【新着】ダントーネ/アッカデーミア・ビザンティーナの交響曲78番〜81番(ハイドン)

オッターヴィオ・ダントーネ(Ottavio Dantone)指揮のアッカデーミア・ビザンティーナ(Accademia Bizantina)の演奏による、ハイドンの交響曲78番から81番までの4曲を収めた2枚組のアルバム。収録は78番と80番が2015年9月6日から9日、79番と81番が6月30日から7月3日、イタリア中部のアドリア海沿いの街ラヴェンナ近郊のバニャカヴァッロ(Bagnacavallo)のテアトロ・ゴルドーニ(Teatro Goldoni)でのセッション録音。レーベルは英DECCA。
ハイドン愛好家の方ならすでにご存知だと思いますが、このアルバム、オッタヴィーオ・ダントーネとアッカデーミア・ビザンティーナがハイドンの交響曲全集の録音を発表した直後にリリースされた先行発売盤。
ご存知のようにDECCAは、傘下のL'OISEAU-LYREレーベルにホグウッドとAAMによる交響曲全集のプロジェクトを進めていましたが、ほぼ八割ほどの録音を残して頓挫。しかもホグウッドは2014年に亡くなってしまいました。また、近年素晴らしい録音でこちらも全集を目指していたトーマス・ファイ率いるハイデルベルク交響楽団の方も22枚のアルバムをリリースしたところでファイの大怪我により全集を断念したというニュースが多くのハイドンファンを悲しませました。
そんな状況の中、ダントーネがハイドンの交響曲全集を録音するとの発表があり、しかも短期間で録音して全集としてリリースするとの情報ということで、一気に注目を集めています。ハイドンの交響曲全集はジョバンニ・アントニーニとイル・ジャルディーノ・アルモニコが2032年までかけて徐々に全集を録音するというプロジェクトもあり、ハイドンの魅力が徐々に市場に広がる萌を感じます。
さて、肝心のダントーネですが、ハイドンの録音はL'OISEAU-LYREレーベルから協奏曲集を1枚リリースしており、以前取り上げています。
2010/09/06 : ハイドン–協奏曲 : ダントーネのハープシコード協奏曲
記事を読んでいただければわかるとおり、このアルバム、とんがった演奏でちょっと力任せすぎるところがあり、あまりいい印象を持ちませんでした。今回交響曲のアルバムをレビューするにあたって、今一度聞き直してみましたが、レビュー時の印象ほど強くはありませんが、やはり力みというか創意が先行しすぎてちょっとギクシャクするという印象は抜けませんでした。
ということで、ダントーネ、ハイドンの交響曲全集という大山脈に挑むにあたり、非常に地味な4曲を選んできました。82番からはパリセットであり、ハイドンの交響曲でも最もマイナーなところ。しかもこの4曲、ホグウッドが録音を残した最後の77番以降の4曲といういこで、DECCAのこの全集にかける執念のようなものも感じます。ダントーネ、どうくるのでしょうか。
Hob.I:78 Symphony No.78 [c] (1782?)
やはり力感に満ちた響きからきました。録音会場であるテアトロ・ゴルドーニはネットで調べるとごく小規模な伝統的な造りの歌劇場。おそらく残響はそれほどないであろう歌劇用の小空間ゆえ、録音はDECCA得意のオンマイクによるリアルなもの。同じ古楽器のホグウッドの繊細さとは異なり、迫力重視。古楽器オケゆえもう少し残響を生かしたほうが良いと思いますが、それでもリアリティと迫力重視の録音は悪くありません。心配された過度な力みはなく、適度な範囲で、オケのキレはまずまず。ダントーネらしく踏み込んだリズムのキレで聴かせる1楽章。
続くアダージョは、癒す方向ではなく、やはりリズムの面白さを強調するように緊張感を保った音楽。全集の最初を飾る録音だからか、リラックスしきっていない感じが残ります。一貫して低音弦の迫力重視の響き。
アダージョの余韻をそのまま引き継いでのメヌエット。オケの精度自体は素晴らしく、またしても低音弦が大活躍。
短調の独特のメロディーが印象的なフィナーレですが、ダントーネはオケを十二分にコントロールしてキレのよさで一気に聴かせます。力感は違和感をもよおすほどでもなく、適度な範囲。特徴的なメロディーをキーに変奏を重ねて、この小交響曲をまとめます。まだちょっとオケがほぐれていない感じ。
Hob.I:79 Symphony No.79 [F] (before 1784)
79番は古楽器オケでの初録音。録音日が異なるせいか、こちらの方がオケがリラックスしている感じ。晴朗なハイドンのメロディーをオケが楽しんで演奏している感じ。もちろんダントーネ流のキリリとした緊張感ある表情も保っていますが、躍動感が一段上がります。ハイドンの交響曲に特有な、実に楽しげに盛り上がる雰囲気がうまく出ていて、前曲とは対照的にノリがいい演奏。この頃のハイドンのキーになるメロディーを生かして曲をまとめる素晴らしい筆致が再現できています。曲が進むにつれてダントーネ流の音楽に慣れてきて、身を乗り出して聴くようになります。
2楽章はようやく力が抜けて、ゆったりとした癒しを感じる音楽が流れます。曲を楽しむ余裕を感じる演奏。秀逸なのが2楽章の後半。コミカルなメロディを実に軽いタッチで奏でて、この楽章の面白さが際立ちます。協奏曲集でみられた強引なところは見られず、ハイドンらしいユーモアをうまく引き出しています。
メヌエットは力がさらに抜けて、オーソドックスに近い表現。素直な演奏が曲の面白さを引き出します。そしてフィナーレは抑えた入りから、リズミカルに音楽が弾みますが、徐々にダントーネの棒にも力がみなぎり、オケもそれに応えて力感がみなぎっていきます。複雑に絡みあうメロディーを織り込みながらユーモラスに音楽をまとめます。
Hob.I:80 Symphony No.80 [d] (before 1784)
CDを変えて2枚目。1曲目の78番と同じ日の録音。短調で畳み掛ける激しい冒頭の入り。やはり少々リズムに硬さを感じますが、1曲目ほどではありません。うねるような音量のコントロールで聴かせどころをつくりますが、どこか力みが残っている感じですね。
短い1楽章のあとは10分以上かかるアダージョ。すこしオケがほぐれて、さらりとした表情で独特のメロディーを重ねていきます。徐々に盛り上げる手腕はなかなかのもの。音量を抑えた部分の描写が丁寧になり、音楽がしなやかさを増してきます。
メヌエットはリズムを適度なキレでまとめたオーソドックスなもの。微妙な強弱とフレージングでまとめます。
この曲の聴きどこはフィナーレ。ユニークな冒頭を発展させてオーケストラの機能美のデモンストレーションのように多彩な展開。途中リズムが重くなる場面もありますが、非常にユニークなこの楽章をコミカルに仕立てながら、オケを鳴らしきる手腕は確かなものがありますね。
Hob.I:81 Symphony No.81 [G] (before 1784)
最後の81番。冒頭からいい意味で力感みなぎる響き。オケが生気に満ちてキレ味抜群。これはいい。ダントーネの一番いいところが出た感じ。表現意欲に満ちた演奏ですが、過度にならずにオーケストラにエネルギーが伝わり、奏者全員の素晴らしい一体感を感じる音楽が流れだします。ファイの創意がめくるめく変化しながら炸裂する演奏とは少し違いますが、ハイドンの交響曲に潜むエネルギーを新たな解釈で発散させている感じ。
つづくアンダンテは穏やかな入り。中間部で鮮烈なキレを聴かせて変化をつけますが、表情は一貫して穏やか。くっきりとした対比が音楽に深みを与えます。
このアルバムで最もキレのいいメヌエット。音が立ってます。フレーズごとの表情の描き分けも見事。テンポと表情が次々と変わる面白さに引き込まれます。
そしてこれぞハイドンという痛快なフィナーレ。ダントーネのベストコンディションでの弾ける躍動感と推進力。つなぎの部分での騒めくような雰囲気も最高。ハイドンらしい機知に富んだ構成の面白さも万全に表現しています。最後はダントーネらしい灰汁の強さを感じさせますがくどい感じはせず、うまくまとめます。
ハイドンの交響曲全集の録音のリリースを前に先行発売された4曲ですが、危惧された力の入りすぎた演奏とはならず、流石に全集を意識してか、うまくまとめてきました。最後の81番はダントーネの最もいい部分が感じらえる秀演でした。私はこの81番と79番は気に入りました。この先行発売盤、曲によってムラはあるものの、ダントーネのいい部分もわかったので、おそらく多くのハイドンファンの方は全集がリリースされれば購入することでしょう。そういう意味では先行発売した意味があったということになりますね。評価は81番、79番が[+++++]、他2曲は[++++]とします。
全集は今年中にはリリースされると発表されていますので、リリースを楽しみに待つことにいたしましょう。
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