ダイダロス四重奏団の太陽四重奏曲集(ハイドン)

ダイダロス四重奏団(Daedalus Quartet)の演奏による、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20「太陽四重奏曲集」の6曲を収めた2枚組みのアルバム。収録は2009年1月6日から8日、2月3日から5日、ニューヨークの芸術文学アカデミーでのセッション録音。レーベルはニューヨークのBRIDGE RECORDS。
ダイダロス四重奏団は全くはじめて聴くクァルテット。結成は2000年と比較的最近結成された団体で、アメリカ、カナダを中心に活動しているよう。第1ヴァイオリンを固定せず、2人で曲ごとに交代して担当するシステムをとっているようです。メンバーは以下のとおりです。
ヴァイオリン:キム・ミンヨン(Min-Young Kim)
ヴァイオリン:キム・ギョヨン(Kyu-Young Kim)
ヴィオラ:ジェシカ・トンプソン(Jessica Thompson)
チェロ:ラマン・ラマクリシュナン(Raman Ramakrishnan)
このアルバムをリリースしているBRIDGE RECORDSから、2006年にラヴェル、シベリウス、ストラヴィンスキーの作品を収めたアルバムをリリースしており、それがデビュー盤。その後都合6枚のアルバムをリリースしているということで、それなりに実力のある団体です。現代音楽も得意としているようで最近リリースされている三作は現代アメリカの作曲家、エリオット・カーター、ローレンス・ディロン、ジョージ・パールの作品。若手ながら、ハイドン、それも太陽四重奏曲集をリリースしてくる志の高さは買わなくてはなりませんね。
冒頭に触れた通り、演奏はハイドンの弦楽四重奏曲の素朴な魅力を感じさせるもの。現代音楽が得意ということで、演奏テクニックはかなりのものですが、テクニックを超えたところにある素朴な音楽の魅力を踏まえたもの。ハイドンを前にすると純粋になってしまうのでしょうか。今日は2枚組のアルバムから2枚目のNo.4とNo.5の2曲を取り上げましょう。No.4がキム・ギョヨン、No.5がキム・ミンヨンが第1ヴァイオリンと務めています。
Hob.III:34 String Quartet Op.20 No.4 [D] (1772)
いきなりザラっとした弦楽器の感触が心地よいですね。流石に現代音楽を得意としているだけにアンサンブルの精度は高いですが、音をかっちり出そうという感じはせず、虚心坦懐にハイドンを楽しもうという姿勢を感じます。よく聴くと音は鋭いのですが、余計なことをしていないので純度が高く、どちらかというと禁欲的に響きます。ハイドンの曲の魅力を十分に知っているからこその、この質実剛健な表現なのでしょう。1楽章は引き締まった表情に凛ととした美しさが宿ります。
つづく2楽章でもこのスタイルは変わらず、緊張感が持続します。聴き進めるとヴァイオリンではなくヴィオラやチェロの担当するメロディーを強調して、ハイドンの書いた楽譜の影の部分にもスポットライトを当てて、クァルテットの魅力はヴァイオリンばかりではないとでも言いたげなバランスが印象的。キリッとした喉越しの辛口の酒のごとき風味。響きは辛口ですが、音楽には素朴な暖かさを感じさせるのが流石。
メヌエットがここまでの曲の流れからすると意外に弾みます。そしてフィナーレでは響きの鮮度が上がり、アンサンブルのキレの良さをさりげなく聴かせます。それでも皆八分くらいの力での演奏ゆえ、音楽が軽やか。ハイドンがハイドンたることをよく踏まえたコントロール。間をしっかりとって、自在なアクセルワーク。この余裕たっぷりのスタンスが心地よいですね。
Hob.III:35 String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
第1ヴァイオリンが女性に変わります。こころなしかしなやかな弓裁き。もちろん前曲同様全体に辛口なテイストであることに変わりありません。鮮明な録音も手伝って4人の織りなすハーモニーの美しさはなかなかのもの。短調の名曲ですが、この曲でも凛とした美しさを感じさせます。現代音楽の冷徹な印象ではなく、現代から古典をとらえた明確な視点の存在を感じる演奏といったらいいでしょうか。曲に対して入り込まず、かといって冷静すぎず、適度な距離感がダイダロスの特徴なのでしょう。
つづくメヌエットは前曲ほどは弾まず、適切な腰の重さで入ります。逆にすこし練るようなところもあり、曲に潜む気配のようなものに応じて表現を変えてきています。
秀逸なのがつづくアダージョ。朗らかで素朴な曲の面白さを味わえとばかりに、非常に直裁な表現。ササッと弾いているようですが、そこから味わい深い響きが滲みでて、まさに至福の瞬間。このさりげない音楽こそハイドンの音楽の真髄でしょう。音量を抑えたところの実に奥ゆかしいこと。
終楽章のフーガは、音楽の神様に祈るような敬虔さが宿りますが、表現が控えめなのがかえって音楽の純度を高めています。訥々と弾き進めていくうちにフーガの高みにさりげなく昇りつめ、おだやかさを保ったまま終わります。
音楽を演奏するということは、どこかにこだわりがあるもので、それが力強さだったり、鮮烈さだったり、静謐さだったりと、音の表情にでやすい特色なことが多いものですが、このダイダロス四重奏団のこだわりは、音楽に対する適度な距離感を保つことではないかと思った次第。実にさりげなく、没入することなく、かといって客観的すぎず、現代の視点から古典の名曲をさりげなく演奏し、そこからジワリと滲み出る魅力こそハイドンの真髄との確信があるのでしょう。実に深い演奏です。似たタイプがあまりない演奏。私は気に入りました。レビューしていない4曲も同様、なかなか考えさせる演奏でした。評価は[+++++]をつけます。ハイドンの室内楽を聴き込んだ方にこそ聴いていただきたいアルバムです。かめばかむほど味の出る演奏とはこのことです。
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