作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

トーケ・ルン・クリスチャンセンのフルート三重奏曲(ハイドン)

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連日仕事が遅く、ちょっと間が空いてしまいました。週末になってようやくゆっくり音楽を聴くことができるようになりました。最近入手したものから、のんびり室内楽を楽しみたいということでセレクトしたアルバム。

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トーケ・ルン・クリスチャンセン(Toke Lund Christiansen)のフルート、エリザベト・ウェステンホルツ(Elisabeth Westenholz)のピアノ、アスガー・ルン・クリスチャンセン(Toke Lund Christiansen)のチェロによる、ハイドンのフルート三重奏曲3曲(Hob.XV:15、XV:16、XV:17)と弦楽四重奏曲Op.77のNo.1をフルート三重奏曲に編曲したものの合わせて4曲を収めたアルバム。収録は1991年1月、録音場所は記載されていません。レーベルはデンマークのKontra Punkt。

フルートによるピアノ三重奏曲の演奏を収めたアルバム。ハイドンの緊密な構成を楽しめるピアノ三重奏曲のメロディーを美しい音色のフルートで楽しもうということでしょう。ハイドンのフルート三重奏曲はもともとピアノ三重奏曲として作曲されたものを、当時フルートの演奏が貴族の間で流行ったことからフルート三重奏曲に編曲されたもの。これらの曲のフルート三重奏による演奏は、これまで2度取り上げています。

2012/05/27 : ハイドン–室内楽曲 : ディター・フルーリーによるフルート三重奏曲
2011/06/18 : ハイドン–室内楽曲 : 絶品、ラフラム、シェーンヴィーゼ=グシュルバウアー、フラーのピアノ三重奏曲

この3曲はヴァイオリンの演奏よりもフルートでの演奏の方が多いくらいですので、フルートによる演奏はかなり一般的なんでしょう。そもそも1790年ロンドンのブラントから作品59として出版される際、ヴァイオリンのかわりにフルートが指定されていたことからも、フルートでの演奏は作曲当時から行われていたものと思われます。

また、最後に置かれた弦楽四重奏曲の編曲もこれまでに2度取り上げています。

2014/09/15 : ハイドン–室内楽曲 : ジュリエット・ユレル/エレーヌ・クヴェールによるフルートソナタ集(ハイドン)
2011/04/20 : ハイドン–室内楽曲 : 佐藤和美とバティックのフルートソナタ

この曲は今日取り上げるアルバムには記載がありませんが、おそらく佐藤和美盤同様、弦楽四重奏曲Op.77のNo.1をA. メラーという人がメヌエットを省いて編曲したものと思われます。

さて、演奏者のトーケ・ルン・クリスチャンセンは1947年生まれのデンマークのフルート奏者。デンマーク放送交響のフルート奏者とのこと。チェロのアスガー・ルン・クリスチャンセンはトーケの父。ピアノのエリザベト・ウェステンホルツはデンマークのピアニストで、デンマークで学んだのちアルフレート・ブレンデルに師事した人。BISからベートーヴェンのピアノ協奏曲全集をリリースしているということでもそれなりの人であろうと想像されます。

このアルバムをCDプレイヤーにかけると、少し遠目に適度な残響をともない3人の奏者の響きが広がるなかなかいい録音。音量を上げると、鮮明度はほどほどですが室内楽を楽しむツボを心得た録音。演奏も派手さはないのですが、キリリと引き締まったテンポ感の良いもの。なぜかトラックが楽章毎に切られず、曲ごとになっていますので、楽章を繰り返し聴けません。こうゆうアルバムでは珍しい仕様ですね。

Hob.XV:15 / Piano Trio (Nr.29/op.59-2) [G] (before 1790)
キビキビとしたピアノにテンポの良いフルートが乗り、チェロはすこし抑え気味なバランス。特にピアノの切れ味がよく演奏自体にかなりの活気があります。演奏自体はオーソッドックスなものですが、鮮度が良いので実にイキイキとしています。私の好きなタイプの演奏。特に個性的なアプローチではないのですが、凡庸な印象がないのは3人の演奏が冴えているから。弦楽器だけの演奏ではこれだけの快活さは得られませんので、まさにピアノが加わった効果が大きいでしょう。ピアノのキラめく感じとフルートの華やかさが見事に活かされています。
素晴らしいのは2楽章のアンダンテ。抑えた表現からにじみ出る美しさ。ウェステンホルツのピアノのさりげない表現がたまりません。トーケのフルートは爽やかな音色が特徴でしょうか。高音のさらりとした感触と控えめなヴィブラートがアンサンブルに合ってます。アスガーのチェロは柔らかく包み込むような音色。3人ともリズム感が非常に良いのでアンサンブルがキレているわけです。
フィナーレに入っても演奏スタイルは一貫していて、楽章間のコントラストよりも一貫性を重んじているよう。肩の力が抜けているので、安心して音楽に身をまかせることができます。1曲目から素晴らしい演奏にうっとり。

Hob.XV:16 / Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
キビキビとした演奏スタイルは変わらず、ピアノのキラメキとフルートの華やかさも十分。演奏の安定感は素晴らしいものがあります。強奏部分の力感に対して、テンポと音量を落とすところをしっかり落とすので曲の立体感が際立ちます。この曲の華やかさをうまく捉えた演奏。
短調に変わる2楽章も、あえて淡々と刻み、媚びない演奏姿勢からにじみ出る深みを堪能できます。微妙に表情が変化していくところのデリケートさは素晴らしいものがあります。このあたりの表情付けのコントロールは巧み。淡々とした演奏の中にも非常にデリケートな変化があり、それが音楽を豊かにしています。
フィナーレはウェステンホルツの右手の音階がキレてます。トーケのフルートもそれに劣らずキレよくメロディーを乗せていきます。よく聴くとアスガーのチェロも実にテンポがよく、最後になかなかの存在感を感じさせます。やはりアンサンブルは3人のテクニックに裏付けられていることがわかります。痛快なフィナーレ。

Hob.XV:17 / Piano Trio (Nr.30/op.59-3) [F] (before 1790)
このアルバム、曲ごとの演奏のムラは皆無。3曲目も完璧な入り。聴いているうちに音楽の面白さに飲み込まれてレビューするのを忘れてしまいそう。もはやただただ3人の素晴らしい演奏に打たれるように聴き入ります。この曲に仕組まれたピアノの創意も見事にウェステンホルツが応えます。一貫したテクニックで、一貫した演奏。そして時折り見せる変化。こうした流れの面白さこそハイドンの真髄だと訴えているよう。ウェステンホルツ、かなりのキレものですね。
この曲は2楽章構成。楽章毎に変化するハイドンの素晴らしい創意に釘付け。フルートとピアノ、チェロによる楽興に酔います。

Hob.III:81 / String Quartet Op.77 No.1 [G] (1799)
この曲はもちろん、弦楽四重奏曲の響きが頭に残っているので、フルートとピアノの加わった響きに最初はすこし違和感があります。同じメロディーをヴァイオリンではなくフルートで演奏されると、やはり華やかさと弦とは違う響きに包まれる感じが独特。しばらく聴くうちに慣れてきますが、やはりハイドンの曲はオリジナルな編成で弾いてこそという感も残りますね。奏者の頭にもその印象が残っているのか、前3曲に比べると切れ味が劣り、むしろ弦楽器での演奏のようにゆったりとした感じに演奏しているように聴こえます。演奏自体の精度が落ちたわけではありませんので、これは編曲の出来、もしくは表現する側の腑に落ち度合いのような気がします。

デンマークの腕利き奏者3人によるハイドンのフルート三重奏曲と弦楽四重奏曲のフルート三重奏への編曲を収めたこのアルバム、演奏は素晴らしいものでした。有名どころではありませんが、このようなアルバムを聴かされてしまうと、ヨーロッパの演奏家の層の厚さを痛感させられますね。ここで聴かれるフルートもピアノもチェロも、そして3人のアンサンブルも第1級のもの。演奏者の控えめながら、透徹した表現を通してハイドンの音楽の素晴しさを感じられる名演奏と言っていいでしょう。評価はフルート三重奏曲3曲は[+++++]、最後の1曲は[++++]とします。最後の曲はこのアルバムの中ではオマケといっていいでしょうから、このアルバムの価値を下げるものではありません。ハイドンの室内楽好きな方、必聴です。

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