作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

エヴァルト・デマイヤー/ラ・プティット・バンドのハープシコード協奏曲集(ハイドン)

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年始最初のアルバムは爽やかな音楽を。大好きなクイケンのアルバム。

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

エヴァルト・デマイヤー(Ewald Demeyere)のフォルテピアノ、シギスヴァルト・クイケン(Sigiswald Kuijken)指揮のラ・プティット・バンド(La Petite Band)の演奏で、ハイドンのハープシコード協奏曲(Hob.XVIII:4)、ディヴェルティメント(II:20)、ハープシコード協奏曲(XVIII:3)の3曲を収めたSACD。収録は2006年10月、アムステルダム近郊のハールレム(Haarlem)にある統一メノナイト教会(Doopsgezinde kerk)でのセッション録音。レーベルはベルギーのACCENT。

クイケンのハイドンのアルバムはほとんど手元にあると思っていたんですが、今日取り上げるアルバムはコレクションの穴でした。慌てて手に入れた次第。

クイケンのアルバムはブログの初期からいろいろ取り上げています。古楽器演奏の草分けの一人ですが、淡々とした演奏から音楽の喜びが滲み出てくるような演奏がハイドンの曲の面白さをあぶり出してくれます。昔の演奏もいいんですが、特に最近のクイケンの演奏は基本的なスタイルは維持しながらも、どこか新機軸を打ち出そうという意欲のようなものが感じられて興味深いんですね。

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フォルテピアノを弾くエヴァルト・デマイヤーは、私ははじめて聴く人。1974年生まれのベルギーのフォルテピアノ奏者。アントワープ王立音楽院で音楽理論、ヨス・ファン・インマゼールにハープシコードを学び、卒業後すぐに同音楽院で和声、対位法、フーガを教えるようになりました。2002年にはインマゼールの後を継いでハープシコードの教授に就任。その後はクイケン兄弟などと共演するようになり、ラ・プティット・バンドのメンバーでもあるとのこと。ACCENTからも多くのアルバムがリリースされているということでACCENTの看板奏者といったところでしょう。

普段はピアノで聴くことが多い協奏曲2曲ですが、このアルバムの演奏は、ある意味期待の裏をかかれた感じ。程よい躍動感を期待してアルバムを聴き始めましたが、逆にスタティックな魅力に光を当てた演奏。こちらが持つ曲のイメージをいい意味で壊してくれた感じ。同じ楽譜でもピアノで弾くのとハープシコードで弾くのはアプローチが違うんだよとクイケンがほくそ笑んでいるようです。

Hob.XVIII:4 Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [G] (c.1770)
序奏は予想したより遅めのテンポで、溜め気味にゆったりと入ります。録音はACCENTらしい鮮度の高い精緻なもの。デマイヤーのフォルテピアノは典雅そのもの。ゆったりとしたオケに乗って、ハイドンより前の時代の伝統を踏まえたようなクラシカルなテイストに満ちています。リズムも前のめりにならず、逆にすこし遅れ気味に入る非常にリラックスした演奏。ハープシコードの雅な音色の美しさを存分に聴かせようということでしょうか。このテイストに慣れてくると、曲の展開に集中出来るようになってきます。徐々にオケのじわりとつたわるキレの良さに耳が慣れてきます。小細工などなく淡々と進めるあたりがクイケンのコントロールでしょう、テイストだけでいうとブランデンブルク協奏曲の5番を聴いているような気分になります。1楽章は実に落ち着いたもの。
つづくアダージョは癒しというより、孤高の音楽。遅めのテンポと全般に静寂に支配された音楽。無音の部分が多いというのではなく、音楽自体に澄み切った静けさを感じるという意味です。ハイドンがこのような表現を意図していたとは思えませんが、間違いなくこの曲の新境地に踏み込もうとしているように感じます。ゆったりと響くハープシコードの音階の存在感が際立ちます。だんだんクイケンの術中にはまってきました。
フィナーレも思ったほどテンポを上げず、じっくりと弾き進めていきます。ハープシコードの音階にグルグル巻きに絡まれていくよう。デマイヤーの堅実なタッチに加え、オケも安定感抜群で、まったく破綻する気配すらない演奏。

Hob.II:20 Divertimento [F] (1755-57)
つづいてディヴェルティメントから。ごく初期の作品で、ハイドンがシュテファン大聖堂の合唱団を離れ、モルツィン伯爵に仕えるまでの間に作曲したもの。もちろんフォルテピアノは入りません。アレグロ-メヌエット-アダージョ-メヌエット-フィナーレの5楽章構成。同じく落ち着いた演奏ながら協奏曲よりはキビキビとしているところを見ると、クイケンの意思といよりデマイヤーの意思で協奏曲が遅めのテンポ設定だった可能性がありますね。メヌエットに入ると純粋に演奏を楽しんでいるように自然な感興が心地よいですね。若書きとはいえ、楽器間のメロディーの受け渡しには早くもハイドンの創造力の萌芽が感じられ、演奏もそうしたアイデアをそこここに感じさせるもの。アダージョはこの曲の聴きどころ。少ない楽器のアンサンブルの中に生気が宿る素晴らしい音楽。すでにメロディーの閃きがキレてます。途中に入るピチカートのなんと美しいこと。息をのむような瞬間。またしてもクイケンの術中にはまった感じ。再び前半のメヌエットとは少し構成を変えながらも、同じように響くメヌエット。ホルンや木管が気持ち良く響きわたり、演奏する喜びがはち切れるよう。ディヴェルティメントの最上の姿でしょう。フィナーレはハッとするような転調と、そうくるのかと驚くような楽器間のメロディーの受け渡しにハイドンのいたずら心が透けて見えるような音楽。いやいや、素晴らしい!

Hob.XVIII:3 Concerto per il clavicembalo(l'organo) [F] (1765)
再び協奏曲。ゆったりと溜めたリズムは1曲目から予想済みですが、実際に聴くと、音楽の豊かさに圧倒されます。耳がなれたというか、演奏者の創造力と聴き手の創造力の勝負のような緊張感に包まれます。これまでの演奏の垢を落として再構成したような新鮮な音楽に聴こえるのがクイケンのすごいところ。1曲目よりも慣れたせいか、音楽がまとまり、素晴らしい説得力に圧倒される感じ。よく聴くとデマイヤーのハープシコードは落ち着いているばかりではなく、着実なタッチでグイグイ攻めてくるよう。8×10の超細密で階調豊かな写真を見る快感のようなものを感じます。あまりの完成度に鳥肌がたちます。
研ぎ澄まされた美しいメロディーの宝庫であるラルゴ・カンタービレ。ピアノによる美しい演奏に慣れてはいますが、このハープシコードの演奏も全く異なる美しさを持っています。あえてメリハリを強調して、ハープシコードらしさをきアピールしているよう。これまでのどの演奏とも異なる美しさの表現。デマイヤーの音楽もキレてます。
フィナーレは快活キレキレ。このアルバムの総決算のようにデマイヤーの指さばきも一段と鮮やかになり、鮮明な録音にソロとオケが浮かび上がります。落ち着いた中にも漲る生気。最後に鮮やかな手腕を披露して終わります。

シギスヴァルト・クイケン率いるラ・プティット・バンドによる協奏曲とディヴェルティメント。ディヴェルティメントの方は文句なく楽しめる名演奏。協奏曲2曲は、これまでの曲の刷り込みにこだわる人には違和感のある演奏かもしれませんが、私は大いに刺激を受けました。音楽の構成はだれの影響も受けることなく自身の創造力から生み出されたもののようで、これまでの演奏とは異なる、新たな価値を感じるもの。聴き手の創造力が試されるような趣もありますので、人によっては評価が分かれるでしょう。私は全曲[+++++]をつけます。いつもながらクイケンにやられたといったところでしょう。

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