ヴィヴェンテ三重奏団のピアノ三重奏曲集旧盤(ハイドン)

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ヴィヴェンテ三重奏団(Trio Vivente)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲5曲(Hob.XV:26、XV:18、XV:19、XV:20、XV:31)を収めたアルバム。収録は2001年、フランクフルトの近郊にあるフェステブルク教会(Festeburgkirche)でのセッション録音。レーベルはTACET傘下のEIGENART。
先日の記事はこちら。未読の方は是非お読みください。
2016/01/21 : ハイドン–室内楽曲 : ヴィヴェンテ三重奏団のピアノ三重奏曲集(ハイドン)
私自身も衝撃を受けたアルバムですが、その後当ブログの読者の方がその衝撃を追体験されたことはコメントを見ていただければわかる通りです。なによりそのコメントのディープさにこのアルバムの凄さがあらわれております。
今日取り上げるアルバムは、ヴィヴェンテ三重奏団のデビュー盤にあたり、前アルバムから5年遡る2001年の録音でメンバーは変わらず。
ヴァイオリン:アンネ・カタリーナ・シュライバー(Anne Katharina Schreiber)
チェロ:クリスティン・フォン・デア・ゴルツ(Kristin von der Goltz)
ピアノ:ユッタ・エルンスト(Jutta Ernst)
ジャケットの表にメンバーの姿はありませんが、裏面には3人がにこやかに写った写真が載せられています。ライナーノーツにも別の写真が2枚掲載されており、こちらでもあの睨みを利かせていたユッタ・エルンストも笑顔で写っています。デビュー盤では笑顔を見せていたものの、その後のアルバムでは演奏の質を世に問う厳しい姿勢に変わったということでしょうか。
肝心の演奏は、ヴィヴェンテらしいキレのいい演奏で、展開部での驚くような踏み込みもありながら、しっとりと滑らか音楽を聴かせるところも増えて、前のアルバムの火を吹くような鮮やかさが聴きどころだったのに対して、録音時期の早いこちらの方が逆に円熟を感じるほど。そう、こちらもいいんですね。
Hob.XV:26 Piano Trio (Nr.40/op.73-3) [f sharp] (1795)
聴き慣れた成熟期の名曲。これがデビュー盤とは思えない、躍動感に軽さと立体感としなやかさが高度にバランスした入り。非常に研ぎ澄まされた音楽が流れますが、気を緩めたところでピアノのユッタ・エルンストの楔を打つようなアクセントに驚きます。来ました来ました! 穏やかなだけでは済まされるわけはないとは思っていましたが、いきなりヴィヴェンテペースに引き込まれます。もちろんヴァイオリンもチェロも牙を剥くところはしっかり剥いてきます。ただし、穏やかな部分の美しさはかなりのもの。ハイドンの美しい音楽が磨き抜かれが響きで流れます。
そして交響曲102番と同じメロディーのアダージョは夢見るような美しさ。やはり時折はっとするようなアクセントをつけて美しいメロディーを引き締めます。険しささえ感じさせる孤高の美しさ。録音会場は近代的な造りの教会ですが、響きが美しく演奏が映えます。まるでラ・ショー=ド=フォンの名録音会場、Salle de Musiqueで録っているよう。
フィナーレは落ち着いて、ピアノのタッチのキレとヴァイオリン、チェロのアンサンブルの美しさを聴けといわれているよう。あえて牙は剥かずにじっくりと音楽と対峙させるあたり、恐ろしいばかりのセンスです。最後をキリリと締めて終わります。
Hob.XV:18 Piano Trio (Nr.32/op.70-1) [A] (before 1794)
いやいや美しい。磨き抜かれたさりげない音楽。大排気量のロールスロイスがゆったり街中を走る時の余裕あるしなやかな走りのよう。持てる力がありながら、ハイドンの美しい曲を軽々と、しかも素晴らしい完成度で演奏していきます。それでも鋭いキレは隠しきれず、演奏は柳刃で切りたての刺身のような凜とした新鮮さを保っています。徐々にユッタ・エルンストがアンサンブルを煽るようにアクセントをつけ、それにヴァイオリンとチェロが応じます。これぞ室内楽アンサンブルの醍醐味。
そしてアンダンテですが、これほど美しい演奏がこれまであったでしょうか。短調の憂いに満ちたメロディーをユッタ・エルンストが綺羅星のように磨きぬかれた珠玉の音色で演奏、そしてヴァイオリンのアンネ・カタリーナ・シュライバーのしっとりと鋭利な音色でメロディーが引き継がれます。完全に抑制された表現でこそ浮かび上がる美しさ。とろけちゃいます。
そして絶妙に軽いのに躍動するフィナーレ。ヴァイオリンとピアノが完全にシンクロ。もちろん途中からチェロも鋭いアクセントで参戦。実に余裕たっぷりに疾走するアレグロをキレキレのアンサンブルで表現。この超絶的な軽さと疾走感。奇跡の表現と言っていいでしょう。2曲目にしてメルトダウン。素晴らしい。
Hob.XV:19 Piano Trio (Nr.33/op.70-2) [g] (before 1794)
穏やかな曲想の曲ですが、ディティールに輝きが満ちてアンサンブルの各パートが絶妙に絡みあいます。艶やかな音楽に身を任せる快感。ゆったりとした音楽に癒されます。音楽が進むにつれて徐々にコントラストがクッキリしてきて音楽の起伏が鮮明になってきます。力の抜けたユッタ・エルンストのピアノの音色の美しさに惚れ惚れ。そして終盤のアンネ・カタリーナ・シュライバーのヴァイオリンの音階のなんという軽さ。牙を剥く場面はないんですが、牙を剥いた以上のインパクトがあります。
2楽章はしなやかに流れる川のような滑らかなピアノの音階で聴かせます。迫力ばかりが聴かせどころではないのよと言いたげ。
フィナーレは適度なアクセントとしなやかさを保った落ち着いた演奏。デビュー盤なのに巨匠の演奏のように落ち着き払った音楽。
Hob.XV:20 Piano Trio (Nr.34/op.70-3) [B flat] (before 1794)
ハイドンの書いた曲の素晴らしさに聴衆の耳を集中させようとしているかのように、オーソドックスに攻めていきますが、これまでの曲同様、リズムのキレと、軽々としたタッチ、要所のキリリとたアクセントは隠せるはずもなく、実にバランスのいい演奏。奏者の創意と作曲者の創意のバランスがとてもいいところで保たれている印象。前のアルバムではキレ味で聴かせていましたが、この穏やかさも実にいいものです。まさに極上の音楽。
そして、つづくアンダンテ・カンタービレはXV:18同様、抑制されたタッチで描かれる究極の美しさ。絶品です。フィナーレも落ち着きを保ってなんとも言えない完成度。アンネ・カタリーナ・シュライバーの美音も華を添えます。
Hob.XV:31 Piano Trio (Nr.41/op.101) [E flat] (1795)
最後の曲。アルバムの題名にもなった「ヤコブの夢」という副題がついた2楽章構成の曲。曲想からか、終始落ち着いた表現。牙はまったく剥かず、逆にアクセントは抑えてしなやかさを狙った演奏。枯淡の味わいすら感じさせます。ユッタ・エルンストも美しい音色を響かせることに集中している様子。アンネ・カタリーナ・シュライバーも艶やかにメロディーを奏でます。穏やかな音楽が実に心地よい楽章。
続くアレグロはピアノの適度なリズムの躍動に乗ってヴァイオリンとチェロが自在に駆け回ります。ここにきて目立つアクセントはまったくなく、音楽の起伏に沿った適度なメリハリを利かせて音楽を進めます。最後にキリリと引き締めて終わるところでようやくヴィヴェンテらしい響きをちらりと見せます。
通しで聴いてみると、前半には挨拶代わりか「あの」キレ味を聴かせますが、演奏が進むにつれて徐々に穏やかになり、ハイドンの音楽に素直な演奏になっていきます。キレこそヴィヴェンテの本領ですが、演奏の完成度というか音楽の完成度はこの穏やかなヴィヴェンテの方にあるように聴こえます。私はこちらのヴィヴェンテの方も気に入りました。奏者のテクニックは前アルバムで証明済みですが、このデビュー盤では表現意欲と音楽のバランスが絶妙で完成度はむしろこちらのアルバムの方が上かもしれません。録音の前後関係はこちらがデビュー盤で先ですが、演奏はこちらの方が円熟を感じるほど。デビュー盤でここまでの音楽を聴かせたということの驚きも大きいですね。もちろんこちらも全曲[+++++]。前盤でのけぞった方、こちらのアルバムも必聴です(笑) 手に入るうちにどうぞ!
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