作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

トリオ・フランツ・ヨゼフのピアノ三重奏曲集(ハイドン)

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今日はピアノトリオの名演盤を。

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINEicon

トリオ・フランツ・ヨゼフ(Trio Franz Joseph)の演奏による、ハイドンのピアノ三重奏曲4曲(Hob.XV:27、XV:32、XV:13、XV:25)を収めたアルバム。収録はPマークが1999年とだけ記されています。レーベルはカナダのATMA Classique。

このアルバム、先日ディスクユニオン店頭で見かけて手に入れたもの。未聴盤であるということに加えて見覚えのある赤い縁取りのATMA Classiqueレーベルということで、迷いなく入手。そう、ATMA Classiqueはマルク・デストリュベのヴァイオリン協奏曲集の超名演盤で強烈な印象が残っています。

2013/01/20 : ハイドン–協奏曲 : 超名演盤発見! マルク・デストリュベ/パシフィック・バロック管弦楽団のヴァイオリン協奏曲集

そしてトリオ・フランツ・ヨゼフとのトリオの名前ががこれまた気になります。まさにハイドンの曲を演奏するための団体のようです。調べてみるとその通り、フォルテピアノのミレイユ・ラガセが1997年、モントリオールのマギル大学音楽学部の招きでハイドンのピアノ三重奏曲全曲のコンサートシリーズを行った際に結成されたトリオとのこと。メンバーは以下のとおり。

フォルテピアノ:ミレイユ・ラガセ(Mireille Lagacé)
ヴァイオリン:オリヴィエ・ブロ(Oliver Brault)
チェロ:マルセル・サン=シル(Marcel Saint-Cyr)

ミレイユ・ラガセは1935年、モントリオールの近くで生まれたオルガン、フォルテピアノ、ハープシコード奏者。ウィーンでオルガンを学び、ジュネーブ、ミュンヘンで行われた国際オルガンコンクールで入賞、のちにジュネーブのハープシコード国際コンクールでも決勝に残り、ソリスト、室内楽奏者として活躍しました。教育者としての活動にも力を入れ、ボストンやモントリオールでオルガン、ハープシコードを教え、アメリカ、カナダ、ヨーロッパでいくつものマスタークラスを持っていたとのこと。オルガン奏者としてはブクステフーデのオルガン全曲録音を残してるそうです。

Hob.XV:27 Piano Trio (Nr.43/op.75-1) [C] (1796)
このアルバムの最後に納められたジプシー・ロンドと並んで録音の多い有名曲。適度な広がりをもち、残響の美しいサイトでの録音。冒頭から活力に溢れた古楽器のアンサンブル。とりわけ、ミレイユ・ラガセのフォルテピアノのキレが爽快。ヴァイオリンのオリヴィエ・ブロ、チェロのマルセル・サン=シルも一聴してかなりの腕前の持ち主。ただ爽快な演奏なだけでなく、フレーズ一つ一つの起伏がくっきりと浮かびあがり、音楽が実にイキイキと弾みます。テンポを自在にコントロールしてフレーズ毎の描き分けも見事。古楽器の爽やかな響きを生かしながら実に雄弁な演奏。迫力も十分で、この曲に込められたエネルギーをしっかりと描きます。現代楽器の演奏よりダイナミックに感じるほど。
つづくアンダンテも古楽器としては予想外に雄弁。決して力づくではないのにメロディーがくっきりと浮かびあがり、音楽が滔々と流れていく。そしてフィナーレの入りのヴァイオリンの音色の艶やかなこと。どちらかというとじっくり描くフィナーレですが、音楽に色気と深みが加わりえも言われぬ華やかさが伴います。もちろん終盤にかけての迫力も素晴らしいものがあります。

Hob.XV:32 Piano Trio (Nr.31) [G] (before 1794)
ゆったりとリラックスした音楽から入ります。基本的にフレーズを丁寧に描いていくスタイルは変わりませんが、このトリオの特徴は起伏に富んだ表情を自然さを保ちながらつけていくところでしょう。ハイドンが描いたおだやかな曲調を見切って、完全に掌握した上で、華やかになるスパイスをまぶしてことこと煮込んだスープのよう。ピアノトリオの面白さが凝縮しています。
この曲は2楽章構成ですが、この2楽章が実に変化に富んだ曲調な上に、演奏が最高。曲を完全に掌握しているところは変わらず、ハイドンが仕組んだ仕掛けを次々に暴いていくような面白さの連続。筆が走りすぎて、ちょっとやりすぎ感すら漂うこの楽章を、実に見事にアーティスティックな範囲にまとめてきます。この曲がこんなに面白い展開だったと気付かされます。

Hob.XV:13 Piano Trio (Nr.26/op.57-3) [c] (before 1789)
ぐっと時代が遡って、曲想も晴朗。このような変化も難なくこなし、ヴァイオリンが実に美しいメロディーを堂々と描いていきます。メロディーをわかりやすく引き継ぎながら素朴な音楽の魅力をじわりと聴かせます。微妙に変化しながら続いていくフォルテピアノの音階が音楽をリードし、それにヴァイオリンが艶やかな音色で音楽を乗せていきます。なかなかいい選曲眼です。
この曲も2楽章構成。2楽章は推進力と活力を失わずに、独特のメロディーを描いていきます。いろいろ展開するのですが、一気に聴かせ切ってしまう勢いがあり、音楽の流れに身を任せているだけで幸せな気分に浸れます。

Hob.XV:25 Piano Trio (Nr.39/op.73-2) [G] (1795)
最後は有名なジプシー・ロンド。冒頭から今まで聴いてきた演奏とは一味違います。ゆったり目のテンポに合わせてかなりじっくりとした演奏。これが実に自然で心地良い。リズムはかなりくっきりとメリハリをつけながら、ヴァイオリンのオリヴィエ・ブロが磨き抜かれた音色でのびのびと音楽を置いていきます。なんとなくマルク・デストリュベを思わせる雄弁さ。そして速めの演奏に耳が慣れているからか、逆にこのゆったり感が実に新鮮で心地良い。この曲の緊密な構成を改めて認識した次第。
つづくポコ・アダージョは何事もなかったように、いきなり草原に出たような爽やかさに包まれます。やはり一つ一つのフレーズをしっかりと噛み締めるように描いて、この曲のもつしっとり感を十全に描いていきます。
最後のジプシーロンドもしっかりとメロディーを描き、これまで聴いてきた演奏が全て薄味に感じるほど。濃すぎる印象があるわけではなく、メロディーに潜む表情をしっかりと汲み取りきっているだけのよう。なんという説得力。このイメージはヴァイオリンのオリヴィエ・ブロの功績でしょう。あまりに見事な演奏に打たれます。ジプシーロンドの真髄に迫った演奏でした。

いやいや、古楽器によるハイドンのピアノトリオでは、これまでに聴いたことがないほどにしっかりと表情がついた演奏。薄口のお吸い物で和食の旨みを知ったと思っていたのが、料亭の本格的な椀者の深い出汁の旨みで本当の和食の素晴らしさを知った時のような驚きを感じます。なんだかうまく表現できませんが、ハイドンの名を冠した、このトリオ・フランツ・ヨゼフの演奏は、これまでの古楽器によるピアノトリオのなかでは別格の出来。特に最後のジプシーロンドの出来は出色。またまた未知の名演盤に出会った幸福感に包まれました。もちろん評価は4曲とも[+++++]とします。こればかりは聴いていただかなければわかりません。必聴盤です!

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