アウリン四重奏団のOp.17(ハイドン)

アウリン四重奏団(Auryn Qurartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.17の6曲を収めたアルバム。収録は2008年、ドイツ、ケルンの東20kmほどにある街ホンラートにあるホンラート教会でのセッション録音。レーベルはドイツのTACET。
アウリン四重奏団の演奏はこれまでに3度取り上げています。
2013/02/24 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アウリン四重奏団の「五度」「皇帝」
2012/08/03 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アウリン四重奏団のOp.77
2012/01/07 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : アウリン四重奏団のOp.74
現代楽器による研ぎ澄まされた演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲の全集として魅力的なものですが、全集としてまとめてリリースされているわけではなく、全巻レギュラープライスでのバラでのリリースということで、ちょっと手を出しにくいもの。最近ではびっくりするくらい安い価格でいろいろな全集が手に入る上、Apple Musicなど定額制のサービスでいろいろ聴けるとあって、レギュラープライスでのバラ全集は敷居が高いですね。調べたところアウリン四重奏団のアルバムはApple Musicで聴けるものの、TACETのアルバムは登録されていないようです。ということで現在このシリーズを収集中の方は収集を続ける価値があるかもしれません(笑) 私も1巻ずつボチボチ集め始めて気付いたらあと1枚でコンプリートというところまで来ました。
奏者は変わらず、次の通り。
第1ヴァイオリン:マティアス・リンゲンフェルダー(Matthias Lingenfelder)
第2ヴァイオリン:イェンス・オッパーマン(Jens Oppermann)
ヴィオラ:ステュワート・イートン(Steuart Eaton)
チェロ:アンドレアス・アーント(Andreas Arndt)
奏者の情報については上のOp.74の記事をご参照いただくとして、早速レビューに入りましょう。
Hob.III:25 String Quartet Op.17 No.1 [E] (1771)
このシリーズ共通ですが、教会での録音ということで残響が比較的多めながら鮮明さも失わない好録音。ハイドン初期の楽天的かつ素朴な魅力が溢れる曲をゆったりと鳴らしていきますが、マティアス・リンゲンフェルダーの張りのある伸び伸びとしたヴァイオリンの音色に隈取られた精度の高いアンサンブルが絶品。先日取り上げて皆さんに好評だったダイダロス四重奏団の演奏が禁欲的な緊張感を持っていたのに対し、アウリン四重奏団の演奏は精度の高さは引けをとらないものの、基本的に楽器を良く鳴らしてどちらかというと楽天的なテイストを持っており、弦楽四重奏曲を肩肘張らずに楽しめる演奏です。このOp.17など、晴朗な曲想もあって、アウリンの演奏は実に心地良く響きます。楽天的といってもアーティスティックな範囲の中でのことゆえ、微笑みを芸術的に表現したものといったところでしょうか。そういえばこのシリーズ、ジャケットのハイドンの肖像もアーティスティック。
2楽章のメヌエットがまさに晴れ渡る青空のような汚れのない音楽。そして3楽章の短調のアダージョでは豊かなトーンのモノクロ写真のようなデリケートな響きの美しさを堪能できます。
フィナーレは鮮烈な響きから入り、グイグイ推進していきます。後年の曲ほどの成熟はないものの、逆に新鮮さを楽しむべき曲なんでしょう、アウリン四重奏団の演奏では若書きのハイドンの曲の鮮やかな響きに集中できる良さがあります。
Hob.III:26 String Quartet Op.17 No.2 [F] (1771)
いつもながらハイドンの1曲1曲、しっかりと描き分けて曲が書かれていることに驚きます。前曲とはアイデアもメロディーも構成もがらっと変わりますが、主題のメロディーが次々に発展、展開していく面白さには感服。特にこの1楽章の展開の見事さにはうなるばかり。そのあたりをマティアス・リンゲンフェルダーが実に自然かつ美しく描いていきます。ヴァイオリンのピンと張り詰めた音色の美しさはこの人ならでは。聴いていると音楽の躍動が体につたわってきます。恍惚の弓裁き。絶品。
続いてすこし腰を落としてのメヌエット。音楽の流れの変化のつけ方がうまく、メヌエットが挟まれた意味が滲みます。リズムの起伏のさりげない変化を聴かせどころにしながらも、メロディーの展開の面白さを聴かせます。
そして、アダダージョの生成りの響きの美しさ。磨きこんだ音色だけがクァルテットの醍醐味ではないぞとのメッセージのよう。ハイドンの音楽の多様な魅力を確信犯的に次々と繰り出し、聞くものを音楽の快感に浸らせます。アドレナリン充満。またまた絶品。
フィナーレはどの曲にも似ていない展開。こちらの期待の遥か上からハイドンが音楽を投じてきます。われわれ凡人と同じ目線なのに音楽のなんと創造的なことでしょう。アウリンの演奏は音楽に一体化して邪心も私欲もなくハイドンの意図通りに素直に音楽を奏でていきますが、その響きの美しさは突き抜けています。この曲のベストの演奏でしょう。
Hob.III:27 String Quartet Op.17 No.3 [E flat] (1771)
すっかりアウリンの演奏のペースにはまってます。アウリンの演奏はハイドンの音楽と波長が完全にミートするのか、演奏の隅々にまで創意が宿り、それがアウリンの創意なのにあたかもハイドンの創意のように聴こえます。アウリンとは異なるアプローチの素晴らしい演奏もいろいろあるのですが、アウリンの演奏こそが最も説得力をもつという印象さえ与えます。この曲でもその説得力は揺るぎなく、相変わらずマティアス・リンゲンフェルダーの弓裁きの美しいことといったら例えようもありません。ヴァイオリンのメロディーがすうっと空間に響きが吸い込まれていくような快感を伴います。1楽章後半の地道な変奏の展開で新たな魅力を示します。
この曲のメヌエットもユニーク。曲ごとに次々と新たなメロディーと構成を繰り出すハイドンのあまりの想像力に圧倒されっぱなし。なかなか集中して聴く機会のなかったOp.17ですが、どれも名曲と今更ながらに気づきます。
そして、これまたアダージョの美しいこと。磨かれた音楽の所々に深い陰りと柔らかい日差しが織り込まれ、宝石箱のような楽章。1週間の仕事の疲れが洗い流され癒しに包まれます。そう、サラリーマンにとってビジネスとは現実と妥協のせめぎ合い。美しい音楽で毎週洗い流さねば(笑) ふとライナーノーツを見るとこのアダージョ、この楽章だけで12分と長大なもの。あまりの美しさに時を忘れるとはこのことでしょう。
フィナーレは、長いアダージョを受けて、軽やかなリズムの曲。さりげなくリズミカルに曲が進みますが、ゆったりとした流れから入ったのでリズムのキレが引き立ちます。この辺の聴かせかたの巧妙さも唸るところです。最後は実にさりげなく曲を終えます。
レビューはCD1枚目の3曲までということで。
聴くたびに発見のあるアウリン四重奏団の演奏ですが、このOp.17も絶品でした。Op.20以降の曲は良く聴かれているでしょうが、それ以前の曲は正直マイナーです。ただ、このアウリン四重奏団の演奏は、ハイドンのマイナー曲であっても様々に創意の込められた素晴らしい曲であることに気づかせてくれます。評価はもちろん全曲[+++++]です。このアルバム、ハイドンの弦楽四重奏の必聴アルバムです。Op.17をこれから聴くという方は是非このアルバムで。
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