作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ジュリアード弦楽四重奏団のOp.54(ハイドン)

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7月最初のアルバムは弦楽四重奏曲を取り上げます。

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ジュリアード弦楽四重奏団(Julliard String Quartet)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.1、No.2、No.3の3曲を収めたLP。収録は1966年4月。レーベルは米CBS。

このアルバム、最近オークションで仕入れたもの。LPの未入手盤をこつこつ集めているところで出会ったアルバムです。ジュリアード弦楽四重奏団の演奏は以前一度レビューに取り上げています。

2011/10/14 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : ジュリアード弦楽四重奏団のOp.74のNo.1、Op.77のNo.1

以前取り上げたのが1957年に録音されたアルバム。今日取り上げるのはその9年後、1966年の録音ということになります。メンバーは第2ヴァイオリン以外は1957年の録音と変わっていません。

第1ヴァイオリン:ロバート・マン(Robert Mann)
第2ヴァイオリン:アール・カーリス(Earl Carlyss)
ヴィオラ:ラファエル・ヒリヤー(Raphael Hillyer)
チェロ:クラウス・アダム(Claus Adam)

Wikipediaなどによると第2ヴァイオリンは、前回取り上げた録音の直後、1958年にイシドア・コーエン(Isidore Cohen)に替わり、今回の録音の直前、1966年にアール・カーリスに替わったということで、アール・カーリスのデビュー直後の録音ということになります。

前回取り上げたアルバム同様、このアルバム、くっきりシャープで無駄のない引き締まった演奏が冴えわたります。ハイドンの弦楽四重奏も演奏によって様々な表情を見せますが、この演奏は鍛え上げられたアメリカの弦楽四重奏の一時代を象徴する見事なもの。アルバムに針を落とすと、いきなり張り詰めた緊張感が味わえる名盤といっていいでしょう。

Hob.III:58 String Quartet Op.54 No.1 [G] (1788)
快速テンポでの入り。完璧に揃ったアンサンブル。少々デッドな録音によってアンサンブルのキレ味がさらに強調されている感じ。そしてLPならではのダイレクトな響き。冒頭から圧倒的なハイテンション。優雅なハイドンをものともせず、タイトなアンサンブルでグイグイト攻め込んできます。
先鋭的な1楽章につづいて2楽章のアレグレットは張り詰めた各パートが艶っぽく美しいメロディーを重ねていきます。精度の高い緻密な表現が極まり、エロティックささえ感じさせるような充実した楽章。彫りの深い音楽が心に響きます。
メヌエットは期待どおりのキレ味。各音の鳴り終わりにもキリリとエッジをつけているのが際立ったキレの良さを感じさせるのでしょう。中間部のチェロの音階の軽やかさも出色。4人とも完璧にそろったボウイングで見事なアンサンブルを聴かせます。
フィナーレの速いパッセージはあまりの正確なボウイングにさらりとさざめくような気配まで醸し出します。変奏が徐々に発展していく変化の面白さが際立ちます。最後の力がすっと抜ける終わり方にハイドンらしいウィットを感じさせてなかなかです。

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
込み入ったメロディーが一つの主題に収斂する面白さを、解剖図のように克明に描いてはじまります。この曲の特定のメロディーにフォーカスを合わせたり、ぼかしたりというアイデアの秀逸な構造がジュリアードの演奏で際立ちます。響きの音離れの良さを印象付ける1楽章の最後の一音。
その最後の響きから、つづく短調のアダージョへの切り替えの鮮やかさ。キレ味鋭いジュリアードでもしっとりとした響きを作れるのだと言いたげ。もちろんただしっとりとしているだけでなく、音楽としてアーティスティックな気配を纏い、ただしっとりとした演奏ではないことがわかります。
ちょっと鳥肌がたったのが次のメヌエットの入り。グールドの演奏に時折あらわれる冴え渡った感覚と同じような恍惚とさえ感じる瞬間です。音数は少ないのに、空間を完全に支配しているような感覚。ハイドンはこうした気配までイメージして曲を書いていたのでしょうか。
珍しくアダージョから入るフィナーレですが、その入りのテンポを思い切り落として音楽が深く沈みます。曲ごとの切り替えの鮮やかさが際立ちます。演奏は4人の息がピタリと合って完璧、というか神がかっています。

Hob.III:59 String Quartet Op.54 No.3 [E] (1788)
見事な演奏がつづき、すっかりジュリアードペースにはまってます。この曲も旋律の面白さ、各パートの織りなす綾の面白さ、そしてジュリアードの名演奏により、各パートのくっきりとして変化にも富んだ音色に釘付けです。ロバート・マンのヴァイオリンも低音から高音まで微妙に音色の変化があり、意外と軽やかな高音の響きと、厚みを感じる低音部の対比が音楽の表情に複雑なニュアンスを加えています。クァルテットとしての表現の完成度が高いというのはこういうことなのでしょう。
つづくラルゴ・カンタービレ。クラウス・アダムの燻らしたようなチェロの深い音色が印象的。そしてくっきりとしたメロディーが絡み合いながら、大きな波に乗っているようにうねりって音楽を作っていきます。メロディーラインに耳が行きますが、ふと気づくと大きな起伏のゆったりとした流れの中にいることに気づきます。
そしてこの曲のメヌエットでは諧謔的な面白さにスポットライトを当てます。作曲時期が交響曲88番などと同時期であり、なんとなくこのアイデアは頷けるところ。
最後のフィナーレは、典型的なハイドンのフィナーレ。メロディーが巧みに変化して離合集散しながらクライマックスに至る起伏を経て、最後にキリリと締まります。一糸乱れぬアンサンブルにジュリアードの面目躍如。素晴らしい演奏でした。

このアルバム、ジュリアード弦楽四重奏団の冴え渡るタイトなボウイングが楽しめる名盤ですが、ちょっと調べてもCD化されたような形跡はありません。ハイドンの弦楽四重奏を張り詰めた緊張感満点で聴かせる精緻なテクニックは流石、ジュリアードというところでしょう。録音もこうした演奏に華を添える精緻なもので、クァルテット好きの方には宝物のようなアルバムだと言っていいでしょう。評価はもちろん全曲[+++++]としますが、とりわけNo.2が深く印象に残りました。

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11 Comments

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だまてら

No title

大変ごぶさたしております。
当盤(米EPICプレス)は小生も愛聴しており、作品54の一推しです。
ジュリアードが、せめてあと作品55の録音を残してくれたら・・・と
いつも無いものねだりをしたくなります。
54-1の快速調も痛快ですが、54-2終曲の変な構成にもはまりますね!
作品55「第二トスト」を含めた6曲では、アレグリSQ(ウエストミンスター)
かな?
会社(員)の大懸案事項のある6月下旬を過ぎたことで、少し落ち着きそう
です。近々暑気払いを兼ねてオフ会でもいかがでしょうか?

  • 2016/07/03 (Sun) 00:04
  • REPLY

小鳥遊

トストは、やっぱりリンゼイでしょう(笑)

ジュリアードの第1トスト、CD化されてるのかと思ってたので意外でした。

レコードプレイヤーが壊れてから、すっかり音楽を家で聴かなくなってしまっているので、そろそろ修理しないといけないです。

アレグリも、確かCDにはなってなかったし。


Daisy

Re: No title

だまてららん、コメントありがとうございます。

この演奏、引き締まった響きからだまてらさん好みの演奏だと思ってました。Op.54、55あたりは他にくらべて目立たぬ存在ですが、ハイドンらしい素晴らしい曲が揃っていることに変わりなく、もっと録音があってもおかしくないですね。このLPもなぜCD化されていないのかわかりません。

さて、暑気払いの件、了解です。東京近郊にお住いのブログ読者の方も声かけてみますか?

  • 2016/07/03 (Sun) 16:19
  • REPLY

Daisy

Re: タイトルなし

小鳥遊さん、コメントありがとうございます。

> トストは、やっぱりリンゼイでしょう(笑)
言われて、あわてて聴き直しましたが、こりゃすごいですね。リンゼイのこの曲はDVDの方は前から評価しているのですが、CDの方はノーマークでした。ちょっと録音が残響過多ながら、演奏は驚くばかりの迫力。ピーター・クロッパーが髪を振り乱して演奏する姿が想像できるようです。

レコードプレーヤー、たしかレーザーターンテーブルでしたね。ぜひ修理してLPをお楽しみください!

  • 2016/07/03 (Sun) 16:29
  • REPLY

Skunjp

2番フィナーレは天才の証

なるほどこれは垂涎の名盤ですね。作品54といえば私もジュリアードが最初の刷り込みでした。颯爽とした第一楽章出だしは、まさにハイドン美の化身でした。

しかし例によってLPを処分した後、いずれCDが出るだろうとたかをくくって待っていましたがついに出ず、「しまった!」と思っても後の祭りでした。私にとっては夢の彼方の幻の演奏の一つです。

〉音数は少ないのに、空間を完全に支配しているような感覚。

相変わらずうまいですねー。どストライクの表現です!

そしてまた、やはり作品54といえば、だまてらさんの仰るとおり、2番フィナーレのけったいな構成が聴き所のひとつ。触発されて今朝は、エンデリオンで聴きました。

…うーん、面白い。思うにハイドンは、2楽章の連綿としたヴォカリーズの出来に味をしめて、フィナーレにアダージョの序奏を付けたかったのではないかと思います。

しかし思った以上に筆が進み、チェロの分散上昇音型に乗せてヴァイオリンに朗々と歌わせ、その歌がマイナーに転調し、気がつけば「おお!ちと長すぎる…どうしよう?」と考えた末、「それならば」と、ちょこっとプレストを挿入して後は何くわぬ顔でアダージョに戻して終わったのでは?

不思議なことに、プレストがはさまれたことで聞き手は、変だけどフィナーレとして妙に納得するという、これはハイドンの天才を証していますね。

ん…東京近郊のブログ読者?(見回す)

いいですねー、暑気払い(笑)こういう話題で盛り上がれる機会はほかにないですからね。

  • 2016/07/05 (Tue) 10:00
  • REPLY

Daisy

Re: 2番フィナーレは天才の証

Skunjpさん、コメントありがとうございます。

弦楽四重奏曲の名盤ということで、皆さんコメントの食いつきが違いますね。

この2番の見事な構成、まさにハイドンの才能に驚かされる例ですが、続く3番の意外にオーソドックスな構成、1番の快活な始まりとセットでの巧みな構成こそハイドンの真骨頂ではないでしょうか。ジュリアードによって冴え冴えと引き締まった音楽としてまとめられ、リンゼイによって魂を揺さぶるようなエネルギーの噴出としてまとめられたのも、この曲集が想像力を掻き立てる素晴らしい魅力を持っているからに他なりません。

まだまだ発掘すべき演奏は多いのでしょうね〜(^_^)

さて、暑気払いの件ですは新宿あたりで近々一席設けるということでどうでしょうか?
>だまてらさんいかがでしょうか?

  • 2016/07/06 (Wed) 14:11
  • REPLY

小鳥遊

暑気払いいいですね。
近々だと、私は出張中になりそうで残念ですが、こちらに集う方々と飲んで話したら、相当にマニアックな会話になりそうですね。

だまてら

Re: 2番フィナーレは天才の証

>さて、暑気払いの件ですは新宿あたりで近々一席設けるということでどうでしょうか?
>だまてらさんいかがでしょうか?

言い出しっぺとして、新宿あたりは絶好のロケーションです。
直メールなどで調整いたしましょう。

  • 2016/07/07 (Thu) 05:59
  • REPLY

Daisy

Re: Re: 2番フィナーレは天才の証

だまてらさん、コメントありがとうございます。

ということで、なんとなく暑気払い開催の方向でという流れになりました。普段当ブログでコメントのやりとりをするコアなハイドンマニアな皆さんで、ひっそり濃厚ハイドンオフという感じでしょうか。7月下旬から8月初めあたりで新宿近辺のお店で19:00位からというイメージで調整したいと思います。当方がメールアドレスを把握していない方でご参加希望の方があれば、コメントでメールアドレス及び希望などをおしらせください。ちなみにコメントを管理者のみにすれば表示されることはありません。よろしくお願いいたします。

  • 2016/07/07 (Thu) 07:42
  • REPLY

Skunjp

実は巧妙な統一体

> 続く3番の意外にオーソドックスな構成、1番の快活な始まりとセットでの巧みな構成こそハイドンの真骨頂ではないでしょうか。

Daisyさんの仰った観点からop54を聴き直してみました。すると、まさにその通りであると膝を打ちました。

その一例は第一楽章です。op54-1の若々しい奔馬のような出だしと、op54-2の第一楽章の出だしに共通する要素があります。共に第一ヴァイオリンが主旋律を担い、後の三者は伴奏に回っています。このことが音楽にエネルギッシュな推進力を与えています。

ところがop54-2、第一楽章は、三者の伴奏が刻みではなく和音になっています。つまり和音というより落ちついた要素を含むことで、対位法的な深みと落ち着きを見せるop54-3の第一楽章と見事につながり、これがop54-2がop54-3への架け橋の役目を担っています。

さらにまた、op54-2第二楽章の連綿と歌うエレジー(これはop54全体の白眉なのですが)、その雰囲気がop54-3第三楽章ラルゴカンタービレ中間部の表情的な悲歌に投影され、互いにこだまし合っているのです。

…うーん、凄い。

Daisyさんの仰るとおり、op54の3曲は各々独立した魅力を放ちながら、実は巧妙な統一体であることが確認できました。全くこのブログ、何とためになるブログなのでしょう!

それにしても、リンゼイ弦楽四重奏団のアップテンポは凄いですね。途中のハイポジションで危うく破綻しかねないテンポなのに、音楽的必然性ゆえに彼らは敢然と立ち向かいます。その潔さが素晴らしい!…還暦を過ぎた私の心臓にはチトこたえますが。(個人的にはエンデリオン四重奏団の豊穣さが好きです)

新宿、良いロケーションですね。時期的にも、たぶんOKです。

  • 2016/07/07 (Thu) 13:47
  • REPLY

Daisy

Re: 実は巧妙な統一体

Skunjpさん、またまたコメントありがとうございます。

なんとなく音楽から感じる気配で感じたOp.54の一体感を克明に解説いただき、さらに我が意を確かにさせていただきました。

おそらくハイドンの弦楽四重奏曲は作品ごとに大なり小なりこうした一体感があるかと思うのですが、6曲セットよりも3曲くらいのほうがそのまとまりを感じやすいのかもしれませんね。特に2番の印象的な構成を軸にしてこそのこの一体感だと思います。

ジュリアードの緊密な演奏、リンゼイの緊迫した演奏もいいですね。印象が薄れがちなエンデリオン、取り出して聴きなおしてみます!

さて暑気払いの件ですが、今週末にメールを送りますのでよろしくお願いいたします。

  • 2016/07/08 (Fri) 07:47
  • REPLY