作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ガメリート・コンソートのピアノ三重奏曲など(ハイドン)

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最近すっかりピアノトリオの魅力にとり憑かれています。ということでピアノトリオの名盤、ただし激マイナー盤を取り上げます。

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ガメリート・コンソート(Gamerith Consort)の演奏で、ハイドンのピアノ三重奏曲(Hob.XV:12)、弦楽四重奏曲「皇帝」の2楽章をハンマーフリューゲルで弾いたもの、スコットランド歌曲集の2曲を編曲したもの、ロンドン・トリオの2番(Hob.IV:2)、ピアノ三重奏曲(Hob.XV:24)の5曲を収めたアルバム。収録はPマークが1982年。レーベルは今は亡きKOCH傘下のedito pro musica。

このアルバム、最近ディスクユニオンで見かけて手に入れたものですが、かなり困った造りなんです。このアルバムがリリースされた1982年といえばLP全盛期にCDがはじめてリリースされた年。CD最初期のリリースですが、ジャケットにライナーノーツは完全にLP用のものを無理やりCDの大きさに縮小したもの。つまり字がすんご〜い小さい。今までここまで小さい字のライナーノーツには出会ったことがありません。すなわち米粒に書いた文字を読むがごとき苦労をともなうもので、初期とはいえ老眼症候群の私には非常に読みづらい(笑) それでも、ルーペを駆使して極小フォントの英文を読んでみると、1982年とはハイドンの生誕150年のアニヴァーサリーということで録音されたもののようで、ハイドンがエステルハージ家で過ごした最後の10年間に作曲された作品を集めたものだとわかりました。

奏者のガメリート・コンソートのピアノトリオのアルバムは実は手元にもう一枚あって、そちらもなかなかいい演奏なんですが、今日取り上げるアルバムは、さらにいい演奏なのでレビューに取り上げた次第。

ガメリート・コンソートは1967年に設立された団体で、主に17世紀の作品を古楽器で演奏するアンサンブルとのこと。小さい字をさらに読んで、所有盤リストに登録すべく奏者などを調べていると、ハンマーフリューゲルを弾いているのは、ニコラス・マギーガン。マギーガンといえば、当サイトで主催するH.R.A. Award 2015の交響曲部門を見事射止めたニコラス・マギーガンです。さらにびっくりしたのが、このマギーガン、4曲目に収録されているロンドントリオでは、フラウト・トラヴェルソまで吹いています。あわてて元から手元にある方のガメリート・コンソートのアルバムを取り出して調べてみると、録音は1988年でハンマーフリューゲルはフランツ・ツェビンガーという別人でした。ということで、1982年当時のガメリート・コンソートのメンバーがマギーガンだったということですね。

2015/12/31 : H. R. A. Award : H. R. A. Award 2015
2015/05/09 : ハイドン–交響曲 : 絶品、ニコラス・マギーガンの交響曲集第2弾(ハイドン)
2011/09/03 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ニコラス・マギーガンのロンドン、88番、時計

マギーガンの略歴はロンドンの記事を御覧ください。

Hob.XV:12 Piano Trio (Nr.25/op.57-2) [e] (1788)
まずはピアノトリオの傑作を冒頭にもってきました。この曲と最後の曲のメンバーは以下のとおり。

ヴァイオリン:ゲルトラウド・ガメリート(Gertraud Gamerith)
チェロ:リチャード・キャンベル(Richard Campbell)
ハンマーフリューゲル:ニコラス・マギーガン(Nicholas McGegan)

古楽器によるテンポ良い曲の入り。古楽器の演奏から想像される典雅なものではなく、かなりダイナミックなもの。しかも、この前取り上げたヴィヴェンテ三重奏団ばりの推進力とキレを彷彿させるもの。もちろんその原動力はニコラス・マギーガンのハンマーフリューゲル。1楽章は速めのテンポに乗って鮮やかに冴え渡るタッチで一気に描き上げる快演。アクセントのキレかたも尋常ではありません。全員のキレが冴えすぎて怖いくらい。
素晴らしいのがつづくアンダンテの沈み方。キレ良い1楽章から見事に切り替え、じっくりと音楽を造っていきます。まさに緩急自在の孤高の美しい音楽。フレーズごとに巧みにテンポを揺らすマギーガンのハンマーフリューゲルに合わせて、ゲルトラウド・ガメリートの伸びやかな古楽器のヴァイオリンが寄り添います。ヴァイオリンの音色の雅な美しさも聴きどころ。チェロもリズムがキレていて鮮度抜群。途中踏み込んだ抑揚で音楽を盛り上げます。
3楽章で再び冴えたリズムを取り戻し、素晴らしい吹き上がりで聴くものを圧倒、徐々にテンションを上げながら頂点にむかっていることを敢えて意識させる高度な演出。終盤の迫力は圧倒的。古楽器でこれほどのダイナミクスを聴かせるとは。自在なタッチのマギーガンのハンマーフリューゲルが出色の出来。なんというキレ。1曲目から圧倒されます。

Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
2曲目は有名な皇帝の2楽章をマギーガンのハンマーフリューゲル独奏で。ピアノトリオの嵐のような演奏から一転、しっとりと落ち着いた演奏。テンポもテンションも落として、じっくりと主題を描いたあとは、変奏で曲の多層構造を克明に描いていきます。流石にマギーガン、フレーズ毎の表情の演出が実に巧み。まさに自在な演奏。変奏から溢れる詩情に蒸せ返るよう。訥々とした演奏から湧き上がる郷愁の念。ハンマーフリューゲルの響きの美しさに聴き入ります。

Hob.XXXIa:176 - JHW XXXII/3 No.263 "The blue bell of Scotland" 「スコットランドの青い鐘」 (Anne Grant)
続いてゲルトラウド・ガメリートのヴァイオリンとマギーガンのハンマーフリューゲルによる、スコットランド歌曲の「スコットランドの青い瞳」(Hob.XXXIa:176)と「好きなあの娘はまだ小娘」(XXXIa:194) の2曲をもとにハイドンが編曲した変奏曲。この曲がスコットランド歌曲の美しいメロディーを生かした素晴らしい曲。素朴なメロディーをヴァイオリンの伴奏に乗ってハンマーフリューゲルゲルが自在に奏でます。5分少々の曲ですが、一気にスコットランドへの郷愁溢れる雰囲気に。演奏している方も楽しそう。

Hob.IV:2 Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.2 「ロンドン・トリオ」 [G] (1794)
この曲ではマギーガンがハンマーフリューゲルからフラウトトラヴェルソに持ち替えます。

フラウトトラヴェルソ:ニコラス・マギーガン(Nicholas McGegan)
フラウトトラヴェルソ:ウォルフガング・ガメリート(Wolfgang Gamerith)
チェロ:リチャード・キャンベル(Richard Campbell)

歌曲の「貴婦人の姿見」の美しいメロディーを使った1楽章構成の曲。この曲はクイケン三重奏団による素晴らしい演奏がありますが、もちろんテクニックと深みはクイケンですが、逆に素朴な曲の面白さはこちらに分があります。ゆったりとした雰囲気のなか2本のフラウトトラヴェルソによる実に素朴で美しいメロディーが流れ、曲の美しさに引き込まれます。マギーガンのフラウトトラヴェルソ、悪くないどころか、かなりいい線いってます。クイケンのアーティスティックさに対し、こちらは癒しで聴かせる音楽。心に沁みます。

Hob.XV:24 Piano Trio (Nr.38/op.73-1) [D] (1795)
最後に再びピアノトリオ。1曲目同様、全編にみなぎるエネルギーとキレ。アルバムの最初と最後にこの素晴らしいトリオの演奏をもってくるあたり、まるで一夜のコンサートを聴くような構成。アルバムの完成度という意味でも素晴らしい構成。演奏も絶品。1楽章からのキレに加えてうねるようなエネルギーのコントロール、堂々とした風格、そして軽々と音階を上下するマギーガンの鮮やかなタッチと言うことなし。古楽器によるピアノトリオの頂点と言っていい素晴らしさ。

ガメリート・コンソートによるハイドン晩年のピアノ三重奏曲などの室内楽を収めたアルバム。若き日のニコラス・マギーガンのハンマーフリューゲルとフラウトトラヴェルソを聴ける貴重なアルバムですが、正攻法のピアノトリオを最初と最後に置き、間に美しいメロディーの曲を散りばめるといったアルバムの構成も、もちろん演奏のクオリティも絶品のアルバム。CD草創期のプロダクツゆえ、ジャケットの造りはかなり無理があるものですが、演奏の素晴らしさに目をつむりましょう。まだ手に入りそうですので、室内楽、特にピアノトリオが好きな方(笑)は是非ご入手ください! 評価は全曲[+++++]とします。

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3 Comments

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Skunjp

ハイドンのピアノトリオは未進化?

> まだ手に入りそうですので、室内楽、特にピアノトリオが好きな方(笑)は是非ご入手ください!


ムム、何か名指しされた気が…(笑)

しかしDaisyさんのご推薦の威力はもの凄いですね。Amazonの在庫がどんどんなくなっていきます。

すでにガメリート・コンソート盤は売り切れです。(ヘンデルのオラトリオでおなじみマギーガンがそれほどの才人だったとは!)

さらにヴィヴェンテ三重奏団もあれよあれよと言う間に数が減ってきていたので、あわてて注文しました(汗…2013年発売のもう一枚の方の盤はすぐに売り切れました)

しかし仰る通り、ピアノ三重奏曲はハイドン晩年の円熟した筆致が全くもって素晴らしいです。私もドンドン深みにはまっております。

どうしてこれがもっと評判にならないのでしょうかね。きっと音楽評論家の怠慢ですね。

先日も、とある古いCDの解説を読んでいましたら、いかにもハイドンのピアノ三重奏曲が未進化というか、モーツァルト、特にベートーヴェンに劣っているかのような論調でした。

少なくともハイドン晩年のピアノ三重奏に虚心に耳を傾ければ、どれほど優れた音楽かがわかるはずです。ピアノとヴァイオリン、そしてチェロのバランスにしても、これ以上はないほどのウェルバランスと言うべきで、モーツァルトとベートーヴェンはここから進化したというより、「変化」、あるいは「拡張」、(さらにそれ以後の作曲家はデフォルメ?)と言った方が当たっています。

ハイドンは不動の王道で、すでにハイドンによってピアノ三重奏曲というジャンルの核心的な価値は極め尽くされているではないでしょうか?









  • 2016/01/29 (Fri) 23:08
  • REPLY

Daisy

Re: ハイドンのピアノトリオは未進化?

Skunjpさん、コメントありがとうございます。

> ムム、何か名指しされた気が…(笑)

はい、名指しいたしました(笑)

ちなみに、私の記事の影響でamazonの在庫がどんどん減っているのではなく、私の記事の記述の正当性がSkunjpさんの数多のコメントにより信頼性が高まり、他の読者に影響を与えているというのが実際のところであり、Skunjpさんのコメントの方が影響力があるというのが私の見解です(笑)

ハイドンのピアノ三重奏曲こそ、ハイドンの真髄であるのは間違いのないところ。交響曲や弦楽四重奏曲ほどの知名度がないのは致し方のないところだと思います。モーツァルトやベートーヴェンも含めて、音楽好きの方、特に違いのわかる一部の方が、世評に惑わされずにたどりつく桃源郷というか結界というか、そういったもので良いのだと思います。

やはりモーツァルトの閃きに満ちたメロディーや、ベートーヴェンの苦悩そのものを表現した音楽の訴求力とは異なる、理性と感性の鋭敏なアンテナなしには理解しえない魅力がハイドンの音楽の素晴らしいところだと思います。あえてマイナーなままでいいのではと最近思うようになってきました。裾野の広がりは世俗化という側面もあります。このピアノトリオの素晴らしさを語り合える密かなコミュニティを楽しもうではありませんか。

だんだん秘密結社のようになってきた?(笑)

  • 2016/01/30 (Sat) 01:18
  • REPLY

Skunjp

「ハイドン党」?

> だんだん秘密結社のようになってきた?(笑)

ふふふ…さしずめ「ハイドン党」ですかな?


今、オシリストリオで嬰ヘ短調XV26の第二楽章を聴いています。いわゆる交響曲102番の緩徐楽章のピアノトリオ版です。

これ、ピントがビシッと合ったモノクロ写真ですね。

一方のオーケストラ版は、春爛漫の花々が咲き誇るカラー写真でしょう。

どちらが好きか?

…それは人それぞれでしょう。

でも、どちらがよりアーティスティックで音楽の真髄を体現しているかといえば?

…それはずばり、モノクロ写真の方だと思います。


オシリストリオのハイドンはリズム感が命。

ぴたりとピントの合った克明な音像がストレートに耳に飛び込んでくると、脳内にアドレナリンばかりではなく、ドーパミンやらセロトニンやらが噴出するのが判ります(笑)。

ああ、何と素晴らしいハイドンのピアノトリオ!


…日曜日ののどかな午後でした。

  • 2016/01/31 (Sun) 16:03
  • REPLY