【新着】ミナーシ、エメリャニチェフ、トッファーノによるピアノ三重奏曲集(ハイドン)

リッカルド・ミナーシ(Riccardo Minasi)のヴァイオリン、マクシム・エメリャニチェフ(Maxim Emelyanychev)のフォルテピアノ、フェデリコ・トッファーノ(Federico Toffano)のチェロで、ハイドンのピアノ三重奏曲4曲(Hob.XV:25、XV:38、XV:13、XV:1)を収めたアルバム。収録は2013年8月2日から5日にかけて、イタリア、ジェノヴァの西の街モンドヴィ(Mondvi)にあるアカデミア・モンティス・レガリスのホールでのセション録音。レーベルはdeutsch harmonia mundi。
このアルバム、最近リリースされたものですが、奏者の名前に見覚えがあり、注文したもの。ヴァイオリンのリッカルド・ミナーシとフォルテピアノのマキシム・エメリャニチェフの演奏は今年協奏曲集で取り上げています。
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2016/02/15 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】イル・ポモ・ドーロの協奏曲集-1(ハイドン)
2人の情報はリンク先の記事を参照いただきたいのですが、リッカルド・ミナーシは指揮者としても素晴らしい力を持っており、マキシム・エメリャニチェフは最近話題のクルレンツィスによるフィガロの結婚で通奏低音を担当するなどなかなかの実力者です。チェロのフェデリコ・トッファーノは2009年にヴェネチア音楽院を卒業した若手チェリスト。すでに2005年からヴェネト音楽院管弦楽団の主席チェリストを務め、2010年にはアバドが創設したグスタフ・マーラー・ユーゲント管弦楽団、モーツァルト管弦楽団、またヴェローナで毎年開催されるアレーナ・ディ・ヴェローナ音楽祭にも参加するなどかなりの実力者。2012年にロンドンの王立音楽院でバロックチェロを学ぶと、以降はミンコフスキ率いるグルノーブル・ルーヴル宮音楽隊や前記事で取り上げたイル・ポモ・ドーロなどで活躍しています。
実力者3人が揃ってのハイドンのピアノトリオの演奏、これがなかなかのものでした。
Hob.XV:25 Piano Trio (Nr.39/op.73-2) [G] (1795)
ピアノトリオの代表格のこの曲が、今まで聴いたことのないような不思議が雰囲気で始まります。リッカルド・ミナーシのヴァイオリンは、ハイドンではなくまるで中東の音楽のような不思議な響きで入り、エメリャニチェフのフォルテピアノはゆったりと装飾音のようにヴァイオリンにまとわりつきます。ゆったりとしたテンポで瞑想の音楽のように豊かな残響の中にメロディーが漂います。この曲からこの雰囲気をつくっていく発想に脱帽です。まったく想像だにしなかった音楽にびっくり。じきにそのような気配からハイドン自体の音楽が浮かび上がってきて、いつもの愉悦感に包まれていきます。温泉につかってしばらくで体に癒しが回ってきたときのような心境。そういえば冒頭から実に癒しに満ちた音楽という印象でした。
ヴァイオリンの和音の温かい音に包まれるようなポコ・アダージョ。もちろん前楽章以上にゆったりと漂うような音楽が流れます。エメリャニチェフのフォルテピアノはキレの良いタッチではなく鍵盤をなぞるように音を置いていきます。チェロのトッファーノは息の長い音をこちらもゆったりと漂わせます。音楽が熟成しきってゆったりとゆったりと進みますが、ここぞというところでミナーシのヴァイオリンが突然輝きに満ちた美音を轟かせ、はっとさせられます。
これまでの雰囲気を断ち切るようにキレたフィナーレに入り、本当のジプシーの路上パフォーマンスのように、悪く言うと見世物のような誇張された演奏ですが、これが実に面白い。クラシックの本格的な教育を受けた人の演奏ではなく路上でチップが集められる演奏と言えばいいでしょうか。ジプシーロンドとはこう演奏するものだと初めて気づかされました。見事!
Hob.XV:38 Piano Trio (Nr.13) [B flat] (before 1760)
ぐっと時代が遡った初期の曲。今度は初期の曲を余裕たっぷりに演奏を楽しむような入り。音楽とは楽しむために演奏するものだと言わんばかり。このトリオの恐ろしいばかりの才能に気づかされます。すべてのフレーズがイキイキと踊るような躍動感あふれる演奏。今度はエメリャニチェフが主導権をとって愉悦感を存分に表現したタッチで先導します。ミナーシのヴァイオリンは引きずるような流動的なボウイングで新体操のリボンの軌跡のようにメロディーを置いていきます。明るさと仄暗さの間を行き来する実にデリカシーに富んだ音楽の素晴らしさがじわりとつたわってきます。
続くアンダンテはリズムのキレを基調とした演奏。曲ごとに自在にスタイルを変えてきます。キリリと引き締まったリズムに乗りながらもミナーシのヴァイオリンが飛び回って喜びを振りまきます。耳を澄ますとトッファーノのチェロもチェロとは思えなほどのかなりのキレ味。
初期の曲ながらフィナーレの展開の面白さは圧倒的。いつもながらハイドンの発想の豊かさには度肝を抜かされます。その発想にインスパイアされた3人がリズムとメロディーが高度に交錯した見事な演奏で応えます。あまりの見事さに呆然と聴き惚れます。ブラヴォー!
Hob.XV:13 Piano Trio (Nr.26/op.57-3) [c] (before 1789)
前曲のフィニッシュの興奮を鎮めるようなしっとりとした短調の入り。曲の配置もよく考えられています。ミナーシのヴァイオリンの奏でるメロディーのあまりの美しさにきき惚れます。エメリャニチェフとトッファーノの伴奏も完全に息が合っていて完璧。3人の表現のベクトルが微塵もずれることなく調和して、よどみなく音楽が流れます。聴き手の魂を揺さぶる深い音楽。
この曲の2楽章も不思議な音楽ですが、この演奏を聴いてはじめてハイドンの真意を理解したような気になります。冒頭から荒れんばかりの激しい曲調。この曲には、少し前に聴いたヴィヴェンテ三重奏団の見事な演奏がありますが、これは表現の深さでヴィヴェンテを上回るものがあります。次々と変化していく曲に合わせて千変万化する演奏。まるでハイドンの創意を追いかけているような刺激に満ちた演奏。クライマックスに向けてテンションが徐々に上がっていくようすは痛快そのもの。楽器が響ききっていく様子の見事さは圧倒的です。
Hob.XV:1 Piano Trio (Nr.5) [g] (c.1760-62?)
ハイドンのピアノトリオの初期の作品の素晴らしさを際立たせようというのでしょうか。挨拶代わりにジプシーロンドを冒頭に置いたあとは全て初期の曲。しかもいずれの曲もその曲のベストと言ってもいい素晴らしい演奏をならべてきて、最後にXV:1をもってきました。掴みもオッケー、そしてアルバム自体の企画も冴え渡ります。この曲がこれほど面白く響くことを再認識。雄弁なミナーシのヴァイオリン、エメリャニチェフのフォルテピアノの自在なタッチの変化、そして、他の2人の演奏の陰でリズムのキレで演奏を支えるトッファーノと3人とも完璧。印象的なアクセントが響き渡る間に音楽が心に刺さってきます。古楽器の表現力に対するこちらの想像の範囲を完全に超えた演奏。もちろん音色には雅なところもありますが、演奏は現代楽器以上にダイナミックに感じます。
メヌエットにはいるとさらにダイナミック。曲に潜むエネルギーを蘇らせているよう。フォルテピアノもチェロも鋭いアタックで音楽を引き締めています。そして間をおかずにフィナーレに移ります。エネルギーはそのまま、短いながらも創意に満ちた音楽を嵐のような勢いと完璧なコントロールでまとめます。最後まで演奏のレベルは最高な状態を保ったままでした。
イタリア人奏者3人によるハイドンのピアノトリオ4曲の演奏。古楽器によるハイドンのピアノトリオのベスト盤と言っていいでしょう。演奏の技術、精度はもちろん、そうしたことを全く意識させない圧倒的な表現力による素晴らしい演奏でした。エメリャニチェフは前記事の協奏曲集では今ひとつなところもあったのですが、このアルバムでは非の打ち所がありません。3人の息が完全に合った完璧な演奏でした。トリオの名前がなく3人の名前でアルバムをリリースしているところから、今後の録音がどうなるかはわかりませんが、是非ハイドンのピアノトリオをもう少し録音してほしいものです。評価はもちろん[+++++]とします。ピアノトリオに格別な愛着を持つ読者の方、必聴です!
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