マリア・クリーゲル/シュミット=ゲルテンバッハ/ポーランンド室内管のチェロ協奏曲集(ハイドン)

相変わらず、年度末の仕事にまみれております。ようやくひと段落したのでLPを聴いています。

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マリア・クリーゲル(Maria Kliegel)のチェロ、フォルカー・シュミット=ゲルテンバッハ(Volker Schmidt-Gertenbach)指揮のポーランド室内管弦楽団(Polnisches Kammerorchester)の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲2番、1番の2曲を収めたLP。収録に関する情報は記載されておりませんが、ネットなどで調べたところ1982年にリリースされたアルバムのようです。レーベルは独aperto。

マリア・クリーゲルといえば、NAXOSからリリースされたチェロ協奏曲のアルバムがあまりに素晴らしく、昨年のH. R. A. Awardに輝いたことは当ブログの読者の皆さんならご記憶のことでしょう。私もマリア・クリーゲルのチェロをはじめて聴いて、その類まれな表現力にノックアウトされたくちです。

2015/06/20 : ハイドン–協奏曲 : マリア・クリーゲルのチェロ協奏曲集(ハイドン)

そのマリア・クリーゲルがチェロを弾く若い時のアルバムということで、俄然興味が湧いたわけですが、このアルバムへの興味はそれだけではありません。伴奏はなんとフォルカー・シュミット=ゲルテンバッハではありませんか! 以前取り上げた「悲しみ」の素晴らしい演奏で鮮明な印象が残っています。特に彫りの深い弦楽器のキレキレの演奏は他の演奏とは次元の違うものでした。

2011/01/16 : ハイドン–交響曲 : シュミット=ゲルテンバッハ/ワルシャワ・シンフォニアの悲しみ

その印象的な2人が顔を合わせたアルバムということで、聴く前から脳にアドレナリンが噴出されるのを待っている状態。クリーゲルの新盤は2000年録音ということで本盤は18年前、クリーゲル30歳頃の録音、フォルカー・シュミット=ゲルテンバッハの「悲しみ」は1991年録音ということで本盤は9年前、41歳頃の録音ということで、それぞれの若さが演奏に宿っていることでしょう。奏者の情報はぞれぞれの前の記事をご覧ください。

このアルバム、最近オークションで手にいれたものですが、盤は非常に綺麗な状態ですが、いつものようにVPIのクリーニングマシンと必殺美顔ブラシで綺麗に磨きあげてプレーヤーに乗せると、ノイズレスの極上の状態になりました。A面に2番が収録されているので2番から聴きます。

Hob.VIIb:2 Cello Concerto No.2 [D] (1783)
録音は鮮明。ポーランド室内管は非常に柔らかいしなやかな響きの序奏で入ります。シュミット=ゲルテンバッハは実に落ち着いたテンポでオーソドックスに序奏をまとめますが、そこはかとない華やかさが感じられます。クリーゲルのチェロも実にしなやかで柔らかい響き。入りはオケの様子を伺うように大人しめです。NAXOS盤で聴かれた味わい深さはこのアルバムでも共通しており、30歳とは思えない円熟の境地を感じさせます。全般に力が抜けて、軽々と、しかもしっとりと弓を操っている感じです。シュミット=ゲルテンバッハもそれに応えるように、羽毛のような優しいタッチでクリーゲルを支えます。「悲しみ」での力感に満ちた表現とはまったく異なります。ソロに合わせて絶妙なサポート。聴き進むにつれてソロとオケがお互いに非常にデリケートに調和して響いていることに驚きます。クリーゲルもシュミット=ゲルテンバッハもやはり只者ではありませんでした。この演奏が最晩年の録音だといわれてもおかしくない、真に力の抜けた、音楽だけが響く純粋無垢な響き。シュミット=ゲルテンバッハの操るポーランド室内管も絶品。クリーゲルの演奏の本質を見抜いて、完璧に調和させようという意図を感じます。ただのおじさん風の風貌(悲しみのジャケット参照!)から溢れ出る優しい音楽。なんという優しさ。なんというデリケートなフレージング。絶品です。そして最後のカデンツァはクリーゲルのチェロから繰り出される音楽の陰影の深さに圧倒されます。オケが迎えにくるまでにノックアウト。1楽章からあまりの素晴らしさに、脳に溜まっていたアドレナリン全噴出!
この演奏でアダージョが悪かろうはずもなく、冒頭からシュミット=ゲルテンバッハの癒しに満ちたオーケストラコントロールに身をまかせます。クリーゲルも安心して伴奏に身を任せながら演奏しているのがわかります。ゆったりとうねる大波に浮かぶような心境。音量を抑えたところでのクリーゲルのチェロの見事なコントロールはこの楽章の聴きどころでしょう。そして音階の滑らかさ、無理なく伸び伸びと響くチェロの美音。完璧です。
ほのかな郷愁を感じさせるフィナーレの入り。クリーゲルは速いパッセージもあえて丁寧に弾いて、音楽をしっかりと印象付けます。シュミット=ゲルテンバッハとの息の合ったやりとりも変わらず、互いのイメージしている音楽が完全に重なり見事な一体感。少し遅めでメロディーをしっかり演奏していく方向は一貫していて、終楽章のメロディーの美しさが脳裏に焼きつきます。いやいや、期待はしていましたが、ここまで素晴らしい演奏とは思いませんでした。

Hob.VIIb:1 Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
レコードをひっくり返して、今度は1番。オケのしなやかさは変わらず、2番のゆったりした感じから、リスムを少しはっきりさせて晴朗さに振ったようなテイスト。こころでもシュミット=ゲルテンバッハはサポートに徹してクリーゲルを迎えます。クリーゲルは独特の燻らせたような音色で、やはり力の抜けたボウイングで味わい深くフレーズを刻んでいきます。2番よりも高音の伸びやかな鳴きを聴かせる頻度が高いのでチェロの美音が印象的。どこにも無理はなく、淡々と音楽を進めていきますが、音楽自体は実にしなやか。ソロもオケも癒しに包まれ、特に伴奏に乗ってクリーゲルが自在に演奏している感じがいいですね。クリーゲルのカデンツァはあまりに伸びやかで深みのある演奏に再び驚きます。晴朗さに満ちた1番の1楽章が天上の音楽のごとき神々しさに包まれました。
もっと驚いたのがアダージョ。2番とは明らかに異なり、この楽章、深く深く沈む情感を表すがごとく、テンポをかなり落として呼吸も深まり、情感が滲み出します。明らかに2楽章に聴きどころを設定している感じです。クリーゲルのチェロはもはや枯淡の彼方へ。楽譜に潜む気配をさっして思い切り踏み込んできました。チェロの音色は美しさの限りを尽くして鳴き続けます。そしてシュミット=ゲルテンバッハもともに沈み込み、祈りのような時間が流れます。いままで聴いた1番のアダージョでは最も深い音楽。
静寂を振り切るようにフィナーレは快活なオケが新鮮に響きます。よく聴くとオケはさすがにシュミット=ゲルテンバッハのコントロールらしく、特に弦楽器のキレが見事。しなやかさを帯びているのでキレばかりが目立つわけではありませんが、流石シュミット=ゲルテンバッハというところでしょう。クリーゲルも鮮やかな弓裁きで応報。オケも徐々にキレが冴え渡り、陶酔の極致へ。タッチの軽さを保ったままクライマックスへ至る素晴らしい流れ。力みは皆無で音楽が旋回して見えなくなるほどの溶け合いかた。1番も2番とは異なる聴かせどころをもった圧倒的な名演奏でした。

いやいや参りました。このアルバムでのクリーゲル、弱冠30歳ではありますが、演奏は円熟の極み。今更ながらジャケットをよく見てみると、チェロを抱えて笑顔で映るクリーゲルの左には1981年パリで開催されたロストロポーヴィチコンクールで優勝との記載があり、このアルバムはそれを踏まえて録音されたものでしょう。私の見立てはハイドンに関してはロストロポーヴィチも他の演奏も超える決定盤としてもいい絶品の演奏です。クリーゲルばかりでなくフォルカー・シュミット=ゲルテンバッハの振るポーランド室内管もクリーゲルに劣らず絶品。お互いの音楽を深く理解しあった、協奏曲の理想的な演奏と言っていいでしょう。偶然見かけて手にいれたLPでしたが、宝物となりました。もちろん評価は[+++++]とします。

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tag : チェロ協奏曲 LP

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ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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