タカーチ四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

今日はちょっと古めのアルバム。

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タカーチ四重奏団(Takács Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2およびOp.103の3曲を収めたアルバム。収録は1989年6月、ロンドン近郊のクラウチ・エンド(Clouch End)にあるThe Church Studioという教会をスタジオに改装したところでのセッション録音。レーベルは往時のDECCA。

このアルバムは最近手にいれたもの。タカーチ四重奏団は近年hyperionに移籍してOp.71、Op.74などのアルバムをリリースしており、当ブログでも1度取り上げています。

2012/01/18 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : タカーチ四重奏団のOp.71(ハイドン)

移籍前ははDECCAの看板四重奏団という立場にあり、バルトークやベートーヴェンや弦楽四重奏曲が有名であり、ハイドンでもOp.76のアルバムをリリースしており、流麗快活な素晴らしい演奏でした。ただし今日取り上げるアルバムの存在は最近まで気づいていませんでした。

タカーチ四重奏団は、上の記事の略歴に記したように近年はメンバーが入れ替わって現在も活動していますが、今日取り上げるアルバムはOp.76同様、1975年の創設以来、栄華を誇ったDECCA時代の創設メンバーによるもの。

第1ヴァイオリン:ガボール・タカーチ=ナジ(Gábor Takács-Nagy)
第2ヴァイオリン:カーロイ・シュランツ(Károy Schranz)
ヴィオラ:ガボール・オーマイ(Gábor Ormai)
チェロ:アンドラーシュ・フェエール(András Fejér)

第2ヴァイオリンとチェロは創設以来現在も現役メンバーです。ヴィオラのガボール・オーマイは1995年に亡くなっています。第1ヴァイオリンのガボール・タカーチ=ナジは、1956年生まれのハンガリーのヴァイオリン奏者、指揮者。フランツ・リスト・アカデミーで学び、イェネー・フバイ賞に輝いています。1975年にタカーチ四重奏団を結成し、HungarotonやDECCAに多くの録音を残すことになりますが、1992年、腕の病気によりタカーチ四重奏団を離れざるをえなくなります。その後音楽療法などにより演奏に復帰し、タカーチ・ピアノ・トリオを結成したり、ブダペスト祝祭管弦楽団のコンサートマスターに就任。2005年以降は指揮者としても活躍しています。

ということで、全盛期の流麗な響きが聴かれるでしょうか。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
比較的残響の多い録音ですが、鮮明さもあり、聴きやすい録音です。冒頭からテンポよく非常に流麗な演奏。4人とも絶妙な弓裁きで活き活きと音楽を運びます。流麗さに加えて躍動感に満ち、各パートがダイナミックに音量を変え、それでいてしっかりと一体感を感じさせる演奏。豪華絢爛流麗華麗な演奏と言えばいいでしょうか。ハイドンのイメージはもう少し素朴なものかもしれませんが、不思議と違和感はありません。
そのままの印象だったら少々表面的に感じたかもしれませんが、アダージョに入ると、ぐっとテンポを落として、深みを感じさせます。フェエールのチェロが実に深い音色ではっとさせられます。4本の楽器が織りなすしっとりと深い陰影が実に美しい。アンサンブルはすでに神々しいオーラを帯びていて、弦楽四重奏という構成でここまでの精緻さがだせるものと驚くような精度で曲を進めていきます。あまりの美しさに恍惚となります。
そしてメヌエットで勢いを取り戻しますが、活き活きとしたアンサンブルにさらに磨きがかかり、メロディーが踊るよう。これほど躍動感を感じさせるメヌエットは聴いたことがありません。中間部での磨き抜かれた厳しい表現も秀逸。ガボール・タカーチ=ナジの張り詰めた美音が耳に残ります。
そしてフィナーレは完璧なアンサンブルでまったく破綻せず畳み掛ける迫力が素晴らしいですね。速いパッセージのキレは痛快そのもの。テクニックを意識させないほど完成度が高く、ただただ唸るのみ。ガボール・タカーチ=ナジばかりでなく全員の弓裁きがキレまくってます。ハイドン最晩年の名曲の完璧な演奏! 1曲目から恐ろしいほどの完成度に圧倒されっぱなしです。

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
演奏の躍動感と精度は全く変わらず、この曲のリズムの面白さの表現に冒頭から引き込まれます。アクセントのつけ方が絶妙で、普段聴いている他の演奏で慣れた耳に新鮮な刺激が走ります。なんという面白さ。キリリと引き締め、すっと力を抜くかと思うと、ぐうっと力を入れるなど自由自在。緩急のコントロールの面白さも加わって、実に豊かな音楽となります。もちろん全員キレキレですが、聴かせどころはキレではなく音楽の表情のめくるめく多彩さ。それに各楽器の音色の違いが加わり、驚くほど刺激に満ちた演奏。前曲以上の完成度に完全に圧倒されます。
続くメヌエットはさらに面白い。ハイドンが書いた楽譜に、作曲者が思いつかなかった色彩を加えて、音楽の色彩の豊かさをさらに豊かなものにしています。リズムのキレとしっとりとした癒しの対比も見事。そしてさっと表情を変える切り替えの妙。
そしてハイドン最晩年の枯淡の境地がにじみ出るアンダンテ。それを踏まえて表情の変化を抑えて淡々と演奏しますが、徐々に豊かな表現力が顔をのぞかせ、なんとも言えない味わい深い音楽に変化していきます。チェロの渋い音色に寄り添うようにヴァイオリンが蝶のように飛び回ります。まさにハイドン最晩年の澄み切った心境を表すような純粋無垢な音楽。弦楽四重奏というジャンルを作ったハイドンが最後に到達した澄み切った世界。あまりに美しいチェロの音色にとろけそうです。最後にぐっと高まり、再び平安な音楽にもどるところの音楽を書いたハイドンの心境はどのようなものだったか、遠い昔に思いを馳せます。
郷愁を断ち切るようなグランドフィナーレ。完成した最後の弦楽四重奏曲の終楽章は、過去へのこだわりも何もない純粋に弦楽四重奏の充実した響きを聴かせる楽章。心なしか力を抜いてゆったりと演奏することで、明るいアンサンブルに寂しさのような影がほんのりと帯びています。翳りのある快活さと言えばいいでしょうか。最後も豊かな響きの中にどこか優しさのあるハーモニーで終わります。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
そしてハイドン絶筆の作品。アンダンテは前曲の終楽章同様、意外にさっぱりとした表情のなかにほのかな詩情が漂います。テンポは速めですが、行書の筆使いのようにしなやかな音楽が流れます。最後になっても途切れぬ創意を感じさせる展開。はっとするような変化に、すっと静寂を聴かせたり、聴き手の予想を超える音楽が流れます。
そして最後のメヌエットも弦楽器4本が響きあってつくられる音楽としては実に意欲的な展開を聴かせます。タカーチ四重奏団はハイドンの創意に敬意を払うかのように、これまで多彩な響きを聴かせてきたのとは対照的に力の抜けた演奏で応じます。演奏者の心境もハイドン自身に近づいていこうとしているようです。これが絶筆とは思えないほどの筆致。この曲のつづきはハイドンの頭のなかにだけ響いていたのでしょうが、それを楽譜に記す力残っていなかったのでしょうね。

タカーチ四重奏団全盛期の演奏でハイドンの最後の3つのクァルテット。演奏の是非ということすら忘れさせる素晴らしいものでした。全曲とも豊かな音楽が流れ、奏者が魂て弾いているような素晴らしい演奏です。ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏の頂点と言ってもいい素晴らしさ。特にこの最晩年の作品の澄み切った心情を実によく表していると思います。時代とともに演奏スタイルも変わっていきますが、この豊かさを超えるのは難しいでしょうね。心を揺さぶる1枚でした。評価は[+++++]とします。未聴の方は手に入るうちにどうぞ。

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tag : 弦楽四重奏曲Op.77 弦楽四重奏曲Op.103

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ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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