作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】驚愕! フェリックス・クリーサーのホルン協奏曲(ハイドン)

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新着アルバムが続きます。BERLIN Classics、東西ドイツ統合後もなかなかいいアルバムを出し続けています。

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TOWER RECORDS / amazon / HMV ONLINE

フェリックス・クリーサー(Felix Klieser)のホルン、ルーベン・ガザリアン(Ruben Gazarian)指揮のハイルブロン・ヴュルテンベルク室内管弦楽団(Württembergisches Kammerorchester Heilbronn)の演奏で、ハイドンのホルン協奏曲(Hob.VIId:3)、伝ハイドンのホルン協奏曲(Hob.VIId:4)、ミヒャエル・ハイドンのホルン協奏曲、モーツァルトのホルン協奏曲(KV 370b/371)の4曲を収めたアルバム。収録は、2014年11月24日から26日、2015年1月26日、シュツットガルト北方のハイルブロン郊外のオフェナウ(Offenau)にある製塩文化フォーラム(Kulturforum Saline)でのセッション録音。レーベルは旧東独の雄、BERLIN Classics。

一見して若いホルン奏者のフェリックス・クリーサー。まずは聴いてみるかとCDプレイヤーにかけてみると、非常に滑らかなホルンが心地よい素晴らしい演奏。それではブログに取り上げようかと思い立って、奏者のことを調べ始めてビックリ! なんとフェリっクス・クリーサー、生まれつき両腕がない人というではありませんか! あらためてアルバムをしげしげと見てみると、クリーザーがホルンを吹いている写真が何枚か載せられていますが、よく見るとホルンのバルブを操作しているのは足の指ではありませんか。器具でホルンを支えているので椅子に腰掛けてホルンを構える位置は普通の人とさして変わりません。ただしよく見ると左足をホルンのバルブの位置まで振り上げた足で操作しています。このあたりのことは映像で見ていただくのが一番。

話題の動画:両腕のないホルン奏者 フェリックス・クリーザーの素晴らしい演奏【プロも驚き!】

脚を起用に使ってホルンを乗せる器具を組み立てるところから、実際にホルンを演奏するところまで、あまりに見事な脚さばきに驚きます。そして何より素晴らしいのがその音色の滑らかさ。普通の人でもホルンという楽器を滑らかに演奏するのは大変難しいことは当ブログの読者の方ならもとよりご存知のことでしょう。

調べてみるとフェリックス・クリーサーは1991年、ドイツのゲッチンゲン(Göttingen)生まれのホルン奏者。生まれつき両腕がありませんでしたが、4歳でホルンに興味を持ち、5歳からレッスンを受け始め、左足でバルブを操作することを習得します。またホルンからソフトで暗い音を手をかざさずに鳴らすことを習得します。その後ゲッチンゲン音楽学校、ハノーファー音楽演劇大学で学び、ベルリンフィルの首席ホルン奏者だっマルクス・マスクニッティ(Markus Maskuniitty)、ペーター・ダムらに師事。国立ユースオーケストラのホルン奏者となります。すでにBERLIN Classicsからアルバムをリリースしており、昨年秋にはエコークラシック賞を受賞するなど、すでに広く知られた存在のようです。

今日取り上げるアルバムですが、ことさら両腕のないホルン奏者とはアルバムをちょっと見ただけではわかりません。要はそうしたハンディはまったく関係なく勝負できる演奏ということです。

Hob.VIId:3 Concerto per il corno [D] (1762)
最新の録音の鮮明で自然な響きが心地よい序奏。ハープシコードの繊細な響きが加わりオケが典雅に響きます。ホルンはハンディを感じさせるどころかのびのびと朗らかな音色の魅力がいきなり噴出。実に滑らかな音色に引き込まれます。特に高音の柔らかい音色は秀逸。オケのキビキビとした表情とホルンのおおらかな音色のコントラストが絶妙。この曲独特のホルンの低音の持続音も難なくこなします。カデンツァに入るとホルンの妙技を披露。ホルンの膨らみのある優雅な音色を生かした素直なカデンツァ。1楽章からあまりに見事な演奏にアドレナリン噴出。
ホルンの音色の特色を生かしたアダージョ。出だしのオケもガザリアンのコントロールが行き届いて繊細な響きが絶妙。クリーサーのホルンは優雅そのもの。音程が下がるスリリングな部分も危なげなく低音に移ります。脚でホルンをコントロールしているのではなく、まさに心でコントロールしているような演奏。驚くのがこの楽章のカデンツァ。なんとゆったりとした美しい音色。普通はテクニックを見せつけるのですが、このカデンツァは無欲の美しさのようなものが宿る宝石のような輝き。
フィナーレのオケの序奏は変わらず典雅。いい意味で軽さが表現され、そよ風のような爽やかさがあります。そしてクリーサーのホルンもオケに乗ってなめらかに音階をこなしていきます。カデンツァは曲の締めくくりにふさわしい、ホルンの音程の幅広さと響きの余韻の美しさを存分に表現したもの。最後まで安定感抜群の演奏でこの曲の面白さをうまく演出した演奏でした。

Hob.VIId:4 Concerto per il corno [D] (1781) by Michael Haydn?
そして、今となってはハイドンの作ではないとみなされるホルン協奏曲2番。リズミカルに始まり、前曲よりもより曲を掌握しているように感じほど音程のジャンプやリズムがしっくりはまってます。おそらくこの曲の方が演奏が難しそうですが、クリーサーの(脚の)指づかいも一層なめらか。惚れ惚れするような音階のキレ。長大なカデンツァに自信が漲っています。あえてこの曲をアルバムに入れた理由がなんとなくわかります。
叙情的な曲調が印象的なアダージョではオケが程よく翳り、ホルンも程よく鳴きます。ハープシコードが妙に沁みる響き。さらりと翳りを表現するセンスもなかなかです。フィナーレは爽快な躍動感で一気に聴かせます。オケを含めてこの曲をさらりとまとめる手腕は見事の一言。

続くミヒャエル・ハイドンのホルン協奏曲、モーツァルトの珍しいKV 370b/371もゆったりとした見事な演奏で楽しめます。前者の朗々としたカデンツァ、絶品です。

このアルバム、両手のないホルン奏者の演奏という断りは一切不要。そんなことは一切関係なく、第一級の演奏として広く皆さんに聴いていただくべき名演奏です。音楽は虚心坦懐。作為のない純粋な奏者の心情がストレートに伝わってきます。音楽にはオリンピックとパラリンピックの違いはありません。身体能力に差こそあれ、心や感受性には差はありません。このフェリックス・クリーサーの見事な演奏を聴くと、私たちもまだまだ努力しなくてはいけないことがたくさんあると考えさせられます。もちろん2曲とも評価は[+++++]とします。

それにしてもこのアルバム、ジャケット写るクリーサーの控えめに微笑む姿に彼の姿勢が表れていていいですね。なんとなく応援したくなるアーティストです。

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2 Comments

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Skunjp

聴かせていただきました!

こんにちは、Daisyさん。
Skunjpです。こちらでは初めてコメントさせていただきます。
さっそくフェリックス・クリーザー、聴かせていただきました!

仰るとおり、とても滑らかな音ですね。映像も見ましたが、左足を使って軽々とホルンを吹く姿に驚きました。

聴いているうちに、通常とは違う感覚になりました。
ホルンといえば、ある部分、ブリブリと勇壮に吹き鳴らされ、私達を狩りに連れ出してくれるような趣があります。
でもクリーザーはかなり違いますね。決して無理強いせずにソフトです。そして非常に音楽的。

ハイドンの例の低音も、決して力ずくではない、まるでメロウなトロンボーンのよう。

屈強なホルン奏者がガッシリとホルンを押さえ込み、強い圧力をかけて鳴らすのではないクリーザーのハンディゆえの長所でしょうか。
まるで、中空に浮かんだホルンが、自身で鳴りたいように自然に鳴っている感じ?そこにクリーザーがそっと唇を添えています。

しかし、両腕のない4歳の子供がホルンに興味を持ち、それを否定せず実現させてしまうご両親って何て素晴らしいんでしょうか!幸せな気持ちになりました。
 
…良いものを聴かせていただきました。

  • 2015/07/17 (Fri) 10:47
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Daisy

Re: 聴かせていただきました!

Skunjpさん、コメントありがとうございます。

このアルバム、冒頭のハイドンが一番音が柔らかですね。おっしゃる通り、低音はメロウなトロンボーンのようにしなやか。ハイドンではリズムがすこし重い気もしますが、その後の曲ではキレが増し、しなやかで軽やかな素晴らしいホルンの音階を聴くことができますね。この軽やかさはハンディを逆に活かしたものと気づきました。
ある程度成長してからのことならば本人の努力も大きいと思いますが、4歳の子供がホルンに興味をもったことから将来の名ホルン奏者が生まれるのは親の存在があってこそだと思います。ハンディや逆境など乗り越えられるものとの信念が才能を育てたのでしょうね。

ハイドンにはホルンが活躍する素晴らしい曲が沢山あります。Hob.IV:5などもクリーサーのホルンで聴いてみたいですね。今後の録音が楽しみです。

  • 2015/07/18 (Sat) 01:02
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