作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

マタンギ四重奏団の日の出、蛙、鳥(ハイドン)

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今日も湖国JHさんから送り込まれたアルバム。いやいや、いい演奏はまだまだあるものです。

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

マタンギ四重奏団(Matangi Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.4「日の出」、Op.50のNo.6「蛙」、Op.33のNo.3「鳥」の3曲を収めたアルバム。収録は2012年8月26日から28日にかけて、ライプツィヒのすぐ南のマルククレーベルク(Markkleeberg)のリンデン・ザールでのセッション録音。レーベルはオランダのCHALLENGE CLASSICS。

朧月夜のような中、うっすらと輝く光の方を向いたクァルテットのメンバーの写真をあしらった意味ありげなジャケット。なんとなくこのアルバムにかける気合のようなものが漲っています。ライナーノーツの冒頭にはスヴィーテン男爵によるハイドンの四季の春のテキストが引用されています。

All is alive,all is expectant, all neture bestirs! itself!
すべてのものが息づき、すべてものが身を動かし、すべてものが活動している(大宮真琴訳)


また、それに続いて「憂鬱な日はハイドンを弾くと、手から温もりを感じる、、、」で始まる、2011年にノーベル文学賞に輝いたスウェーデンの詩人、トーマス・トランストロンメルによる詩が合わせて掲載されています。このアルバムが伝えようとしているハイドンのイメージを言葉にしています。

奏者のマタンギ四重奏団はオランダのクァルテット。マタンギとはヒンズー教の女神で、語り、音楽、書の神様とのこと。言葉に対する格別のこだわりはクァルテット名にも現れているようですね。

設立は1999年、王立ハーグ音楽院とロッテルダム音楽院で学んでいた若い音楽家がメンバー。2002年から2003年までの2年間、オランダ室内楽アカデミーでオルランド四重奏団のチェリスト、ステファン・メッツに師事、以後はオランダを中心に欧米で演奏活動を行っています。このクァルテット、ジャズのアルバムもリリースするなど、普通のクァルテットとは一味違う側面ももっています。

メンバーは次のとおり。いつものようにクァルテットのウェブサイトへのリンクもつけておきましょう。

第1ヴァイオリン:マリア=パウラ・マヨール(Maria-Paula Majoor)
第2ヴァイオリン:ダニエル・トリコ・メナチョ(Daniel Torrico Menacho)
ヴィオラ:カルステン・クレイエル(Karsten Kleijer)
チェロ:アルノ・ファン・デル・ヴルスト(Arno van der Vuurst)

Matangi - Home

Hob.III:78 String Quartet Op.76 No.4 "Sonnenaufgang" 「日の出」 [B flat] (1797)
比較的近い位置にクッキリリアルに定位するクァルテット。折り目正しい正統派の演奏。心なしか速めのテンポでタイトに引き締まった表情で音楽を創っていきます。特徴は長音での4人のアンサンブルの精妙な響き。かなりしっかりとコントラストをつけての演奏ながら、力を抜くところでしっかり抜いているのでくどくはありません。むしろ推進力とところどころにつくアクセントが効いて、かなりメリハリのしっかりした溌剌とした演奏に聴こえます。録音も4人のバランスが良く、中音域の木質系の力強い響きがうまく録られています。
アンサンブルは2楽章のアダージョに入ると一層精妙になり美しさが際立ちます。和音だけきくと現代音楽のような峻厳な印象もありますが、ジャズを得意としているように、メロディーを描くセンスがいいので硬くはなりません。しっかりと沈み込んでメリハリをつけます。
メヌエットは適度な弾力があり、表情の変化の幅も十分。音楽として一貫していながら楽章間の表情の描き分けがしっかりしていて聴き応え十分。
ちょっと意外だったのがフィナーレ。流麗に来ると思いきや、訥々と語るような入り。勢いに乗った演奏ではなく、徐々に彫りが深くなっていく様子を聴かせようということのようですね。こちらの先入観に振られましたが、よく聴くと実によく考えられた構成。これはこれで完成度の高い演奏と納得する演奏。音楽をまとめる力はかなりのもの。

Hob.III:49 String Quartet Op.50 No.6 "Frosch" 「蛙」 [D] (1787)
好きな蛙(笑)。4人の対等なメロディーの渡し合いの実に愉快な展開。よく聴くとメロディーには相当表情をつけて、イキイキと描いています。ハイドンの音楽の楽しさをよく踏まえた演奏。基本的に楽天的な雰囲気が支配しますが、適度なデフォルメがアーティスティックさも保ち、絶妙のバランス。曲に仕込まれた響きの変化をよく拾って変化に富んだ演奏。1楽章は絶品。
短調に変わる2楽章のポコ・アダージョ。しっかりと翳りを表し、そして長調に転調する場面の変化のセンスの良さ。もちろん演奏のテクニックはそれなりですが、音楽にテクニックを誇示するような印象はまったくなく、ひたすらメロディーをニュアンス豊かに鳴らそうという謙虚な姿勢が感じられます。途中の弱音が非常に効果的。
メヌエットのさりげない雄弁さは前曲同様。そして蛙の鳴き声に似ているいうことで有名な終楽章はこのクァルテットの表現力がよくわかる痛快な演奏。バリオラージュ奏法によるユニークなメロディーがイキイキと踊り、曲の構成もしっかりと描く名演。力の抜けた表現の多彩さに打たれます。

Hob.III:39 String Quartet Op.33 No.3 "Vogelquartett" 「鳥」 [C] (1781)
最後は名曲鳥。この曲は速めの入り。シュトルム・ウント・ドラング期の仄暗いイメージから脱却して、明るく変化に富んだ曲調のロシア四重奏曲の代表曲であることを強調するようなキビキビとした展開。歌う部分ではテンポを落としてゆったりと歌い、キビキビとした部分ではキレ味鋭いボウイングを聴かせる、まさに緩急自在の演奏。時折持続音を長く保って精妙な響きのスパイスを加えるなど細工も十分。ハイドンの機知の真髄を踏まえての演奏という説得力もあります。このさりげない表現力、マタンギ四重奏団の真骨頂でしょう。
続くスケルツォも速足での入り。筆の勢いが感じられる草書のようなしなやかさ。中間部は墨をしっかり含んだ筆による楷書のようにクッキリとした表情、そして再び草書に戻ります。
3楽章は明るい曲奏のアダージョですが、マ・ノン・トロッポとあるように、遅すぎないように、沈まないアダージョの表現とはこういうことかと納得するようなテンポ設定。表情の変化も抑え気味にすることで、メロディー自体の面白さに集中できます。
日の出とは異なり終楽章は快速、クッキリ、キレ味抜群で期待通り。響きを揃えるのではなく純粋に演奏のキレを楽しむような遊び心が感じられる演奏が好印象。実に躍動感があり、音楽が弾みます。鳥も名演でした。

名前もジャケットもアルバムの作りもレパートリーも個性的なマタンギ四重奏団のハイドン名曲集。選曲も皇帝やひばりなどを並べるのではなく、日の出に蛙、鳥というなんとなくこだわりを感じる選曲。演奏も彼らの表現の幅の多彩さ、音楽としてまとめる力を遺憾なく発揮したもの。これは聴きごたえあります。このアルバムの前にOp.20のNo.4を収めたアルバムがあるようですので、これも聴いてみなくてはなりませんね。評価は全曲[+++++]とします。ロシア四重奏曲の残りの曲の録音も期待したいところですが、そういった構成での録音はしないでしょうねぇ(笑)

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2 Comments

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Skunjp

見事なクァルテットですね

こんばんは、Daisyさん。
マタンギ四重奏団ですか。
私のような世代の者は、ホラー映画「マタンゴ」をどうしても連想してしまいますが(笑)、このマタンギ四重奏団は素晴らしいです。全く世の中には素晴らしいクァルテットが沢山あるものですね。

今、NMLでOp20の4を聴きながらこれを書いています。非常に成熟した達者な演奏です。ヴィヴラートを抑制してすきっりとした純粋なアンサンブルの一体感を実現しています。それでいて主張すべきところは柔軟にかつ自然に盛り上がり、いやはやとても見事です。音楽が大きい。

弦楽四重奏を中心に40年以上もハイドンを聴いていますが、ハイドンの精髄は弦楽四重奏曲だと思います(私見ですが)。最近はDaisyさんのおかげで、交響曲をはじめあらゆるジャンルを聴くように変わりましたが、音楽的に最大限の充実を見せながら純粋で無駄のない弦楽四重奏曲が最も私を満足させるようです。

そしてまた、Daisyさんのおかげで未知の若い弦楽四重奏団を知るようになり世界が広がりました。特にお気に入りはアウリンですね。それからアマティ、ペターセン、カルドゥイッチ、新メンバーのボロディン、エルサレム、シャロンなど、どれも非常に素晴らしいです。本当に感謝しています。

ただ先日のダイダロスといい、今回のマタンギといい、散財のネタが尽きないのが悩みですかね…(笑)。

  • 2015/09/26 (Sat) 18:56
  • REPLY

Daisy

Re: 見事なクァルテットですね

Skunjpさん、いつもコメントありがとうございます!

私はブログに書いた通り、ハイドンはピノックの交響曲集で入門しましたが、次第に天地創造やチェロ協奏曲など、交響曲意外の分野の素晴らしさに開眼し、実は弦楽四重奏曲は最後の方だったんですね。だだ、掘ってみたら深い深い。おっしゃるように弦楽四重奏曲はハイドンの精髄ですね。
未知のクァルテットを聴くのはいつもワクワクします。特に若手が取り上げるハイドンには格別興味があります。数多の名演ひしめく弦楽四重奏曲の原点たるハイドンをどう料理するのか。それぞれに独自の視点があって、どの演奏も聴き応えがあります。

マタンギの素晴らしさもアマティの素晴らしさも、ペターセンの素晴らしさもすべて違いながら、皆素晴らしい。散財してしまうわけですね(笑) ちなみに演奏ができない私は散財ではなく投資(自分へのリターンは期待できませんが、、、)と考えております。ハイドンを演奏、録音する演奏者を応援したいという気持ちなだけです。

クァルテットも随分集めましたが、まだまだ未知のアルバムがいろいろります。手持ちのアルバムにも未発見の良さがいろいろあるような気がしてます。もう少し散財、いや投資にお付き合いください。

  • 2015/09/27 (Sun) 10:29
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