作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

アルカン四重奏団のOp.77、Op.103(ハイドン)

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室内楽のアルバムが続きますね。

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アルカン四重奏団(Quatuor Alcan)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.77のNo.1、No.2、Op.103の3曲を収めたアルバム。収録は1995年7月、カナダのケベック州ミラベル(Mirabel)にあるサン=トーギュスタン教会(Église Saint-Augustin)でのセッション録音。レーベルはカナダ、モントリオールののANALEKTA fleurs de lys。

このアルバム、ちょっと手に入りにくいものですが、例によっていつも素晴らしいアルバムを貸していただく湖国JHさんから送り込まれたもの。いろいろ集めているつもりですが、全く未知のアルバムはまだまだあるものですね。ということで、いつものように未知のアルバムを聴くときのワクワク感を抱きながらいろいろ調べます。

アルカン四重奏団は1989年に設立されたカナダのクァルテット。カナダではオーフォード四重奏団以来の世界に通用するクァルテットとして知られ、本拠地はケベック州のケベックシティーの北方の街シクティーミー(Chicoutimi)。アルミ製造で知られる同名のアルカン社からの助成金を得て活動しているとのこと。最近ではベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集を録音しており、カナダでは有名な存在ということでしょう。このアルバムの録音当時のメンバーは以下のとおり。

第1ヴァイオリン:ブレット・モルツァン(Brett Molzan)
第2ヴァイオリン:ナタリー・カミュ(Nathalie Camus)
ヴィオラ:リュク・ベアシュマン(Luc Beauchemin)
チェロ:デイヴィッド・エリス(David Ellis)

第1ヴァイオリンが現在とは異なりますね。

このアルバムの演奏、ちょっと線が細いのですが、ヴァイオリンの美しい音色を聴いているうちに、昔、オーディオショップで羨望の眼差しで聴いたSpendorの銘スピーカーBC-IIが奏でる弦楽四重奏の高貴で繊細な高音の響きを思い出してちょっと感慨深くなったので取り上げた次第。精緻の限りを尽くした演奏もいいですし、まったりと味わい深い演奏もしかり、そしてこのアルバムのように独特の美しさをにじませる演奏もいいものです。ハイドンの最晩年のクァルテットが実に趣深く響きました。

Hob.III:81 String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
冒頭からしなやかな第1ヴァイオリンの音色にうっとり。強さは感じないんですが、弦を伸びやかに鳴らす弓裁きが独特の美しさを醸し出しています。教会での録音らしく残響の脚が長い。アンサンブルは厚みよりもしなやかな旋律の表現重視で、なかなかの味わい。終始第1ヴァイオリンがクッキリとした表情をリードして、他のパートはそれを補う役に徹する感じ。気負いも力みもなく、淡々と曲を進めるのは私好み。1楽章は緊張感の適度な感じが心地よい余韻を残します。
つづくアダージョではヴァイオリンの美しさに磨きがかかって、淡々としながらも張り詰めた音色の魅力を等身大に表現。このちょうどいい感じがこのクァルテットの真骨頂でしょうか。必要十分な踏み込みが、ハイドンにちょうどいい感じと言ったらいいでしょうか。徐々に表現の起伏が大きくなってきても安心して聞いていられる安定感と美しいガラス細工のような透明感を保っています。これは録音のバランスがヴァイオリンが一番鮮明で全体に若干高域寄りなこともあってのことでしょう。
ここまで楽章間のバランスも非常によく、テンポ設定も非常に自然。意外にこのあたりはクァルテットの実力が垣間見えるところでもあり、ハイドンの演奏としては隙のないところ。メロディーの描きかたも堂に入ってます。
そしてフィナーレも手堅くまとめてきます。非常にオーソドックスな演奏ながら、上手いなと思わせる瞬間が多々あります。この安定感は見事。一貫した演奏スタイルが堅固に守られています。ハイドンの弦楽四重奏曲の演奏としてはかっちり完璧。箱庭的な美しさもあり、古典期の弦楽四重奏曲の演奏見本のようですね。気に入りました。

Hob.III:82 String Quartet Op.77 No.2 [F] (1799)
晩年の作品だという印象を感じさせず、前曲同様カッチリとしたアンサンブルから入ります。逆にハツラツとした印象を感じなくもありません。安定したテンポ感にクッキリとした表情、そしてバランスの良いアンサンブルが非常に心地よいですね。線は細いものの各パート間のメロディーの受け渡しも鮮やか。アンサンブルの音楽の一貫性に唸ります。
続くリズミカルなメヌエットはこのクァルテットの魅力が最もよく分かる楽章。コミカルな表現とメロディーの切り替え、間の取り方、クッキリとした抑揚によって、曲が小気味好く進みます。中間部の穏やかなメロディーへの変化もさらりとこなし、再びリズミカルな音楽に戻りますが、こうした変化をさらりとこなすあたりに円熟を感じます。
そして、枯れた世界に一転するアンダンテ。このクァルテットにとってハイドンは基本なのでしょう、どの楽章でも抜群の説得力。解釈を変更する必要は微塵もなく、聴き進むうちにこの演奏の説得力の大きさに気づいてきました。じわりとにじみ出る味わい。そして決して情に流されない展開。展開するうちにチェロの音色の美しさにもぐっときます。最後の静けさにもはっとします。
最後のヴィヴァーチェは鮮やかさを取り戻し、音楽がクルクルまわるような面白さを印象づけます。円熟の筆致。適度にキレているのに味わい深い演奏。これまた隙のない演奏に唸ります。

Hob.III:83 String Quartet Op.103 [d] (before 1803)
ハイドン最後のクァルテット。あえて速めのテンポによるさらりとした入りがなんとなく感慨深い印象を残します。この曲のツボをおさえて淡々と進め、最晩年のハイドンの澄み切った心境を表すがごとき達観の演奏。聴き進めるうちにこの演奏の魅力に引き込まれます。もうひとつ楽章を書いたところで作曲の筆を置く心境となったことが信じられないほどに充実した音楽が響きます。ハイドンの心境が乗り移ったかのように演奏に集中力が増します。
絶筆の2楽章にはこのアルバムでもっとも力が入った演奏。ここにクライマックスをもってきていましたか。奏者の気高い心意気がつたわってくるような、バランスを崩さない緊張感。テンポもアンサンブルのバランスもボウイングも適度な範囲を保ちながら、ひしひしとつたわる気合ののようなもの。限られた演奏者にしか到達できない音楽の高みに昇りつめたような気配が漂います。最後のフレーズは作曲家人生の終わりなのに実にさりげなく、楽章の終わりも感じさせないもの。深いですね。

最初に聞いた時には特段踏み込んだ個性を感じるほどの演奏ではありませんでしたが、何度か間をおいてアルバムに耳を通すうちにこのアルバムの演奏の深さにようやく気付いた次第。弦楽器のアンサンブルの音色の多様さ、たった4本の楽器の奏でる音楽の多様さにいつもながら驚きます。そしてハイドンが到達した音楽の高み。特殊な高みではなくわれわれの身近なところにある、手が届きそうな高みなんですが、聴いていくうちに、常人にはつくりえないその高みに畏敬の念を禁じえないものとわかります。アルカン四重奏団の演奏はオーソドックスなアプローチながらそうしたハイドンの高みを実にうまく表現していると思います。室内楽好きな人にはこの良さが沁みるはずですね。評価は[+++++]とします。

湖国JHさん、そろそろ次の指令をお願いします!

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