作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

デカニー四重奏団のOp.9(ハイドン)

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今日は古いLPです。ちょっと前にオークションで手に入れていたものですが、前記事で触れた昇圧トランスを導入したのに合わせて取り出して聴いてみた次第。

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デカニー四重奏団(Dekany Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.9のNo.1からNo.6までの6曲と弦楽四重奏版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」を収めた3枚組のLP。デカニー四重奏団によるハイドンの弦楽四重奏曲集の第6巻。収録年の記載はありませんが、他の巻の録音年代などから推測するに、おそらく1970年代のものかと思います。レーベルは米VOX。今日はOp.9を取り上げます。

デカニー四重奏団の演奏は以前に一度取り上げています。前回は珍しくOp.1を取り上げたのですが、これがとても素晴らしかったので、他の曲の録音も狙っていて、先日ようやくLPを手に入れたもの。演奏者の情報などは下の記事を御覧ください。

2013/11/22 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : デカニー弦楽四重奏団のOp.1(ハイドン)

以前取り上げたのはCDだったんですが、ネットを調べてみると、収録された曲はLPでは第1巻にあたるもの。今日とりあげるアルバムは先に触れたとおり第6巻。ということで、メンバーを確認してみると第2ヴァイオリンが先のアルバムとは変わっていました。

第1ヴァイオリン:ベラ・デカニー(Belá Dekany)
第2ヴァイオリン:ペーター・アシュレイ(Peter Aslay)
ヴィオラ:アーウィン・シファー(Erwin Schiffer)
チェロ:ゲオルク・シファー(George Schiffer)

Hob.III:19 String Quartet Op.9 No.1 [C] (c.1769-70)
ヴァイオリンの印象的なメロディーから始まるこの曲。LPから立ち上る味わい深い響き。冒頭からピンと張り詰めた緊張感に包まれます。第1ヴァイオリンのベラ・デカニーの存在感が別格。LP自体は古いものゆえコンディションはベストとはいかないものの、弦楽器のダイレクトな響きの魅力はLPならでは。響きもいいのですが、凛としたテンポ設定、かっちりとした構成も文句のつけようのない、隙のない演奏。これぞハイドンという完成度の高さをいきなり見せつけます。
OP.9以前の曲集に収められた曲は5楽章構成で、この曲集から4楽章構成となり、2楽章はメヌエット、3楽章がアダージョとなります。すでにハイドンらしい優雅さを感じさせるメヌエットは中間部のをしっかり沈み込ませて対比をつけているところが流石。そしてアダージョは完璧な美しさ。このデカニーの演奏はアダージョの美しさ、険しさ、深さを全て表す名演奏と言っていいでしょう。鳥肌が立つような素晴らしい演奏に酔いしれます。
フィナーレは疾風のような勢いで軽々と弾き進めていきます。弦楽四重奏の中間2楽章は後年のアダージョ、メヌエットの順になる形が完成形と刷り込まれていますが、このメヌエット、アダージョの順のこの曲を聴くと、これはこれで素晴らしい完成度に聴こえます。1曲目からあまりの素晴らしさに圧倒されます。

Hob.III:20 String Quartet Op.9 No.2 [E flat] (c.1769-70)
ハイドンの弦楽四重奏曲は6曲セットが定番ですが、それぞれの曲のアイデアと創意に耳を向けると、いつもながら素晴らしい想像力に驚きます。2曲目のこの曲でも入りのメロディーから想像力に満ち溢れており、脳内にアドレナリンが充満。ここでもデカニーの、これぞハイドンという引き締まった演奏で安心して曲に浸ることができます。録音のせいか前曲よりもキレは劣る感じがしなくもないですが、ハイドンの書いたしなやかな曲に合わせた演奏なのかもしれません。しなやか、流麗、おおらかな演奏。
この曲もメヌエット、アダージョの順。1楽章を受けてか、メヌエットもよりしなやかな曲想でデカニーもそれを知ってか力が抜けて楽器を軽く鳴らしながらの演奏。そしてアダージョは短調の切々たる音楽。なんというヴァイオリンの美しい響き。クァルテットの美しさの全てが含まれる音楽です。これまでちょっと大人し目だったチェロが実に雄弁になり、アンサンブルの厚みが増します。
フィナーレはNo.1よりもさらに筆が込んで素晴らしい充実度。Op.9とはこれほど充実した曲だったかと改めて驚きます。

Hob.III:21 String Quartet Op.9 No.3 [G] (c.1769-70)
好きなNo.3。1楽章の独特の推進力に溢れたメロディーはハイドンのさりげないセンスのよさを感じる曲。曲を聴き進むにつれて、やはり展開のアイデアに唸るばかり。ちょっと音量を落としたつなぎのような部分は鋭敏なセンスにゾクゾクします。
この曲は2楽章と3楽章はメヌエット、ラルゴという構成。これまでの優美なメヌエットに代わって険しいメヌエットで新境地を切り開いているのでしょう。そう聴くと実に新鮮な音楽に感じます。6曲のクァルテットが小宇宙のように感じられ、それぞれ創意を凝らしながらも決して似ていない構成の曲を配置する面白さが浮かび上がります。そしてこの曲の緩徐楽章も美しさは並ではありません。弦楽器の響きの美しさを知り尽くしたハイドンによる音楽は全く飽きさせることなく、次々と新鮮なメロディーを放ってきます。この曲では呼吸の深さが印象的。
そしてフィナーレはコミカルな表情を織り込みながらも、曲を締めるかっちりした構成を感じさせるもの。各パートの鮮やかな弓裁きを聴かせて、最後はふっと力を抜いて終わる、冗談の先駆けのような終わりかた。いやいや見事と言うほかありません。

Hob.III:22 String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769-70)
独特の短調の入りは、録音のせいか響きが柔らかく表情も穏やかに感じます。これまでもそうでしたが、ベラ・デカニーの演奏は早いパッセージの鮮やかな弓裁きが華やかな印象を強くしています。グッと溜めるボウイングと鮮やかに駆け上る音階の対比が表現の幅を増しているんですね。相変わらず見事なアンサンブル。ヴァイオリンがキリリと引き締まった隈取りをつけているからこそのアンサンブルの精度。
1楽章からの続きのようなメヌエットは、あえて平板に弾いているように聴こえなくもありませんが、メロディーの大きな展開に興味が行っているからこその表情。続いて3楽章はアダージョ・カンタービレ。やはり緩徐楽章はデカニーの美点が十分に発揮された演奏。伸びやかなヴァイオリンのメロディーとそれを支える他のパートの見事なコントラスト。
そして、フィナーレは意表を突くもの。これまでの流れに対してこのフィナーレはどうやっても思いつきません。もちろんハイドン流のアイデアに満ちていると同時に緊密な構成感も感じさせます。

Hob.III:23 String Quartet Op.9 No.5 [B flat] (c.1769-70)
前曲からLPの2枚目に移ってますが、2枚目の方が響きが柔らかく聴こえます。一通り主題の提示が終わって変奏にはいるところの絶妙なセンス。音楽の展開の面白さを知り尽くしているからこそ、この穏やかな部分で聴きどころを作れるのでしょう。変奏が進むにつれてその喜びは深さを増し、味わい深い音楽に包まれます。あまりに素晴らしい展開に聞き惚れ、こんな素晴らしい曲の聞き覚えがないと調べてみると、この曲は今までレビューに取り上げたことがなかったんですね。レビューしていればなんとなく展開に覚えがありますが、ただ聴いているのとレビューではこちらの力の入り方が違います。
メヌエットは非常に短いものの、大胆さの中にほのかな優美さが感じられるもの。メヌエットも曲ごとに進化しています。そして3楽章は長いラルゴ・カンタービレ。後半3曲の中の聴きどころ。ベラ・デカニーの伸びやかなヴァイオリンがLP独特の、そして昇圧トランスによって味わい深さが増した響きで際立ちます。ただ響きが美しいだけではなく、陰影の濃い音楽が織りなす深い情感。気づいてみるとNo.3の1楽章の印象深いメロディーの余韻のようなものが漂い、ワーグナーのライトモティーフを先取りしているような先進性をも感じます。
そしてフィナーレも進化。曲をまとめると言う気配とは異なり、無限に展開していくような印象を与えながらも、最後はしっかりと曲を締めくくる見事な展開。ハイドンが自ら確立した弦楽四重奏曲という形式の発展途上の試行錯誤をトレースしているような創造性あふれる展開。手に汗握ります。

Hob.III:24 String Quartet Op.9 No.6 [A] (c.1769-70)
最後の曲は出だしから驚きっぱなし。あっというような斬新なアイデアの連続に圧倒されます。一体どのようにしたらこれほど豊かなメロディーが湧き出てくるのでしょう。デカニーの味わい深くも折り目正しく精緻な演奏で再現されるハイドンの創造性。常人に思い浮かぶ展開の域をはるかに超えてくるハイドンの創意に常人の脳は混乱気味。
そうかと思うとメヌエットは舞曲らしいオーソドックスな展開。音楽を楽しむ聴衆との高度な駆け引きを事も無げにコントロールするハイドンの得意顔が浮かんでくるようです。このメロディーが頭に浮かんで楽譜に落とす瞬間に脳内を駆け巡る興奮が想像できます。続いてこの曲集の終わりを惜しむような静かなアダージョ。どこまでも透明に駆け上るヴァイオリンのメロディーにこの時代の郷愁を感じるのは私だけでしょうか。これは名曲ですね。絶品。
最後のフィナーレはあっけらかんと明るい曲。ドン・ジョバンニの終曲の大団円を彷彿とさせる諧謔性すら感じる明るさで曲集を締めました。

いやいや、このデカニーのOp.9は名盤です。小鳥遊さんや湖国JHさんがデカニーを推していたのも頷けるところ。Op.9という初期の作品がこれほどまでに輝き、これほどまでに深い音楽だと、このデカニー盤で教えられました。手元のLPは表面に擦り傷がチラホラと見えるあまり良いコンディションのものではありませんが、いつものようにVPIのクリーナーと必殺極細毛電動洗顔ブラシできれいにクリーニングしたところ、ノイズはほぼなくなり、彫りの深い見事な響きを聴かせてくれました。LPというメディアの素晴らしさを体感した次第。先日導入した昇圧トランスを通して聴くと古いアルバムの味わいの深さが倍増。これからのLP探しが一層楽しみになりました。もちろん評価は全曲[+++++]とします。LPとして入手しやすいわけではありませんが、Apple Musicに登録されていますので、音源としては入手は容易かと思います。読者諸兄の論評もお待ちしております!

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2 Comments

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michael

No title

こんにちは
昇圧トランス導入でますますアナログ再生が加熱ぎみにお見受けします^^
当方は材料費5000円内くらいの自作トランスで凌いでいますが;
80年代のデジタル録音でさえ、アナログ・カッティングされた方が不思議と
良く聴こえてしまいます。

Daisy

Re: No title

michaelさん、コメントありがとうございます。

>昇圧トランス導入でますますアナログ再生が加熱ぎみにお見受けします^^

おっしゃる通り。なぜかアナログにはデジタルにはない魅力がありますね。先日のオフ会でも皆さん一様に、ダウンロード音源は所有欲を満たさないとおっしゃってました。またアナログの良さは針先などの質量、慣性の存在が力感の表現につながっており、デジタルにはそれがないことがリアリティーの濃さに影響があるなどと、力学と電気工学、心理学を統合した立場からの鋭い意見もありました。私はその説の説得力に唸らざるを得ませんでした。

こちらは、トランスを自作できる技術力を持ち合わせず、既製品にかまけておりますが、自作となるとさらに奥深い世界があるものと想像しております。

いづれにせよ、しばらくはLPは重要な音源として存在し続けるかと思いますので、コツコツ楽しんでいきたいと思います。

  • 2016/09/01 (Thu) 00:47
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