ウルフ・ビョルリン/カペラ・コロニエンシスの交響曲集(ハイドン)

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ウルフ・ビョルリン(Ulf Björlin)指揮のカペラ・コロニエンシス(Cappella Coloniensis)の演奏で、ハイドンの交響曲50番、87番、89番の3曲を収めたアルバム。収録は1983年、85年、ドイツのケルン東方の街、リンドラー(Lindlar)の教育センター(Schulzentrum)でのセッション録音。レーベルは廉価盤のLASERLIGHT。
このアルバム、桜のたよりと共に湖国JHさんから届いたもの。いつもながら誰も知らないようなマイナー盤が届き、聴く前から過呼吸になりそうです(笑)。カペラ・コロニエンシスといえば、最近ではブルーノ・ヴァイルとの録音でハイドンファンにも知られて存在でしょうが、当ブログの読者のようなコアなハイドンファンの方にはハンス=マルティン・リンデによる名演が記憶に残っていることでしょう。
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その、カペラ・コロニエンシスの演奏ながら、リンデではなく、ウルフ・ビョルリンという未知の人が指揮する交響曲集。しかも50番、87番、89番と陽のあたらない曲ばかり集めたような、普通はあり得ない組み合わせ。普通は1曲ぐらい有名曲を入れ込んでくるはずですが、まったくそうゆう志向がなかったのでしょうか。
調べてみると指揮者のウルフ・ビョルリンは、スウェーデンの作曲家、指揮者として知られた人ということ。1933年に生まれ、1993年に亡くなっています。19歳でザルツブルクにおいてイーゴリ・マルケヴィチに指揮を師事し、またパリ音楽院ではナディア・ブーランジェに師事します。兵役を終えると、ストックホルムのスウェーデン王立歌劇場、スウェーデンのマルメ音楽大学で働き始め、1962年からはスウェーデン放送で映画やテレビ番組のための音楽を作曲する仕事を始めます。彼はまた映画監督のイングマール・ベルイマンのもとで映画の音楽監督の仕事も受け持ちました。晩年はフロリダでフロリダフィル、フロリダ祝祭管、パーム・ピーチ交響楽団などを振って過ごしました。また最後は20世紀で最も活躍したオペラ作曲家とみなされていたということです。
今回調べて始めて知った人ですが、いろいろ他にアルバムも残る中、この録音がどうして企画されたのかを示す情報には出会えませんでした。それだけ不思議なアルバムですが、演奏は心を打つものでした。
Hob.I:50 / Symphony No.50 [C] (1773)
実にしなやかで柔らかな音色のオケが渾身の力で入ります。自身が作曲家でもあるウルフ・ビョルリンは、ハイドンの真価を知っているからなのか、ハイドンの意のままに振ろうというのか、じつに自然なコントロール。オケが一体となってまとまり、音楽が躍動します。パートごとのバランスなどは精緻にコントロールしているのでしょう、それだからこその自然さ。しかも躍動感は並のものではありません。私の好みのど真ん中を突く素晴らしい演奏。この曲独特の力強さがみなぎります。ドラティをもう少ししなやかにしたような音楽。迫力は十分。テンポが速めなのであっという間に終結します。
続くアンダーテ・モデラートはゆったりとした音楽ですが、ビョルリン独特のタイトさを帯びて、緩徐楽章ながら活き活きと弾みます。そしてメヌエットも弾みます。演奏者自身が演奏を目一杯楽しんでいるような音楽。それにしてもオケの一体感は見事。フィナーレもピタリと揃った秀演。低音弦の図太い響きが躍動感の秘訣でしょうか、いずれにせよカペラ・コロニエンシスのゆったりとしながら迫力もある演奏が見事と言うほかありません。
Hob.I:87 / Symphony No.87 [A] (1785)
パリセットの中でも最も地味な存在の87番ですが、ビョルリンの手にかかると、活き活きとした本来の音楽が際立ちます。意外に低音弦の図太さがこの曲のポイントであると気づきます。冒頭から躍動感の塊のような演奏が続きます。1楽章の終盤にかけて繰り返される主題をくっきりと浮かび上がらせたり、テンポの手綱は緩めず、この曲の面白さのツボを押さえたコントロール。よほどにハイドンの楽譜の真髄を読みきっているものと推察されます。この曲も表現過多となるとまとまらない演奏もありますので、この演奏の類稀れなところがわかります。
素晴らしいのが続くアダージョ。ホルンと弦楽器陣がとろけそうな響きを作り、そこにフルートが野に遊ぶ蝶のように舞いながら入ります。そしてオーボエ、ヴァイオリンがメロディーを引き継いでいきます。まさに孤高のひと時。この癒しの音楽をゆるぎない表現にまとめ上げる手腕、並みのものではありません。これは見事。
そして躍動するメヌエットに、軽々と吹き上がるフィナーレ。ハイドンの交響曲のフィナーレの中でも流麗さでは1、2を争う名曲ですが、それを知ってかじっくりと腰を据えて、流麗さを磨く感じ。フルートの装飾がかなり踏み込んで新鮮な響きを作っています。
Hob.I:89 / Symphony No.89 [F] (1787)
最後は「しょ、しょ、しょじょじ」で有名な曲。なぜかメロディーが非常にしっとりとしみてきます。ビョルリンの指揮は、音楽のまとまりと推進力を非常にうまくまとめてきます。聴いている私たちの方が小躍りしてしまいそうなほど。この曲でもメロディーの面白さを際立たせます。躍動感のスロットルを自在にコントロールしておけをわかりやすく操ります。途中の短調への転調と復帰のあたりの演出も実にセンスの良いもの。次々と繰り出されるメロディー面白さに釘付け。
2楽章のアンダンテ・コン・モートは今まででは一番抑え気味にして音楽の宿る静けさに応じます。逆に続くメヌエットはキレのよい鉈を振るうように鋭さを目立たせます。木管陣が時折り鳥の鳴き声のような音色を加えるあたり、なかなか面白い演出です。そしてフィナーレでもビョルリンのハイドンの機知のここぞとばかりに応じた巧みなコントロールは変わらず、最後までハイドンの音楽を楽しめました。
これだからマイナー盤はあなどれません。数多あるレギュラー盤よりよほどハイドンの音楽の真髄を楽しめる名演奏でした。指揮者のウルフ・ビョルリン、かなりの実力者と見ましたが、おそらくハイドンの録音はこれ以外には知られていないのではないのでしょうか。これは名盤です。カペラ・コロニエンシスも抜群の演奏で応えています。ハイドンの交響曲好きの方、必聴です。このマイナーな曲のなかにハイドンの機知と微笑みが詰まっています。評価は3曲とも[+++++]です。手に入るうちにどうぞ!
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