルトが絶品。やはりリリー・クラウスという人はモーツァルトの人とあらためて認識した次第。ハイドンの演奏が悪いということではありませんので、念のため。

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