ヴィルモシュ・タートライ/ハンガリー室内管の昼、受難(ハイドン)

ヴィルモシュ・タートライ(Vilmos Tátrai)指揮のハンガリー室内管弦楽団(Hungarian Chamber Orchestra)の演奏で、ハイドンの交響曲7番「昼」、49番「受難」の2曲を収めたLP。LP自体に録音年の表記はありませんが、Apple Musicでこの録音を聴くことができ、Pマークは1988年。レーベルはおそらくハンガリーのQuoliton。
このアルバム、先日DISC UNIONで見かけて手に入れたもの。鮮やかなブルーのジャケットにエステルハーザの夏の宮殿の写真が誇らしげに写っています。そしてなによりタートライ四重奏団の第1ヴァイオリンをつとめたヴィルモシュ・タートライの振るハンガリーのオーケストラということで、ぐっときて手に入れた次第。なんとなくゆったりとした音楽が流れ出してきそうなイメージ満点。なかなか希少なアルバムを手に入れたと思って喜んでいました。このアルバムを聴いてなかなかの演奏ゆえブログに取り上げることにして調べてみると、このコンビネーションでかなりの数のアルバムがリリースされていることがわかりました。これらはApple Musicに登録されています。登録されているアルバムを書き出してみると以下のとおり。
交響曲6番「朝」、7番「昼」、8番「晩」
交響曲26番「ラメンタチオーネ」、44番「悲しみ」、45番「告別」
交響曲39番、47番、54番
交響曲49番「受難」、59番「火事」、73番「狩り」
交響曲55番「校長先生」、67番、68番
交響曲27番、88番、100番「軍隊」
交響曲43番「火星」、82番「熊」、94番「驚愕」
交響曲31番「ホルン信号」、73番「狩り」
最後の一枚を除きHUNGAROTONの廉価版レーベルWHITE LABELからCDとしてリリースされていたものがApple Musicに登録されています。これらのアルバム、手元の所有盤にはまったくないもの。Apple Musicに登録されているアルバムの実物を手にいれるかどうかは実に微妙なところ。
ということで、このLPとApple Musicで聴き比べると、Apple Musicの方は聴きやすいものの明らかにデジタルくさい音。DACなどの専用システムは持っていないのでAir Playでの再生環境での比較です。世代的にネットオーディオにはまだ抵抗があり、CDの方がコレクション欲という意味でも音質という意味でも分があります。
Hob.I:7 Symphony No.7 "Le midi" 「昼」 [C] (1761?)
実に柔らかく瑞々しいオケのの音色。ゆったりとしながらも表情は変化に富んで、ハイドンの書いたメロディーの綾をザックリと音にしていきます。もちろん録音はLPらしいしなやかかつ味わい深いもの。主題に入ると自然な推進力の魅力が滲みでてきます。ソロが活躍するこの曲、ソロヴァイオリンはヴィルモシュ・タートライ本人。
2楽章、短調のレチタティーヴォはこれも適度な劇性をしっとりと表現したもの。そしてつづく後半のアダージョがこの曲の聴きどころ。悠久の時の流れを感じさせるゆったりとした音楽。昼のこの楽章の美しさを際立たせる至福の音楽。
3楽章はメヌエット。適度に粗いオケが音楽の表情を豊かに感じさせます。古き良き時代のハイドンの音楽そのもの。古楽器の演奏も悪くありませんが、この幸福感に勝るものはありません。
フィナーレ。速いパッセージにも適度に余裕があり、実に典雅。フルートのソロの軽やかな音色が印象的。オケが落ち着いてこともなげにフレーズをさばいていく様子が微笑ましい感じ。まさに味わい深い名演奏と言って良いでしょう。
Hob.I:49 Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
名曲「受難」。前曲の印象から悪かろうはずもありません。1楽章のアダージョから実にしっとりとした序奏が心に刺さります。ゆったりとゆったりと進む音楽。シュトルム・ウント・ドラング期特有の仄暗い雰囲気が色濃く出た演奏。古き良き時代のバランスの良いハイドンの交響曲の典型的な演奏。LPだからこそ感じるのどかな印象。
2楽章に入ると前曲同様、自然な推進力の範囲で曲をコントロール。表現が大げさなところは一切ないのに妙にしっとりとくる演奏。ハイドンの曲に宿る気配のようなものを十分に踏まえての演奏に宿る神々しいオーラが充満。よく聴くとフレージングのメリハリは実に豊か。ハイドンの音楽のツボを押さえているからこその演奏でしょう。流石にタートライのコントロール。いぶし銀の弦楽セクション。
メヌエットに入っても穏やかな音楽は変わらず、ホルンの深い響きの魅力が加わって一層響きが魅力的になります。木管陣も金管陣も優秀。フィナーレはざっくりとした弦楽セクションのテクスチャーの面白さがあり、メロディーラインの穏やかな躍動感と不思議にキレを感じる演奏。ライヴに近い緊張感もあり、音楽の行方を追いかけるように聴きますが、荒々しさが逆に心地よさにつながる演奏。最後はキリリと引き締めて終わります。
ヴィルモシュ・タートライの指揮するハンガリー室内管弦楽団の演奏、Apple Musicで多くの演奏を聴くことができますが、LPで聴く古き良き時代のハイドンの交響曲の典型的な演奏もいいもの。同じ演奏でもネットで聴くのと、LPで聴くのはちょっとニュアンスが異なります。少々のスクラッチノイズの向こうには分厚いダイレクトでしなやかな響きが広がっていました。これだけのいい演奏が、これだけの曲数残っているということで、TOWER RECORDの復刻シリーズでの再発売などが期待されます。中の人、この企画いかがでしょうか(笑) やはりCDでの再発売のほうが我々の世代にはありがたいですね。評価は2曲とも[+++++]とします。
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