作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

クイケン/ラ・プティット・バンドのマタイ受難曲(東京オペラシティ)

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前記事に書いた通り、3月5日の土曜日は以前からチケットを取ってあったコンサートにいってきました。

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東京オペラシティ:ラ・プティット・バンド「マタイ受難曲」

ハイドンでも素晴らしい演奏を聴かせるクイケン(Sigiswald Kuijken)とラ・プティット・バンド(La Petite Bande)によるマタイ受難曲という、現代最高の演奏が期待出来る千載一遇の機会。前記事でも触れましたが、クイケンは2011年の来日時、バッハのブランデンブルク協奏曲などを今回と同じ東京オペラシティで聴いています。

2011/07/02 : コンサートレポート : シギスヴァルト・クイケン/ラ・プティット・バンドのブランデンブルク協奏曲

録音では恐ろしく精緻な演奏聴かせるクイケンとラ・プティット・バンドですが、前回実演に接してわかったことは、実演でも恐ろしく精緻な演奏は変わりないということ。精緻といってもエッジの立った演奏とは対極のとても自然なもの。自然に呼吸するように演奏しながら、よく聴くと恐ろしく緻密なことに気づくという感じ。その精緻さでマタイという長大な曲がどのように響くのか、そして近年編成を小さくしてOVPPで響きのピュアさにこだわるクイケンによるマタイがどう響くのか。興味津々でチケットをとりました。

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開演時刻は東京オペラシティでの土曜のコンサートでは定番の15:00。ただしCDだと3枚組になるマタイですので、終了予定は18:00とたっぷり3時間コースです。いつものようにホワイエでワインなどをいただいて脳を覚醒させて開演を待ちます。席はオケを右上から見下ろすことができる好きな2階席。

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定刻となり、オケが登壇して、オルガンに合わせて丹念にチューニング。そしてソロ陣とクイケンが登場。会場はもちろん満員。マタイといえば2組のオケに少年合唱が加わるというのが定番でしょうが、合唱はなく8人のソロに加えて3人のソロが合唱パートまで歌うもの。ソロ陣は以下のとおり。

(下手4人)
ソプラノI:ミンナ・ニーベリ(Minna Nyberg)
アルトI:ルチア・ナポリ(Lucia Napoli)
テノールI & エヴァンゲリスト:シュテファン・シェルペ(Stephan Scherpe)
バスI & イエス:シュテファン・ヴォック(Stefan Vock)

(上手4人)
ソプラノⅡ:マリー・クイケン(Marie Kuijken)
アルトⅡ&証人Ⅰ:リディア・ヴィネス・カーティス(Kidia Vinyes Curtis)
テノールⅡ&証人Ⅱ:バルタザール・ズーニガ(Baltazar Zúñiga)
バスⅡ:イェンス・ハーマン(Jens Hamann)

(奥3人)
ユダ、大祭司カヤパ、祭司長Ⅰ:ニコラ・アッフテン(Nicolas Achten)
ペトロ、ピラト、祭司長Ⅱ:オリヴィエ・ベルテン(Olivier Berten)
ソプラノ・イン・リピエーノ、女中Ⅰ&Ⅱ、ピラトの妻:クリスティン・ネース(Kristien Nijs)

歌手は美女にイケメンぞろいの豪華な布陣です。

オケは少人数ですが左右に2組。オルガンも2組。クイケンは第1オーケストラのヴァイオリン席に座り、自分のヴァイオリンを調弦し終わると、オケに向かって表情でさっと合図を出して、有名な第一部の最初のメロディーがタケミツ・メモリアルホールに響きわたります。いきなり澄み切ったオケとソロ陣によるコーラスの響きに包まれ、落ち着き払いながらも純粋無垢な響きの美しさに包まれます。通例は少年合唱で歌われるパートは後方のソロ3人のなかのクリスティン・ネースの澄んだソプラノが担当。前のソロ陣よりもむしろ通りのいい声と感じるほど澄んで浸透力のある声。

クイケンは指揮するというより、要所でタイミングを指示するのみで、オケはほとんど自律的に演奏を進めます。ヴァイオリンとヴィオラは演奏する時には立ち上がって演奏しますが、クイケンは座っているときにはじっと他の奏者の演奏を聴き、時折弓で指揮をするような仕草をするのみ。

曲はほどよいテンポでしなやかに進み、レチタティーヴォとアリアなどによって語られる聖書のドラマの合間に癒されるようにコラールが挟まりますが、そのコラールの透き通った美しい響きが鳴り響くたびに癒しが降りそぎます。歌詞は正面のパイプオルガン席に設えられた電光掲示板に表示されるので物語も実によくわかります。長大な曲ながら、流石にオケの精度は素晴らしく、弦楽器、木管楽器、オルガンなど全パートの奏者が穏やかなながら実に活き活きと演奏していきます。ことに第1オーケストラのオーボエは絶品。メロディーが神がかっています。歌手ではエヴァンゲリストのシュテファン・シェルペが非常に美しいテノールを聴かせます。全編に心地よいテノールのレチタチィーヴォが演奏の高貴さを保ちますが、ここぞのメリハリも流石。素晴らしい歌唱でした。長い第一部の最後はさらりと終わり、長い静寂に包まれたあと拍手が降り注ぎます。この日のお客さんはあまりに完成度の高い演奏にのまれていたようで、拍手もじわりと湧き上がるようなものでした。

20分の休憩を挟んで後半も完璧な演奏が続きます。イエスの捕縛から始まり、イエスの罪を裁く裁判、十字架への磔、そしてイエスの死と、その墓収められるまでの物語り。レチタティーヴォとアリアの後にコラールが続く展開が繰り返され、コラールが響くたびに幸福感に包まれます。物語の要所は迫力ではなく少ない楽器による奇異なほどのドラマティックな響きによって表現されます。終盤クイケンは演奏中にヴァイオリンを席に置き、歌手の横に移動してヴィオラ・ダ・ガンバに持ち替えて、クライマックスを古雅な響きで演出します。クイケンの自在な弓裁きで鳴らされるガンバの巧みな演奏はこの日の聴きどころの一つでした。最後にイエスの復活を恐れて墓が封印されてから、終結のコラールまでの澄み切ったクライマックスは感動的。響きが天上に昇華していくような独特の気配を伴った純粋無垢な音楽にホールは完全にのまれ、最後の響きの余韻が消えると暖かい拍手に包まれました。

ホールを揺るがすクライマックスではなく、祈りの純度が心に沁みるような神聖な雰囲気に包まれた時間でした。普段バッハなど聴かない嫁さんも満足そう。もちろんカーテンコールは何度も続き、一旦引き上げたオケまで呼び戻されるほど。時刻は18時をとうにまわり、長大なマタイ受難曲を聴き切ったほどよい疲れと、幸福感が相まったひと時でした。

流石にクイケンのマタイを聴きにくるお客さんは音楽をわかったかたばかりのようで、最後まで舞台に暖かい拍手を送り続けていました。記憶に深く残る素晴らしいコンサートでした。会場でもクイケンのマタイの録音を売っていたのですが、amazonの方がリーズナブルと知っていたので、帰ってから注文しちゃいました。あとでのんびり楽しむことにしましょう。

なお、プログラムに挟まれたチラシによると、ラ・プティット・バンドはこれだけ素晴らしい演奏をしながらも、ベルギー政府の補助金の大幅カットにともない財政難とのこと。クイケン自筆の書籍の日本語訳を購入する寄付を求めていました。これが3万円とちょっと勇気がいる額。1万円ならば寄付しちゃったんですが、、、(嫁さん許可付)

クイケンの振った「天地創造」は1982年の録音ともう34年も前。そろそろ新盤の録音も期待したいところですし、次回の来日時には是非「天地創造」を取り上げてほしいものですね。




(おまけ)

この日は東京オペラシティに到着したのが早かったので、併設されたアートギャラリーでサイモン・フジワラのアートワークを楽しみました。ちょっと前にテレビで知って見てみたかったもの。

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サイモン・フジワラ | ホワイトデー

「ホワイトデー」と題された展覧会。日本の製菓会社が導入したホワイトデーという儀式の裏に潜むシステムに光を当てた展示とのことで、入るなり床にお金がばらまかれていたり、日本社会の象徴である名刺が超巨大に印刷されたオブジェがあったり、毛皮をバリカンで刈り続ける女性がガラス箱に入っていたりと、かなり風刺が効いていますが、それをまとめるアーティスティックなセンスがいいので純粋にアートに見えるところが流石です。めずらしく撮影可の展示。作品が写真に撮られ、SNSやメディアに流れることも意識しているのでしょう。上のリンクでほとんどの作品を見ることができます。

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入り口を入ると早速買い物袋に入った毛皮にスポットライトがあてられたオブジェ。

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メインの展示の前半。床にはコインがばらまかれ、様々なオブジェが配されています。中にはお札でできた扇子やスターリンのお面まであります。奥には実際に人から型をとったオブジェが多数ならべられ、髪型から中国の兵馬俑を思わせます。

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メインの展示の後半はまさに兵馬俑そのもの。そしてトリッキーな編集を施された映像が流されています。さっと見て30分程度。コンサート前のひと時をアーティスティックに過ごすことができました。

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