作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

エミール・ギレリスのXVI:20 1962年ライヴ(ハイドン)

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珍しいギレリスのハイドン。

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エミール・ギレリス(Emil Gilels)のピアノによるハイドンのピアノソナタHob.XVI:20、ベートーヴェンのピアノソナタ23番「熱情」、ショパンのピアノソナタ2番「葬送」、ラヴエルの「高雅にして感傷的なワルツ」の4曲を収めたアルバム。ハイドンの収録は1962年、プラハでのライヴをチェコスロバキア放送が収録したもの。レーベルは東芝EMIのVatava Classics。

ギレリスは有名なピアニストなのでご存知の方も多いでしょう。ただし、ハイドンを弾くという印象はあんまりない人。以前にギレリス、コーガン、ロストロポーヴィチによるピアノトリオの演奏を取り上げています。

2011/11/08 : ハイドン–室内楽曲 : ギレリス/コーガン/ロストロポーヴィチのピアノ三重奏曲

ギレリスは前にも触れたとおり、1916年ウクライナの黒海沿岸の街オデッサの生まれ。1929年に13歳でデビュー。1930年にオデッサ音楽院に入り、1933年には全ソ連ピアノコンクールに17歳で優勝します。卒業後はモスクワに移り、リヒテルと同じくゲンリフ・ネイガウスに師事。1938年、22歳でイザイ国際コンクールで優勝し、戦後の1947年からヨーロッパでの演奏を開始、1955年にアメリカデビュー、鋼鉄のタッチと称されます。亡くなったのは1985年とのこと。

手元にあるギレリスのアルバムはハイドンのピアノトリオの他は晩年にDGに録音したベートーヴェンの「悲愴」、13番、「月光」を収めたアルバムくらい。鋼鉄のタッチというよりは枯淡の境地という印象が残ってます。

Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
1962年のライヴにしては透明感のあるピアノの音色。テープのコンディションからか、音程にほんのわずかの揺らぎがありますが気になるほどではありません。非常に落ち着いた入り。じっくり慈しむように入ります。鋼鉄のタッチと呼ばれた片鱗を感じる、一音一音の揺るぎないタッチ。凛とした気高さと磨き抜かれたピアノ美音を駆使してゆったりとハイドンの名ソナタのメロディーを置いていきます。遠くでわずかに会場ノイズが聞こえるのでライヴだとわかる程度。演奏自体はスタジオ録音と言われてもわからないほど落ち着いています。特に高音を美しく響かせることでクッキリとした音楽になります。曲が進むにつれて音に力が漲りさすがに名ピアニストと唸らされます。ハイドンのピアノソナタとしては異例の格調高さ。リヒテルの力感とはまた異なる品格。ここにきて鋼鉄のタッチと言われるのが腑に落ちた気がします。
好きな2楽章。響きの美しさで聴かせる演奏はこれまでにいろいろありましたが、ギレリスのピアノは音色で聴かせるのではなく落ち着き払った巨匠が繰り出す並々ならぬ迫力を聴かせるもの。静かな演奏なのにグイグイ来ます。じっくりとした音楽に不気味なほどの迫力が宿ります。やはり曲が進むにつれて、知らぬ間に力感がみなぎり、知らぬ間に圧倒されます。こんな心境になったのは初めて。
フィナーレでも落ち着きを失わず、一音一音をしっかりと演奏していきます。小細工的な要素は皆無。テンポも一貫して滔々と流れる大河のような雄大さ。しっかりとしたタッチから生まれるピアノの音の浸透力というか風圧に圧倒される感じ。ハイドンのソナタがこれほど神々しく響くとは。速いパッセージの指さばきも鮮やかなんですが、それをテクニックと感じさせない揺るぎない迫力。最後はすっと力が抜けて終わり、拍手が降り注ぎました。

いやいや、想定外の素晴らしさに驚きました。この演奏でギレリスの真価に触れた気がします。ハイドンのピアノソナタがこれほどまでに格調高く鳴り響くとは思いませんでした。まさに鋼鉄のタッチ。ギレリスの音楽の深さは、ベートーヴェンやブラームスならいざしらずハイドンの音楽をも峻厳なものにしています。ギレリスによってハイドンの名曲XVI:20の新たな魅力を知りました。もちろん評価は[+++++]とします。参りました!

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