作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

リンゼイ四重奏団のOp.54(ハイドン)

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前記事で取り上げたジュリアード四重奏団の記事に小鳥遊さんからいただいたコメントが気になり聴き返したアルバム。アルバム全編に漲る気迫に圧倒される演奏です。

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リンゼイ弦楽四重奏団(Lindsay String Quartet)による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.1からNo.3の3曲。収録は1987年1月、イギリス中部のリーズ近郊のカークレス・ホール(Kirkless Hall)という石造の居館でのセッション録音。レーベルは英ASV。

リンゼイ四重奏団のアルバムは過去に2度ほど取り上げています。

2013/07/26 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : リンゼイ四重奏団のOp.77、Op.103
2010/12/20 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【年末企画】リンゼイ四重奏団の弦楽四重奏曲Op.20「太陽四重奏曲」

奏者の情報は太陽四重奏曲の記事を御覧ください。今回手元にあるリンゼイ四重奏団の演奏をいろいろ調べてみたんですが、このアルバムの収録年は、リンゼイ四重奏団のハイドンの録音のなかでも最も古いものということがわかりました。演奏にみなぎる力感はこのクァルテットがハイドンを取り上げ始めたころの息吹ということなのでしょう。すでに2005年に解散してしまっていますが、今からほぼ30年前の演奏の覇気が時空を超えて迫ってきているということでしょう。

Hob.III:58 String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
冒頭からはち切れんばかりのエネルギーに満ちた演奏。まるでライヴを聴いているよう。録音は鮮明ながら、石造の居館での録音らしく、硬い残響が多目で人によってはきつい響きに感じるかもしれませんが、かえってライヴらしい感じで私は問題ありません。冒頭から第1ヴァイオリンのピーター・クロッパーの引き締まった音色が鋼の鞭を打つような迫力で迫ってきます。ジュリアードの演奏は同じ引き締まった音色でも張り詰めた印象だったのに対し、こちらはダイナミックに弾み、すぐにフルスロットルの恍惚たる領域に入ってしまいます。いやいや素晴らしい緊張感。
つづくアレグレットはゆったりとした演奏ですがリンゼイ独特のフレーズの膨らませ方で叙情的な雰囲気が強くなります。特にクロッパーのヴァイオリンは泣きが入るような切ない音色でくっきりとメリハリをつけます。ハイドンの古典的な曲調の中で、音楽をじっくりと膨らまして大きな起伏を作っていきます。この緩徐楽章がジュリアードとの決定的な違いを印象付けます。
メヌエットも音の鳴らし始めと鳴らし終わりは柔らかく、ジュリアードのようにエッジをキリリと立てるのとは反対に一音一音の膨らみの重なり合いで音楽を創っていきます。冷徹な秩序に対し、人間的な温かみをベースに創意を凝らしている感じ。音程が時折甘いことがありますが、それもさして違和感はなく、ライヴ的面白さで聴けてしまいます。
全員が拍子を合わせながら快速テンポに合わせてやりとりしているところがよく分かる演奏。ライヴ的感興の高まりが繰り返されクライマックスへ。最後は緩急を絶妙にコントロールして見事な終結を演出します。

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
ちょっと不揃いなところもありますが、冒頭から緊張感漲る演奏。全員が最高の状態で迎える入り。音からエネルギーが溢れだしてきそう。恐ろしいまでの集中力で演奏にみなぎる力感は弦楽四重奏曲離れしています。ジュリアードとは異なる神々しさ。全員が最高のコンディションで臨んだセッション。恐ろしいまでの集中力がこちらにも伝わってきます。
素晴らしいのが続くアダージョ。全体の秩序に合わせて各パートが弾いているのではなく、息の合ったメンバーが思い思いに演奏する音が結果的に一つの音楽を創っていっている感じ。自在さが際立つ曲だけに、演奏もまさに自在。
すっとメヌエットに入るセンスも流石。途中いくつかの強奏の山を超えていきますが、それぞれの響きの充実度が別格。楽器の音量の範囲を使い切っている感じ。魂の叫びのような強音から一転、ふっと力を抜いたフレーズでクールダウン。
そしてこの曲の頂点たるフィナーレ。最初のアダージョの深い慟哭はまさにリンゼイの面目躍如。そして三途の川の向こう側のような平安なメロディーに移ります。この部分の濃厚な演出はまさにリンゼイならでは。見事。

Hob.III:59 String Quartet Op.54 No.3 [E] (1788)
最後の曲もリンゼイの自在な音楽が弾みます。ジュリアードでは各パートがクッキリと浮かび上がっていましたが、リンゼイでは各パートが溶け合い、第1ヴァイオリンのピーター・クロッパーだけが時折浮かび上がる感じ。これまでの2曲が個性的な構成だったのに対し、この曲ではハイドンらしい落ち着いた筆致による構成に戻ります。力の抜けたところの演奏にもしなやかなメリハリが加わりながらテンションが保たれます。そしてメヌエットも穏やかさを保ち、フィナーレでも八分の力で終えます。もはや余裕たっぷりの演奏。

このアルバムの演奏、リンゼイのハイドンの原点たる演奏なのでしょう。後年の演奏はもっと落ち着いてしまいますが、このころのリンゼイは勢いがありましたね。小鳥遊さんの「トストは、やっぱりリンゼイでしょう」との言葉どおりでした。リンゼイのハイドンはまだ数枚未入手盤があります。こうした演奏を聴いてしまうと、俄然、未入手盤を手に入れたくなってしまいますね。もちろんこのアルバムは全曲[+++++]と付け直します。クァルテット好きな方は手にはいるうちにどうぞ!

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1 Comments

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小鳥遊

リンゼイ取り上げて頂き恐縮です。

ちょっと粗っぽいんですけど、一度嵌まると、他の録音は優等生に思えてしまっていけません(笑)

リンゼイのハイドンはどれも好きなんですが、やっぱりトスト辺りが一番素晴らしいと思います。