【新着】クイケン兄弟によるフルート三重奏曲集(ハイドン)

バルトルト・クイケン(Barthold Kuijken)のフラウト・トラヴェルソ、ヴィーラント・クイケン(Wieland Kuijken)のチェロ、ピート・クイケン(Piet Kuijken)のフォルテピアノによる、ハイドンのフルート三重奏曲3曲(Hob.XV:16、XV:17、XV:15)とメンバーを少し変えてC.P.E.バッハのフルート四重奏曲3曲(Wq95、Wq93、Wq94)を収めた2枚組のアルバム。収録は2014年9月15日から19日、ベルギーのアントワープにあるAMUZという古い教会堂を利用したコンサートホールでのセッション録音。レーベルはもちろんベルギーのACCENT。
クイケンは、兄弟による室内楽も、シギスヴァルト・クイケンの指揮するオーケストラものもいいんですね。これまでコンサートレポートを含めてかなりの数を取り上げています。
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冒頭に触れたバリトン三重奏曲を編曲したフルート三重奏曲集は先頭に記したもの。これは1986年とほぼ30年前の録音ですが、あまりに見事なバルトルトのフラウト・トラヴェルソの響きのコントロールに鳥肌が立つような素晴らしい演奏でした。また3番目に記したロンドントリオも1992年と20年以上前の録音ながら、フルートの刻む音階の鮮やかさに目もくらむような名演奏。フルートが活躍するハイドンの名曲をマイナーなものから録音して、ようやくフルート三重奏の名曲の録音にたどりついたというところ。今回のアルバムはただハイドンの曲を録音したのではなくほぼ同時期に作曲された、C.P.E.バッハのフルート四重奏曲を併録し、異なるスタイルをもつ2人の作曲家のフルート作品を対比させるというコンセプチュアルな趣向のアルバムに仕上げてきました。
聴きなれたハイドンではなく2枚目のC.P.E.バッハの方から聴き始めましたが、あまりの奇抜な曲想にちょっとビックリ。もちろん作曲者が異なれば曲想が違うのは当たり前ですが、同じ時代の空気の中、両者とも突き抜けた個性と才能を持った人だったことにあらためて気づきます。いつものようにハイドンの曲をレビューします。
Hob.XV:16 Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
響きは自然なものの狂気のような迫力を聴かせた30年前のバリトントリオの録音とは異なり、基本的にアンサンブルには円熟にともなう落ち着きが感じられ、クイケン兄弟の演奏の特徴である、自然な感興の中での愉悦感のようなものが迸ります。いつもの彼らの演奏のようにアンサンブルの精度には微塵の陰りもなく、テクニックは素晴らしいものがあります。フォルテピアノが目立つ演奏もあるなか、3人が対等に向きあうバランス。録音は最新のものだけにクリアなんですが、ACCENT独特の空気感というかワンポイント録音風の響きを生かした感じではなく、穏当なバランスのもの。ちなみに比較のためにバリトントリオ盤を引っ張り出して聴き比べてみると、フラウト・トラヴェルソの深い響きはバリトントリオ盤の方に軍配が上がります。最新のデジタル録音では昔のACCENTらしさが薄まってきたということでしょうか。1楽章は安心して聴き進められます。バルトルトのフルートのタンギングの鮮やかさに負けず劣らずのフォルテピアノとチェロのキレ味。虚心坦懐に曲の面白さを堪能できる素晴らしい演奏です。あまりの安定感と完成度にレビューになりません(笑)
短調の2楽章に入ると、アンサンブルの精度はさらに精緻になり、ゆったりとした曲想なのにキリリと引き締まった緊張感を保ちます。フォルテピアノの音色の繊細な美しさと、チェロがかなりの起伏で音楽を支えるようすがクリアにつたわります。バルトルトのフラウト・トラヴェルソばかりが聴きどころではないと言わんばかり。
先ほど穏当なバランスと言った録音ですが、2楽章、3楽章を聴くと精緻に解像して目の前で3人が演奏しているようなゾクゾクするほどの自然なリアリティ。ハイレゾ世代のデジタル録音の威力でしょう。フィナーレはあえてゆっくり目に演奏して音楽の刻みを印象付けます。まさに燻し銀。奏者もこちらも齢を重ねているのですね(笑) それにしても演奏の精度の高さには目を見張るものがあります。1曲目からノックアウト。
Hob.XV:17 Piano Trio (Nr.30/op.59-3) [F] (before 1790)
冒頭からフォルテピアノの美しい音色にやられます。明るく朗らかな曲想なんですが、バルトルトのフラウト・トラヴェルソにはあの狂気のようなものが宿ってきました。1曲目よりも録音の解像度が上がり、ACCENTらしさが出てきました。穏やかながら身を任せてしまいそうになるほどの躍動感。シンプルな曲なのに各パートから発散されるオーラが凄い。落ち着いた展開だった1曲目とはテンションが異なり、神がかったような演奏。もともとチェロの出番が少ないので、フラウト・トラヴェルソとフォルテピアノの饗宴のような趣。
2楽章構成の2楽章目。ピートのフォルテピアノの自然ながら精緻な演奏に、バルトルトのフラウト・トラヴェルソが華を添え、ヴィーラントのチェロが起伏をつけるという構成ですが、それぞれの役割がわかりやすい曲なので、3人ともソロとしてすっと耳に入ります。室内楽を聴く喜びに満ち溢れます。実に優雅な気分。
Hob.XV:15 Piano Trio (Nr.29/op.59-2) [G] (before 1790)
このアルバムのハイドン最後の曲。相変わらずフォルテピアノのデリケートなタッチから生まれる音楽の豊かさの素晴らしいこと。アンサンブルの縦の線がピタリと合ったかと思うと、それぞれが聴かせどころを実に雄弁に語り、兄弟だけに3人の呼吸がピタリと合う快感。もともとハイドンの曲に仕込まれたものでしょうが、それをこれだけ見事に演奏されることで、曲の面白さをあらためて知ることができるというわけです。ハイドンの創意とクイケン兄弟の創意が完全に調和。なにげない自然さという領域まで達してしまった説得力。これ以上の演奏は考えられないほどの自然さ。先日スピーカーをKEFからQUADに変えたこともあって、響きの美しさは惚れ惚れするほど。1楽章は時折陰りながらも躍動するメロディーが心地よいですね。
続くアンダンテでは、それぞれのパートの詩情溢れるメロディーがザックリと絡みながら音楽を創っていきます。フラウト・トラヴェルソならではのオーセンティックな音色があってこその深く透き通るような響きが音楽に潜む気配の色を濃くしています。短い楽章ながら印象に残る音楽。
そしてフィナーレではこのアルバム一番の力感を感じさせる展開が聴かせどころ。美しさを保ったアンサンブルに徐々に力が漲り、演奏のテンションの上がっていく様子は痛快。そして印象的な間をちりばめ、最後は名残惜しげに終わります。
クイケン兄弟によるハイドンのフルート三重奏曲3曲ですが、約30年前と変わらぬ演奏精度を保ちながらも、演奏のスタイルは純度を増し、ハイドンの音楽の真髄に近づいているような気にさせる演奏。彼らの繰り出す音楽の素晴らしさはどのアルバムでも非常にレベルが高いことはわかっていますが、この最新盤でもその高みはさらに上がっているように聴こえます。3本の楽器から繰り出されるあまりに豊かな音楽。各パートそれぞれの表現が巧みであることに加え、兄弟として長年アンサンブルを組んでいる一体感は余人の追随を許さないレベル。聴くと幸せな気持ちになる素晴らしいアルバムでした。評価は[+++++]以外ありえませんね。全ての人に聴いていただきたい至宝です。
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