バルトロッツィ三重奏団のピアノ三重奏曲集(ハイドン)

バルトロッツィ三重奏団(Bartolozzi Trio)の演奏による、ハイドンのピアノ三重奏曲5曲(Hob.XV:8、XV:9、XV:10、XV:11、XV:12)を収めたアルバム。収録は2012年9月5日から7日、イングランド西部のモンマス(Monmouth)にあるウィアストン・コンサートホール(Wyastone Concert Hall)でのセッション録音。レーベルはNAXOS。
このアルバムは膨大な録音数を誇るNAXOSのハイドンコレクションの中でも、まだ録音がコンプリートしていないピアノ三重奏曲の最新リリースであるピアノ三重奏曲集の第4巻。第3巻まではクングスバッカ三重奏団が担当していましたが、この巻で奏者が変わりました。クングスバッカ三重奏団も落ち着いたいい演奏を聴かせていたんですが、このバルトロッツィ三重奏団のリリースを聴いてみると、躍動感あふれる素晴らしい演奏ということで取り上げた次第。
バルトロッツィ三重奏団は、この録音のために結成されたトリオとのこと。メンバーは下記のとおり。
ヴァイオリン:マシュー・トゥルスコット(Matthew Truscott)
チェロ:リチャード・レスター(Richard Lester)
ピアノ:サイモン・クロウフォード=フィリップス(Simon Crawford-Phillips)
マシュー・トゥルスコットはイギリスのヴァイオリン奏者。古楽器も現代楽器も両方こなし、腕利き揃いで知られるマーラー室内管のコンサートマスター、エイジ・オブ・エンライトメント管のリーダーとして活躍している人。出身校であるロンドンの王立音楽アカデミーで教職にもついています。
リチャード・レスターもイギリスのチェロ奏者で古楽器も現代楽器もこなす人。ヨーロッパ室内管、エイジ・オブ・エンライトメント管の首席チェロ奏者。室内楽ではhyperionからリリースされているフロレスタン三重奏団のメンバーとしてハイドンのピアノトリオの録音や、ロンドン・ハイドン四重奏団のメンバーとしてハイドンの弦楽四重奏曲のアルバムを何枚もリリースしています。
サイモン・クロウフォード=フィリップスは、なんとクングスバッカ三重奏団のピアノを担当していた人なんですね。ソロ、室内楽、伴奏などで活躍している一方、近年はスウェーデン放送交響楽団の指揮者としても活躍しているとのこと。
このアルバム、3人とも腕利き揃いの新団体を結成しての録音ということで、NAXOSがハイドンのピアノ三重奏曲集を完成させるにあたって、第4巻から腕利きのメンバーを投入して完成度を高めようという意気込みがつたわってきます。
Hob.XV:8 Piano Trio (Nr.21/op.40-3) [B flat] (before 1785)
冒頭から気合漲る素晴らしい響きに圧倒されます。最新のリリースだけあって録音は鮮明。適度な残響も加わり非常に聴きやすい録音です。全員の息がピタリと合ってウキウキするような躍動感。特にチェロの刻むリズムのキレがその印象を強めているのでしょう。快活な1楽章のリズムのキレが際立つ快演。
ピアノ三重奏曲としては比較的初期の小品で2楽章構成ですが、2楽章のメヌエットは軽やかなキレのよさで聴かせるもの。録音のバランスかヴァイオリンが比較的軽めで、チェロの方が雄弁に聴こえます。主導権は完全にピアノのクロウフォード=フィリップスがとって、流麗さとリズミカルな面白さを際立たせています。1曲目から初期のピアノトリオの魅力を存分に味わえます。
Hob.XV:9 Piano Trio (Nr.22/op.42-1) [A] (1785)
2曲目はアダージョから入ります。冒頭から穏やかな序奏の美しい響きに耳を奪われます。ピアノの磨き抜かれた美音にヴァイオリンとチェロの雅な響きが加わり、えも言われぬ美しさ。ハイドンの書いた美しすぎるメロディーが美音に彩られて至福の時間。
この曲も2楽章構成。つづくヴィヴァーチェは一転してリズミカルな曲。1曲目よりも集中力が上がっているのか、強弱がキリリとついてフレーズ毎の表情付けも緻密になります。ところどころ溜めの効いたリズムが効果的。後半にハッとするような転調もあり、いつもながらハイドンのアイデアに感服。
Hob.XV:10 Piano Trio (Nr.23/op.40-3) [E flat] (1785)
この曲も2楽章構成。徐々に曲の構成が充実し後年のものに近づいていくように感じられます。ところどころに短調の影を落とすような響きがちりばめられていることが曲に深みを与えているからでしょうか。ピアノを中心に3本の楽器がメロディーを受け渡しあうアンサンブルの面白さに惹きつけられます。
そして清流の流れのようなプレスト・アッサイに入ると、ピアノのタッチが軽くなり、ヴァイオリンとチェロはピアノの周りを羽ばたく蝶のように絡み合います。このハイドンの音楽の本質を突くような秀逸な表現に驚きます。
Hob.XV:11 Piano Trio (Nr.24/op.57-1) [E flat] (1788)
序奏からぐっとドラマティックな入り。いつもながら1曲1曲、アイデアも曲想も聴かせどころも、一つとして同じものがないのがハイドンの素晴らしいところ。ピアノと弦楽器という楽器本来の響きをどうメロディーに加えていくかの試行錯誤をつづけてきた結果たどり着いたこの響き! 後年の素晴らしい構成と展開を想起させる音楽が垣間見えます。安心して聴いていたら終盤予期せぬ転調にびっくり。そして天上の音楽のような純粋無垢な響きが広がります。
1楽章のあまりの充実ぶりの熱を冷ますように入る2楽章のメヌエット。しっとりとリラックスした展開に音楽からそよ風が吹いてくるよう。そしてまたしても中間部に驚くような仕掛けがあり、α波に満ちた脳が覚醒。終盤も素晴らしいアイデアが続出。穏やかなのに知的刺激に満ちた素晴らしい音楽。
Hob.XV:12 Piano Trio (Nr.25/op.57-2) [e] (1788)
ようやく聴きなれた名曲に。このアルバム唯一の3楽章の曲。冒頭から水も漏らさぬ完璧なアンサンブル。この曲はこれまで取り上げたどのアルバムも素晴らしい演奏だった名演揃いの曲ですが、それらに引けをとるどころか、まとまりの良さとピアノの輝きはトップクラスと言っていいでしょう。ちょっと劣るのがヴァイオリンの雄弁さといったところでしょうか。1楽章は緊密な構成の音楽が畳み掛けてくる素晴らしい迫力の演奏。それぞれの楽器のダイナミクスが折り重なってエネルギーの凝縮と静寂の見事なコントラストを堪能できます。連続する番号の5曲のとりにふさわしい充実ぶり。
つづくアンダンテは綺羅星の輝きのような美しいメロディーと翳りある弦の織りなすアンサンブルの妙をたっぷり味わえます。静寂に浮かび上がるピアノのメロディーの美しいこと。聴いているうちに大きな音楽の起伏にのまれます。
フィナーレは全員が軽やかなタッチでハイドンのコミカルなメロディーをさらりとこなしながら、クライマックスに向けて、何回も揺り戻す大波が押し寄せます。これが3人のアンサンブルとは思えない素晴らしい迫力と見事なキレ味でフィニッシュ。
このアルバム、NAXOSの膨大なカタログのなかでは目立たぬ地味なものですが、演奏はNAXOSの今のクオリティを代表するすばらしいもの。プロデューサーは相当な耳と企画力の持ち主なんでしょう。メジャーレーベル(すでにNAXOSもメジャーなんでしょうか?)も真っ青の素晴らしいプロダクションと言っていいでしょう。これだけの演奏が誰にでも入手しやすい状態でリリースされることに感謝ですね。選曲といい演奏内容といい、ハイドンのピアノトリオの素晴らしさを知るには絶好の1枚です。もちろん全曲[+++++]とします!
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