ゲルハルト・ウィルヘルム/ヴェルナー・ケルチュ器楽アンサンブルのチェチーリアミサ(ハイドン)

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ゲルハルト・ウィルヘルム(Gerhard Wilhelm)指揮のヴェルナー・ケルチュ器楽アンサンブル(Instrumentalensemble Werner Keltsch)、シュツットガルト・イムヌス少年合唱団(Stuttgarter Hymnuschorknaben)の演奏でハイドンの「チェチーリア・ミサ」、カール・フォルスター(Karl Forster)指揮のベルリン交響楽団(Berliner Symphoniker)、ベルリン聖ヤドヴィガ教会合唱団(Chor der St.-Hedwigs- Kathedrale Berlin)の演奏でハイドンのテ・デウム(Hob.XXIIIc:2)の2曲を収めた2枚組のLP。今日取り上げるチェチーリア・ミサの収録はLPにはPマークが1971年とだけ記されていますが、CDの方には1969年11月、シュヴァイゲルン(Schwaigern)の教会堂でのセッション録音と記載されています。レーベルはEMI ELECTROLA。
このアルバム、先日オークションで手に入れたもの。未入手の演奏だと思って手に入れたところ、よく調べたらCD化もされていました。最近はダブり買いを避けるためにも、店頭で欲しいアルバムがあると、まずは自分の所有盤リストを確認するのですが、このアルバム、見覚えもなければ、リストへの登録もないため入札したのですが、リストへの登録のためネットで色々検索して調べていたところ、このアルバムと同じ演奏のCDがあるではありませんか。しかもそのCD、見覚えがあるどころか、手元にありました。未登録だった理由はマリナーとドレスデン・シュターツカペレの廉価盤セットものCDがヴァージョン違いで2組あるのですが、その片方はダブり盤としてしまってあったというわけ。やはり収録曲はよく確認しないといけませんね。
くだらん前振りはこのくらいにして、演奏者のことをさらっておきましょう。
指揮のゲルハルト・ヴィルヘルムは1918年、シュツットガルトに生まれた合唱指揮者。幼少期に両親から耳の良さを見出され、このアルバムの合唱を担当するシュツットガルト・イムヌス少年合唱団に入ります。またシュツットガルトとベルリンでピアノを学び、エドウィン・フィッシャーに師事。ピアノの腕に限界を感じると、指揮の道に進み、ヴュルテンベルク国立劇場の楽長の地位につきます。戦後すぐの1946年には、1900年に創設され、かつて自らメンバーだったシュツットガルト・イムヌス少年合唱団を再興し、1987年まで合唱団を指導したとのこと。彼の名を冠した録音はあまり多くなく他にはバッハのクリスマス・オラトリオやクリスマスソング集など数枚を見かけるくらい。
また、歌手は以下のとおり。
ソプラノ:エリザベス・スペイサー(Elisabeth Speiser)
アルト:ヘレン・ワッツ(Helen Watts)
テノール:クルト・エクヴィルツ(Kurt Equiluz)
バリトン:ジークムント・ニムスゲルン(Siegmund Nimsgern)
なんと、先日素晴らしい歌曲集をとりあげたエリザベス・スペイサーがソプラノを担当。
Hob.XXII:5 Missa Cellenisis in honorem Beatissimate Virginis Mariae "Caecilienmesse" 「チェチーリアミサ」 (1766)
安定したCDも悪くはないのですが、LPの彫りの深い音色で聴くとこの演奏の魅力が一層引き立ちます。何度か聴き比べたんですが、断然LPの実体感ある響きが勝ります。指揮者のゲルハルト・ウィルヘルムが合唱指揮者と知って聴くと少年合唱の制御の確かさとオケの自然なコントロールに耳が行きます。入りのキリエから無欲の指揮者による切々とした音楽にぐっときます。最初のソロはテノールのクルト・エクヴィルツ。叙情的な伴奏に乗って軽くよく通る声で律儀な名唱を聴かせます。全体にゆったりと響くオケに透き通るような少年合唱がメロディーを乗せ恍惚たる音楽を奏でます。
グローリアは大波が押し寄せるような迫力ある響きから入ります。合唱指揮者だからかオケもコーラスの1つのパートのように音量バランスと素直なフレージングが行き渡って素晴らしいハーモニーを形成しています。豊かな残響の教会堂に満ちる幸せな響きをバックに、今度はエリザベス・スペイサーが驚くほど磨き込まれたビロードのような美声を轟かせます。以前で取り上げた歌曲集でも弱音のコントロールが秀逸でしたが、このアルバムでもコントロールが隅々まで行き渡った美声は健在。
LPをひっくり反して長大なグローリアの続き。今度はアルトのヘレン・ワッツのふくよかに体に響く声と、キリリと角が立ったジークムント・ニムスゲルンのデュエットから四重唱への推移など美しいメロディーが次々と顔をだす聴きどころ。やはり少年合唱が基調となっているので響きの鮮度が高く、オケとコーラスがクッキリと分離して、それにソロが加わることで得られる華やかな響きがえも言われぬ美しさを感じさせます。それにしてもゲルハルト・ウィルヘルムは合唱指揮者とはいえ、あまりに見事なオーケストラコントロール。落ち着いて、この曲独特の愉悦感をじっくりと絞り出すような手綱さばき。これほどじっくりとにじみでるグローリアの美しさはこれまで聴いたことがありません。指揮、コーラス、ソロ、オケすべて完璧に調和して、ハイドンの傑作ミサ曲を見事に盛り上げます。この面はただただ美しいメロディーに打たれるばかり。
レコードを2枚目に変えてクレドに入ります。もはやゲルハルト・ウィルヘルムの術中に完全にはまっています。レコードの面を変えて響きもクリアになるのがアナログの楽しみの一つ。グローリアの美しいメロディーの連続から、切々と迫る音楽に変わりますが、変わらないのがウィルヘルムの見事なコントロール。ぐっと沈み込む曲を経て、祝祭的なサンクトゥス。そして最後に面を裏返して終局のアニュス・デイと最後まで緊張感を保ちながらじっくりと名ミサ曲を聴かせきりました。
これまで聴いたチェチーリア・ミサの中でも出色の出来。とくに宗教音楽の真髄にせまる敬虔な響きと、素晴らしい歌手たちの歌唱、そしてなにより少年合唱の清らかな響き。これらをゲルハルト・ウィルヘルムが見事にまとめ、大曲にふさわしい雄大さと、自然なフレージング、バランスでまとめた完璧な演奏でした。LP独特の彫りの深い響きも手伝って、名曲の風格が一段上がった感じです。もちろん音源は同じですが、このリアルな響きだからこそ感じるエネルギーがあり、素晴らしい録音にも酔いしれました。もちろん評価は[+++++]。この響きに打たれる快感に溺れそうです。
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