作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

園田高弘のピアノソナタ集(ハイドン)

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暑いですね。まあ、夏は暑いものですが、仕事からの帰り道を歩くだけで汗かいちゃいます。

ちょっと間があきましたが今日は珍しいアルバム。

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TOWER RECORDS / amazon

園田高弘(Takahiro Sonoda)によるハイドンのピアノソナタ5曲(Hob.XVI:35、XVI:27、XVI:37、XVI:36、XVI:34)、モーツァルトのピアノソナタ5曲(K.545、K.547a、K.332、K.283、K.331)、ベートーヴェンのピアノソナタ5曲(Op.49-1、Op.49-2、Op.79、Op.14-1、Op.14-2)を収めた3枚組のアルバム。収録は1991年から1994年にかけて静岡の磐田郡竜洋町にある竜洋なぎの木会館いさだホールでのセッション録音。レーベルは日本の芸術教育企画という会社のEVICA。

園田高弘さんが亡くなったのは割と最近のことと思っていましたが、調べたところ2004年。もう10年以上になるのですね。日経新聞に連載していた私の履歴書でフルトヴェングラーのライヴに接した感動とカラヤンの比較を通してつづられた音楽感を興味深く読んだのを覚えています。ベートーヴェンやバッハの印象が強い人でしたが、先日このアルバムを見つけて、ハイドンの録音が残っているとはじめて気づいた次第。このアルバムをリリースしている芸術教育企画という会社のウェブサイトに園田さんの情報がありますのでリンクしておきましょう。

園田高弘

1928年東京中野生まれ。幼少時からピアニストだった父清秀の教育を受け、その後ブゾーニ門下のロシア人ピアニストレオ・シロタに師事。東京音楽学校(今の藝大)に進み、卒業直後の1948年には日本交響楽団(今のN響)の定期演奏会でデビュー。その後渡欧してフランスでマルグリット・ロンの教えを受けました。1954年には初来日したカラヤンの振るN響とベートーヴェンのピアノ協奏曲4番を演奏しています。このあとカラヤンからの推薦で再び渡欧、ベルリンに居をかまえベルリン芸術大学のヘルムート・ロロフに師事するとともにフランスやイタリアで演奏会を開き、1959年にはベルリンフィルの定期演奏会にベートーヴェンの皇帝でデビュー、その後ベルリンフィルとも共演を重ね、チェリビダッケ/ミラノ・スカラ座管、ブロムシュテット/ドレスデン・シュターツカペレなどと共演。今から考えても目もくらむような活躍。ヨーロッパでは「日本のギーゼキング」と称されたそう。1970年代からは日本での活動を増やし、教育者や多くのコンクールの審査員としても活躍しました。今日取り上げるアルバムをリリースしている芸術教育企画は園田高弘自身が立ち上げた会社なんですね。

今回このアルバムを取り上げるにあたって知った「日本のギーゼキング」との呼称、このアルバムのハイドンの演奏を聴くと実に的を射た呼称であることがわかります。淡々と演奏しながら揺るぎない構築感と滲み出る音楽性。音楽に対する確かな視野に基づく一貫した演奏は素晴らしいものです。同種の演奏では名盤の誉れ高いオルベルツに近いものがありますね。

Hob.XVI:35 Piano Sonata No.48 [C] (c.1780)
ピアノはヤマハCFIIIS。落ち着き払って淡々としながらもキラメキ感のある入り。適度なホールの残響。ピアノの録音としては理想的なもの。淡々としながらもタッチにしなやかさがあり、そこから燻し銀の味わいがにじみ出てきます。リズムは揺るぎなく安定しているのでメロディーがちょうど良い具合に浮かび上がり、ハイドンの機知の面白さを知り尽くした人がさりげなく表現するウィットのようなものが自然に伝わります。曲をどう演奏しようかという迷いのようなものは微塵もなく、ただただハイドンの楽譜に謙虚に従うよう。この曲だけが視野にあるわけではなく、園田高弘のハイドンという作曲家に対する確かな視点が音楽に揺るぎない説得力を与えているよう。先の園田高弘のサイトにあるディスコグラフィの解説では、このアルバムはピアノ学習者のための模範的演奏として企画されたとのことで、この演奏の意図がなんとなくわかりましたが、この表現、純粋に鑑賞者たる私にとっても、ハイドンのピアノソナタの演奏としても図抜けたインパクトを持つ演奏です。アダージョの落ち着きながらも輝かしい右手のタッチのキラメキ。フィナーレの端正さも印象的。1曲目から見事な仕上がり。

Hob.XVI:27 Piano Sonata No.42 [G] (1776 or before)
あまりの安定感に曲を聴いているのではなく、連綿と連なる叙事詩を聴いているような意識になります。自然なのに意識が覚醒するような刺激に満ちた演奏。よく聴くとタッチの微妙な変化を含んでいて、淡々としているのに豊穣な響き。完全に引き込まれます。テンポも実に自然に動かしてフィナーレを飾ります。

Hob.XVI:37 Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
聴きなれたメロディーの入りですが、一音一音が変化に富んでいて、まるで新しい曲を聴くような新鮮な気持ちになります。演奏によっては単調にも聴こえるのですが、見違えるような豊かさ。それでいてくっきりとした表情は優れたバランス感覚の賜物。特に劇的な曲想の2楽章の凛とした表情が素晴らしいですね。奏者の一貫した姿勢の強さと曲に潜むエネルギーのぶつかり合い。鳥肌がたつような緊張感。リヒテルの力感からくる強靭さではなく、気高さのようなものを感じます。そしてフィナーレのリズムを浮き立たせた入り。さりげない表現ですが深いですね。

Hob.XVI:36 Piano Sonata No.49 [c sharp] (before 1780)
この曲も印象的な曲想の曲。短調による険しい入りですが、いきなり気高い迫力に圧倒されます。力任せではなくピアノが美しく響くレンジいっぱいを使ったコントロールされた力感、というか力感を感じさせる魔法のタッチのようなものでしょう。続くスケルツァンドではちりばめられた音符の響きの余韻の目が詰まっていて織物のような美しさ。そして最後のメヌエットのしっとりとした落ち着いた表情の美しさ。

Hob.XVI:34 Piano Sonata No.53 [e] (c.1782)
ブレンデルの演奏で刷り込まれた曲ですが、ブレンデルの分厚い左手の迫力ある響きをベースとした躍動感に対して、園田高弘の演奏は一音一音の研ぎ澄まされた響きと音楽の強靭さで聴かせる演奏。わたしはこちらの方が好み。ブレンデルの演奏の完成度を超える印象を与えてくれました。独特の中低域の硬質な響きをもつヤマハのピアノの響きを活かしたアダージョ。そして独特の快活さをもった終楽章。しっかりとリズムを踏みしめるように進めながらもメロディーは輝き、翳り、弾みます。

園田高弘のハイドンははじめて聴きますが、これほどまでに素晴らしいとは思っていませんでした。淡々と弾いているように見えて実に多彩。そして深い音楽。ハイドンのピアノソナタの演奏の中でも指折りのものというのは間違いありません。どの曲も一貫したスタンスで演奏され、どの曲も微塵の揺るぎもない緊密な演奏。完璧です。ピアノ学習者がこの演奏を聴くことは相当な刺激になると思いますが、この演奏に近づくには相当な鍛錬がいることでしょう。もちろん全曲[+++++]とします。

モーツァルトも基本的に同じスタンスの演奏ですが、モーツァルトの方は今少しの軽さを求めたくなってしまいます。もともと得意としているベートーヴェンのすばらしさについては私が語れるものではありませんね。

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2 Comments

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小鳥司

そんな録音があったのですか!

日本の教育者のハイドン録音では、豊増昇先生にも、同様の趣旨の素晴らしい録音があるので、園田先生のも是非聴いてみなくてはいけないですね。

Daisy

Re: タイトルなし

小鳥遊さん、コメントありがとうございます。
豊増昇さんにもハイドンの録音があるのですね。調べてみると園田高弘と同様レオ・シロタ門下とのこと。ハイドンのソナタを入れたLPがリリースされているようですので、手に入れてみなければなりませんね。貴重な情報ありがとうございます!

  • 2015/07/26 (Sun) 01:15
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