作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ギュンター・ヴィッヒ(ウィッチ)/南ドイツ室内フィルのパリセット(ハイドン)

2
0
本日は七夕。出会いはあるものです(笑)

GuntherWich82.jpg

ギュンター・ウィッチ(Günther Wich)指揮の南ドイツ室内フィルハーモニー(Süddeutsche Kammerphilharmonie)によるハイドンの交響曲82番「熊」、83番「雌鶏」、84番のパリセット前半3曲を収めたアルバム。収録はPマークが1974年と記載があるのみでわかりません。レーベルはなんだかよくわからない廉価盤を多数リリースするINTERCORD。

このアルバム、ちょっと前に新宿ディスクユニオンの店頭で見かけて、所有盤にないということで何気なしに手に入れたもの。さも廉価盤然とした造りが気になるところですが、パリセットについてはヒュー・ウルフやリボール・ペシェクなどの古くからリリースされている廉価盤にもいい演奏が多いという体験的知識から、躊躇せずに入手したもの。結果的にこの判断は正しかったです。1曲目の熊から聴き始めましたが、録音年代なりのそこそこキレのいい演奏という感じでした。ただし、聴き進めていくにつれ、演奏の熱気とキレが徐々に増してくるではありませんか。2曲目の雌鶏、そして3曲目の84番はなかなかの名演です!

さて、いつものように指揮のギュンター・ウィッチについて調べてみますが、カペラ・コロニエンシスを振ったアルバムなどが何枚かひっかかるほか、あまり中身のある情報に出会えません。リリースされたアルバムの数は少ないわけではありませんので、そこそこの実力者とみていいと思いますが、具体的な情報はわからずじまい。ということで、演奏を虚心坦懐に聴くことにいたします。

Hob.I:82 Symphony No.82 "L'Ours" 「熊」 [C] (1786)
録音は年代なりで、若干古めかしい印象はあるものの鮮明な範疇に入るでしょう。くっきり鮮明ながら泰然としたオケの入り。オーソドックスとはこの演奏のことでしょう。適度な力感、十分なメリハリ、バランス感覚のある進行となかなかの演奏。せせこましくもなく、何回か聴くうちにオーソドックスな演奏の魅力に引き込まれます。覇気あふれる1楽章、穏やかながら規律を感じさせるアンダンテ、ゆったりとオケを鳴らして進むメヌエット、そして熊のニックネームとなったフィナーレの適度にユーモラスな展開。このバランス感覚は見事ですね。普通どこか響きやリズムにこだわりがあって個性を出したくなるものですが、曲にもともと備わる面白さを表現することのみに徹するある意味達観したコントロール。

Hob.I:83 Symphony No.83 "La Poule" 「雌鶏」 [C] (1785)
基本的に熊同様、オーソドックスな演奏ですが、この曲の1楽章の弦楽器によるメロディーの切れ込みが素晴らしく、かなりの迫力。この曲も演奏によっては灰汁の強い演奏となりがちですが、ウィッチのバランス感覚があって、平常を保ちながら曲の面白さを引き立てる構成が成り立っている感じ。1楽章から一歩踏み込んだ印象。そして美しいアンダンテに入るとテンポは落とさないのに妙にリラックスした気分にさせるしっとりとした演奏。オケの反応も俊敏で、オーソドックスながら緊張感のある素晴らしい流れになっています。よく聴くと弦楽セクションのメロディーが研ぎ澄まされて見事な立体感。小気味好いテンポの中でのこの立体感、絶品です。つづくメヌエットは対比を明確にするためか、リズムをすこし鈍らせ、ゆったりとした表情でメロディーの美しさをに光を当てているよう。さりげないのに実に表情豊か。フィナーレはメヌエットを受けてか、すこしゆったりとした入りから、徐々にオケが力を帯びて、特に弦楽器のキレを印象付けてコントラストつけます。曲は最後まで落ち着きを保って、この曲でもバランス感覚の見事さを見せつけます。

Hob.I:84 Symphony No.84 [E flat] (1786)
このアルバムの白眉。バランスの良い序奏から弦楽器がくっきりとキレよくメロディーを刻んでいき、冒頭からグイグイ引き込まれます。ウィッチは完全にこの曲を読み解いて自身の音楽にしています。この1楽章は見事。これほど音楽がいきいきと躍動しながら、しかもまとまりよく秩序を感じさせるとは。音楽に合わせて自然に体が動いてしまうほど。見事すぎます。ハイドンの仕組んだ翳りと躍動の対比に圧倒されます。そして癒し満点のアンダンテ。やさしい音楽が心に沁みます。中間部の展開を挟んで再び癒しに包まれるところの装飾音のなんというさりげなさ! ウィッチのコントロールの見事さに完全にやられてます。8分以上ある長い楽章ながら聴きごたえ十分。この曲のアンダンテがこれほど深い音楽だったとは。まさに至福。メヌエットも余裕ある音楽で適度に折り目正しい演奏からわきあがる自然な詩情がたまりません。そしてフィナーレ。最初のフレーズからテンポを上げるのではなく、ちょっと前楽章の受けのような部分を作って徐々にフィナーレのペースに持ち込む抜群のセンス。曲が進んでいくにつれて音楽が徐々に躍動していく匠の技。このフィナーレをゆったりと運んで聴かせどころを作るという逆転の発想。力もいい具合に抜けているからこそのこの雰囲気でしょう。この曲の楽譜からここまで見えるとは酔眼でしょう。これまた見事でした。

ギュンター・ウィッチという指揮者によるハイドンのパリセット前半3曲を収めたアルバム。なんとなく名演を予感させるオーラを感じたわけですが、予感的中でした。このアルバム、数は結構出回っているのではないかと予想されますが、熊だけ聴いて終わっている人もいるかもしれませんね。このアルバムの聴きどころは上にも書いたように最後の84番です。この84番、これまで聴いたアルバムのなかでも一二を争う素晴らしさ。雌鶏もなかなかの名演。ということで評価は熊が[++++]、ほか2曲は[+++++]とします。

なお、アルバム写真にリンクをつけていないことからもわかるとおり、アルバムとしては流通しておらず、中古を丹念に探すしかないでしょう。ただ、Apple Musicには登録されているので、この演奏の素晴らしさを味わっていただくことは可能です。パリセットについてはこのアルバムと同デザインの85番「王妃」、86番、87番もリリースされているようですので、私もApple Musicで聴いてみようと思います。このアルバムの出来からすると87番なんかもよさそうな予感がしますね!

にほんブログ村 クラシックブログ クラシックCD鑑賞へ
関連記事

2 Comments

There are no comments yet.

小鳥遊

このパリ・セットはLPでも中々全曲揃わないのですが、インターコードとは別のやっぱり怪しげなレーベルで全曲出ており、かなり好きな録音です。

相変わらず痒い所に手が届くチョイスで、恐れ入ります。

Daisy

Re: タイトルなし

小鳥遊さん、コメントありがとうございます。
この録音を聴いていて、しかも愛好されているいうことで、相当なコアなハイドン好きでいらっしゃることがわかります。お見それいたしました。このゆったりと典雅な雰囲気、絶妙ですね。

  • 2015/07/10 (Fri) 07:28
  • REPLY