作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

モラヴィア四重奏団の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ハイドン)

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久々のクァルテット。

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モラヴィア四重奏団(Moravské Kvarteto)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。収録は1992年6月4日から5日、チェコ南部の街、イェヴィショヴィツェ(Jevišovice)にあるイェヴィショヴィツェ城のチャペルでのセッション録音。レーベルはIVANČICE。

このアルバム、しばらく前にオークションで手に入れたんですが、大手ネットショップではどこでも見かけません。なかなか素晴らしい演奏なので、多くの人に聴いていただきたいアルバムなんですが、惜しいところです。

奏者はチェコのクァルテット。英語名はMoravian Quartetとなります。ウェブサイトがありましたのでリンクしておきましょう。

MORAVIAN QUARTET

もともとの創立は1923年と古いクァルテットですが、実質的には何度か再結成され名前を継いできたようです。最初はチェコのブルノでモラヴィアの現代音楽などを演奏するために結成されました。30年後の1953年にブルノ音楽院の学生たちによってメンバーが一新され、第二の活動期に入りました。1965年年イタリア国際弦楽四重奏コンクールで優勝し、国際的に活躍するようになりました。現在のモラヴィア四重奏団は1986年に再結成された第3期のクァルテット。それ以来活動を続けています。今日取り上げる演奏の録音時のメンバーは下記のとおりです。

第1ヴァイオリン:イジー・ヤホダ(Jiří Jahoda)
第2ヴァイオリン:ヤン・ジュズニーチェク(Jan Řezníček)
ヴィオラ:イジー・ベネシュ(Jiří Beneš)
チェロ:ベドゥジーフ・ハヴリーク(Bedřich Havlík)

さて、肝心の演奏ですが、チェコらしいテンションの高い演奏。特にチェロのきりりとひきしまったサポートが印象的な正統派の演奏。くっりとした表情のなかに味わい深さがにじむ佳演です。

Hob.III:50-56 String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
序章
少々荒々しく感じるほど迫力満点の序奏の入り。4人のアンサンブルは非常に精度が高く、まさに響きが渾然一体となって伝わってくる入魂の演奏。テンポはもちろん遅めなのですが、ゆったりという印象はなく、険しく悠然とした感じ。特に持続音が見事な精度、完璧なバランスで響き、すべてが遅いテンポの曲のこれからのドラマの質の高さを予感させます。リズムは堅固さを感じさせるほど揺るぎ無く、そして彫りの深い造形は音楽の陰影の深さを印象づけます。

第1ソナタ
テンポは動かさず、泰然朗々と奏でられる音楽。それぞれのパートが幾分しなやかにメロディーを奏でますが、音楽に宿る規律は変わらず、キリリと引き締まり、特にチェロの一貫して堅固な演奏が曲の骨格を明確にしています。第1ヴァイオリンは目立ちすぎることなく、他のパートと織り成す和音の絶妙な感触を楽しむような余裕があります。純粋に曲の魅力に耳が集中できる素晴らしい演奏。

第2ソナタ
ここにきて第1ヴァイオリンのイジー・ヤホダのヴァイオリンが輝きを帯びてきて、メロディーの美しさがクッキリと浮かび上がってきました。非常にリラックスした演奏。リズムが前のめりになることはなく、心地よい落ち着きのなか、代わる代わる美しいメロディーが現れます。これまでとは変わって楽天的な癒しに包まれます。やはり持続音に最後まで力が満ちているので、音楽に力があります。

第3ソナタ
こんどは幾分音がやわらくなって、しなやかな響きになります。音の角がとれて柔らかさが増したんですが、フレーズごとにしっかりと表情をつけていくところは変わらず。音楽の落ち着いた濃さも変わりません。極上の音楽を完全にリラックスして浴びる快感に包まれます。ここでもチェロが盤石の堅固さでアンサンブルを支えます。チェロの音に集中すると、かなり表現と音量に幅をもたせていることがわかります。ベドゥジーフ・ハヴリーク、かなりの腕利きとみました。

第4ソナタ
この曲の中でもひときわ遅いテンポでの演奏。他のアルバムでもここまでテンポを落とした演奏はなかなかありません。ここに来て堅固な構成からちょっと踏み出して、長めの休符とセットで印象的なフレーズをちりばめてきます。各楽器の燻らしたような深い音色も印象的に働きます。際立つ孤高の気配。

第5ソナタ
前楽章の遅さとは異なり、この楽章はむしろ速めなテンポ設定。ピチカートのリズムが癒しに働くのではなく、現代音楽のような響きのアクセントとして意図しているようです。これまでの演奏から想像したよりあっさりとやり過ごします。

第6ソナタ
大詰めにきた感のある冒頭の印象的な入り。冒頭の序章同様、キリリとした表情を安定したテンポに支えられて描いていくスタイルに戻ります。踏み込んだ表現を聴かせる演奏も多いのですが、こうした抑えた表現の方が曲の切迫感が伝わってくるような気がします。節度を保った誠実さがにじみ出てきます。

第7ソナタ
最後のソナタ。ゆったりと大らかに、少々枯れた雰囲気も感じさせながら音楽を進めます。これまでのソナタをゆっくりと振り返るようにしみじみとした演奏。各パートが第1ヴァイオリンの存在感に負けないくらい、しっかりとメロディーを刻むと、今度は第1ヴァイオリンがクッキリと響きを研ぎ澄ましてきて、音色によるせめぎ合いを聴くよう。音楽の設計が緻密で、全員の意識がピタリと合った演奏が最後まで続きます。最後はやはり消え入るように。

地震
最後の地震は予想どおり、かなり遅め。スローモーションの地震映像を見ているよう。それが不思議とアーティスティックに感じます。迫力よりも、悠然とした雰囲気が印象的。冒頭の序章で感じた印象が帰ってきた感じ。

歴史あるチェコのクァルテットによる、ハイドンの傑作「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。少々個性的な演奏ですが、演奏には一本図太い筋が通った、他のクァルテットとは異なるもの。全般に遅めのテンポながら、しっかりとした骨格を感じさせ、また楽章ごとの演奏スタイルもしっかりと変えてくるなど、手抜きはなし。聴き終わると重厚な彼らの音楽に乗ったハイドンの美しいメロディが不思議と印象に残る演奏でした。私は非常に気に入りました。評価は[+++++]とします。惜しむらくは入手が容易ではなさそうなこと。クァルテット好きな方は是非とも手に入れて聴いて見られることをお勧めします。

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