ラ・ガイア・シエンツァによるフルート三重奏曲と室内楽版「驚愕」(ハイドン)
ちょっと前に手に入れたアルバム。室内楽が沁みる歳なんですね(笑)

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ラ・ガイア・シエンツァ(La Gaia Scienza)によるハイドンのフルート三重奏曲(Hob.XV:16、XV:15、XV:17)、交響曲94番「驚愕」(ルートヴィヒ・ヴェンセスラウス・ラフニト(Ludwig Wenceslaus Lachnith)の編曲によるフォルテピアノ、フルート、ヴァイオリン、チェロの四重奏版)の4曲を収めたアルバム。収録は2008年11月、イタリア、ミラノ近郊のクレマ(Crema)という街のGiardino(庭?)でのセッション録音。レーベルは独ミュンヘンのWINTER & WINTER。
アルバムタイトルは「ロンドンのハイドン(HAYDN IN LONDON)」というもの。録音が2008年、リリースが2009年ということでハイドンの没後200年のアニヴァーサリーに当ててきた企画です。
奏者のラ・ガイア・シエンツァは古楽器の奏者の集まり。今日取り上げるWINTER & WINTERレーベルからシューベルト、ブラームスなどのトリオのアルバムがリリースされています。
フラウト・トラヴェルソ:マルコ・ブローリ(Marco Brolli)
ヴァイオリン:ステファノ・バルネスキ(Stefano Barneschi)
チェロ:パオロ・ベスキ(Paolo Beschi)
フォルテピアノ:フェデリカ・ヴァーリ(Federiva Valli)
意味深な団体名ということで調べてみると、ニーチェの著作の「悦ばしき知識」のイタリア語がラ・ガイア・シエンツァとのこと。ニーチェはこの著作で「神は死んだ」という有名な言葉を残しましたがもともとの意味は伝統的宗教からの決別したことを表すようですが、この言葉を団体名に掲げているということは、伝統的な演奏法とは決別したとの意と解すればいいのでしょうか。
メンバーはいずれもイタリア古楽器界の名手。ヴァイオリンのステファノ・バルネスキは最後に収録された室内楽版の「驚愕」にのみ登場しています。彼の演奏は協奏曲のソロを弾いたアルバムを一度取り上げています。
2014/12/02 : ハイドン–協奏曲 : ラ・ディヴィナ・アルモニアの協奏曲集(ハイドン)
このアルバムでのステファノ・バネルスキの演奏は見事の一言。完ぺきなテクニックに支えられ、自由闊達に遊びまわるような愉悦感すら感じさせる見事なものでした。記事で紹介したようにハイドンの交響曲全集の録音に着手した、イル・ジャルディーノ・アルモニコの音楽監督も務めています。
チェロのパオロ・ベスキは1980年にこのラ・ガイア・シエンツァの共同設立者。1953年イタリアのブレシア生まれ。ブレシアでチェロを学んだ後、ラ・ガイア・シエンツァの設立とともにバロックチェロに転向。1985年にはイル・ジャルディーノ・アルモニコの設立に参画しました。
フォルテピアノのフェデリカ・ヴァーリもラ・ガイア・シエンツァの共同設立者。イタリア、コモに生まれ、コモ音楽院でピアノとハープシコードを学び、室内楽の演奏家として活動後、1980年にラ・ガイア・シエンツァを設立しています。現在はコモ音楽院で室内楽とフォルテピアノを教えています。
フラウト・トラヴェルソのマルコ・ブローリは1970年、ミラノに生まれ、ミラノ音楽学校、ヴェネチアのマルチェッロ音楽院などで学び、その後フラウト・トラヴェルソをマルク・アンタイらに学びました。彼もイル・ジャルディーノ・アルモニコのメンバーであり、アッカデミア・ビサンチナなど名のある古楽器オケののメンバーでもあります。現在はパルマのアッリーゴ・ボーイト音楽学校、ミラノのクラウディオ・アバド音楽学校でフラウト・トラヴェルソを教えています。
これらの腕利きメンバーによって、ハイドンのフルート三重奏曲が穏やかに響きわたります。
Hob.XV:16 Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
鮮明な録音によって、空間にフラウト・ドラヴェルソ、フォルテピアノ、チェロが浮遊するように響きわたります。実に穏やか、オーソドックスな演奏。奇をてらった感じは皆無。リズムは規則正しく、ただただ各楽器の美しい音色が響きわたるのみ。このところ突き抜けた表現の演奏にいろいろ触れてきたからか、逆にこのオーソドックスさが新鮮に感じます。フォルテピアノのフェデリカ・ヴァーリが安定していながらも、イキイキとしたタッチで基調をつくっており、そのリズムにブローリとベスキが安心して身を委ねている感じ。極上のオーソドックスさ。単調に感じないのは、それぞれのパートの演奏に絶妙なメリハリを施しているからに他なりません。最初の楽章から爽やかな音楽に癒されます。
短調の印象的なメロディーが美しい2楽章。フラウト・トラヴェルソが軽やかな陰影に彩られたメロディーに仕立てあげます。フォルテピアノはドレスデンで1790年から95年に造られたルードヴィッヒ・ドゥルケン(Ludwig Dulken)という楽器のコピーですが、実に柔らかいいい音色。ヴァーリの自然なタッチが楽器の一番美しい音色引き出している感じ。
そして軽やかな印象を保ったまま、適度に快活なフィナーレにすっとつなぎます。録音が良いので各楽器の音色の美しさと、溶け合うハーモニーの美しさが際立ちます。演奏者の個性ではなく、純粋にハイドンの曲の美しさに身を任せらる極上の演奏と言っていいでしょう。
Hob.XV:15 Piano Trio (Nr.29/op.59-2) [G] (before 1790)
フラウト・トラヴェルソの美しい響きと、安定した演奏は全く変わらず、純粋に音楽を楽しむことに徹することができます。この曲の冒頭からしばらくの絶妙な転調の妙味と、ハイドンの機転を存分に堪能。脳から癒し成分が全身に回って、批評的思考回路が完全に停止(笑)。すでに気分は極楽浄土へ旅立った気分。この境地、実際に聴いていただければきっとわかります。広々とした空間にトリオの音色がゆったりと響きわたり、無駄な表現意欲によるアクセントもなく、淡々と音楽が流れます。奏者自身も無我の境地なのでしょう。クイケントリオでもこういった境地を感じますが、無我度は更に上を行きます。
美音だからこそ、控えめな表現が冴えるアンダンテ。これまでチェロに触れずに来ましたが、耳を澄ますと、完ぺきな脇役ぶり。音量も表現も控えめなんですが、フラウト・トラヴェルソとフォルテピアノの影から微塵も飛びださす、完ぺきなサポート。音楽に厚みの気配だけを加える見事さ。透明感あふれるアンサンブルは実はチェロのパオロ・ベスキの存在が大きいのかもしれません。いずれにせよ3人の絶妙な呼吸によってこの素晴らしい音楽が成り立っています。
ハッとするようなハイドンのアイデアによるリズムの面白さをさりげなく感じさせる終楽章の見事な入り。中間部でのフォルテピアノ低音のアクセントの面白さは、楽器の音色を知り尽くしたハイドンならではの表現。途中で静寂を感じさせる長い休符を挟み、作曲者をリスペクトするよう。表現意欲が前のめりにならずに実に心地よいですね。
Hob.XV:17 Piano Trio (Nr.30/op.59-3) [F] (before 1790)
曲ごとに千変万化する着想に脱帽しながら聴き進めます。モーツァルトのようなわかり易いひらめきではありませんが、このハイドンの着想の豊かさは、音楽を愛する人にこそ響く凄さがあります。前に使ったアイデアは決して使わないとでも思って書いているのでしょう。メロディーも聴かせどころも音色もすべてが新鮮。この曲は何回聴いても音楽の展開の新鮮さに驚きます。もちろん、極上の演奏だからこそ、着想の面白さに純粋に浸ることができるわけです。
さらに驚きに満ちた2楽章。この曲は2楽章構成です。練習曲のようなフォルテピアノのメロディにフラウト・トラヴェルソが加わることで、音楽が実に豊かになります。もちろん、チェロの存在もありますが、あいかわらず控えめな役に徹しています。ちょっとハッとさせられる中間部を挟んで主題が帰ってくる安心感も実に巧みな設計。変奏の一つ一つがキレているので音楽が弾みます。見事。
Hob.I:94 Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
これまでのフラウト・トラヴェルソ、チェロ、フォルテピアノの三重奏にヴァイオリンが加わった四重奏に変わります。聴き慣れた驚愕の1楽章が室内楽の透明な響きで再現されます。ヴァイオリンのステファノ・バルネスキが加わったことで演奏スタイルが一変。フルート三重奏の穏やかな演奏から、すこしエッジを効かせた先鋭的な印象が加わります。もともと驚愕は4楽章構成ですが、この編曲ではメヌエットを除いた3楽章構成。主旋律はフラウト・トラヴェルソとヴァイオリン、フォルテピアノが代わる代わる担当します。ヴァイオリンが加わることで響きの印象も変わります。先ほどまでのトリオと異なり、フォルテピアノのヴァーリもリズムのキレを強調してきます。もちろん原曲のオーケストラ版では盛り上がる迫力が一番の聴かせどころですが、それをキレ味で置き換えようとしているようで、音量よりはカミソリのようなキレを強調した演奏。
アンダンテは少々速めのテンポで爽快さで聴かせます。ビックリのアクセントはヴァイオリンの鋭い音色できました。フルート三重奏の落ち着いた完成度の高い演奏とは異なり、即興性というか音楽に戯れるような無邪気さを狙っているのでしょう。驚愕の遊び心を本質的にとらえ、伝えるためにはオーケストラ版の迫力とは異なり自在な即興性で聴かせようということでしょう。1楽章よりもそのことを意識させる自在さがあります。
メヌエットがないので、ちょっと拍子抜けですが、フィナーレの軽やかな入りがうまく描けています。楽器構成の違いをもっとも感じさせないのがこのフィナーレでしょう。ヴァイオリンのバルネスキはかなり自在かつ踏み込んだ弓使い。ところどころにかなりキツイ音も散りばめて変化をつけていきます。心地よさを保っているのはヴァーリのフォルテピアノ。最後は原曲さながらのスリリングなクライマックスにもちこみ終了。これもなかなかの演奏でした。
「悦ばしき知識」という名の団体によるハイドンのフルート三重奏曲と室内楽版の「驚愕」。フルート三重奏曲と驚愕では演奏スタイルを一変させてきました。フルート三重奏曲を前に置いたのは正解でしょう。アルバムタイトルどおり、ロンドンで作曲したハイドンの曲をまとめたアルバムですが、円熟の境地を感じさせるフルート三重奏曲は、オーソドックスな演奏の最高峰と言ってよい素晴らしい演奏。この曲の入門盤として広くオススメできる名演奏です。一方驚愕の方は、ハイドンのロンドンでの圧倒的な評判から室内楽に編曲して楽しむためのものでしょうが、コミカルにさえ感じさせる即興的な演奏でまとめてきました。この表現の多彩さをもつのに、前半のフルート三重奏をしっとりとまとめた手腕は見事の一言。評価は全曲[+++++]とします。

ラ・ガイア・シエンツァ(La Gaia Scienza)によるハイドンのフルート三重奏曲(Hob.XV:16、XV:15、XV:17)、交響曲94番「驚愕」(ルートヴィヒ・ヴェンセスラウス・ラフニト(Ludwig Wenceslaus Lachnith)の編曲によるフォルテピアノ、フルート、ヴァイオリン、チェロの四重奏版)の4曲を収めたアルバム。収録は2008年11月、イタリア、ミラノ近郊のクレマ(Crema)という街のGiardino(庭?)でのセッション録音。レーベルは独ミュンヘンのWINTER & WINTER。
アルバムタイトルは「ロンドンのハイドン(HAYDN IN LONDON)」というもの。録音が2008年、リリースが2009年ということでハイドンの没後200年のアニヴァーサリーに当ててきた企画です。
奏者のラ・ガイア・シエンツァは古楽器の奏者の集まり。今日取り上げるWINTER & WINTERレーベルからシューベルト、ブラームスなどのトリオのアルバムがリリースされています。
フラウト・トラヴェルソ:マルコ・ブローリ(Marco Brolli)
ヴァイオリン:ステファノ・バルネスキ(Stefano Barneschi)
チェロ:パオロ・ベスキ(Paolo Beschi)
フォルテピアノ:フェデリカ・ヴァーリ(Federiva Valli)
意味深な団体名ということで調べてみると、ニーチェの著作の「悦ばしき知識」のイタリア語がラ・ガイア・シエンツァとのこと。ニーチェはこの著作で「神は死んだ」という有名な言葉を残しましたがもともとの意味は伝統的宗教からの決別したことを表すようですが、この言葉を団体名に掲げているということは、伝統的な演奏法とは決別したとの意と解すればいいのでしょうか。
メンバーはいずれもイタリア古楽器界の名手。ヴァイオリンのステファノ・バルネスキは最後に収録された室内楽版の「驚愕」にのみ登場しています。彼の演奏は協奏曲のソロを弾いたアルバムを一度取り上げています。
2014/12/02 : ハイドン–協奏曲 : ラ・ディヴィナ・アルモニアの協奏曲集(ハイドン)
このアルバムでのステファノ・バネルスキの演奏は見事の一言。完ぺきなテクニックに支えられ、自由闊達に遊びまわるような愉悦感すら感じさせる見事なものでした。記事で紹介したようにハイドンの交響曲全集の録音に着手した、イル・ジャルディーノ・アルモニコの音楽監督も務めています。
チェロのパオロ・ベスキは1980年にこのラ・ガイア・シエンツァの共同設立者。1953年イタリアのブレシア生まれ。ブレシアでチェロを学んだ後、ラ・ガイア・シエンツァの設立とともにバロックチェロに転向。1985年にはイル・ジャルディーノ・アルモニコの設立に参画しました。
フォルテピアノのフェデリカ・ヴァーリもラ・ガイア・シエンツァの共同設立者。イタリア、コモに生まれ、コモ音楽院でピアノとハープシコードを学び、室内楽の演奏家として活動後、1980年にラ・ガイア・シエンツァを設立しています。現在はコモ音楽院で室内楽とフォルテピアノを教えています。
フラウト・トラヴェルソのマルコ・ブローリは1970年、ミラノに生まれ、ミラノ音楽学校、ヴェネチアのマルチェッロ音楽院などで学び、その後フラウト・トラヴェルソをマルク・アンタイらに学びました。彼もイル・ジャルディーノ・アルモニコのメンバーであり、アッカデミア・ビサンチナなど名のある古楽器オケののメンバーでもあります。現在はパルマのアッリーゴ・ボーイト音楽学校、ミラノのクラウディオ・アバド音楽学校でフラウト・トラヴェルソを教えています。
これらの腕利きメンバーによって、ハイドンのフルート三重奏曲が穏やかに響きわたります。
Hob.XV:16 Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
鮮明な録音によって、空間にフラウト・ドラヴェルソ、フォルテピアノ、チェロが浮遊するように響きわたります。実に穏やか、オーソドックスな演奏。奇をてらった感じは皆無。リズムは規則正しく、ただただ各楽器の美しい音色が響きわたるのみ。このところ突き抜けた表現の演奏にいろいろ触れてきたからか、逆にこのオーソドックスさが新鮮に感じます。フォルテピアノのフェデリカ・ヴァーリが安定していながらも、イキイキとしたタッチで基調をつくっており、そのリズムにブローリとベスキが安心して身を委ねている感じ。極上のオーソドックスさ。単調に感じないのは、それぞれのパートの演奏に絶妙なメリハリを施しているからに他なりません。最初の楽章から爽やかな音楽に癒されます。
短調の印象的なメロディーが美しい2楽章。フラウト・トラヴェルソが軽やかな陰影に彩られたメロディーに仕立てあげます。フォルテピアノはドレスデンで1790年から95年に造られたルードヴィッヒ・ドゥルケン(Ludwig Dulken)という楽器のコピーですが、実に柔らかいいい音色。ヴァーリの自然なタッチが楽器の一番美しい音色引き出している感じ。
そして軽やかな印象を保ったまま、適度に快活なフィナーレにすっとつなぎます。録音が良いので各楽器の音色の美しさと、溶け合うハーモニーの美しさが際立ちます。演奏者の個性ではなく、純粋にハイドンの曲の美しさに身を任せらる極上の演奏と言っていいでしょう。
Hob.XV:15 Piano Trio (Nr.29/op.59-2) [G] (before 1790)
フラウト・トラヴェルソの美しい響きと、安定した演奏は全く変わらず、純粋に音楽を楽しむことに徹することができます。この曲の冒頭からしばらくの絶妙な転調の妙味と、ハイドンの機転を存分に堪能。脳から癒し成分が全身に回って、批評的思考回路が完全に停止(笑)。すでに気分は極楽浄土へ旅立った気分。この境地、実際に聴いていただければきっとわかります。広々とした空間にトリオの音色がゆったりと響きわたり、無駄な表現意欲によるアクセントもなく、淡々と音楽が流れます。奏者自身も無我の境地なのでしょう。クイケントリオでもこういった境地を感じますが、無我度は更に上を行きます。
美音だからこそ、控えめな表現が冴えるアンダンテ。これまでチェロに触れずに来ましたが、耳を澄ますと、完ぺきな脇役ぶり。音量も表現も控えめなんですが、フラウト・トラヴェルソとフォルテピアノの影から微塵も飛びださす、完ぺきなサポート。音楽に厚みの気配だけを加える見事さ。透明感あふれるアンサンブルは実はチェロのパオロ・ベスキの存在が大きいのかもしれません。いずれにせよ3人の絶妙な呼吸によってこの素晴らしい音楽が成り立っています。
ハッとするようなハイドンのアイデアによるリズムの面白さをさりげなく感じさせる終楽章の見事な入り。中間部でのフォルテピアノ低音のアクセントの面白さは、楽器の音色を知り尽くしたハイドンならではの表現。途中で静寂を感じさせる長い休符を挟み、作曲者をリスペクトするよう。表現意欲が前のめりにならずに実に心地よいですね。
Hob.XV:17 Piano Trio (Nr.30/op.59-3) [F] (before 1790)
曲ごとに千変万化する着想に脱帽しながら聴き進めます。モーツァルトのようなわかり易いひらめきではありませんが、このハイドンの着想の豊かさは、音楽を愛する人にこそ響く凄さがあります。前に使ったアイデアは決して使わないとでも思って書いているのでしょう。メロディーも聴かせどころも音色もすべてが新鮮。この曲は何回聴いても音楽の展開の新鮮さに驚きます。もちろん、極上の演奏だからこそ、着想の面白さに純粋に浸ることができるわけです。
さらに驚きに満ちた2楽章。この曲は2楽章構成です。練習曲のようなフォルテピアノのメロディにフラウト・トラヴェルソが加わることで、音楽が実に豊かになります。もちろん、チェロの存在もありますが、あいかわらず控えめな役に徹しています。ちょっとハッとさせられる中間部を挟んで主題が帰ってくる安心感も実に巧みな設計。変奏の一つ一つがキレているので音楽が弾みます。見事。
Hob.I:94 Symphony No.94 "Mit dem Paukenschlag" 「驚愕」 [G] (1791)
これまでのフラウト・トラヴェルソ、チェロ、フォルテピアノの三重奏にヴァイオリンが加わった四重奏に変わります。聴き慣れた驚愕の1楽章が室内楽の透明な響きで再現されます。ヴァイオリンのステファノ・バルネスキが加わったことで演奏スタイルが一変。フルート三重奏の穏やかな演奏から、すこしエッジを効かせた先鋭的な印象が加わります。もともと驚愕は4楽章構成ですが、この編曲ではメヌエットを除いた3楽章構成。主旋律はフラウト・トラヴェルソとヴァイオリン、フォルテピアノが代わる代わる担当します。ヴァイオリンが加わることで響きの印象も変わります。先ほどまでのトリオと異なり、フォルテピアノのヴァーリもリズムのキレを強調してきます。もちろん原曲のオーケストラ版では盛り上がる迫力が一番の聴かせどころですが、それをキレ味で置き換えようとしているようで、音量よりはカミソリのようなキレを強調した演奏。
アンダンテは少々速めのテンポで爽快さで聴かせます。ビックリのアクセントはヴァイオリンの鋭い音色できました。フルート三重奏の落ち着いた完成度の高い演奏とは異なり、即興性というか音楽に戯れるような無邪気さを狙っているのでしょう。驚愕の遊び心を本質的にとらえ、伝えるためにはオーケストラ版の迫力とは異なり自在な即興性で聴かせようということでしょう。1楽章よりもそのことを意識させる自在さがあります。
メヌエットがないので、ちょっと拍子抜けですが、フィナーレの軽やかな入りがうまく描けています。楽器構成の違いをもっとも感じさせないのがこのフィナーレでしょう。ヴァイオリンのバルネスキはかなり自在かつ踏み込んだ弓使い。ところどころにかなりキツイ音も散りばめて変化をつけていきます。心地よさを保っているのはヴァーリのフォルテピアノ。最後は原曲さながらのスリリングなクライマックスにもちこみ終了。これもなかなかの演奏でした。
「悦ばしき知識」という名の団体によるハイドンのフルート三重奏曲と室内楽版の「驚愕」。フルート三重奏曲と驚愕では演奏スタイルを一変させてきました。フルート三重奏曲を前に置いたのは正解でしょう。アルバムタイトルどおり、ロンドンで作曲したハイドンの曲をまとめたアルバムですが、円熟の境地を感じさせるフルート三重奏曲は、オーソドックスな演奏の最高峰と言ってよい素晴らしい演奏。この曲の入門盤として広くオススメできる名演奏です。一方驚愕の方は、ハイドンのロンドンでの圧倒的な評判から室内楽に編曲して楽しむためのものでしょうが、コミカルにさえ感じさせる即興的な演奏でまとめてきました。この表現の多彩さをもつのに、前半のフルート三重奏をしっとりとまとめた手腕は見事の一言。評価は全曲[+++++]とします。
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